
梅田みか 著
彼以外の人を好きになれるなんて思えません
梅田先生、初めまして。「愛人の掟」1・2・3読ませていただきました。
何度読んでも涙が出てきます。不倫って、本当に辛いですね。
彼とつき合い始めてちょうど一年になります。私は当時二十二歳、彼は三十六歳。私は病院で働いていて、彼はそこの患者さんという関係でした。
彼を初めて見たとき「素敵な人だなぁ」って思いました。彼が通院するようになってから「一緒に飲みに行こうか」って言われて、私は「はい」って答えました。それから彼との付き合いが始まったのです。彼は警察官でした。
仕事が終わる時間は二人とも不規則だし、会える時間はだいたい三時間じらいだけ、飲みに行って、ホテルに行くというのがいつものパターンです。彼は夜勤もあって、会えるときはそんなに多くないんです。
それに、同僚とか上司にこのことがばれてしまったら、彼はクビ。だから、彼、一緒に歩いているとき、時々後ろを振り返っているんです。「同じ職場の人間に後ろをつけられているんじゃないかと思って」って言っていました。
会うときはいつも夜なんですが、最近二回も昼間に会いました。ご飯を食べて、映画を見て、手をつないで散歩して、少しの時間でしたがうれしかった。
でも、やっぱり苦しくて辛くて一人で泣いてばかりいました。彼と一緒の時は泣かないようにいたんですが、最近は抱きしめられているときに、優しすぎて涙が出てしまうんです。
会うといつも優しい目で見ていてくれる、歩いているときは手をつないでいてくる。いっぱいいっぱいキスもしてくれる。でも、彼には奥さんがいるし、子供いる。なのに何で私とつき合っているんだろう。
ずーっと一緒にいたいのにいられない、苦しすぎる。
彼は「離婚できないから、いい男を見つけて早く幸せになれ」って言うけれど、こんなに彼のことが好きなのに、ほかに好きな人なんてできるわけがないでしょて思っちゃいました。
でも、このままじゃいけないんですよね。
私も早く結婚して子供がほしいって、中学校のころから思っていました。それなのに結婚している人を好きになってしまってバカですよね。
これから彼以外の人を好きになれるか心配です。でも、彼に会えて本当によかった。心からそう思います。
苦しくて、辛くて、泣いてばかりの一年だったけど、彼にはたくさんの幸せをもらいました。声を聞くだけで元気になれたし、頑張れた。ありがとうの気持ちでいっぱいです。
これから、もっと私は幸せになるつもりです。
梅田先生、素敵な本をどうもありがとうございました。
(二十三歳・神奈川県)
彼のあなたへの精一杯の愛情だったのです
お互いの不規則な仕事の間を縫うようにして、あなたと彼はひっそりと愛を育んできました。特に彼のほうは、不倫の恋をしていることがそのまま今の職を失うことにもつながるのですから、かなりリスクの大きい恋愛と言えるでしょう。
「会えるときはそんなに多くない」「会える時間はだいたい三時間だけ」という制約の中で、あなたが彼の愛情をしっかり確認できたのは、それだけふたりの時間を大切にしようという意識がお互いに強かったからだと思います。
きっとあなたも彼も、この恋のことを誰にも打ち明けることなく、一緒にいるときはただお互いを大切に思い、見つめ合ってきたのでしょう。
その少ない時間が、限りなく幸福に満ちている反面、彼に会えないときのあなたの辛さは想像できないほど大きいものだったことでしょう。
まだ二十三歳のあなたが、すべて話し合える友達もなく、ひとりぼっちでこの恋のつらさに耐えていたかと思うと胸が痛みます。
でも、あなたがつらいのと同じように、彼もまた、つらかったのではないかと思います。もちろんのこのお手紙を読むだけで、彼の人間のすべてを読み取ることはできませんが、彼は家庭のことも、あなたのことも、自分の仕事のこともきちんと真剣に考えている男性なのではないでしょうかという気がします。
「同僚や上司にバレたらクビ」という大きなリスクを背負った状態で、自分本位にあなたをふりまわすわけでなく、保身に走ることもなく、あなたの気持ちをちゃんと受け止め、愛情を表現している。
これはなかなかできることではありません。そして、あなたのことを好きになればなるほど「自分と一緒にいたらあなたが幸せになれない」という気持ちに悩まされた末「離婚できないから、いい男をみつけて早く幸せになれ」という言葉が出てきたのでしょう。
この言葉はあなたにとって、つらく悲しい言葉だったのには違いありません。「こんなに彼のことが好きなのに、ほかに好きな人なんてできるわけないでしょ」と言うあなたの気持ちは痛いほどよくわかります。
けれど、彼にとっては、これがあなたへの、精一杯の愛の形だったのではないでしょうか。
彼だって、本当はあなたに他の人を好きになってほしくないのです。できることなら、あなたが喜ぶことや嬉しい言葉をたくさん言ってあげたいのに、言ってあげられない自分の中の矛盾に苦しみ、あなたの将来を考えた結果がこの言葉だったのです。
彼はきっといい加減なことが言えない、真面目な性格なのかもしれません。
あなたも、そんな彼の愛情をちゃんと理解し「こままではいけない」という結論を出しています。
あなたの「早く結婚して子供が欲しい」という気持ちは、彼のようなあたたかい男性とつき合うことによってさらに強くなったのではないでしょうか。
あなたは「それなのに結婚している人をすきになるなんてバカですね」と言っていますが、わたしはそんなことはないと思います。かなり早くからあたたかい家庭を持ちたいという願望があったあなたが、あえて不倫の恋に落ちてしまったのも、わたしは偶然でないようなきがするのです。
早くから結婚願望があった女性は、結婚を完全な幸せな形と考え、美化し、理想化してしまう傾向があります。
でも、現実の結婚というのは夢と幸せに満ちているわけではありません。あまりに結婚を理想化して考えていると、そこで早々に幻滅して家庭そのものを壊してしまうことにもなりかねません。
あなたには、自分が結婚して家庭をつくる前に、彼という人に出会って恋をして、今までとはまったく別の面から「家庭」というものを捉え機会が必要だったのではないでしょうか。
あなたが順調な恋だけしていたら、決して感じることがなかった「家庭」の側面を知ることで、あなたの中に奥行のあるふたつの目が生まれたのです。それは、あなたが将来家庭を持つにあたって、とても大切な拠りどころになるのですから。
この恋をしたことが、あなたの結婚や幸福への遠まわりになったとは思いません。
今は「彼以外の人を好きになれるか心配」なのはわかりますが、あなたが心から愛せる男性は必ずどこかにいます。
今のあなたの「ありがとうの気持ちでいっぱい」の心を忘れずに、もっともっと幸せになってください。あなたなら、きっと彼に負けないあたたかい家庭が築けるでしょう。
つづく
幸せにしてやれない…でももう少し思っていたい