
酒井あゆみ 著
初めて男の勃起したモノを見たときは、声を張り上げそうなくらい感動しちゃった
清水 明美 22歳/埼玉県出身
某大手証券会社の経理をやっている。AVのほうは一ヶ月前から始めた。伸びかけのショートヘアに水色のカットソー、ストレートのジーパンがよく似合っている。大きな瞳とポッチャリした下唇が、男好きしそうな顔をしている。昼の月収14万、夜の収入、月に20万くらい。
私ね、今の会社に入る前って自衛隊にいたの。自衛隊には三年半くらいいたかな。高校を卒業してすぐに入ったから。別に自衛隊に入りたかったわけじゃないの。元をただせば、親との駆け引きに負けたのよ。
私が通っている高校って音楽科があって、私もそこで勉強したのね、それで大学に行っても音楽の勉強をしたかったから、高校を卒業するときに両親にお願いしたんだ。でも、「そんな大学に行かせるお金なんてない」って頭越しに反対されちゃったの。それでも私、どうしても好きな音楽を続けたかったからさ、「それじゃあ自衛隊に行く」って?を言ったの。そこまで言えば大学に行かせてくれるだろうって思っていたからさ。だってそれまで音楽やっていた女の子に自衛隊に行かせる親っていると思う? あんな男くさいところにさ。
でもね、私の計画は見事に失敗して、両親と担任と自衛隊の人たちで、どんどん話が進んじゃった。私にしてみればオイオイよ。だから最後の抵抗として、あんまり山奥に行くのは嫌だからと言って、東京の練馬の駐屯地にしてもらったの。でもそのおかげで家を出られたから、今はそれはそれでよかったと思っている。私、とにかく家を出たくてしょうがなかったからさ。
母親って、今は看護婦やっているけど、私の小さいときは専業主婦だったのね。私は長女で、お母さんは初めての子供だったの。だからってわけじゃないけど、なんか育児ノイローゼがひどかったみたい。私って生まれたときからすごく生意気で醒めてる子供だったみたいで、いつもひっぱたかれてた。幼児虐待もいいとこ。お父さんも大工をやってて、体は動くけどあんまり頭は動かないってタイプだった。そんなもんだから子供のほうが口が達者で、自分は何も言えないからいつも手を上げていたよ。だから私も妹も、いつも体には青あざがあったわ。
大きくなってもお母さんの暴力は止まらなかった。ある程度よくなってんだろうけど、中学生になっている娘の顔に包丁を突き付けたり、掃除機のコードで首を絞められたりしてた。もうあの記憶は一生残っちゃうと思う。だって、そのことがどういうことを意味しているかは、分かる年代になっちゃってたんだもん。家を出ていく最後のころには、「殺すんだったら殺せば」って投げやりになってた。考えてみれば、今生きているのが不思議なくらいなんだから。
だから家を出て自衛隊の寮に入ったときは、飛び上がるほどうれしかったなあ。これから私の人生が始まるんだと思った。寮っていても門限はないし、夜の七時の点呼のときにいればあとは遊び放題。食事は不味いからみんなぜんぜん食べなかったけど、一応ちゃんと三食出るしね。それに男女一緒の寮だったから、本当に毎日が楽しかった。毎日が修学旅行みたいな気分で。最初のころの週末は、いつもも合コンみたいな飲み会だったし、次第に仲良くなったらもの同士で車で遠くまで遊びに行ったりしてた。そりゃ年頃の男女が同じ場所に三百六十五日一緒にいて、くっつくなっていうほうが無理でしょ? まあ最近はだいぶおとなしくなったみたいだけど、昔は寮でのレイプ事件とかがあって問題になったらしいけどね。
自衛隊の一日は、朝六時の点呼から始まる。ひとつの部屋にみんな整列して、名前を呼ばれて返事をして終わり。それでまた、みんな部屋に戻って寝て、八時からマラソンして、八時半に作業場に行くの。「朝の点呼って何の意味があるんだろう」って不思議に思いながらも、返事ひとつのために目をこすって毎朝五時五十分には起きてた。それに「この地図は何に使われるんだろう」って思いながらも、地図の中に使う写真をセコセコ現像液に浸けて現像していた。そんな気持ちで二年間、休みは正月の三カ日だけという生活を続けたんだけど、広報部という部署に移されて、そこで私はキレちゃったの。
そこは、民間との触れ合いのための会報誌を作ったり、自衛隊に寄付金をくれた人たちを接待するのにお酒を飲んだりする部署なの。民間の人たちの接待自衛隊のためにお金を出してくれた人に感謝するのは分かるけど、お酒を飲む場になると私はいつもホステスで使われて、一緒にチークダンスを踊らされた。もうそれで私は「こんなことをするために、私は出て来たわけじゃない」って嫌になっちゃったの。だってハゲじじいに手とか胸とか太股を触られても、適当に手を動かしている子と給料は同じなんだもん。だから「もうやってられない」って辞める決心をしたの。
自衛隊に入って。本当、税金とか払うのがバカバカしくなったわ。だって国のために命を懸けて訓練するっていう気持ちを持っている人なんて、ほとんどいないだもん。逆にそんなこと言っている人って、みんなに笑われてた。大半が大学へ行くための資金稼ぎとか、何かの事業をやりたくてお金を貯めてるだとか、ただお金のために入ってきた人ばっかりだった。いくら月に十五万の給料でも、使う暇や休みがないからお金を貯めるにはいいところだと思うけどね。
それで辞めるって言ったときに、就職課の指導員が薦めるがままに面接に行ったの。私はただ家に帰りたくないって気持ちだけで、特になりたい職業もなかったのね。それで最初に出版社を受けて受かったんだけど、そこでの仕事が部長秘書って言われて大変そうだたから断ったの。そして二回目に受けたのが今の証券会社で、面接のときすぐ仮採用になって、その日のうちに洋服のサイズを聞かれて制服を用意してくれたの。私もそこまでしてくれるならって行くことにしたの。
でも、いきなり経理部の窓口をやらされることになってさ。コンピューターなんてそれまで全然やったことがなかったから、すごく困っちゃった。それでも私って人に聞いたり教わったりするのが嫌いだったからさ、知ったかぶりして説明を一通り聞いてたら、何食わぬ顔して仕事したよ。そして本屋でコンピューター関係の本を買いあさって、家に帰って猛勉強して覚えた。それでもやっぱり分かんないところが出てくると、みんなが私を見ていないか確認してからこっそりアンチョコのノートを机の下で見てた。なんか私って本当に可愛くないよね。女なんだから素直に「教えてください」って困った顔をして、周りに聞けばもっと楽なのにね。
その素直じゃない性格は、初体験のときも同じだった。音楽科の学校に行っていたから、発表会が年に何回かあったの。発表会の後は反省会プラス打ち上げみたいなものがあって、その日は夜九時頃までみんなでワイワイやっていた。うちって門限が夕方の六時で、よる十一時にはみんな揃って寝るっていう家族だったんだけど、そういう日は特別で、何時に帰っても怒られない日だったの。それで坂道を自転車を引いて歩いていたら、白い車が止まって運転席の男の人が私を呼び止めたの。まあ、いわゆるナンパされたのよ。
その男は、髪の毛をツンツンに立たせた、目が細い、なんか今思い出すとネズミ男みたいな二十歳の人だったけど、十五歳の小娘からすれば、すごく大人の男にみえたのね。それで私は、初めてナンパされたのに慣れたふりをして、それにタレントの誰かに似ているなんて言われていい気になっちゃって、自分の自転車を道端に置いて、言われるがままその男の車に乗っちゃった。
それでその男は車を少し走らせて、木の茂みの側に停めたの。これから何が起こるか簡単に想像できたよ。だから、胸をはだけられてもパンツを脱がされても、目をつぶってときが過ぎるのを、ただただ静かに待っていた。音を立てて胸を舐められても、アソコを舐められても、とりあえず声を出すことに気持ちを集中させてた。漫画やテレビのドラマで見るように、大人の女の人の真似をするのに必死だった。
アソコに男の人のモノが入ってきたときは、さすがにちょっと痛かったけど、予想していたよりも痛くなかった。血もちょっとしか出なかったし。それよりもびっくりしたのは、男の人が私の頭の後ろを持って、自分のモノを私の顔の近くに持ってきたときよ。暗かったけど、その頃にはもう目が慣れてたからよく見えた。男の人の勃ったモノって生まれて初めてみたから、それが目に入ったときには思わず「ハァーッ」って、もう少しで声を張り上げそうになるくらい感動しちゃったの。自分は持っていないものでしょ。もう、こういう構造になっているとは想像もつかなかったから、思わず覗き込んで、まじまじと観察しちゃった。
私って中学校を卒業するころになっても、お父さんとお風呂に入っていたの。お父さんにとって、中学生の娘が平気で一緒にお風呂に入ることは、職場でも自慢だったみたい。私もそのことを知ってたから、お父さんのことを思うとなかなか「もう一緒に入りたくない」って言いだせなかったの。さすがに高校に入ってからは、だんだんと一緒に入る回数は減っていたんだけど、初体験をしてからなんか恥ずかしくて、もう一緒には入らなくなった。
そんな初体験があってからは、ほどほどに男の人と経験を積んで、自衛隊に入ってから出会った今の彼氏と付き合ってる。もうかれこれ二年になるかな。その彼氏は、今は田舎の四国へ帰っているから、遠距離恋愛中。なんで彼が田舎に帰っているかっていうと、彼、自衛隊をクビになっちゃったの。そのクビになった原因っていうのが万引き。もうダサイでしょ。その話をする方が恥ずかしくなってくる。しかも万引きしたのがガム一個。そんなもの買えばいいじゃない。どうせ捕まるんだったら、もっと大きなものを取ればいいのにって思わない? もう、情けないよね。
クビになってからしばらくは東京にいたんだけど、半年前にいきなり「俺、田舎に帰るから」って帰っちゃったの。だから今は暇で暇で。だって月に一回、中間の名古屋でしか会えなくなっちゃったんだもん。あとの時間はずっと一人じゃない。だから最近だと、めったに電話なんかしなかった両親のところにも電話するようになっちゃった。私、こんな寂しがり屋だったのかなって思っている。なんかね、一人になってどうやって時間を潰していいか分からなくなっちゃったのね。
一ヶ月前にAVの事務所の人にスカウトされたのも、駅から家までとぼとぼと歩いているときだったの。事務所の人が私に「どうしたの。寂しそうだよ。何かあったの?」心配そうに声を掛けてきたのが最初だった。私ってそんなに寂しそうに見えたのかなあ? その日も家に帰ってやることがなかったし暇だったから、電車で三十分以上かかるところにあったんだけど、その事務所まで話を聞きに行くことにしたの。話を聞いてお金の魅力もあったんだけど、それ以上に面白い体験ができそうだなって思った。私が生まれて初めて自分がしたいと思った仕事だった。
その事務所の人は、昼間の仕事に支障が出ないようにするって言ってくれた。本音を言えば、会社なんてどうでもよかったの。親がいる実家に帰りたくないから仕方なく会社に行っているだけで、本当は今すぐでも辞めたい気分だから。だって会社ではぜんぜん自分じゃないんだもん。確かに会社は何を言われてもおとなしくしてればさ、淡々と時間は過ぎていくよ。そのコツは自衛隊の広報にいるときに学んだんだけどさ、でもそれってつまらないじゃない。
入社して間もない頃、会社の人たちと喋ってて、私ちょっといい調子になっちゃって、ポッロとエッチな話をしちゃったのね。そしたらみんな一斉に黙っちゃった。やっと口をきいた男の人が、「君、そういうことは、こういうところでは言わないのが普通なんじゃないの。その言葉に周りにいた人たちも賛成だったみたいで、みんなで私を冷たい視線で見ていたのね。えっ、どんなことを話したのかって? 昨日の夜したセックスの話。なんかエッチビデオ観ながらやったとかいうような‥‥まあね、確かに昼の職場の話題としては適当じゃないかもしれないね。でもそのときから私のおとなしい度合が増してしまったのは確かよ。会社ではかなり自分を作っている。だから、すごく疲れるの。
でもAVの仕事って楽しいけど、男にさらに失望したっていうのがある。現場はすごく楽しいけど、他の女の子と話をしてると、男はみんな浮気をする生き物だって分かった。やっぱり今の時代、一人の女性だけを愛してくれる男の人っていないんだなって。なんでみんな浮気するんだろう。私の彼氏も、私が彼の童貞を奪ってあげたら、狂ったように他の女の子と遊ぶようになっちゃった。私も悔しいから他の男の人と遊ぶと、みんな男の人には彼女がちゃんといるのね。それでも私とエッチしちゃうんだから。なんかね、そういうの見ていると、何もかも信じられなくなっちゃう。こんなことで真剣に悩んで、友達に相談したら笑われたけどさ、でもなんかすごくわびしくなっちゃったんだよね。
こんなこと考え始めたのもAVやり始めたのも、ぜんぶ原因は彼にあると思う。だって私のことぜんぜん考えないで「俺、田舎に帰るから」って決めて、いきなり一人ぼっちにするんだもん。友達と遊ぶのにも、友達に彼氏がいるからあんまり私の相手してもらえないし。無理して遊んでもらっても悪い気がしちゃうし。もう、どうやって時間を潰していいか分からないの。
だからAVの仕事は、時間を埋めるのには最高の仕事なの。AVの初日もぜんぜん抵抗なくて、何人もの人といるのが楽しかったの。だから、もっともっと仕事が入らないかって思っている。今じゃ、休む時間がないときが一番楽しい。なんか生きている実感があるっていうか。だから部屋に帰ってきて一人で居たくないから、仕事が入っていなかったら、なるべくいろんな用事を入れるようにしている。部屋にひとりでいると、世界中で自分一人だけが寂しく部屋にいる気がしちゃう。
だから最近はAVだけじゃなくて、風俗のバイトもやろうかなって思っている。確かに見ず知らずの男の人を何人も相手するのって疲れそうだけど、会社が終わった後に毎日でも行けるみたいだしね。さすがにAVだとそんなに仕事が入んないからさ。
でも、なんでこんなに寂しがり屋になっちゃったんだろう。小さい頃はひとりでいる方が楽しかったし、一人で遊ぶことができたのになあ。東京ってさ、二十四時間楽しいことがあるけど、寂しさも二十四時間あるんだよね。
つづく
第七 「夜の仕事はしばらく続けていくつもり。でもね、『一体どこで狂ってしまったんだろう』とたまに考えるよう」