上野千鶴子著
ケア付き住宅はおすすめか
ケア付き住宅や介護付き有料老人ホームは、住まい(ハード)とケアがセットになっているから安心という考え方もあるが、セットになっているからこそ、切り離すことができなくて不便ということもある。
介護保険のおかげで、ケアは全国一律、どこでどの業者のサービスを利用しても同一価格の公定料金になった。ということは、事業者の側からいえば、同じ条件の出来高払いで平等に市場に参入し、ほかの事業者と競合しながら利用者を選んでもらうということだ。
だか、実際には、○1サービス提供事業者の分布には地域差が大きく、選ぶほどの選択肢がない。
○2ケア付きの施設に入居してしまうと、外部のサービスはあっても選べない、ということが起きる。
実際、同じ条件のもとで事業を行いながら、よいケアを提供している事業所とそうでない事業所とのあいだには落差がある。
利用者側からすれば、「同じ料金を支払って入るのに…」ということになるが、実際には、、複数のサービスをうけて、それを比べる経験をしたことのある利用者は少ないから、自分がいま受けているサービスに不満があっても耐えるしかない。
《サービスをくらべて選べるシステム》
神奈川県厚木市にあるNPO法人MOMOが経営するケア付き共同住宅「ポポロ」の考え方はユニークだ。
経営の傾いた企業の独身寮を借り上げて、バリアフリーに改装。単身者向けの住宅にした。ここに高齢のおひとりさまや、障害をもったおひとりさまが入居している。
1か月の費用は、家賃2万9千円、管理費9万円、食事5万6千円で、計17万5千円。同じ建物に介護ステーションを設置して、ケアを提供しているが、入居者には強制しない。要介護の入居者には外部のケアマネージャーがついて、個別のニーズに応じたカスタムメードのケアプランをつくる。ケアマネージャーが事業所所属でないからことがキモである。
都市部だから、他にもケアサービスを提供する民間事業者の選択肢がいろいろある。利用者の元には、外部の事業所からいろいろなワーカーさんが入って来てもらう。
自分たちの提供するサービスを使って貰うのはうれしいが、ほかの事業者とくらべて選んでもらえばよい。
住まい(ハード)とサービス(ソフト)とが、施設内で完結しないよう、風通しの良いシステムをつくっている。この姿勢には感心した。
「くらべて選ぶ」という条件を可能にしているのは、よほど自分たちのケアに自信を持っているからこそ、そう言うと、代表の又木京子さん(60歳)は苦笑した。
「そうじゃないんですよ。自分たちのサービスに自身がないから、よそさまに入って頂いて、監視してもらおうと思っているのです」
利用者を囲い込もうとする傾向のある介護保険事業者のなかで、こんな発言は滅多に出てくるものではない。
《小規模多機能型のリスク》
その点でいえば、2006年に厚生省がモデル事業に指定した「小規模多機能型介護施設」、しかもほうかつ契約定額制は、問題の多い事業だ。
住宅支援事業としてデイケアからスタートした小規模多機能型の介護施設に、デイケア(通い)のみならず、ショートスティ(泊まり)、ホームヘルプ(在宅支援)、ターミナルケア(看とり)まで「多機能」を背負わせて、そのうえ要介護度別に定額契約をすすめ、定額制の元で限度なしにサービスが利用できるという制度がある。
ちょっと聞くと、利用者にとっても有利な制度に思える。だが、裏返しにいえば、これだけのサービスを使い放題に使われては、事業者はたまらないだろう。
この制度は事業者にとってはちっとも有利な制度ではなかったし、実際には、「小規模多機能型」のパイオニアとしてスタートした事業者のいくつもが、指定を受けなかった。
デイケアとホームヘルプを両方持っているところは少ないし、デイケアの利益率が相対的に高いのに比べて、ホームヘルプ事業者は、介護保険6事業の中では最も収益率が低い事業だからだ。
(密室化する施設介護への不安)
そのうえ、この制度には致命的な欠陥があった。ひとつの事業所ですべてサービスを請け負うということで、ケアマネジャーを事業所所属に限定したのだ。
ケアマネ制度は、事業者と利用者をつなぐという理念のもとにつくられたもので、制度としてはよかったが、実際には、ケアマネが事業者に所属することを認めてしまったせいで、ケアマネの中立性が損なわれ、事業者への誘導が行われていることについては、初期のころから問題が指摘されていた。
それが事業者所属のケアマネ付きの包括契約では、園事業所でどんなケアが行われているか、監視する第三者がまったくいないことになる。現実にはケアの質もわからないし、定額の上限に合わせて、利用抑制が行われているという報告もある。
とりわけ小規模多機能型では、定員が少ないので、密室化しがち。いったん包括契約など結んでしまえば、サービスも選びにくいし、文句もいいにくい。外部の目も入らない。
厚労省の役人はいったい何を考えているのだろうか。
「小規模多機能型」は、もともと民間主導で出来たモデル。それが役人の手に通って、厚労省の「モデル事業」を経て制度化されとたん、似て非なるものになる。余計なことをしてくれるな、という民間事業所もあるのも当然だろう。
つづく
在宅単身介護は可能か