夜の夫婦生活での性の不一致・不満は話し合ってもなかなか解決することができずにセックスレス・セックスレス夫婦というふうに常態化する。愛しているかけがえのない家族・子どもがいても別れてしまう場合が多い。 トップ画像

第五 「一日のノルマは三本。それが限界」

本表紙 酒井あゆみ 著

一日のノルマは三本。それが限界

 高木 みゆき 22歳/長野県出身
 オペレーターの仕事をしながら。夜はホテトルをやっている。父親はサラリーマンで母親は専業主婦という、今どき珍しいくらい普通の家庭の一人娘。髪の毛は茶色く脱色をし、灰色のカラーコンタクトをしていて、どこから見てもコギャルという感じ。しかも動作がとても柔らかいので、とても品よく見える。昼の月収20万。夜の月収に40万くらい。

 私の周りっていつも人がいるなぁ。一人ぼっちなったことがないよ。
 なんか人間関係に恵まれてるっていうか、小学生のころだっていつも目立ってた。女の子のグループができると、自分では意識しないのにどんなときもそのグループのリーダー的存在にされてたもん。だから私が嫌いな女の子ができて、喋りたくないから喋んなかっただけなのに、周りの女の子もそれを真似して無視し始めてさ。べつにイジメっ子ってわけじゃなかったんだけどなあ。なんでみんな私の真似をするんだろう。私って一人っ子だから、嫌なことは嫌で通しちゃっているからかもしれないけどさ、でも我儘だとは自分では思っていないよ。周りにそんなことを言われたこともないし。

 お父さんは普通の会社に勤めているサラリーマンで、お母さんは専業主婦。今どき珍しいくらいの普通の家庭だったと思う。お父さんはべつに私を怒ったこともないし、お母さんも何か言うときには、きちんと私の意見を聞いてくれた。だから私、親にひっぱたかれたこともなんてないね。さすがに、高校を卒業してどこにも就職が決まらなかったときには、「何か仕事をしななさい」って言われたけど、それ以外はべつに小学生の娘にビールを飲ませるくらい理解があって、本当に仲がいい家族だった。

 高校を卒業してなんで就職しなかったかっていうと、会社に入ってもどうせ長続きしないだろうと分かっていたから。高校生の夏休みに、喫茶店のバイトとかしたんだけど、二週間も続かなかったんだよね。「ああ、自分ってひとつの場所でじっとしてられないんだなあ」ってそれで分かった。だって、時給もそこそこよかったし、職場の人たちも私が高校生っいうことで、私がやんなくちゃいけない仕事を助けてくれたんだよ。本当にいい人ばっかりだったのに、ある日突然バイト先に行くのがかったるくなっちゃって、次の日には辞めてんだもん。バイト先の人たちも驚いてたよ。それまで本当に楽しくバイトしてたからさ。でも、飽きちゃったんだよね。

 だからといって、男の人は別に飽きっぽいわけじゃないんだ。今まで三人の人と付き合ったけど、みんな最低二年間は付き合っているもん。今の彼氏とも、もう一年になるかな。彼は今田舎にいるから別々で、遠距離恋愛中なんだけど、ぜんぜんラブラブだよ。

 高校を卒業してからは洋服のショップの店員を七ヶ月、農機具の工場のバイトを一年、ガソリンスタンドのバイトを四ヶ月って感じで職を転々としていたの。でも周りのみんながどんどん結婚しだして、なんだか遊ぶ友だちが少なくなっちゃってさ、それで自分だけ取り残されている気分にもなって、一年前に東京にいる従姉妹の家を頼って上京したの。田舎以外だったら、べつにどこでもよかったんだけどさ、東京はやはり面白そうだなと思って東京を選んだの。
 仕事を見つけるまでしばらく従姉妹のところに居候させてもらったんだけど、「フロムA」を買ってきて、私でもできそうなオペレーターの会社に行くことにしたんだ。条件もそこそこよかったし、寮もちゃんと付いているって書いてあったからさ。なんかさ、すべてがどうでもよかったんだよね。本格的な部屋を借りようなんて気もさらさらなかったし、何かやりたくて東京に出て来たわけじゃないから、東京が飽きたらすぐにでも田舎に帰ろうって、いわば気分転換みたいな感じだったよ。

 オペレーターの会社は恵比寿にあって、面接に行ったら即採用してくれたの、面接してくれた三十五歳くらいの若い社長もいい人みたいだったし、その日のうちに、寮のあるところに案内してくれたんだよね。仕事の内容だって、電話の対応がほとんどみたいだったから、それだったら私にもできそうだなあって思ったの。それで寮の場所もそんなに離れてなかったから、従姉妹のところにあった僅かな荷物を電車で運んで、それで引っ越し完了。
 電化製品とか必要なものは、前に住んでいた人が置いてってくれたから買わないで済んだんだ。お布団まであったんだけど、誰が使ったか分からないから、なんか気持ち悪くなっちゃって、一週間ぐらい我慢してそれだけは自分で買ったよ。

 そこでは手取り十七万円もらっていたんだけどさ、寮費として三万円とか引かれたりすると、ちょっとお金が足りなくなっちゃって、洋服とかぜんぜん買えなかったんだ。まあ、贅沢しなきゃ何とかやっていけたんだけど、やっぱり会社に行くのにもいつも同じ服ばかり着てられないし、流行っている洋服だって買いたいじゃん。でもお金が足りなくなったのって、何よりも車のローンが原因だった。高校を卒業してすぐに車を買ったんだよね。欲しかったのもあるんだけど、田舎だと一人一台車がないともうどうしようもないからさ、でもすぐに事故っちゃって廃車にしちゃったの。

でも車がないとどうしようもないからさ、前の車のローンなんてまるまる残ってるのにまたローンを組んで新しい車を買ってさ、火の車状態だった。それで東京に出てくるとき少しでもローンを減らそうと思って、車を売ってきたんだけど、それでもやっぱりすごい額のローンが残っているんだ。当たり前だけど。

 月々四万円ずつ返してたんだけど、やっぱりそれってきついよ。それでも、昼間の給料だけでやっていける額じゃないって思うかも知んないけど、私って友達と遊びたいときには遊びたいし、洋服が欲しいと思ったら絶対に欲しくなっちゃうのね。我慢ってことができないんだ。だから昼間の仕事をやり始めて三ヶ月ぐらいしてから、夜、水商売のバイトを始めたの。田舎にいるときも昼間の仕事をしながら水商売していたから、ぜんぜん抵抗がなかったよ。お酒を飲むのも好きだったし、それより何よりもお金がいいもんね。

 でも本当のところ、水商売の店でバイトを始めたのは、他にもうひとつの理由があったの。そこで援交してくれるオジさんを見つけようと思ったんだよね。だってもっと手取っ早くお金が欲しかったんだもん。でもさすがに東京でさ、一人で声をかけられるのを待って、「いくらくれるの?」なんて交渉をするのは恐ろしかったからさ、水商売の場所を見つけようと思ったの。

だからといって、私、援交に慣れてるわけじゃないんだよ。援交なんて、高校三年のときに、たった一人のおじさんとしかしていないもん。学校から帰るときに声を掛けられてきてさ、おじさんの話を聞いていたらすぐに援交のことだと分かったんだ。そのときちゃんと彼氏もいたんだけど、どうしても欲しい洋服があったから一緒にホテルまで行っちゃったの。そのときって処女を失って半年くらいだったと思う。

 最初に六万渡されたんだけど、お金見たら「ああ、やんなきゃ」って思った。責任感ってやつ? でもべつに嫌じゃなかったよ。だってお金をもらった時点で、頭の中は欲しかった洋服を着て彼氏とデートしている自分で一杯だったからさ。そのオジさんとは、高校卒業まで月に一回のペースで会っていたかな。ちゃんと毎回六万円もらえたし、ぜんぜん一緒にいて楽しかった。

だから東京でもそういうオジさんを見つけようって水商売の店でバイト始めたんだけど、まったくダメなの。必ず私の電話番号聞いてくるし、一回二、三万だって言うもんだもん。連絡とるのは私のほうからにしたかったし、一回たったの二、三万じゃ馬鹿馬鹿しくてする気にもなれないよ。

 それで地道に水商売で稼ぐことにしたんだけど、遅刻して何回も罰金をとられたり、店のママもぐだぐだ言ってくるから辞めることにした。で、それから二ヶ月ぐらいは昼の給料だけで細々とやってたんだけど、その頃寮を出て渋谷に家賃が九万円のマンションを借りちゃってたのね。少し高かったけど、寮にいつまでもいるのも嫌だからさ。そしたら当たり前なんだけど、またお金が足りなくなっちゃって、今度は本屋で見つけた高収入アルバイトって書いてある雑誌を買ってみたの。

でもさ、買ったのはいいけど、書いてあることの意味がよく分からないんだ。「コンパニオン募集」って文字の下に「日給三万五千円から」とか書いてあるから、「なんでこんなにもらえるんだろう」って。それでとりあえず電話してみたの。

そしたら電話口で「男の人と最後までするところです」って言われて、それって風俗なんだってとこまで分かった。でもよく把握できなくって。それでとりあえず面接だけ行ってみることにしたの。そこがあるところは、自分の会社がある渋谷って書いてあったから、会社の帰りにでもちょっと行ってみようかなって。

 喫茶店で待ち合わせしたんだけどすごく緊張した。メニューもろくにみられなかったよ。それに普段滅多に飲まないコーヒーなんか飲んじゃってさ、砂糖をスプーン二杯も入れて、ミルクをどぼどぼ入れて飲んだよ。それでそのうち男の人がやってきていろいろ仕事のことを説明してくれたんだけど、ぜんぜん分かんなくてさ、「まあ、初めは口で説明しても分かんないから。とりあえず事務所がすぐそこだから、今から一緒に行って仕事してみればいいよ」って言われたから、とりあえずついていくことにしたの。

そこってマンションの一室だったんだけど、女の子が四人いたの。でさ、その女の子たちみたらさ、なんか私にもできるかなって思ったんだよ。だってすごく普通でさ、なんか安心したんだよね。

 それでその女の子たちと一緒にテレビ見てたら、二分もしないうちに電話が鳴って、初仕事になったの。男の人に連れられて一緒にホテルの入り口まで行ってさ、その男はさっさとか帰っちゃって、私は言われた通りに見ず知らずの男の人がいる部屋まで行ったんだ。

 そしたら男の人が二万五千円くれて、嬉しそうな顔で私の隣に座ったの。もうその後のことはよく覚えてないんだよね。たださ、部屋の壁紙がね、柱のとこだけ貼り忘れたみたいに、そこだけが色が違ってたのはハッキリ覚えている。これってフロントの人に言ってあげた方がいいかなって、そんなくだらないことを考えてたよ。その日は、夜の十一時までいて、結局二人のお客さんを相手にして帰った。一人の男とセックスして一万五千円。計三万円。ホテトルってすごく安いんだなあって思ったけど、何か一回やっちゃったら平気になって、とりあえず週三回のペースで働くことにしたの。

 昼間の会社を辞めようとは考えなかったな。夜に染まりたくないっていうのもあるし、昼間の仕事だと一般常識を学べると思っていたからさ。私、あまり勉強しなかったから、せめて一般常識ぐらいは知っておきたいんだよね。それに太陽が昇っているうちに働いていたいっていうのもある。昼間の会社は、それはそれでたのしいよ。みんなでお昼ご飯を食べに行ったりとか、みんなで夜クラブに遊びに行ったりとか、

 夜のホテトルの女の子たちとは、まだ日が浅いっていうのもあるんだけど、あんまり干渉しないことにしているんだ。べつに嫌いっていうわけじゃないんだけど、みんないろいろな理由があってこの仕事をやっているわけでしょ。私だって根掘り葉掘り聞かれたくないもん。

それに事務所の雰囲気で何となく分かったんだ。この業界は他の子に立ち入んないほうがいいんだって。それが誠意なのかもしれないって、何でかよく分かんないけどさ。

 でも私って変だよね。彼氏よりカッコいい男の人にナンパされても絶対セックスできないのに、お金が出てくるとできちゃうんだもん。でもさ、何で、お客さんのアレってあんなに汚く思えちゃうんだろう。初めて男の人のアレを見たのは、高校二年生のときに付き合っていた同級生の男の子のモノだった。

その男の子と初体験もしたんだけど、お互い酔っ払ってて、朝起きたら裸になっていて「あれ、なんで裸になっているんだろう? そういやぁ、昨日の夜、何か痛かった気がするな」ってほど、ほとんど覚えていないの。だからその後にした「初フェラ」のほうが鮮明に覚えている。彼が自分のアソコまで、私の頭を持っていったんだけど、目の前にモノが現れたときにはすごく嫌だったよ。

 だってグロイいんだもん。でも、そういうことをすることは知っていたら、友達の話を思い出してやったんだ。友達は「彼氏のこと好きだから毎回してあげるよ」っていったけれど、そのグロイものを目の前にしたら「好きでもなあ」って思ったよ。それからだんだん慣れて、付き合う男の子のモノはぜんぜん平気になったんだけど、お客さんに「して」って言われると、「お金貰ってもなあ」って思っちゃう。いつも初めて男のモノを見たときの気持ちに戻っちゃうの。

 ホテトルのバイト始めて、不思議なんだけど結婚願望がすごく強くなってきた。お客さんと話していて、「先月、子供が生まれてねえ」なんて聞くと、何やってんだコイッって思っちゃう。もし自分が結婚したら、相手もこんなことやるのかなと思うんだけど、逆に自分の家庭だけはこうならないように頑張ろうと思っている。だからローンを早く返したいのは、結婚したいからっていうのもあるな。だって、やっぱり全部何もかも整理して、清い体で結婚したいじゃない。結婚すれば田舎の友達と立場が同じになるから。また遊べるようになるし。

 そのために朝八時に起きて。九時二十分に会社について、制服に着替えて仕事をしている。終業時間は夜の七時なんだけど、毎日八時頃まで残業して、八時半から渋谷のホテトルに入って働いてる。私の一日のノルマは三本。それが限界だな。いつも夜の仕事やるときは、疲れてかったるいから「ああ、嫌だなぁ」って憂鬱な気分なんだけど、仕事が入ってホテルまで歩いていって、部屋のドアが開く瞬間には、いつものドキドキに戻っている。入ったらもう平気になっちゃって、早くコトが終わるのを待つんだ。

 私、早く田舎に帰りたいし、お金の感覚がこれ以上変わらないうちにホテトルを辞めたいって思っている。だって買い物に行って、欲しい洋服とかがあるとするでしょ。値段を見た瞬間に思った以上に高くても、「でも二本つけば買えるよなあ」って思っちゃう。お金の数え方が「何本」っていう単位になっちゃっているのよ。これが定着しないうちに、早くローンを返して田舎に帰って結婚しなくちゃ。この業界、水商売なんかよりも染まるのが早そうだからね。

つづく 第六 「初めて男の勃起したモノを見たときは、声を張り上げそうなくらい感動しちゃった」