中村かおり 24歳/ソープ嬢
●どちらかというと地味な服装におとなしめの顔立ちで、風俗で働く女性には見えない
●「男はメリットだけで付き合うもの」と断言、そんな気持ちからか男性にのめり込むことができないという。
●風俗に入る前は、旅行代理店に勤めるOLで、ソープランドに勤めて「普通の仕事よりも仕事をしている」という手応えがあったと言う。将来は会社を経営したいので、その資金として3千万を貯めようと風俗入れしたのだが。
◆イカない「サセ子」
偉そうなこと言ってる奴が私の体でイクんですから。その悦びっていったらないですよ。だって、イッた時点でソイツたら負けなんですからね。「ザマーミロー!」っていう精神的快感?がありますよ。そういう意味での征服感があるから、セックスよりも、そっちの方が自分では気持ちいいかな。まぁ、もちろん、ソープ嬢だから、セックスはお金のためが第一だけどね!
イクこと? 興味がないね。イカなくとも何とも思わない。イカなくても別に苦じゃないし。今の仕事をする前からセックスには興味がなかったんで。ただ、人を喜ばせるのが好き、っていうのはありますけど。セックスって男の人を喜ばせるためのパフォーマンスだと思っているし。もしかして私。不感症なのかも? とは思いますけどね。
――じゃあ、なんで「サセ子」なんだろう?セックスが好きだから、たくさんの男にサセるんじゃないの?
ああ、そうですね。私の性格って男っぽいから、女友達よりも、男友達が多いんですよね。男の人といた方がラク。だから、いつもそういうシチュエーションになっちゃうんですよ。
しなきゃいけないシチュエーションになっちゃうというか。彼氏がいてもそう。そういうことをすると。人は浮気っていって非難するけど、だって、セックスって「男と女が一緒にいることの義務」じゃないですか。
だから、彼氏が私と同じことをした場合も、女の子といたらそうなるのは仕方ないと思うし。でも、私の場合、表に出している「サセ子」じゃないですよ。陰でやっている、というか。周りの女の子なんかは、私がそんなにヤッているとは思っていないですよ。
自分のことは棚に上げてなんなんですけど、女って面倒臭いじゃないですか。女の前では百パーセント自分を出せないですよ。女の世界って、妬(ねた)みとか、出るクイは打たれる世界じゃないですか。神経が細かいというか。そんな気がなくって、何気にいった言葉一つでも、ず―っと根に持っていたりとか。
みんな自分が一番に可愛がられたいから、女の子同士がつき合うのは難しいんです。表面上の付き合いはできるけど、そんなにしてまで付き合いたいとは思わないですね。そんな面倒臭いじゃないですか。だから、今の友達の中で、OL時代の友達も、ソープで知り合った友達も、みんな女々しくない。男っぽい子ばかりですよ。
プライベートのsexでも、快感は精神的なものだけなんですよ、セックスって精神的に気持ちいいじゃないですか。自分の身体で男がイクんですよ! プライベートなときは特に「セックスをするまでの相手の選び方」を見て楽しんでいる。それと「セックスが終わった後の相手の行動」とかね。
だって、男によって随分差があるじゃないですか。冷たくなったり、優しくなったり。それが楽しみでセックスさせているんですよ。本当にそれだけかって? そうですね。セックスって基本的には男のためにやっているようなもんじゃないですか。
特に挿入されると余計にそう思う。私、他の人より性欲がない方じゃないかな―。だから、挿入とかの行為よりも、私が男に求めているものは、愛されてる実感なんですよ。それが欲しいだけなんです。
それでも、男は一応ビックアップしてるつもり。好きになりやすいんですよね。つまの、一時の感情に流れやすいんでしょうよね。でも、男の子と知り合うと、恋愛対象になる人よりも、大半は友達になっちゃう人のほうが多いんですよ。だって、根本的に自分がダメになる恋愛はイヤですから。自分が壊れるような恋愛とでも言うんでしょうか。
「男」ってメリットだけで付き合うものじゃないですか。そのメリットだけで付き合うがお金持ちであったり、オシャレな人で連れ歩くにはいい、とかね。そういう考えになったのも、今は私が理想としている完璧な男の人がいないからですよね。
「彼氏」として付き合える男の人がいないとうか。理想が高いとか言われますけど、妥協したくないんですよ。だから、そういう男に出会えたら、今のような考えはなくなるんじゃないですかね。その時になって見ないと解らないけど。
男の人をメチヤクチャ好きになったこと? ありますよ。十八歳から二十歳まで付き合った人。同じ歳の人だったんですけど、自分よりも先を常に見ている人で。よく怒られてたけど、それも正しいことで怒ってくれてて、その人には頭が上がらなかった。尊敬できる人でしたね。高校を卒業してから田舎を離れて盛岡の専門学校に行ったのも、彼が盛岡の大学に行くから決めたことだし。
でも、私が東京に行くことになって、その人は家業を継ぐことになってたから田舎に帰ることになって、別れたんです。なんか、そのときには、進む道が違うんだな、って思ったから別れたんですけど、嫌いになったから別れたんじゃないですね。とはいっても私もその人も別れたあとになって「ああ、あの人を私は好きだったのかも」って、思った程度ですけどね。
男性にのめり込めない一番の理由
――かおりさんが男性にのめり込めない一番の理由って、なんだろう?
だつて、男の人って皆(セックス)すると「この女は俺のモノ」ってなるじゃないですか。それがイヤなんですよ。私はセックスするまでが楽しいだけで、その男を手に入れるまでが楽しいわけで。確かに、精神的に支えになってくれる人は欲しですよ。私って寂しがり屋だし、ウサギのようにかまってもらわないと死ぬ、とかそこまではないんですけど、でも、今は好きになって、付き合うとか、そういう男の人がいないから、自分のレベルを下げたくないんでしょうね。
やっぱり、何事にも一生懸命で、フィリングがあって、同じような感覚を持っている人が好きですから。そういう人っていないですよねー。さっき言ったみたいに使用目的に応じて男を変えるのはそのためなです。末っ子だから、甘えたいし、どちらかというと男の人につい行きたいほうなんですけどね。そんなこと言っていても、どうしょうもない男を好きになったりしてね。
◆イカないソープ嬢
私はお店で、お客の前で演技してます。感じている演技はもちろん、イクふりをするし。そして、「これが私の“素”なの」っていう演技も。この演技しないと、今の時代、稼げないんですよ。演技していること? バレるぐらいだったらヤバイですよー。
むしろお客は演技している私を、“素”の私だと信じ切ってる。お客は私の事は「エッチ好きな女」だと思っていると思いますよ。すべてが演技で、喋りながらも、挿入されてて喘ぎ声出しても、頭の中はお金と時計のことばっかりなのに。「これで今月いくら貯まったけ? ああ、そうだ。もうこんな時間だから次にこれやって、これやんないと終わらない。
この客、延長するぐらいのお金は持ってなさそうだし」とかね。ホント、男ってバカだよね―。特にソープに来るような男って。まぁ、そういう人がいなくなっても私たちが職を失うから困るんだけどね。
この仕事って夢を見させてやるのが商売じゃないですか。だから、演技っていうのもお客に対しての「思いやり」ですよ。決して騙しているわけじゃない。お客に夢を見させるために働いてる私達は「プライド捨ててなんぼ」だし。そのプライドすらも持っていないように見せるのも、ひとつのコツだし。
プライドを捨てて、“素”の演技をする。そうすると、バカな客は私を指名して来るしね。そうしないと今の時代稼げないですよ。こんなに女の子いるんだし、私は風俗雑誌とか出られないから、そうやって指名を取って稼がなくちゃいけないですよ。指名の客がいなくて、フリーだけじゃとてもじゃないけど稼げない。男ってバカだから、そういう単純な所をついて行けばいいんですよ。
プライベートのとき? もちろん男の人に対しての態度は仕事とは全然違いますけど、挿入してからの演技とか、「早くイッて」っていうところは同じかもしれませんね。向こうがイケばいい、というか、そういうところ。
仕事と違うところといえば、男の人って身体に執着するじゃないですか。だから、私の身体がその男の人に不向きとは思われたくないから、「私、あなたとは会うわ」という演技はしますね。それプラス、愛されているっていう実感を求めるぐらいですね。それは、言葉というあからさまなものじゃなくって、身体全体で感じたいんです。それが自分だけの一方通行的なものであっても、自分が満足できればいいんですよ。
この仕事って、私は普通の仕事と変わらないと思うんですよね。確かに人に堂々と言える仕事ではない、ってことは解っているんですけど。ですけど、身体が商品ということだけで、普通の仕事と一緒で何か売って収入を得る悦びは同じですよ。
普通の仕事よりもはるかにやりがいがあります。私、この仕事する前に、旅行代理店の事務、いわゆるOLをやってたから余計に思うんですけど、普通の仕事よりも「仕事をしてる」という手ごたえがあるというか。何のキャリアもない自分に、一つの会社「個人事業主」ですよ。
それを大きくするのも、小さくするのも自分の力次第で。でも、自分の本当の名前でやっているわけでもないし。自分じゃない自分で仕事できるわけですから。だから、お客に何言われても関係ない。傷つきもしない。それどころか、自分じゃないウソの自分でこれだけできるんだから、普通の仕事ではもっとできるはハズだと思うんですよね。
将来は会社を経営した
私、将来は会社を経営したいんです。その資金のために今こういう所で働いているんですよ。会社を立てるための資金、三千万くらい欲しいなって。一千万じゃ全然足りないし、二千万じゃちょっと足りないし、三千万くらいあれば妥当かな、って。だからと言って、何年もこの業界で働く気はないんですね。とにかく短い期間で貯めたかったから、水商売とかやっても何年もかかるじゃないですか。
それじゃ、風俗だったら二年ぐらいやれば貯まるだろうって考えて。だから、借金のために風俗入りしたんじゃないんです。確かに借金はありましたけど、それはOLやっていても返せる額だったし。カードの借金、五十万くらいだったかな。
そう思い始めたのは、半年前、OL辞めたときに、ちょうど祖父が亡くなって。田舎に三ヶ月ぐらい帰ってたときがあったんですね。このまま田舎にいても、友達もいるしラクでいいだろうけど、情報も少ないし、遅いし、東京のここ、吉原みたいなに大きなお金を稼ぐ手段ってないんですよね。コツコツやる分にはいいんでしょけど。親の会社を継いでも先行きが不安だし、親の会社って、土地柄不向きなんですよね。
田舎に帰って、それより何よりも、怖くなっちゃったんですよ。「私って、田舎にいたらこのまま終わっちゃうんだろうなぁ」って。普通に結婚して、子供作って。そう考えた途端、すごく怖くなってきちゃって、すぐに東京に戻ったんです。
前の会社は辞めてたから寮には住めないし、住む部屋も決めていないのに。友達の家に居候(いそうろう)すればいいや、ってしか考えてませんでしたね。とにかく、そんなこと考える余裕がないくらい、田舎にいるのが怖くなったんです。だから、田舎から東京に来て、すぐに吉原へ、風俗の世界に飛び込んだんです。
◆家庭のぬくもりを知らない
そういうこと、今まで自分で何でも決めて生きてきましたね。親に相談したこともありません。この仕事始めたのも、友達に相談もしませんでしたし。他人に頼らず。何でも自分で決めるっていうことは、いつのまにか自然に身についていましたね。
私の実家って自営なんです。輸入家具の卸しの会社。その会社というのも、確かに代々続いてきた家業なんですけど、私の父親の代で一気に大きくして会社形式にまでしたんですね。それまでには本当に街の小さな家具屋さん程度で。だから、父親は尊敬しています。
父親としてとういうよりは、男として。でも、本当に働きづめの人生の人で、会社のために生きてきた人で。今は六十歳で歳なんだし、時代も時代で一時の売れていた時期とは違うんだから、もうこれからは自分の人生を楽しんでもらいたいですね。でも、今まで仕事ばっかりやってきた人だから、いざ遊べっていわれても遊び方を知らないんですね。
この間、電話で喋ったときにそれを感じました。そのことを言ったら、だって、「遊びってどうすればいいの?」って聞かれても、ねぇ。
もちろん、母親も父親を助けて働き詰めの人でした。しかも、二人いた姉のうちの長女が小さい頃から病弱だったんで、両親はそっちにつきっきりでした。そのお姉ちゃんも、私が高校二年のときに二十五歳で死んじゃったんですけど。病気の家族がいると、周りが大変じゃないですか。気を遣わなくてはいけないんだから。だから、お姉ちゃんが死んだときはもちろん哀しかったけど、正直、ホッとしましたね。「ああ、これで終われるんだ」って。
私は親のぬくもりを感じたことがないですね、周りには可愛がられていたほうだとは思いますけど。親はいつも会社とお姉ちゃんのことばかりで。躾(しつけ)は厳しかったけど、あんまり干渉されなかったから家にいてラクだったけど、さみしい家庭でしたね。でも、だからといって憎んだことはないんですけどね。
今の仕事をやっていて、私のリスクは身内にバレることです。確かに、こんな仕事をしてて親にバレることを恐れていない子はいないと思いますけど。なんで私の場合、そのことがリスクかっていうと親とはうわべだけの付き合いだからなんです。仮面をかぶりながら親と接しているから、その仮面が剥がれるのが一番嫌なんです。そのときは全てが壊れますからね。私がせっかく作り上げた。
虚像の自分の姿からなにからなにまで。やっぱり、この世の中って知らなくていいことっていっぱいあると思うんですよ。知らないほうが幸せっていうか。一生、この仕事のことは身内にはもちろん、誰にも話す気はないですね。
高校卒業して、盛岡の英語の専門学校に行って。小さい頃から夢見ていたことの、達成のために専門学校ではなくて、家にもいたくなかったし、田舎にもいたくなかったからなんです。それでも、どうせなら将来、何かに役にたつものを選ぼうと。田舎の目というのも嫌嫌いだったし、何かをするとすぐ噂(うわさ)になるのが嫌だったんです。お姉ちゃんが死んだときに、いろいろ噂されたことがあったんで。ある意味、田舎って全然自由がない所ですよね。
専門学校を卒業して、東京の旅行関係の会社に就職が決まったんで、二十歳のときに上京したんです。それから半年前まで働いてました。結局、三年ぐらいは働いてましたね。この業界、ソープランドに入ったのは三ヶ月前なんです。今の店は二軒目なんですけど。だから、この業界に入ったからセックスにたいしての考えがこうなった、というわけじゃなくって。セックスにたいする考えは、ずっと前からこうなんですよ。
会社を辞めたのは「OLのままでは先が見えない」って思ったからなんです。それと言うのも、私のもう一人の次女のお姉ちゃんて、いわゆる「女として間違いなく生きてきた」人なんですよ。本当に真面目。親の言う通り、親になんの迷惑も掛けずに生きて来て、そして、ホント、フツーのサラリーマンと結婚して、ホント、フツー幸せな生活を送っている人。
それを見て私は全然羨ましくなくって、逆に、「そういう風になりたくない!」ってなったんです。私は主婦にはなれないですよ。野心がありすぎて。リスクを背負ってもいい、自分の夢の実現のために手っ取り早い近道というこの仕事を選んだんです。でも、だからといって苦労をしたい、とは思わないんですけどね。
そういうこと、今まで自分で何でも決めて生きてきましたね。親に相談したこともありません。この仕事始めたのも、友達に相談もしませんでしたし。他人に頼らず。何でも自分で決めるっていうことは、いつのまにか自然に身についていましたね。
私の実家って自営なんです。輸入家具の卸しの会社。その会社というのも、確かに代々続いてきた家業なんですけど、私の父親の代で一気に大きくして会社形式にまでしたんですね。それまでには本当に街の小さな家具屋さん程度で。
だから、父親は尊敬しています。父親としてとういうよりは、男として。でも、本当に働きづめの人生の人で、会社のために生きてきた人で。今は六十歳で歳なんだし、時代も時代で一時の売れていた時期とは違うんだから、もうこれからは自分の人生を楽しんでもらいたいですね。
でも、今まで仕事ばっかりやってきた人だから、いざ遊べっていわれても遊び方を知らないんですね。この間、電話で喋ったときにそれを感じました。そのことを言ったら、だって、「遊びってどうすればいいの?」って聞かれても、ねぇ。
もちろん、母親も父親を助けて働き詰めの人でした。しかも、二人いた姉のうちの長女が小さい頃から病弱だったんで、両親はそっちにつきっきりでした。そのお姉ちゃんも、私が高校二年のときに二十五歳で死んじゃったんですけど。病気の家族がいると、周りが大変じゃないですか。気を遣わなくてはいけないんだから。だから、お姉ちゃんが死んだときはもちろん哀しかったけど、正直、ホッとしましたね。「ああ、これで終われるんだ」って。
私は親のぬくもりを感じたことがないですね、周りには可愛がられていたほうだとは思いますけど。親はいつも会社とお姉ちゃんのことばかりで。躾(しつけ)は厳しかったけど、あんまり干渉されなかったから家にいてラクだったけど、さみしい家庭でしたね。でも、だからといって憎んだことはないんですけどね。
今の仕事をやっていて、私のリスクは身内にバレることです。確かに、こんな仕事をしてて親にバレることを恐れていない子はいないと思いますけど。なんで私の場合、そのことがリスクかっていうと親とはうわべだけの付き合いだからなんです。仮面をかぶりながら親と接しているから、その仮面が剥がれるのが一番嫌なんです。
そのときは全てが壊れますからね。私がせっかく作り上げた。虚像の自分の姿からなにからなにまで。やっぱり、この世の中って知らなくていいことっていっぱいあると思うんですよ。知らないほうが幸せっていうか。一生、この仕事のことは身内にはもちろん、誰にも話す気はないですね。
高校卒業して、盛岡の英語の専門学校に行って。小さい頃から夢見ていたことの、達成のために専門学校ではなくて、家にもいたくなかったし、田舎にもいたくなかったからなんです。
それでも、どうせなら将来、何かに役にたつものを選ぼうと。田舎の目というのも嫌嫌いだったし、何かをするとすぐ噂(うわさ)になるのが嫌だったんです。お姉ちゃんが死んだときに、いろいろ噂されたことがあったんで。ある意味、田舎って全然自由がない所ですよね。
専門学校を卒業して、東京の旅行関係の会社に就職が決まったんで、二十歳のときに上京したんです。それから半年前まで働いてました。結局、三年ぐらいは働いてましたね。この業界、ソープランドに入ったのは三ヶ月前なんです。今の店は二軒目なんですけど。だから、この業界に入ったからセックスにたいしての考えがこうなった、というわけじゃなくって。セックスにたいする考えは、ずっと前からこうなんですよ。
会社を辞めたのは「OLのままでは先が見えない」って思ったからなんです。それと言うのも、私のもう一人の次女のお姉ちゃんて、いわゆる「女として間違いなく生きてきた」人なんですよ。
本当に真面目。親の言う通り、親になんの迷惑も掛けずに生きて来て、そして、ホント、フツーのサラリーマンと結婚して、ホント、フツー幸せな生活を送っている人。それを見て私は全然羨ましくなくって、逆に、「そういう風になりたくない!」ってなったんです。
私は主婦にはなれないですよ。
野心がありすぎて。リスクを背負ってもいい、自分の夢の実現のために手っ取り早い近道というこの仕事を選んだんです。でも、だからといって苦労をしたい、とは思わないんですけどね。
今、お客が持ってくる儲(もう)け話でも、自分が確信持てる話だったら乗りますよ。それの資金が自分の手持ちで足りなかったら、その分働いて稼いでから、ですけど。でも、今は胡散臭い話をする人ばっかりで。
お客についていって玉の輿に乗ってとか、会社をもらって大きくしたいとか、その手の話はこの業界が長い女の子にいろいろ聞くんですけどねー。
でも、ほとんどのお客さんの話を聞いてると、そんなみちみちにスケージュールを重ねて(「分刻みにスケジュールを入れて」という意味)、ゴールは? って思いますよ。唯一、同感できるなーっていうお客さんは何十億って稼いでる人なんですけど、その人も、そんなにお金を稼いでいても次に投資する仕事のことを考えてるし。
そういう感覚って、私、解るんですよね。自分がラクしちゃうとダメなんですよ。これも親の血かな、って思うんですけど。そういう一方で、投資したいと思うのも、今がラクじゃないから、ラクしたいからだと思っているだけかもしれない。でも、投資してダメだったらしょうがない。落ち込みはしないと思うんです。だってもう一度働いて、お金を貯めればいいんですから。
そんなことを言えるのは、自分には先があるんだ、つて思って信じてるからなんでしょうね。だって私っていう人間は、この仕事だけでは絶対に終らないって思っていますからね。というよりも、想像したくないですよ。
ずっと何年も何年も、三十歳になっても、ここで働いている自分なんかを。
どんな会社をやりたいか? 業種は問わないですね。基本的に、私って怠け者だから、頭で稼げる仕事がいいです。足で稼ぐのはちょっと。親のそういう姿を見ているから余計ですね。
今は、そういう仕事の仕方、流行らないと思うし、そういう時代じゃないですよ。いまの日本のこの資本主義の社会では、お金がなければ強くなれない。奇麗ごとだけでは生きていけないじゃないですか。だからこの仕事をやってお金を貯めて自分に生きていく力をつけたいんです。
だから、風俗に入って良かったんだと思いますよ。でも、それは仕事的によかった、つまり、金銭的良かった、というだけで。精神的には満たされていないけど。常に前を向いて歩きたいですよ。もちろん、何か生み出せなかったらどうしょう、今までやってきたことが無駄になったらどうしょう、って不安はありますけどね。
時々、いまの状況なんかを、自分の「宿命」なんだと思うときがあります。だからと言って、決して不幸だとは思っていませんけどね。その人の自己満足じゃないですか。
苦労してて、不幸と思うのも幸せと思うのも。そもそも「幸せ」ってなに? って思いますよ。わからない。何が幸せなの。
そんなことを思ってる私のことを「冷めてる」って他人はいうけど、それがよく解らないんですよ。だって、人を好きになるのも、例えば車を好きになるのも、私は一緒だと思うんですよね。対象となるものそのモノの違いというか。それだけの差だと思っているのに、他人には「プライドが高い」とか言われるのが寂しいですよね。
偉ぶるわけじゃないけれど、そんな正直な気持ちを伝えただけなのに。まぁ、こういうのって「自分のエゴ」なだけなのかもしれないけれどね。
◆セックスはゲーム、「疑似恋愛」
私、この仕事って、芸能人と同じだと思うんですよね。働いている女の子って「常に注目されていたい」っていうのが底辺にあって。収入の面も当然あるんだろうけど、風俗誌なんかにこぞってみんな載ろうとするし。
自分が載っているページ枠が小さかったり、メイクが下手だったら怒るし。グラビアの撮影で、プロのカメラマンと海外に行ったりもするし。そういう写真は、本人とは別人ですよ。もう、タレント並みの写り(笑)。
控え室には指名本数のグラフが貼ってあるんですけど、みんなそ知らぬふりしても、何気にテレビ見ているはずの目線はそこにありますからね。常に他の子が気になって仕方がないんですよ。自分という生身の「女」が、お金とグラフという「モノ」で評価されるんですからね。そういうところも、芸能界に似てると思いません。
だから、化粧品はもちろん、お客にうける化粧の仕方、洋服なんかも気合が入っていますよー。特にお客に顔見せのための写真撮影の日なんか、みんな、美容院に行ってセットして頭じゅうにお花をちりばめてくるし、洋服もスタイルが一番良く見えて、高そうな服を買ってきますしね。
化粧も写真写りが良くなるように、すごく塗りまくりますからねー。濃くしないと、顔がぼやけちゃうんですよ。だからと言って、ただ派手にすればいいってわけじゃない。お客に、いかに“清純”に見えて、「何でこんな子がこんなところに!」って思わせなけりゃいけないですからね。
それが基本。だから、何枚も何枚も、撮りますよ。それでも写真指名が少なかった、またお金をかけて何回も何回も撮り直しもしますし。その写真一枚で指名される本数も、収入も違ってきますからね。
お客さんにえらばれなければ仕事すら始まらないですから。だから、写真撮影の日はそのまま電車に乗って帰れないんです。だって、舞台メイクと変わらないくらいの濃さですからねぇ。恥ずかしくって、タクシーしか乗れませんよ。
今の仕事は、自分の本当の名前でやっているわけじゃないし、自分じゃない自分で仕事してる。OLやっていたときなんかよりも、はるかに刺激がありますよ。仕事場に漂っている空気からして違うし。
自分のした仕事が毎日、グラフで貼りだされるんですよ。自分がヤッた仕事の結果が毎日のごとく評価されて、みんなに見られるんですからね。普通の仕事みたいに悠長に考えてもいられないし、仕事の手を抜くことなんかできませんから。手を抜いたら抜いただけ、結果として表れる。一生懸命やったら、やっただけ返ってくる。こんなやりがいのある仕事って他にないですよね。
今の仕事をやって、余計にそうかもしれないけど、自分がイクよりも、男がイクことが私にとって「いいセックス」なんですよ。人が喜ぶのが好きというか。もっと言えば「人から認められることが嬉しい」というか。それというのも、親が小さい頃から私のことを全然認めてくれてませんでしたからね、何やっても。
そんな育ち方をしたから、私は人の目が自分へ向けられることで満足なんですよ。だから、仕事以外、プライベートでも男とセックスしまくってて「サセ子」とか言われるくらいしてるのも、人のぬくもりが欲しいだけなんです。
人に愛される、自分に目を向けてくれるという嬉しさ、気持ち良さ、だけなんですよ。だから、性的なものに興味ないんです。セックスのおもしろさは、男女の駆け引きだと思っているし、オナニー? したことないですね。しようと思ったこともない、
セックスはゲーム、スポーツ
だから、今の私の「イケてないセックス」は「疑似恋愛」なんです。だってセックスはゲーム、スポーツですからね。とても「愛」というものとは結び付けられないですよ。当然、イカないことで悩んだことなど、ないです。
もともとセックスは自体に興味はないですから。だって、どうしてイケないのか、原因は自分で解っていますから。本気でセックスに溶け込んでいないからですよ。チャンスがあれば自分はイケると思っているし、セックスにたいしてマジに取り組めばイケると思っているからで。
でも、だからと言って、「男であればみんな一緒」ってわけじゃない。やつぱり、仕事のときとプライベートのときって違いますよ。この仕事って、普通と逆から入るじゃないですか。セックスからその男の人に入る、その人間に入る。プライベートではその逆じゃないですか。プライベートでは、焦らされるのが好きだけど、仕事は逆で早くイカせるのが勝負だし。
それでも、仕事のときも、プライベートのときも。セックスの時間は他の事を考えてる。私、セックスで自分の頭が溶け込むぐらいの相手に巡り合っていないんです。二百人くらいの男のために、アソコを使っても、巡り合っていないですよ。いつかはそういう相手に会えるんでしょうけどね。
でも、極端な話、一生、イカなくっていいや、ってすら思いますよ。どうせするなら、イケるほうが得だとは思っていますし、幸せだとは思いますけどね。でも、相手がイカなくって、自分だけがイッて自分だけが満足するのは嫌ですよね。
そうそう、この間、やっと住むところ、決まったんですよ。毎回、審査に落ちちゃって。親。保証人にはできないから。最初から頼る気もないし。田舎の親だから、東京の家賃を聞いたらビックリして反対するに決まっているし。何やってるか怪しまれるし。でも、やっと決まったんだけど、二ヶ月後の三月からしか入れないんですけどね。
二度目の上京のときから、この仕事始めてからも、友達の家を転々としてて。でも、それだと交通費が掛かり過ぎるから、って吉原の中のウイークリーマンションに住んでたりしてたんです。
それから、それから、今までずっとのんびりしている性格のせいか、仕事が忙しかったから後回しにしてたせいか、あっという間に家無し三ヶ月過ぎようとしてるし。そもそも、私が吉原のそばには住みたくないって思ったから、こんなに時間がかかったんですよ。
吉原の近くだったら、仕事のことも、保証人のことなんかも気にしないで入れる物件もあったし。だからといって、あんまり遠くだと交通費がバカにならないから。吉原に近くもなく、遠くもなく、って所で探してたから、余計に時間がかかったかも。
それというのも、こんな仕事しててなんですけど、こういう世界に自分が染まりたくないんですよ。
こんな私をソープで知り合った友達、OL時代の友達とか、みんな「しっかりしてる」って言っていますけど、自分では子供だと思っていますよ。口が達者なだけで、苦労したことないから。何で皆、そう言うんでしょうね?
つづく
イクって、努力しようがない「遊んでる」女の性の不一致観…
渡辺麻里 34歳/化粧品販売員