夜の夫婦生活での性の不一致・不満は話し合ってもなかなか解決することができずにセックスレス・セックスレス夫婦というふうに常態化する。愛しているかけがえのない家族・子どもがいても別れてしまう場合が多いのです。トップ写真

恋愛謳歌型男だって悩みはある…?

本表紙 著者=亀山早苗=

ピンクバラ恋愛謳歌型男だって「不倫」悩みはある…?

一方で、不倫に対する罪悪感がもともと少ない男性もいる。
 どちらかといえば、恋愛謳歌型だ。結婚生活を重視しながら恋愛も謳歌する男性もいれば、家庭よりも恋愛を重きを置きがちな男性もいる。
 彼らは一見、人生を人の何倍も楽しんでいるように見える。だが、彼らとて、全く悩んでいないわけじゃない。

「好きな人がいるのに我慢して、自分にブレーキをかけるのは精神衛生上、よくないよね」
 と言い切る、田村洋輔さん(三十九歳)は、結婚して九年たつが、この間、ふたりの女性とそれぞれ二年以上に及ぶつきあいがあった。一度や二度の関係だったら、他に三人ほどいるそうだ。

「いちばんつらいのは、相手の女性にわがままを言われたときかな。もともとこちらには結婚しているという負い目があるわけですよ。
 そこをつついてくるような女性だとわかったら、未練があってもこちらからはもう会わないという態度に出ますね。
 すごく好きな女性がいて、彼女も僕が結婚していることをわかっていて、『それでもいい』とつきあい始めたんです。
 それなのに、三ヶ月もしないうちに、『帰らないで』『旅行したい』『誕生日には一緒にいてほしい』『お正月に初詣に行きたい』といろいろ言われて。叶えてあげたいですよ、僕だって。

 だけど独身者と同じデートをするわけにはいかないんです。そのあたりをわかってくれないと、こちらもストレスがたまる。ただ、男ってずるいから、彼女の機嫌を損ねたくないんです。だから、期日が迫るまで、『大丈夫だと思う』とずるずる引き延ばしてしまう。
 それが結果的に彼女の期待を煽(あお)ることになるでしょう。
 最終的に、『やっぱりいけない。ごめん』と言うと、鬼の首でも取ったように責め立てられた。
『ウソついたのね』って。ウソをついたわけじゃないんだけど…」

 男は女性に対して、常に「いい人」と思われていたい生き物らしい。
 だめならだめと最初から言えば、女性側も諦(あきら)めがつくのに、いいとも悪いともはっきり言わないから、女性は期待を持ってしまうのだ。
 ましてや、男性が家庭を持っている場合、女性側も半分、「だめかな」と思いつつ打診していることが多い。
 そこで、即答されないと、「彼は私のためにお正月も出て来てくれるのかもしれない」と否が応にも希望の光が大きくなってしまうのだ。
 気を持たせておいて最後に拒絶するのは、女性の傷を大きくするだけだ。

「だけど、僕だって何とかなるかもしれないという希望をもっているからこそ、返事を引き延ばすわけですよ。その間になにかしら状況が変わるかもしれない。
 たとえば、女房がどうしても『今度のお正月は、子供を連れて実家に帰りたいわ』というかもしれない。それなら僕は『行っておいで』と言って、正月三日目くらいにひとりになれるかもしれない。
 今までそんなことは無かったけど、今度の正月に限ってあるかもしれない。そういう『かもしれない』が頭の中に渦巻いて、まだ返事をしない方がいい。と思ってしまう。
 それに『旅行したい』『そうだね』という会話は、『旅行しよう』という意味でなく、『行けたらいいよね』という意味の『そうだね』なんです。
 そのあたりを女性は勘違いする。だからウソをついた、と言われるのは心外だし、つらいんですよ」

 その場は本気。あくまで傾向としてだけれど、男性には、この“本気”が点在するだけで、決して線にはならない。女性の行動は最初から一線上にある。点で生活する男と、線で生きていく女。そのあたりが理解し合えないところでもあるのかもしれない。
 田村さんは、決して女性を自分からは切らない。なんとなく疎遠になっていき、三度のデートを二度に減らし、一度に減らし、徐々にフェイドアウトしていく。女性が連絡してこなくなるのをじっと待つ。このあたりが男のずるさであり、気の弱さともいえそうだ。

ピンクバラ男がとことんかかわりたくなる「女性」

不倫が上手くいっている女性は大人の女
男性が婚外恋愛をする場合、相手の女性はどういうタイプの女性が理想的なのだろうか。男性たちに聞いてみると、やっぱり、というような答えが返ってきた。
「明るくてさっぱりした女性」
「ひとりで放っておいても大丈夫な女性」
「泣かない女性」
「嫉妬深くない女性」
「わがままを言わない女性」
 つまりは、家庭のある男にとって“都合のいい女性”ということになるだろうか。
 だが、私は彼らの意見に賛成だ。実は、結婚相手でさえ、こういった視点で選んだ方がいいのではないかと思う。
 “都合のいい女性”というと聞こえが悪いけれど、ここに挙げられた条件は、経済的にも精神的にも自立した女性が持っているものだからだ。

 社会に出て働いていれば、自制心をもっている。ひとりの時間はむしろほしいと思うだろうし、泣きたいときはひとりで泣く。
 世の中は自分の思い通りにならないから、ある種の諦観(ていかん)がある。
 嫉妬だって、疑い出せばキリがないことくらい知っている。だからやはり、不倫が上手くいっている女性は、大人なのだろう。

 ところが男とはおもしろいもので、あまり自立している女性は敬遠したくなるらしい。ときには頼ってほしいし甘えてほしい。
 ただし、自分の生活が荒らされるようでは困る。自分の余力の範囲で解決がつく程度の甘えやわがままなら歓迎する。
「縁あってかかわってしまった女なのだから、徹底的にかかわりましょう」という腹のくくり方はなかなかできないものらしい。
 だからたとえば、女性が病気になったりしたとき、意外な自分に気づく男性もいる。

 同年代の女性とつきあって十年近くなる松村太一さん(四十八歳)もそのひとり。つきあって二年足らずで、独身の彼女が乳がんを患った。その二年後ももう一方の胸に乳がんを、さらに一年後に胃がんを。後発のがんはいずれも原発性で、再発はなかった。
 最初のがんのとき、彼は毎日彼女を見舞った。彼女の両親やきょうだいと顔を合わせることもあったが、彼は怯(ひる)まなかった。

「自分でもあんなに一生懸命になるとは思わなかった。彼女のきょうだいには僕が家庭があることを追及されたけど、僕は彼女の体のことだけが心配で、病院に通うのをやめることはできなかったんです。
 彼女の病気で、僕の中で、彼女の存在がいかに大きくなっているかを発見しました」

 この時点で、彼は彼女ととことんかかわっていく決意を固めたのだろう。そのうち、彼女の家族からのプレッシャーもなくなった。
 彼のひたむきな気持ちが家族に通じたのかもしれない。病床にあっても、彼女は取り乱したりはしなかった。
 だが、一度だけ、手術前にはひどく泣いた。彼は、今まで見たことのない彼女の弱さを目の当たりにし、自分の内部から力がわいてくるような思いを感じたという。
 乳がんで胸は切除せざるを得なかったが、そのことで彼女を見る眼が変わったことは一度たりともないと彼は言う。

 ふたりは仕事で知り合っていつしか仲良くなって、自然と男女の関係になった。
 最初の時点で、彼は、「この人はこのままでいくとヤバイ」と感じたという。
 長くなるつきあいだと直感したのだろう。そしてそれは彼女の三度にわたる大病を乗り越えたことで、真実となった。彼女は独立して、芸術関係の仕事をしている。病気になっても仕事は決して辞めようとしなかったし、仕事への情熱も失わなかった。その情熱や生命力は、尊敬に値すると、彼は感じている。

 彼にとって彼女は、手のかからない女性なのだろう。ふだんは甘えないし、サバサバしている性格。
 だがその彼女も弱さを抱えていると彼は察している。だから彼女が困っているときは、自分から手を差し伸べようと思っている。それだけ彼女が彼にとって大きな存在だからだ。
「僕は彼女になんの期待もしていない。ただ、いてくれればいいと思っているんです」
 存在丸ごとを慈(いつく)しむ。彼女は彼に家庭があることで苦しんでもいるだろうが、こんなふうに存在をそっくり受け止めてくれる男性がいることは、幸せと言えなくもない。

ピンクバラ自ら去りがたい「女性」に対しての責任感と苦悩

不倫も長くなると、ある種「いて当たり前」という空気が流れるようになっていく。
 七歳年下の女性と、十年を越える付き合いをしている大橋彰さん(四十七歳)は、感慨深げにこう話してくれた。

「幼稚園だった下の子が高校生ですからね、彼女とは長いつきあいだと思いますよ。丸十二年になりますね。
 私は常に家庭優先できました。そのことで彼女に不思議と文句も言われたことはありません。
 彼女自身、父親がよそに女性を作って母親が苦しんでいるのを見て育ったらしいんです。最初のころ、それを聞かされて、『だから別れたい』と言われたこともあるんだけど、私は納得できなかった。
 彼女はどこか寂しそうなところもある女性で、それが気になってたまらなかった。
 なんとかしてやりたい、という気持ちが芽生えてしまって。だけどこの十二年、ずっとうまくいっていたわけではありません。
 私自身に彼女の人生を変える権利なんてないのはわかっていたから、彼女が三十歳になるときは少し悩みましたね。
 だから、『好きな人が出来たらいつでも言ってほしい。黙って去るから』と言っていたんです。
 でも結果的に、彼女の三十代はずっと私とつきあうことになってしまった。彼女が先日、四十歳の誕生日を迎えたときには、『本当にこれでいいのか』と思いましたよ。
 彼女は仕事もしているし、趣味や友だちも多いみたいだけど、それで本当に満足しているのかとも思うし、そのことは、彼女には怖くて聞けないんですが」
 結局、彼女は一度も結婚もせず、子供を産まないまま不惑を迎えてしまった。そのことに大橋さんは責任を感じてもいる。だが、何の不満も言わない彼女から自ら去るには、この十二年は重すぎる。

「私自身、そろそろ五十歳を目前にしています。最近、性的な面でもいつまでも彼女を満足させられるんだろう。と不安になることもある。
 もちろん、彼女はそういう面だけでつきあっているわけではないと言うでしょうが、一緒に生活しているわけではないふたりにとって、絆というのはどこにあるのだろう、とふと思うこともあるんです」

 彼の最後の一言は実に真実に的を射ている。
 結婚というのは、法律的にはひとつの規約に過ぎないが、精神的にひとつの絆の証かもしれない。婚姻制度に当てはまらず、一緒に暮らしてもいない男女にとって、目に見える絆は何もない。お互いの心の中にのみ、それは存在するのだ。だが、物理的な障害がひとたび起これば、心の中に絆はあっても確認するすべがない。
 たとえば男性が病気で長期的に入院したら、あるいは転勤で家族ぐるみ引っ越してしまつたら、それでも恋愛は続くだろうか。
「うたかたの恋、なんでしょうか、やっぱり。私としては彼女のことは大事だし、かけがえのない存在だけれど、このまま走っていってどこにたどり着くのか、そのとき彼女が本当に自分の人生を悔いたりしないのか。それがこのところ妙に引っかかっているんです」

 相手を大事に思うからこそ、彼の苦悩は生じている。
 しかし、彼と別れることで彼女が幸せになるとも限らない、彼女は今のままでいいのかもしれないのだから。
 まじめな男性ほど、深く長いつきあいになると、相手の人生にたいして責任感を覚えるようになる。
 もちろん、男性の質としてそれはとても上等だと思うけれど、私個人が女としての立場で言うなら、よけいな責任感を覚えないでほしい。
 自分の人生、自分で自分の尻は拭(ぬぐ)う。覚悟して家庭ある男性とつきあっている女性なら、きっとそう感じるはずだ。
 責任をとってほしいと嘆くような女性なら、十二年も関係が続くわけがない。彼にそう言うと、彼はため息をつきながら少しだけほっとしたように見えた。
 つづく 不倫する男は嫉妬深い? の謎