今の子供ってさ、世間ではすごく大胆な人種って見られてるけど、私から見ている限りでは、小心者にしか見えない。あの子たちって、一人だと何もできないと思うよ。まあとどきは、キレちゃってナイフ振り回すようなのもいるけどね。 トップ画像赤バラセックスレスに陥らないにはSEXは体と心両方の快感を求めるもの心さえ満足すればいと言うは欺瞞に過ぎない自身の心と体の在り様を知ることで何を欲しているのか、何処をどうして欲しいのかをパートナーへ伝えることでセックスレスは回避できる。

第七 「夜の仕事はしばらく続けていくつもり。でもね、『一体どこで狂ってしまったんだろう』とたまに考えるよう」

本表紙 酒井あゆみ 著

夜の仕事はしばらく続けていくつもり。でもね、『一体どこで狂ってしまったんだろう』とたまに考えるよう

 鈴木 久美子 34歳/宮城県出身
 都内某有名高校の教師をしながら、週3,4日渋谷でホテトルをしている。背中の真ん中ぐらい伸ばした天然パーマの髪の毛を一本にまとめている。丸襟の水玉のブラウスに紺のシングルのスーツ。スカートの丈も膝上ぐらいしか上げていない。いつもどこで買ってくるか分からない上品な服を着ているが、靴だけはオレンジやピンクのハイヒールを好んで履いている。教職の専門は古典でもう12年も働いている。昼の月収、手取り35万弱。夜の収入、月に70万くらい。

 今の子供ってさ、世間ではすごく大胆な人種って見られてるけど、私から見ている限りでは、小心者にしか見えない。あの子たちって、一人だと何もできないと思うよ。まあとどきは、キレちゃってナイフ振り回すようなのもいるけどね。それでも私に言わせればやっぱり小心者よ。それにくらべたら、ルーズソックスはいて髪にメッシュ入れてる、いわゆる女子高生スタイルしてる子の方が、ぜんぜん素直だし、何考えてるか推測できるよ。

 でもいちばん質の悪いのはね、頭のいい子。知能犯ってやつ。頭が良ければ良いほど、隠すことが巧妙だからね、特に女の子の方がすごいよね。うちの学校って偏差値が七十から八十ぐらいあるの。ずる賢い生徒には、もう何度となく騙された。そういうのって、何度同じ目に遭わされても慣れないよね。

 一流大学へストレートで入って、やっぱり私も嬉しくてさ、卒業式の日に涙ながらに「人生間違えないで、これからも頑張りなさいね」って言ったら、「なに言ってんの?」。もう口調がらりと変わってるの。先生さ、あなたは何も知らないかも知んないけど、私たち援助交際、シャブ、ヤリコン、乱交までぜんぶ体験済みなんですよ」って。こっちはもうそれを聞いた瞬間「ドヒャー!」だよ。今さら慌てふためいても後の祭り。もうとっくに内申書も書いちゃっているわけだしさ。

何も知らないのは、「先生、ありがとうございました」って喜んでいる親だけ。本当、頭のいい子たちの巧妙な隠し方には頭が下がるよ。だって、私って裏の世界に入ってもうそろそろ十年くらいになるから、ある程度まで嘘見抜けるって自信があるのに、そんな私を平然と欺くんだからね。もう恐るべしって感じ。

 うちってさ、親の保護下にいるうちは言うことを守れっていうような、すごく躾が厳しい家だった。小学校一年生のときから時計を持たされて、時間の管理、自己管理をするようにって言われていた。その当時はそれで普通で、そんなもんだなと思ってたよ。だから塾から帰るときも、寄り道する時間さえないような門限を決められてたな。確かに中学校で五時、高校で八時、大学で十時だったと思う。

 バイトももちろん禁止。でも私はそれが苦痛ではなかった。だってそれって、言われたことや、言われたものを消化してばいいっていうことでしょ。でもさ、そうしたら当然の結果として成績が良くなるわけじゃない。そうなればそうなったで、親はもっと大きな期待をかけてきてさ、今思えば本当に悪循環だったね。結局親のエゴの対象になってただけなんだろうな。

 家族は、地方エリートの家に多いタイプ。お父さんも公務員やってて娯楽の少ない人間だから、会社が終わったら残業がない限りまっすぐ家に帰ってきて、会社の仕事があっても家に持ち込んで書斎で仕事をしている。そういう人。ご飯を食べるときはテレビをつけちゃいけなかったし、お父さんはお酒を飲んでもお銚子一本。お母さんは専業主婦だけど、典型的な教育ママ。私にはお兄ちゃんがいるんだけど、お兄ちゃんはそれに輪をかけ真面目に付き合っちゃったから、途中で潰れちゃって結局高校へも行かず、今は鳶職やってるもん。
 
 私は小さい頃から先生になるのが夢だったのね、そうね、小学校二、三年生の頃からかな。そう思ったきっかけって、小学校の二、三年のとき担任だった先生に出会えたからと思う。その先生って、必ず一人ひとつは褒めてくれる人だったの。あなたは作文がうまいとか、あなたはスポーツができるって。それに話し方がとても優しくて、できない子にも、できる子にも一生懸命でさ、なんか「一人の十歩より、十人の一歩」っていう先生だった。それでそんな先生を見て、なんかお母さんみたいって思ったの。うちのお母さんって、そんな先生みたいに優しくなかったんだけどね。だからかえって、その先生に理想の母親象ってものを自分で勝手に作ったのかも知れない。

 そのあとに担任になった先生って、同じ女の先生なのにまったくタイプが逆で、ヒステリーの見本のような人だった。とくに勉強ができない子には厳しかったな。ちょっとでも口答えすると、「言い訳なんてしないで!」って怒ってた。私は意外と勉強ができたからまだよかったんだけど、そうでない子は見てて可哀想だったよ。だから子供心にも、私があの母親みたいな先生になって、ヒステリー先生を学校にいられなくしてやればいいんだと思ったの。

 そう言った思い入れはずっと変わらなくて、教育実習のときも、周りの人が揃いも揃って「教師だって公務員。公務員になれば将来は安泰」って考えるノリがほとんどの中、私の教師に対する思い入れ、教育に対する思い入れはハンパじゃなかった。でもさ、私もこと、この年になってやっと長い物には巻かれるってことを知ったよ。それがこの時代にいちばん楽な生き方なんだよね。でも私って頑固だから、それが分かるまで結構時間がかかったな。いくら教師っていったって、いざ学校へ行くと。もう人格なんてないんだよ。

 ある日さ、学校が終わって久しぶりに友達と会って、帰りが遅くなって夜十時か十一時くらいに?華街の盛り場を通ったんだ。そしたら、私が授業を受け持っていたクラスの男子生徒が二人でふらついているのを見かけたの。それで次の日の放課後に、偶然その二人がつるんで廊下を歩いているのを見つけたからさ、「ちょっと時間ある?」って呼び止めたのよ。

それで「ありますけど」って言うから、すぐそこの教室に入って、二人とも椅子に座らせて昨日の夜のことを注意したの。二人ともわかったか分からないんだか分かんない顔してたからさ、「分かったの?」って言って、出席簿で二回パタンパタンと頭を軽く叩いたの。

 そしたらその次の日、校長、教頭と私と三人で、急遽、個人会議になったのよ。私は急に呼び出されて、なんで呼び出されているのかぜんぜん分からなかったんだけど、とにかく三時以降に生徒の親が来るから、大至急来いって言われて。そしたら何のことはない、例の生徒を注意したことだったのね。でもさ、事情を聞くと、その二人の親が窓も廊下も全部開けっ放し、つまり公開処刑みたいな状態で殴ってプライバシーを守らなかったから、「どうなっているんだ?」って学校に電話がかかってきたらしいの。

 私はそれを聞いて、もう口をポカンと開けちゃうくらい呆れちゃった。しかも校長、教頭の二人は口をそろえて、「何ひとつ言っちゃいけない。その盛り場で遊んでいたことも言うな。何が悪くて殴ったかというと、成績が悪かったからだと言ってくれ」って言われたときには、もっと呆れちゃった。私がそんな成績ごときで生徒を殴るわけがないじゃない。

それに殴ったといっても、出席簿で頭をパタンパタンよ。分かっているのって感じでさ。でも私がそのことに反論しても、「でも、そうしろ。それですべてが丸く収まるから、それで頭を下げてくれ」というの。そんなことを言われたってさ、私のプライドが許さなかったから、親の前で「頭を叩いたことはすみません」って謝ってから、それ以上言おうとしたんだ。そしたら校長と教頭に表に引っ張り出されちゃってさ、「えっ、どうしたの?」って感じだった。
 
 結局、学校側が全面謝罪してすべてが終わり。その両親に、学校側が謝罪しないんだったら教育委員会に持ち込むって脅されたわけ。うちは進学校だからさ、きちんとした生徒をいい大学へ送り込んで、高校のレベルを高くすればいいってことだけなんだよね。先生の変わりがいくらでもいるけど、一流大学の進学率を上げる生徒の代わりはいないってこと。だから私、そこでもう嫌になっちゃって、すぐに他の公立の学校へ異動願を出したの。

でもさ、それも笑っちゃうんだけど、そんなに早く異動願を出されると、教育委員会のほうでなんで新任の先生がこんなに早く異動願を出さなければいけないのかって問題になって、うちの学校のイメージが悪くなるからって却下されちゃったのよ。信じられる? 

 もうさ、ストレスが溜まりに溜まっちゃって、飲んでばかりいたよ。今のお酒好きは、そのとき鍛えられた成果だね(笑)。そんな状態だからさ、なんか自分が惨めで、彼氏とも会う気にもなれなかったよ。そのとき付き合っていた彼氏って、大学時代の先輩なのね。

付き合い始めたのって、私が二十一歳のときかな。私の初めての男でもあって、初めて結婚した相手で、初めて離婚した相手で、初めて「男とは何ぞや」ってすごく疑問を持たせてくれた男だった。それにあくまで私が夜の世界に入るきっかけを作ってくれた男だった。ムチャムチャ惚れてたよ。

 大学受かって上京しても、キャンパスの中では地方出身特有の「どうせ田舎者なんだから」っていうのがつきまとってて、男の子に声を掛けられても馬鹿にされているとしか思えなかったのね。そんなひねくれた私をさ、よくコンパとかの幹事をやってて、いつも違う綺麗なお姉さんを連れてくるすごく目立っていた先輩が、何かあるごとに誘ってくれたの。

その頃事情があって、東京で母親と二人暮らししていたから、依然として門限があったの。確か十時だったとおもう。でもその先輩は門限があるとか、家がうるさいとか全部承知で誘ってくれるの。最初は田舎者が珍しいんだろって思ってたんだけど、だんだん好きになっていった。それで付き合うようになったの。

 でもね、私すごい晩生(おくて)でさ、異性との体験なんて高校三年のときに間接キスしたっていうだけだったの。だからその彼とホテルで二人きりになったときには、もう今じゃあ考えられないんだけど、足が動かなくなっちゃったの。ビンビンに体が硬直しちゃって。

だってさ、高校のときに初体験を済ませた友達がさ、ものすごい顔して「痛いのよ」って言ったのを覚えてたから。その「痛いのよ」の例えがすごくてさ、「処刑のとき両手両足を馬に引かされたぐらい痛いわよ」って言うんだもん。私って痛いの嫌いだからさ、そんなこと聞いっちゃったら、そんな痛い思いまでしてやりたくないってずっと思ってたの。

 だから、当然のごとく一日では成功できなくて、日を改めてということになったの。そのとき、本当に真面目に「ああ、よかった。今日は帰れる」って思ったよ。でも次の日会って、また速攻ホテルに行くことになっちゃってさ、困ったよ。だって二日目のほうがもっと恐いじゃない。体が昨日の痛みを覚えているからさ。

 それでも私、注射って大嫌いだったんだけど、「お願いだから、医学部に行って麻酔を借りてきてくれ」って言ったの。本当だよ。結果としては麻酔はやらなかったし、股裂きの刑じゃなかったけど、全身筋肉痛でしばらくの間は思うように歩けなかった。そのときは、もう目をつぶって痛さを我慢するのに必死で、男の人の体の構造なんて見られたもんじゃなかったね。

 だから、物凄く人間的な形をしてる男の人の形を把握できたのは、彼と結婚して二十五歳になってやっとだった。今じゃあ、もう見るだけでどういうところが感じるかとか、「あ、この男、性病だ」って分かるぐらい何千本も見ちゃってるからさ、どんな形を見ても驚かないけどね。

 でもさ、ムチャクチャ好きで結婚したのに、半年で離婚したんだ。私は例の私立の高校を辞めて、公立の高校で働きだしたんだけど、結婚したからそこも辞めてさ、新居を構えた東京都内の私立学校に勤めだしたの。彼は貿易会社に就職したんだけど、ムチャクチャ忙しくてさ、二十四時間態勢で働いてた。それに出世するためにはテストがあるような職場だったから、彼もそのために一生懸命勉強してた。彼も頑張ったと思うよ。

でもさ、私も学校でストレス溜まりまくりだったし。彼は彼で仕事が忙しくてさ、なんかお互いがお互いを大事にする余裕がなくなって来ちゃったの。それって言葉じゃうまく説明できないよ。

 でさ、すれ違っているうちに、いろんなことを話したいんだけど。でも話してもしょうがないって気持ちになっちゃったの。お互い顔を見れば口が先に出る人間だから、傷つけあって、だんだんお互いがうざったくなってった。それでセックスなしで友達としてなら一緒に生活はできるけども、男と女としての関係は保てないと思ったの。もうその状態に耐えられなくなっちゃって、別れ話を持ち掛けたのは私のほうだった。向こうも「そうだね」って言った。それで離れてみて五年くらい経って、それでもまだお互いが一人だったらもう一度一緒になろうということで離婚したんだ。

 私ってまだそのときは純粋だったから、その五年後っていうのをまるきり信じてたんだよ。そしたら風の噂で、前の夫が離婚して半年も経たないうちに結婚して、しかも奥さんが妊娠三ヶ月だっていうことを聞いて、びっくりしちゃった。「そんなことってあるの?」みたいな感じ。もう「男とは何ぞや」って真剣に考え込んだ。

ただの結婚だったらまだしも、妊娠となるとさあ、いろんなことを想像するじゃない。私、彼の子供が欲しいって思っていたから、そこらへんは敏感になっちゃってるのかも知れないけど、やっぱりその話を聞いたときは、かなりショックだった。憎しみと裏切りとかじゃなくて、ただセックスというものを想像させられてしまったことが激しいショックだった。

 それでね、風の便りでその話を聞いたその日、学校が終わってとにかく食事をしようと思って繁華街に出て一人で食事をしたの。それで帰り道すがら「募集」っていう文字がみえてきたの。ボーッとそれを眺めていたら、店の前に立っている男の人が「募集ですか?」って聞くから、私は何も考えず「はい…」って答えちゃった。それで何の店なのかもわからずに入っていったら、観葉植物が置いてあって、男の人が座ってるんだ。男の人はみんな真正面を向いていて、「何やってるんだろう」って思ってたら、だんだん暗闇に目が馴れてきて、隣の席を覗いてみたの。そしたら男の人のアレを女の人がくわえてて、「あ、これかあ」って納得した。

私って頭でっかちだったけど、そういう知識ぐらいはあったから、すぐにそこがピンサロっていうところで、フェラチオで出せばいいところだなって分かったの。ちゃんとやったよ。でも私は、お金が欲しいのでも、体の欲求を満たすでもなくて、ただ「男って何ぞや」っていう疑問を解決したかっだけなの。要するに心の欲求を満たしたかったっていうか。

 結局そのピンサロには八ヶ月いて、次にヘルスに二年いて、ソープに一ヶ月いて、SMクラブに二日だけいて、それからずっとホテトルをやっている。今年で五年目になる。これもうまく言えないけど、ホテトルがいちばん興味をそそられて、心の欲求を満たしてくれるところだったの。

 でも、どこの風俗に行っても一貫していることは、風俗で働いている男の人のほうがはるかに女性を大事にしてくれるっていうこと。職員室にいる、陰湿で何も教えてくれない男性たちとは大違い。もう「お腹が痛い」と言えば、すぐに薬局に飛んで行ってくれるし、「何かを失くしちゃったんだ」って言えば、次の日までは買ってきてくれるし。

まあ、確かに女性あっての商売だって言われればそれまでなんだけど、男性が女性に対してそこまでやってくれる商売は、本当に風俗くらいしかないと思う。私は教員という顔を持っている手前、風俗という場所がまったく違和感がないっていったら嘘になるけれど、その違和感を取り除いてくれたのって、店の男の人たちだよ。

 それで風俗に行き始めて、ずいぶん自分の中に余裕を持てるようになった。学校ってところは、公立でも私立でも勉強できる子が一番偉いという、隠された弱肉強食の論理が厳然としてあるんだ。だからそんな中で、最初のうちは何とかしようと思ったんだけど、結局自分の力では遅れた子供たちを引っ張り上げられないんだって諦めた自分に対して罪の意識があるんだよ。「一人の十歩より、十人の一歩」って考えはどこにいっちゃったんだろうって。でも最近だと、そんなふうに自分を責めてても何も変わらないんだよなって思っている。

 それにどこの学校に行っても、相変わらず職員室の中は陰湿な場所でさ、ストレスは永遠に消えることはないんだ。もう厭味を言い合う場所でしかないんだよね。でも最近は、話を聞いてあげるのも優しさだって分かったから、長ったらしい話にも時間があれば付き合ってあげたりもしているよ。これも風俗で学んだひとつの処世術だよ。こういう単純なことでさえ、風俗の世界に入らなかったら一生知らなくて、ストレスで体壊してたかもしれないよね。まあ悪く言えば、「長い物には巻かれろ」というやり方を身につけてしまったたということだけど。

 そうそう、さっきホテトルが私にとっていちばん興味をそそられる仕事だと言ったじゃない。私さ、ピンサロ、ヘルス、ソープ、いろいろやって長続きしなかったのは、その業種って同じことの繰り返しだからなんだよね。ベルトコンベヤーに男の人が乗ってきて、女の子たちは単なる作業員みたいでさ、それじゃあ昼間の仕事と同じじゃないかって思った。

ホテトルの面白いところは、客である男の人に対してその瞬間だけでも「愛しい」って感情になれるとこなの。そうすると男性の内側がどんどん見えるようになるんだ。そのために五感をフルに使って接しているよ。五感をフルに使える場所って、普通に生活しているとそんなにないじゃない。そういう場所に居られるといことほど、幸せなことはないなあって思っている。だからその幸せをつかむためのセックスにはまったく抵抗がなくなった。

 でも私の信念で、教師は絶対やめないっていうのがある。それは最低限のこと。辞めてしまったら何もなくなってしまうじゃない。べつに風俗に入るために、今まで生きて来たわけじゃないからさ。私はただ「男とは何ぞや」というのを知りたかっただけなんだから。
その甲斐あってか、出勤するごとに、自分自身に対してや、男の人に対していつも発見があるから、「風俗恐るべし」って感じなのね。

 私って、ホテトルに入って一番分かったことは、自分て意外と精進する生き物だったっていうこと。もう今じゃあ、ありとあらゆる男の人を見て来たから、ちょっと話せば、その人がだいたいどういうタイプの男性なのか分かるようになった。でも悲しいことに、分かればわかるほど疑問が出てきちゃって、まだまだ私は男の人を本当に知らないんだなあと思い始めてる。それでも前の男の気持ちはだいぶ理解できるようになったかな、でも理解できたら理解できたで、また新たな怒りが生まれて来たけどね(苦笑)。まあ、自分が未熟だったと思うよ。

 まだ当分の間は、二度目の結婚は考えていないし、まだかろうじて二十代後半ぐらいには見られるから、夜の仕事は続けていくつもり。でもね、ときどき思うの。一体どこで狂ってしまったんだろうって。これまでの自分の生い立ちを考えて、あのまんま真面目にやってくればよかったのかなって考えるときがある。まあでも、時間だけがどんなに偉い人間でもそうじゃなくても、平等に与えられているわけだからさ、他の人間の何倍も濃い人生を歩めてる私は幸せだって思ってるんだよね。だから迷ったときには、これでいいんだって自分に言い聞かせてるの。自分がやって来たことって後悔したくないし、してもしょうがないでしょ。どうせ過去は消せないものだから、これが私の生きる道だって思っている。

 まあ、私も夜の仕事始めてから、お客の優柔不断さを結構みてきているからさ、また迷いが入るかもしれないけどね。なんかお客さんのそういう余計なところまで、似なくてもよかったのにねえと思うよ。えっ、前の旦那に会いたいかって? そんなこと分かんないよ‥‥。

 つづく 第八 「後悔してないんだけど、お客に体を触れられる度に母親の声が聞きたくなるの」