梅田みか 著
愛情と仕事へのプライドに板挟みになっています
私二十八歳のOLです。今、二度目の不倫中です。今の私にとって「愛人の掟」はまさに教科書! 三冊とも何度も熟読させていただています。
今の彼は現在五十三歳。勤務先の関係で知り合った。会社の社長さんです。つき合い始めたのは出会ってから半年ほど経っていて、もちろん誘ったのは「掟」通り彼からです。気持ちが若いというか、少年のような心を持った人というか、とにかく見ていておぼっちゃまとして育ってきたのだろうなぁ、と思わせる人です。
初めは私さえ割り切っていればおいしい部分だけでつき合えて楽しいだろうなーという。軽い気持ちでつき合い始めました。
普段は週に一度くらい会っていました。
彼は私との関係を彼なりに大切にしてくれていると思っています。二十年来行きつけのバーに連れて行ってくれて、ママとマスターに「大切な彼女」と紹介してくれました。デートはもっぱらそのバーで、二人でお酒を飲んでおしゃべりして楽しい時間を過ごしています。
ママは「あんたはあの人連れてきた女の中で一番若くていい子だよ、今までの女は彼のお金が目当てだったんだから」と言われました。
それを聞いて、彼が私の欲しいものを聞き出して何でもかんでも買ってやろうとしない気持ちが少しわかったような気がしました。
彼は私とお金とか体じゃなく、気持ちのつながっている純粋な恋愛がしたいのかもと思いました。旅行もできたし、食事代もホテル代も出してくれるし「いっしょにいれる間はできるだけ寂しい思いをさせないように努力するよ。
楽しい思い出をいっぱいつくろうね」って言ってくれます。それで十分です。
そんな私がこの手紙を書こうかと思ったのは自分一人で解決できない悩みが発生してしまったからです。私の勤務先が運営難で事務員を社員からパート扱いにすることになり、年収がガクンと減ってしまうので、進退問題を決めるよう上司に言われたるです。
ところが、私の彼は来年うちの会長に決まっているので「君の支えが必要だ」と言っていました。会長とはいえ、自分の会社の仕事もあるので、秘書のスタッフが必要なことはわかっています。彼の助けになるのなら薄給にも耐えようかと、考える時間がほしいと言いました。
すると彼は「今の給料が減る分は、ビジネスと割り切って、二人の関係は別にし俺がなんとかする。とにかく俺が会長でいるうちは君にいてほしい。その後転職したかったら、俺が探してやるよ」と言ったのです。
お金に関しては、正直いってありがたいです。でも自分の収入全部でないにせよ、彼にお金をもらって生活することを、自分の中でどう割り切ればいいのか…。
不倫している友達は、彼の援助で生活しているうちは、「今彼とは別れられない」と思ってしまって、それがプレッシャーになると、二人の関係が今の楽しさを失ってしまうんじゃないか、と言います。確かにそうかもと思います。
彼のことが好きなのは本当ですが、チャンスがあれば素敵な独身男性との出会いも大切にしたいと思っている”矛盾”な私の気持ちの中に、彼からお金をもらっているというプレッシャーは危険なんじゃないかと思います。
でも彼の援助を断って仕事を続けると、減給されるという屈辱と収入減の精神的ダメージがあり、彼と会えない時間をつぶすショッピングもできなくなります。かといって、二十八歳の独身女性の転職はかなり難しいことです。
方法は三つ。彼の言うように、ビジネスと割り切ってお金をいくらかもらうか、援助を断って薄給で彼のために会社に残るか、彼に申し訳ないけど転職するか…・ご意見をぜひぜひお聞かせください。
(二十八歳・?)
あなたはいつも自由であることを忘れないで
軽い気持ちで、父親のような年齢の男性と不倫の恋をはじめたあなたが、真剣に彼を愛するようになったのは、彼の「できるだけ寂しい思いはさせない」と言う言葉通りの、「できる限りのことはする」真摯な姿があったからではないでしょうか。
あなたの言うとおり、彼はあなたのとの関係を「彼なりに大切にしてくれている」のだと思います。あなたを「二十年来行きつけのバーに連れて行ってくれ」たのも、彼なりの愛情表現だったに違いありません。けれど、そこであなたが聞かされた彼の過去の女性たちの噂話などは、鵜呑みにせず話半分に聞いていた方がよさそうです。
あなたを褒めるにしても、前の彼女と比較してあれこれ言うような人は、もし彼に新しい恋人ができたときはまた、あなたに対するのと同じように接するものだからです。
バーのママのいうように、「今までの女は彼のお金が目当てだった」というのが本当なのかどうかはわかりませんが、それにあなたが大きな影響を受けてしまうのは危険なことです。
あなたは「今までの女は彼のお金が目当てだった」から、彼はいままでの彼女とはそんな付き合いをし、あなたは純粋な恋愛を望んでいる、そう思っていますが、わたしはちょっと違うような気がするのです。
それは今までの彼女たちが悪いのでなく、彼自身もそういう付き合い方が楽しいからやっていたのではないでしょうか。でも、今の彼はそうではない。
その変化が、あなたとの出会いによって起こったのか、お金にものを言わせるような付き合いにむなしさを感じ始めたのか、彼が年齢を重ねたせいなのか、もしかすると、彼の経済的な問題によるものかもしれません。
そのどれにしろ、あなたが今の彼との付き合い方を心から「十分」と満足しているのなら、以前の彼女たちと対抗意識を持つ必要はないのですから。
なぜこのような話をしたかと言うと、この問題は今あなたが直面している「自分ひとりでは解決できない悩み」に関係があるのではないかと思えたからです。
彼があなたの経済的援助を申し出たとき、あなたの中には「彼にお金をもらってしまったら、今までの彼女と同じになってしまうのではないか」というような不安が生じたのではないでしょうか。
あなたにとってね「純粋な恋愛」をすることが彼との関係の価値になっているからです。
でも、あなたと彼との関係が、本当に「純粋な恋愛」なのであれば、そこに給与という形で個人的なお金が発生したからといって純粋でなくなるというわけではないと思います。
ただ、その場合に大切なのは、実際に「今の給料から減る分」だけを受け取ること。今までの給料以上のお金をもらったら、あなたの生活レベルは彼により引き上げられてしまうことになります。
そうなればあなたは「彼からお金をもらっているプレッシャー」に苛まれることになるでしょうし、別れたくなったときに自由に彼と別れられない。
という問題も出てくるでしょう。でも、それがどれだけの額になるかはわかりませんが、彼が減った分の給料を補填してくれるというだけなら、そんなに問題はないのではないでしょうか。
「生活レベルを変えないこと」ということは、いまのあなたにとっても、誰にとっても、とても重要なことです。そしてもうひとつ、万が一、あなたが彼に個人的にお金をもらっていることが周囲に知れたとき、それに立ち向かう覚悟がお互いあるかということです。
ただ「お金をもらう?」という行為そのものを、どうしてもプライドが許さないというのであれば、もちろん受け取るべきでありません。残ったふたつの選択のうち「薄給でも彼のために会社に残る」という状況は、あなたにとっても彼にとっても精神的ダメージを与えることになりますから、困難でも潔く転職の道を考えるのではないでしょう。
その上で今までどおり彼とつき合うかどうかはあなた自身が決めればいいことです。
ひとつ、忘れないでほしいのは、もしこの状況でかれからいくらかのお金をもらっても、あなたが自由でなくなるというわけではないということです。
あなたは今までどうおりで「独身男性との出会いも大切にしている」あなたのままでいいのです。
だって彼は、そこであなたをお金で束縛するような身勝手な男性でないはずですから。
つづく
別れたくてもどうしても別れられません