
酒井あゆみ 著
乱交プレイとている最中に、友達から携帯に電話がかかってくる時は、さすがに困るよ
山本 晴美 28歳/東京都出身
葬儀屋の経理の仕事を八年間続けている。二年前から、ピンクサロン・AVなどの裏業界の仕事を始めて、今は「大人のパーティー」という乱交セックスをするクラブで働いて一年になる。切れ長の奥二重の目にスッと通った鼻すじ、腰まであるストレートヘアと、上品な顔立ちをした女性である。よく鈴木保奈美に似ていると言われるというが、どちらかといえば、いつも困惑しているような眉毛や目元が、工藤静香に似ていると思う。好きな男とは全然うまくいかず、タイプでない男にしつこくされる自分の運命を恨んでいるとか。昼の月収十六万。夜の収入は月に二十八万弱。
人間ってさ、寒い方が死にやすいみたい。だから葬儀屋の仕事って冬忙しくて、夏は暇になるのよ。今やっと落ち着いてきたって感じ。
私のいる会社って、けっこう大きいところで、都内だけでもいくつもの支部があるの。それに葬儀屋だけじゃなく、結婚式場とかも経営してて、まさに、幸せから不幸までって感じ。
私、本当は結婚式場のほうで働きたかったんだ。でも面接に行ったら土・日は絶対に休めないと言われたから、今の会社の方を選んだの。だって友達と遊べなくなるのが嫌だったからさ。でも実際は、今の会社もあんまり土・日休めないことが分かった。人って都合よく土・日を抜かして死んでくれないもんね。ちょっとダマされたかなあって思っている。後悔しているけどさ、何だかんだでもう八年も働いているよ。
私の仕事は経理で、コンピューターでお金と顧客の管理をやっている。実際は死体の数なんだけど、コンピューターだと単なる数字にすぎないね。でも現場の人たちはもっと大変だと思うよ。だって死んだ人をみたり、悲しんでいる人を目の当たりにするのって、やっぱり嫌じゃない。だから現場の仕事をやりたいと思ったこともないし、興味もないよ。
うちの会社って事務だけで二十人いて、経理は私を入れて六人。女の子は全部で四人くらいかな。ご多分にもれず、男のくせにネチネチした上司が居て、ちょっとミスしたり、忙しくて言葉遣いが荒くなるだけで、こまごまと注意してくる。自分はコンピューターを一桁押し間違えて、みんなが首を傾けるような数字を平気で出しちゃってるくせにね。
八年間会社に居ても、いまだに朝の掃除は私がやっているの。だから朝六時に起きて、七時二十分に家を出て、会社に八時十五分に着いて、自分の準備をして、八時半から九時までみんなの机を拭いたりお茶の準備をしている。別にいちばん下だからやらされているってわけじゃなくて、新しい女の子が入ってもすぐ辞めちゃうからさ。まあ実家に住んでるから、家ではお母さんがなんでもやってくれるし、会社の掃除ぐらいだったら別にいいやって思っている。もう慣れちゃったっていうのもあるし。
仕事は九時の始まりから五時の終わりまで、ほとんどコンピューターのキーボードを叩いている。そのほうが他の人たちに気を配らなくって済むでしょ。私ってね、本当はすっごく気を遣う人なの。入社して一、二年は周りに気を遣いすぎて空回りばかりしてたよ。みんなただ疲れているから喋らないだけなのに、私、何かいけないことしちゃったかなあとか、一生懸命仕事しているのに何でみんな無視するんだろうって、そんなことばかり考えてた。少しずつ気を遣うのをやめられたの。それができたから、こんなにも長く続けられたんじゃないかな。
私この会社って親のコネで入ったのね。本当はもっと華やかな仕事につきたくていろいろ探したんだけど、お父さんが「知り合いの人がこの会社にいるから」って一方的に決めてきちゃったの。だから辞めるに辞められないっていうのもあるかな。みんなに「山本さんて長いよね」なんて言われて、この仕事が好きでずっといるように思われてるみたいなんだけど、本人は辞めたくて辞めたくてしょうがない。ただきっかけがつかめないからいるだけなのにね。
何が嫌かって、毎日同じことの繰り返しが嫌だし、長くいればいるほど人間って嫌な部分も見えてきちゃうじゃない。自分が死んだらこの人たちだけには、お葬式をやってもらいたくないって思っちゃう、だって、会社の話題ってよそ様の懐具合の悪口しかないんだもん。お金をかけて葬式をやれば「死んだ人がこんなにお金をかけても」って言うし、お金をかけない葬式のときには「死んだときぐらいお金をかけてあげればいいのに」って言ってる。本当にうんざりしてくるよ。
でも私がこんな考えになれたのも、もしかしたら裏の仕事を始めたからかも知んない。始めたきっかけって。二年三ヶ月前に、池袋に買い物に行ったとき街で配られているティッシュを貰ったからなの。その裏に「素敵なアルバイト。週何日でも一日何時間でもOK」って書いてあって、へーそうなのって思ったんだ。
当時、私ちょっと借金があったのね。借金っていっても変なところから借りたお金じゃなくて、カードの支払いがたまって五十万ぐらいになってたのかなあ。もともと私って借金が嫌いだったの。ローンって、早くいえば借金でしょ。人からお金を借りるのって、私にとってすごい苦痛だったのよ。
だから毎月五万円、コツコツと返済したんだけど、やっぱりどうしても欲しい洋服やスキー用品ってあるじゃない。それに他の女の子が平気な顔をしてカードでいろんなもの買っているのも見ちゃっていたから、私も少しくらいならって使ったら、積もり積もっちゃった。
私、実家に住んでいるから生活には困らなかったんだけど、その当時の給料が手取りで十三万だったのね。今はちょっと上がって十六万になったんだけど、給料の半分が返済に消えて、ぜんぜん遊ぶお金とか付き合いのお金が足りなくて、すっごくお金が欲しかったの。
だからそのティッシュに書いてある「時給三千五百円から」って文字に飛びついちゃった。それで「巣鴨駅徒歩五分」って書いてあったから、ちょうど帰り道だしって、すぐに面接に行くことにしたの。そのときの私って、本当に一日でも早く借金から解放されたかったんだろうな。
自分でも言うのも変だけど、私って、顔や格好だけ見たら、今でも素人で通るくらいおとなしく見えるでしょ。巣鴨駅でそのティッシュに書いてある番号に電話したら、そのお店の店長が迎えに来てくれたけど、お店に案内されたときに店長が真面目な顔して「うちはピンクサロンっていうところですよ」って言ったの。きっと訳も分からずにきた娘に見えたんだろうね。
店長が心配そうな顔して言ってくれたのも間違ってなくて、私、ピンクサロンて名前だけは知ってたんだけど、何をやるところまでは知らなかったの。でもお金がすっごく欲しかったから「三日後、会社が終わってから来ます」って言って帰ったの。それに本当は、風俗ってところに憧れてたの。風俗っていうよりも、そこで稼げるお金にっていった方がいいかな。
あっという間に三日過ぎて、いざ発出勤っていう日の朝って、さすがにバッチリ目が覚めたわ。私って普段は低血圧でいつまでもボーッとしてるんだけど、その日だけは不思議としゃきんとしていた。それでいつもどおり会社に行って、仕事が終わってから巣鴨に行ったの。「お金を稼ぐためだ、頑張ろう」と自分を励ましていった。それで店に入るなり、ツルツル布地のオレンジ色のスリップドレスと、夏物のシルバーのサンダルに着替えさせられたの。
店長がお客さんのところまで連れてってくれてさ、お客さんに「今日初めての子で全然知らないので、ズボン脱いじゃってもらえますか」って全部リードしてくれたよ。そして私も横に座って周りを見て、「ああ、そういうことをすればいいのか」ってすぐ分かった。
でもズボンの中から出て来たものを見たら、急に緊張しちゃったの。本当にやらなくちゃいけないと思ったからさ。まあ、お客さんを見たらおとなしそうな人だったから少し安心したけどね。それでだんだん慣れてきて、初日の最後にはお客さんと会話ができるようになった。
私ってちっちゃい頃はおとなしくって、親以外の人と喋るのがすごく面倒臭いって思っていたの。友達が声をかけてきても、わざと無視しちゃう嫌な子供だったのね。だから当然イジメにも遭った。今はその反動なのかも知れないけど、人と話すことが大好きで、友達は誰も聞いていなのに、放っとくとずっと一人で喋っている。だから人と喋って、それが仕事になる水商売とかコンパニオンをやりたくて仕方なかったの。でも今の会社を辞めるきっかけがなくて、思いとどまっているんだけどね。
昼間はいつものように会社に行って、週に二日、巣鴨のピンクサロンに行く生活が二ヶ月過ぎた頃かな、渋谷に買い物に行ったらスカウトの人に声を掛けられたのね。AVだって聞かされて、知らない人に体を許すなんて抵抗があったんだけど、すっごく派手な業界のイメージがあったから、抵抗より興味の方が自分のなかで勝ちゃってさ、やることに決めたの、ピンサロはそれがあってからすぐに辞めたんだ。
だってAVの方が全然お金がよかったから。AVに出て、顔がバレることなんか全然気にしなかったよ。さすがに、実家で暮らしているから親にバレたらまずいなって思ったけど、会社には別にバレてもかまわないって思った。逆にバレてくれれば、会社にを辞めるいいきっかけになるからいいかな、って思ったくらい。
私って初体験のときに、相手の男からお金を貰っちゃってるから、セックスしてお金をもらうことら罪悪感て感じないの。十六歳のとき、男の人から間違い電話がかかってきたのね。偶然にもその男の人が話したかった相手の苗字が私と同じ苗字でさ、それでなんだか話があっちゃって、私も暇だったから会うことにしたの。相手は当時二十七歳、私より十歳も年上で医者をやってた。それで会ったその日にホテルまで行ったの。でもことにおよぶとき、やっぱり私恐くなったのね。
それにさ、その男の人は私のタイプじゃなかったから、最初拒んでたのよ。でも「「僕と体験しておけば、他の人とするとき、痛くなくなるから。大丈夫、そっとするからね」って言われて許したの。でも泣きそうになるくらい痛くて、シーツが一面真っ赤になるくらい血が出た。終わったときには「二度とこんなことしたくない」って涙があふれるのを我慢しながら思ったもん。
その男は「自分のアソコを舐めてくれ」とまで言ったの。フェラチオなんてしたことなかったから、言われるまま「これでいいのかな?」って思いながら舐めたけど、男の人の勃起したアソコって生まれて初めて見たから、見た途端に緊張しちゃってしょうがなかったなあ。「これが男の人なんだぁ」ってびっくりしちゃった。
それでね、その男の人が帰るとき、五千円くれたの。その頃私のお小遣いって七千円だったから、すっごく嬉しかった。でも、お金を貰えたのは嬉しかったけど、なにか自分のアソコが破られてるみたいで、もう二度とセックスなんかしたくないって思ったな。
でもさ、高校卒業して社会人になって、大人の付き合いをするようになったときには、初体験の男の言葉通り平気になったんだ。一度平気になっちゃったらさ、もう遊びで男とセックスしてた。でも、いまでもそうなんだけど、本当に好きになった男とはぜんぜんダメで、タイプじゃない男の人にはしつこいくらいに付きまとわれちゃうのよ。
AVやり始めて一年も経たない頃かな、仕事がなくなっちゃったんだ。もうそのときは借金は全部返し終わってたから昼の仕事だけで食べていけたんだけど、やっぱり物足りなく感じちゃったのね。そしたら事務所の社長に「こういうバイトがあるんだけどやってみないか?」って紹介されたのが、今のクラブなの。
「大人のパーティー」って、一つの部屋で三組のカップルがセックスして、ときどき相手を交換すたりする、分かりやすくいえば乱交パーティーみたいなもん。三カップルのときもあれば、私一人に対して男の人三人、つまり4Pってときもあるし、それに女の子二人と男が三人ってときもある。まあパターンはいろいろ。さすがに四対四人のときは大変だったけどね。
サービス自体はそんなに大変じゃないけど、プレイする場所が狭いんだ。2DKのマンションを使ってんだけど、どっちの部屋も四畳半しかないの。そこにシングルベッド一つと、床に布団が一組敷いてあるだけだから、人数が多いとぶつかって大変なの。
もうぜんぜん動けないよ。私はAVの現場とかで、人に見られながらセックスするのは慣れっこなんだけど、くるお客さんはやっぱり慣れるまで時間がかかるみたい。まあ、それが普通なんだろうけどね。
そのクラブの営業時間は、夕方五時から十一時までなんだけど、私は昼間働いているから、夜七時から十一時の時間帯でやってる。それで日給二万円。お客さんが何人ついても二万円、つかなくとも二万円。まあそれだけ貰えれば、この仕事も遣り甲斐があるし、お金に対してはそんなに不満を感じていない。ふつうの風俗店だと、一人お客がついていくらって勘定でしょ、お客さんがつくかどうかは分からなくて、収入がどれくらいなるかもわからないところへ行くよりは、このクラブに来た方がいい。
だって最初から決まった金額は必ず貰えるわけだからさ。ただ夜の仕事の方は、どんなに親しい友達にも言っていないの。だからクラブで乱交プレイしている最中に、友達から携帯に電話かかってくるときはさすがに困る。でも友達から電話かかってくるのは嬉しいから、携帯の電源は切らないようにしているんだけどね。
夜の仕事をし始めていちばん辛いのは、朝起きたときかな。低血圧なのもあるんだけど、「ああ、今日は夜の仕事がある日だなあ」ってすっごく億劫になっちゃう。会社行くのさえも億劫に感じるくらい。でもその何分かの憂鬱な時間を乗り切って家を出ちゃえば、あとは夜まで全然平気になっちゃうの。この頃はそういう生活に慣れてきちゃったから、朝の億劫なのも回数が減ってきたね。
それに昼の仕事のときに、あんまりカリカリしなくなってきたかな。カチンと頭にくることあるんだけれど、すぐに怒りが静まるようになった。「なんか、こんな人たち喧嘩する価値はないな」って思えてしまう。だって昼間の仕事って、喧嘩しようがしまいが状況は変わらないじゃない。はっきりいって、私はこの仕事に関しては向上しようという気持ちはまったくないから。
私、しばらくは夜の仕事を辞めるつもりはない。お金のこともあるけど、お客さんと話をするのも楽しいし、ただ単にOLやっているだけだったら絶対知ることができないようなことまで知ることができるでしょう。駅前でブラブラしてる男の人たちって実はクスリの売人だとか、タレンの誰々はあそこの店に通いづめで、外見では想像できないほど変態なんだとか。
それに男性ってものがよく分かるようになった。ベッドの上のマナーっていうのかな、男の人はどういうことをすれば喜んでもらえて、どういうことが嫌いなのかというのが分かった。だから今の私はベットの上だと最高にイイ女になれると思ってるわ。それが、もしかしたら私にとっていちばんのメリットかも知れない。
そうそう、それに風景がとても綺麗にみえるようになったのよ。夜の仕事って私は好きだけど、やっぱり後ろめたいじゃない。そこで働いている人間もそこに来る人間も、自分がしていることを堂々と言えないでしょ。そういう業界で働いているせいなのかよく分からないんだけどさ、夜の仕事に行った次の朝とかに都電に乗ってて、昔自分が住んでいたところを通ったりすると、驚くほど奇麗なの。「あれっ? こんなに綺麗な場所に住んでたんだっけなあ?」って、感じた。それもよかったことのひとつだな。
でもね、恋愛がダメになりそうなときなんかは、やっぱりいろいろ考えちゃう。「夜やっているのがバレたかなあ?」とか「こんな仕事をしてるからバチがあたったのかなあ?」って。まあ、ただ考えて落ち込むだけで、だからといって昼の仕事一本にする気はないんだけどね。
私ね、本当は寿退社したいの。そうすれば何の気がねもなく会社を辞められるような気がするの。何だかんだいったって、私が突然「辞めます」って言ったら、やっぱりみんな困ると思うのよ。でも結婚となれば、「それだったら」って、みんな言ってくれそうな気がする。
私、結婚したら共稼ぎだけは嫌いだから、家庭に入りたいと思っている。でもさ、いざ家庭に入ったら、ひょっとしたら毎日が同じことの繰り返しで飽きちゃうかもしれないな。だから今は結婚しても週二日くらいは、このクラブで働きたいとも考えているの。このクラブじゃなくても水商売でもして、夜の仕事はこのまま続けたい。
でも、その前に「この男と結婚したい」って思える男の人と出会えるようにしなくっちゃね。今まで何回かプロポーズされたんだけど全部断った。だってタイプじゃないんだもん。好きなタイプ? 私って「俺について来い!」っていう男が好きなの。それなのにさ、なんだか分からないけど、私の周りには全然そういう男の人がいない。逆に私が男の人をリードするほうに回っちゃうの。なんで女のほうから誘いがないと動かない男ばっかりなんだろう。ちょっと焦っているよ。だって、私このままじゃ一生結婚できないか、いちばんなりたくないカカァ天下になっちゃいそうなんだもん。
つづく
第十四 「子供が小学校の作文で『お母さんは、お風呂がいっぱいある所で働いてます』と書いてしまったんや」