梅田みか 著
恋愛初心者の私が不倫なんて・・・
私は来年二十二歳になる社会人二年生です。ある日、ふと立ち寄った書店でこの本を目にし、すっかりとりこになり購入いたしました。と、いうのも私も不倫の恋に落ちた、いわゆる愛人だったからです。
私の彼は十二歳年上の、職場の上司です。彼には六歳年下の美人の奥さんと一歳のかわいい男の子がいます。私たちの職場は食品を販売するお店なので、ときどき彼の家族が遊びに来ては私を苦しめます。
つき合って一年ちょっとが過ぎましたが、その間、私は何度も「もう終わりにしょう」と思いました。寂しくて辛くて耐えられなかったからです。でも決意はもろく、彼の優しさに触れると「やっぱり好き」ってズルズルと…。
彼は気分屋さんで、ちょっと私が気に入らないことをしたり言ったりすると、すぐ口を利いてくれなくなります。
「会おう」って約束しても「仕事が片付かない」とかドタキャンしたり、忘れた振りをします。さんざん振り回されて傷つけられたこの一年間、それでも優しく大切にしてくれるから別れられません。
「カミさんより大切に思っている」とか「お前がいなきゃ」とか言ってくれるけど、「子供は愛しているから離婚はできない」と親バカも…。二人でいても子供の話はするし、もううんざりです。
どこが好きなんだろうって考えると、いやなとこばっかりで、自分でも自分の気持ちもわからないような状態です。職場が一緒だから、別れたあと気まずくなるのも嫌だし、冷たくされるのも嫌。だから「別れましょう」とはっきり口に出して言えません。
彼の家族を見るたび身を切り裂かれる思いがします。「大人になろう」ってがんばっているけど、彼は無神経に家族の話。どうすればいいんですか? 毎日顔を合わせる状態で、携帯の着信発信もチェックされて、私が休みの日には夜TELしてきて「一日何をしていた?」とか「浮気はするな」とか、嬉しい反面、私の人生こんなんでいいのかなって思います。
彼の安らぎでもありたいはずなのに、彼の全てを受け入れあげたいはずなのに、私の限界を超えるとき、全てを投げ出してしまいたくなります。私はそんなに強くないのよ、そんなに大人じゃないのよと、ぶつかりたくなってしまいます。
学生時代にまともな恋愛をしたことがなかった恋愛初心者の私が、社会に出て、いきなり挑んだ恋愛が不倫だったのが、そもそも無理があったのかもしれません。
梅田先生の作品に出会え、本当によかったです。辛い将来がまっていようと、さみしい日々が続いていようと、私は私のために今の気持ちを信じて貫きます。
(二十歳・神奈川県)
あなたの努力を幼稚な彼は一生気づきません
二十歳のあなたと、一回り年上の彼との不倫の恋…と聞くと、まだ幼さの残る女の子と大人の男性との恋愛を想像するものです。けれど、あなたの手紙に書かれているのは、まったく逆、と言っていいのではないでしょうか。
三十二歳で職場の上司である彼の言動は、ちょっとびっくりしてしまうくらい幼稚なものです。気分屋で、あなたをさんざん振り回した挙句、あなたの前で無神経に子供の話をする。
そうしてあなたがやっとの思いで「もう終わりにしょう」と決意すると「カミさんより大切」「お前がいなきゃ」などと甘い言葉で引き止める。そのうえ、あなたの携帯の着信発信記録をチェックしたり、あなたの行動を詮索したり、「浮気はするな」などと独占欲をあらわにしている。彼は本当にただのわがままな子供に過ぎません。
二十歳の若さで、こんな身勝手な男性に翻弄されているあなたがかわいそうになってしまいます。
それに対して、あなたの彼に対する気持ちは、大人の包容力と優しさに満ちています。あなたは彼の家族を目の当たりにする苦しみを味わいながらもきちんと仕事を続け、自分の立場も彼の立場も守ろうとし、「彼の安らぎでありたい」とさえ感じている。
「恋愛初心者の私にはそもそも無理があった」とあなたは言っていますが、そんなことはありません、あなたは本当によくやっていると感心するくらいです。
この恋に疲れ切ったあなたが「どこが好きなんだろうって考えると嫌なところばっかり」というのもうなずけます。
でも、彼がまったく魅力的な人ではないかというと、そんなことはないのでしょう。このようなある種欠陥を抱えた男性というのは、一方ではロマンティックだったり、誰よりもやしかったり、少年のような純朴さがあったり、彼ならではの離れがたい魅力があるものです。
一年の間傷つけられ、苦しんできたあなたが、それでも彼と別れられずいるのは、その二面性があなたを強く惹きつけているからです。
けれど、あなたがどんなに「大人になろう」とがんばっても、この恋の事情がいくらかでも改善されていくとは思えません。こんな難しい役回りは二十歳のあなたには、少々荷が重過ぎるというものです。
彼は完全なあなたに甘え、よりかかり、ますますわがまま放題の子供であり続けるでしょう。「彼のすべてを受け入れてあげたい」などというあなたの切なる思いなど、彼には何もわかっていないのです。
あなたが「大人になろう」と努力し続ける限り、彼のわがままぶりはもっとエスカレートしてくるに違いありません。
本当なら、あなたはもっともっと恋人に甘えたい年頃、彼に対して無理に大人であろうとすることはやめて、「私はそんなに強くないのょ、大人じゃないのょ」という心の叫びを、彼にぶっけてみるべきではないでしょうか。
彼は今まであなたの寛容さに付け込んで、好き勝手にこの恋を楽しんできました。でも、あなたがすべてを投げ出してしまえば、彼はこれまでの態度を変えざるを得ません。その変化が、彼との関係をどんなふうに変えていくのかわかりませんが、おそらく彼の方が投げ出してしまうでしょう。
彼は、あなたときちんとした大人の関係を築いていけるような男性ではないのですから。
あなたが思いどおりにならなければ、彼の心は急速に離れていきます。問題は、そこであなたの心が彼から離れられるかどうかです。彼のような男性との恋愛は、非常に麻薬性が強いので断ち切るのが困難なのです。
その上彼と「職場が一緒」であり、「別れたあと気まずくなるのも嫌」というあなたが、彼との決別が非常に難しい環境にあることは確かです。
けれど、かれとこままの関係を続ければ、あなたは身も心もぼろぼろになってしまいます。それを考えれば、少々の犠牲を払っても、彼から完全に離れる手段を考えるべきです。
自分一人では無理ならば、ご両親か、信頼できる誰かの力を借りてでも、何とかして職場を離れることはできないでしょうか。
もちろん、簡単なことではないことは重々承知していますが、あなたの堅実さと年齢を考えれば、必ず道は開けます。自分自身を信じて、新たな道を切り開いていってください。あなたはそれだけの強さを持っている女性なのですから。
「できる限りのことをする」
「できる限りのことをする」「できる限りきみと」「できる限りつらい思いはさせない」…不倫の関係を持つ男性の中で、一度もこの台詞を口にしない人は少ないのではないだろうか。
男性側が比較的まじめに不倫の恋をとらえた場合、彼女に何を言っても嘘になってしまったり傷つけてしまったりする状況で、結局この言葉しか口にできなくなる、というケースも多いだろう。
この言葉を聞いたあなたは、彼の優しさや誠実さや、自分のことを真剣に考えてくれている彼の愛情を感じる。そして、つらいのは自分だけでなく、彼もまた同じ苦しみの中にいるのだ、という共有意識を持つだろう。自分のために思って、いい加減な約束をしない彼に、感謝さえするかもしれない。
確かにこの言葉は、不確実な約束よりも、その場限りの甘い台詞よりも、きちんと相手のことを考えた誠意のある言葉として映る。しかし、裏を返せば「できる限りのことしかできない」という宣言であって、決して自分の生活やスタンスは崩さないという姿勢も見られる。
あなたが何かを望んでいるとき、「できる限りこと」ではないのだからできない、と突っぱねることができる盾にもなりうるということだ。
大切なのは「できる限りのことをする」といった彼が、本当に「できる限りのことをしているか」ということと。それをきちんと見極めれば、恋の行方が見えてくる。
つづく
愛情と仕事へのプライドに板挟みになっています