これまで男のひとり暮らしは、「男やもめにウジがわく」だの、さんざんなイメージで語られてきた。ひとり暮らしにかぎっては、女ひとり暮らしより、男のひとり暮らしのほうが同情と憐憫(れんび)の対象になってきた。トップ画像

第1章 男がひとりになるとき

本表紙 上野千鶴子著

男おひとりさまに生きる道はあるか?
 イエス、というのが本書の答えである。
 題して、男おひとりさま道。あなたにも道を切り開いてもらいたい。

はじめに 
 男おひとりさまが増えている。
 65歳以上の女おひとりさまは292万人、対して男おひとりさまは113万人と半数に近い(2005年)。この人数はこれからますます増える一方であろう。

 これまで男のひとり暮らしは、「男やもめにウジがわく」だの、さんざんなイメージで語られてきた。ひとり暮らしにかぎっては、女ひとり暮らしより、男のひとり暮らしのほうが同情と憐憫(れんび)の対象になってきた。

 若い人がひとり暮らしていても、はたからなにも言われないのに、高齢者がひとり暮らしていると、あいさつ代わりに振ってくる言葉に、「おさみしいでしょう」である。

 自分で選んだヒトリ暮らしなら、おさみしいでしょうは大きなお世話。その反発心が、私に「おひとりさま老後」を書かせた理由の一つだった。

 男性の場合には、これに「ご不自由でしょう」がつく。
「ご不自由」は、家事などのご不自由に加えて、アチラのほう、つまり下半身のご不自由。「ご不自由が」が理由で再婚など望まれては、興ざめる。

 これまでの結婚は、男の「不便」と女の「不安」との結びつきだった。だが、女に、「経済、不安」がなくなれば、女は個の再婚願望は低下する。

 男がおひとりさまになるなり方には、3種類ある。第一は死別シングル。第2は離別シングル、第3は非婚シングル。死別・離別シングルの再婚のハードルは高い。

 相手の女性が死別シングルなら、亡夫を看とった代償に年金がついているから、それをみすみす手放すとは思えない。離別シングルの女性なら、結婚に懲りているから「再チャレンジ」のハードルは当然高い。

 非婚シングルの女性なら、結婚相手に求める条件がもともと高い。だからこそ、なし崩しに「負け犬」になった。これまで同世代の男を選ぶはずだった彼女たちが、将来、同世代の非婚シングルを選ぶ可能性はますます低い。

 というわけで、死別シングルも離別シングルも、ふたたび「おふたりさま」になる可能性は低く、現在の非婚シングルが将来「おふたりさま」になる可能性はもっと低い、と予測しておこう。

 だが、女に依存せずに男おひとりさまが生きることは可能だ。取材を通じて私は充実した暮らしを送る多くの男おひとりさまに出合った。

第1章 男がひとりになるとき

増えている男おひとりさま
 男もおひとりさまになる。
 女は「現役おひとりさま」か、将来の「おひとりさま予備軍」か、そのどちらかの自覚があるが、男性は、そのどちらにも入らない、と思っているひとがおおそうだ。妻に看取られて「おふたりさま」のうちに、あの世に送ってもらえると思っているからだ。

 いや、もっと正確にいうと、自分の老後のことなど考えていない人が多い。妻であれば、他人さまであれ、ひとのお世話を受けて亡くなることなんて、見たくない、聞きたくない、考えたくないようで、こちらが驚く。

 40代のころ、女同士で、老後の過ごし方をあれこれ話していたところへ割り込んできた男の一言を、今も覚えている。

「キミたち女は、いまからそんなことを考えているのか」
 おぞましいものでも見る目つきだった。
「あなたの老後は?」と尋ねても、せいぜい、「ある日、ぽっくり、がボクの理想ですね」なぁ―んて答えが返ってくる。こればっかりは、理想どおり、何ていかないんだってば。それに予定も計画も経たないのが死に方、というもの。

男性のおひとりさまは、現実に増えている。まず事実をきちんと見極めておこう。

《死別、離別、非婚、さてあなたは?》
 男おひとりさまには、次の3種類がある。
 第一に、妻に先立たれた死別シングルアゲイン組。
 第2に、離別したシングルアゲイン組。
 第3は、ず―っとシングルの非婚組。
 順に、死別シングル、離別シングル、非婚シングルと呼んでおこう。ちなみに、「シングルアゲイン」とは、死別や離別でふたたびおひとりさまなることをいう。

 この3種類には、世代差がある。前から順番に年齢が高い。各世代の男おひとりさまの特徴を素描してみよう。

死別シングル

男性で配偶者がいる割合がもっと高いのは60代で85%。長生きすれば妻に死に別れることがあるだろうが、60代ならまだ夫婦が揃っている年齢、だからおのずと妻がいる人の割合が高くなるわけだ。

 それというのも、この世代が、“結婚大好き世代”だったからだ。40歳までに一度でも結婚した経験のある人の割合を累積婚姻率というが、日本人の累積婚姻率がほぼ100%に近くなる。「全員結婚社会」(男性97%、女性98%)が成立したのは1960年代半ば。今の60代は、この時代に結婚した人たちだ。

 結婚するたちの割合は、この時代をピークにして、それ以前も低く、それは以後にも低下する。データをみると、男性の生涯非婚率は、70代で2%、80代では1%未満。
 この人たちは、「男なら結婚して当たり前」の時代に生まれ育って、無事、妻をめとることが出来た人たちだ。とりわけ70代、80代なら、戦争で男が払底していたから、その気になればいくらでも結婚相手がいただろう。

《60代から増え始める“番狂わせ”》

 男性の死別シングルは、60代からぼちぼち増えてくる。
 2005年の国勢調査によれば、60〜64歳で3.2%、65〜69歳で5.0%、70〜74歳で7.9%、75〜79歳で12.3%。男性の平均寿命、79.3歳(2008年)を超すと死別組はぐんと増える。80〜84歳で18.9%、ちなみに平均寿命とは、ゼロ歳時の平均寿命のこと。

 ゼロ歳で死なずすんだ丈夫なひとたちが、80歳を超える確率は、男性が59%、女性が78%。男性の二人に一人は80歳を超え、その年齢で妻のいない男性と、5人に一人の割合となる。

 女性の平均寿命は86.1歳。それを超えて男性が長生きすると、妻のいる男性の割合は6割に下がる。この年齢になっても既婚者のほうが多数派だから、「おひとりさま老後」はピンとこない、と思う男性がいても仕方がない。

 とはいえ、男性も85歳を超えれば、シングルの割合は3人に1人。妻に先立たれる“番狂わせ”も、例外とはいえない。

 それだけでなく、80代以上になれば、同世代の妻に介護してもらえると期待しない方が良い。よほど、“年の差”婚でもしないかぎり、後期高齢者の妻のほうも、認知症になったり、寝たきり状態になっているかもしれないからだ。
 妻と死別していなくても、自分と同じょうに高齢になった妻、介護要員になれるとはかぎらない。

 この世代の特徴は「離別シングル」が著しく少ないこと。70代半ば以上の離別組は1%台。この年齢なら結婚50周年を超える金婚カップルが多いだろうが、長持ちしたからといって、夫婦関係がうまくいっていたとはかぎらない。

 同じ世代の夫と死別した女性から、「結婚はもうこりごり、二度としたくない」という声がたくさん聞かれるからだ。

 かといって熟年離婚に踏み切る女性は多くない。2007年4月から離婚時の年金分割制度がスタートしたが、熟年離婚率が急上昇したという話は聞かない。年金分割制度で妻が貰える額は、2分の1.それなら、離婚して夫の年金の半額を受け取るより、あとちょっとの辛抱で、夫を看取って、4分の3にあたる遺族年金を受け取った方が良い、と計算が働くだろう。

 概して60代から上の世代は、○1ほとんどの男性が結婚しており、○2その結婚の安定性はいちじるしく高く、○3妻が生きているうちにあの世へ旅立てる男性が多数派を占める。だが、日本の歴史上、こういう人たちは、この世代が最初で最後だろう。

 もう後が続かないことは確実だ。これから先の世代では、○1ほとんどの男性が結婚できるという条件がなくなり、○2その結婚の安定性がいちじるしく低くなるからだ。

離別シングル

50代より下の世代では、すこ―し状況が変わってくる。この世代から、非婚率と離婚率が両方とも高まって来るからだ。年齢が若いにもかかわらず、配偶者のいるひとは50代で8割弱、40代で7割台と、その上の世代より雄配偶者が低いのだ。

 日本では離婚が少ないと思われてきたが、このところ離婚率は徐々に上昇している。
 この世代で目立つのは離婚率の高さ。50代で5.6%。同世代で約1割いる非婚者と、1%台の死別者を加える、シングルの割合は19%になる。5人に1人の割合だ。

 離別者の割合は、年齢が下がるほど減少する(30代で3%)が、それというのも、
○1離婚の場合は、結婚年数に比例するから若ければ離婚率は低い、○2若年層になるほど非婚率が多く、結婚している男性自身が少ないので、離婚率は下がる(そもそも結婚していないと離婚が出来ない)、

○3離婚が多いのは、新婚一年以内と結婚7年目以降。ライフステージのうえでは「ポスト育児期」(脱育児期)、の40代以降に増えるから、30代ではまだ。離婚率は、現在の40代、50代以上に上昇していることが予測される。

 50代から下の世代は、○1死別による余儀がない「おひとりさま」だけでなく、離別による選択的な「おひとりさま」も増えていること、
○2結婚の安定性が低くなったことが特徴だ。

 離婚の選択といっても、選ぶのは圧倒的に女の方ら。家裁への離婚の申し立て人の7割が女性である。
 女性側からの離婚申し立て理由のトップ・スリーは、1970年には、○1(夫の)異性関係、○2暴力を振るう、○3性格が合わないだつたのが、2007年には、○1性格が合ない、○2暴力を振るう、
○3異性関係へと順位が変化。昔の夫のほうが「品行が悪かった」わけではなく、昔も今も夫の品行は変わらないが、それに代わって「性格が合わない」というあいまいな理由で離婚に踏みきるほど、離婚にハードルが下がったということだろう。

 最近の離婚の新しい傾向は、子どもがいることや、子どもの年齢が幼いことが、離婚の抑止力にならなくなったということである。

《そしてだれもいなくなった》

離別が増えれば、男シングルアゲインと女シングルアゲインが同じ数だけ生まれる理屈だ。だが、男シングルアゲインが、女シングルアゲインと決定的に違うのは、離別と共に男は家族のすべてを失うことだ。

 女の方は、夫を失っても子どもは手放さない。日本では、結婚したカップルのほとんどに子どもがいる。というより、この国では子どもをもつことが結婚の理由になっているから、子どものいない共働きカップルは、いまでも例外的である。

 離婚したときに成人前の子どもがいる場合は6割、そのうち妻に親権が渡るケースが約8割。日本の親権は単独親権で、共同親権を認めていないから、夫方か妻方か2つに1つを選ばなければならない。

 妻にしてみれば、もともと“夫不在”で“母子家庭”同様だった世帯が、ほんものの母子家庭になっただけのこと。経済的な問題さえなければ、夫というストレス源のなくなった母子家庭のほうが、まだましかもしれない。

 日本の離婚における親権帰属には、“ナゾ”がある。それは1966年に、夫方親権から妻方親権へと逆転したこと。

 それ以前の離婚では、夫方親権のほうが圧倒的に多かった。つまり、離婚といえば夫が、父子家庭で子どもを育てたわけではない、夫方親権が可能だったのは、婚家に夫の母がいて、子育ての女手があったから、跡取り子どもは置いて出て行け、というのが女にとっての離婚だったのだ。

 多くの女が離婚を思いとどまったのは、子どもと生き別れになるのがイヤだったからという理由が大きい。妻方親権をともなう離婚が増えたのは、子どもを引き取れば直ちに生活苦が待っていたしても、経済的な困難より、子どもと離れずにすむほうを、多くの女性が選んだからである。

 死別・離別のシングルアゲインが、ず―っとシングルと違うところは、子どもがいるかいないか。日本では、子どもは老後の大きな“資源”と考えられている。

 女おひとりさまの多くは、死別・離別で夫がいなくても、子どもという「家族持ち」なのに対し、シングルアゲインの男性の事情はまったく違ってくる。男性は、離別とともに妻だけでなく子どもも失う。

 離別の理由が「暴力」や「異性関係」の場合は、それ以前からきっと家族関係は悪かったと推察できるから、子どもと別れた父親と会いたがらない傾向がある。

 離婚を決心するまでの長い過程で、子どもは母親から、父親の悪口をさんざん吹き込まれている。子どもが物心がつく年齢で、「お父さんとお母さん、別れることになったけど、おもえはどちらについていく?」とたずねて、
 父親を自発的に選ぶ子どもは滅多にいない。それ以前に親らしいことをしたこともなければ、親子の絆は育たないからだ。
  つづく  「愛ある離婚」はなぜむずかしい

煌きを失った性生活は性の不一致となりセックスレスになる人も多い、新たな刺激・心地よさ付与し、特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致の悩みを改善しセックスレス夫婦になるのを防いでくれます