
著者=亀山早苗=
「人生経験豊かな女性」だからこそ下せた英断
彼がどうしたらよかったのかは誰にもわからない。
逆に女性の立場になれば、離婚したとかを恋人に告げたとき、一瞬でも相手がためらっているのを感じたら、安心して結婚は出来ないだろう。
ましてや子供がいる身の上だ。
万が一、相手の逡巡が結婚後は後悔に変わって、いらだちを子供にぶつけるようなことになったら…。
そう考えたら、別れを選択するしか道はない。とても素敵な女性と思った。
彼女はきっと彼を信じたいと思っただろう。自分が直感で感じた危惧(きぐ)など、見て見ぬふりをすることはできる。
ちょっと目をつぶっていれば、彼は冷静になって、『結婚しよう』と言ってくれるに違いない。
実際、彼もそうは言ったのだ。だが、彼女は一瞬のためらいに、彼の心の奥深く秘められている思いを知った。
そして自分が身を引いたのだ。自分のために、子供のために、そしておそらく、いちばんは彼のために。
八歳年上の人生経験豊かな女性だからこそ下せた英断と言えるだろう。
彼は彼女を恨んでいない。今も彼女を思っている。だが彼は、人生は後戻りできないんだということは身をもって知ったという。あのとき、ためらいを見せなければすべては上手くいったのかもしれない。自分の度量の狭さを責めている。
だが、仕方がなかったことだと私は思う。二十代の男性が、ふたりの子供のいる女性と結婚しようと思ったとき、ためらいがないほうが嘘くさい。想像していることが現実になったとき、その重さに打ちのめされても不思議ではない。
そこで無理して度量の広さを見せつけたところで、年上の女性には見抜かれる。
万が一、見抜かれなくとも結婚後、きっと後悔の念が生じる。
自分をだませば、その場は上手く取りつくろえるかもしれないが、後からそのツケは倍になって返って来る。年上の女性はそのことを知っているのだと思う。
怒涛(どとう)の一年半で学んだこと
彼はこの経験を、これからの人生にどうやって生かしていくのだろう。
おそらく、この恋愛を経験する前と今とでは、相当、考え方に変化が生じているはずだ。
「女性とこんなに真剣にかかわったのは初めと言ってもいいと思います。以前、結婚しようと言ってふられた彼女とも、三年間つきあっていたとはいえ、これほどまでには自分をさらけ出せなかった。
そもそも、自分という人間が全く分かっていなかったと思います。
僕はすごく嫉妬深いし、ひとりでいられないくらい気持ちが動揺することもあるし、なにより精神的に弱い。
自分の弱さを認識していれば、きっと離婚成立を聞かされたときも態度は違っていたと思う。
彼女も僕の弱さをわかっていれば、ああいう言い方はしなかったかもしれない。
僕自身が認識していない弱さを、彼女にわかってほしいというのは無理な話でしょう。
結局、自分の事がわかっていないと恋愛は上手くいかない、ましてや結婚などできるものではないと学びました。
怒涛の一年半だったけど、正直なことを言うと、いい勉強になったと思っています。
今はまだ、しなくてもいい経験だったという気持ちも強いんですが、きっともっと時間がたったら少しはいい思い出になるのかもしれません」
素直な彼の言葉を聞いて、この人はいい男への段階を一歩、上ったのだなという気がした。
「既婚男性と独身女性」(子供ができてしまった場合)
ごく自然にふたりはひとつになって
既婚男性が独身女性とつきあって、より苦悩を生じるのは、子供ができてしまったときだろう。
自分の家庭にも子供がいる。恋人にも子供ができてしまった。
つまり家庭が二つになったわけだ。婚姻という法律で守られた家庭と、法律で決して守られることのない家庭。
どちらに対して責任が重いのかという答えは出ない。だから男は悶々とする。
浜田恭太郎さん(四十一歳)には、結婚して十五年になる同い年の妻がいる。十二歳と八歳の娘もいる。
彼が恋人である尚子さんとつきあい始めたのは四年前。尚子さんは当時三十三歳。そして今、尚子さんとの間には一歳になる息子がいる。
「彼女とは仕事を介して知り合いました。どんな仕事かはちょっと勘弁してください。知り合ったのはもう六年くらい前です。
最初に会ったときは、理屈っぽい嫌な女だと思っていましたんです。だけど、実際、長い期間、一緒に仕事をしてみると、意外な優しさに触れることがありました。
たとえば夜遅くまでみんなで仕事をしていると、彼女はいつの間にか飲み物を買ってきてくれたりする。
もちろん社内でコーヒーやお茶は飲めますが、さりげなくコンビニに行って、ジュースやヨーグルトなど買ってきてくれるんです。
理屈っぽいところはあるけれど、根はいい人なんだなと思いました。だけどもちろん、それ以上の関係になるなんて思ってもいませんでした」
仕事上の関係は二年ほど続くが、同じ会社ではないので、しょっちゅう顔を合わせていたわけではない。
ところがあるとき、偶然、ある劇場でふたりは顔を合わせる。
彼女は友だちと、浜田さんはひとりだった。浜田さんは学生時代に演劇活動をしおり、その芝居は当時の仲間が出演した芝居だったのだ。いわばお義理で行ったようなもの。
「そこに彼女がいたので正直言ってびっくりしました。
そうしたら彼女も学生時代は演劇に没頭していたという。芝居が終わった後、彼女の友達は翌日が早いので帰ってしまったんですね。
それでふたりで食事に行きました。そこで芝居の話でものすごく盛り上がって、『じゃあ、今度、一緒に芝居を観に行こう』ということになったんです。
彼女はかなり芝居を専門的に知っているから、話していて飽きることがありませんでした。
ただ、感じ方はまったく違う。そこがおもしろくて、また話したいと思うんです」
それから月に一度くらいの割で、一緒に芝居を観に行くようになった。時間が空くと誘い合って映画に行った。若いころどんなに好きでも、映画や芝居は大人になると、なかなか見に行く機会がなくなっていく。それがまた、定期的に観るようになったことで、浜田さんの生活に張りが出た。
「僕は家庭を愛していたし、仕事もいそがしかったから、決して日常に不満があるわけではなかったんですよ。
だけど彼女と一緒に映画や芝居に行くことで、日常とは別の楽しみができた。それは大げさに言うと、僕の人生にプラスアルファができた、という感じだったんで。
彼女とはいい友達関係でいられる。そう思いました。
でもそう思う一方で、自分が女性としての彼女に惹かれているということもわかっていた。
このまま自分の欲望を消滅させられたらどんなにすっきりしたいい関係になれるだろう。
そう思って悩みました。つまり、僕は彼女と寝たいとずっと思っていたんです。
自分で思うたびに打ち消していたけれど、やはり男と女です。
寝たいと思うような女性とでなければ、きっとあんなに映画や芝居に一緒にはいかなかったでしょうね」
半年ほどはそんな関係が続き、ある日、まるでそうなることが決まっていたかのように「ごく自然に」彼は、彼女のひとり暮らしの部屋に寄った。
そしてそうなることが決まっていたかのようにふたりはひとつになった。
「実は僕、コンドームができない体質なんです。ゴムであそこがかぶれてしまう。だからその日は膣外射精をしました。
彼女は『日程的には大丈夫』と言ってくれたけど、万が一ということがありますから。
その後、彼女にコンドームのことを話しました。すると彼女、さらりと『奥さんはどうしているの?』って。
僕も自然に、『彼女はピルを飲んでもらっている』と答えました。
それ以前に家族の話もさりげなくしていたので、彼女もまったく嫉妬心などなかったように見えました。
その日、僕が帰ろうとすると、彼女は明るく言ったんです。『私もピルを飲もうかしら』って。
『そうしてくれるとありがたいな』と答えました。その時点で、僕は『彼女とは長くなる』と直感したし、自分でもそれを望んでいるとはっきりわかりました。
よく男は同じ女性と二度寝るときは、長くつき合うことになるやもしれないと覚悟をするということでしょう。
僕の場合、最初から彼女とは長くなる、長くつき合いたいと決めているところがあります。映画や芝居を一緒に観て、お互いの心の内をさらけ出して沢山の話をして、まるで長年付き合っているような感覚に陥っていたんです。
だから体を重ねるのも本当に自然だった。食べ物の趣味も合うんですが、肉体的な相性もとてもよかった」
困らせるようなことは一切しない、自立した女性
彼女がピルを飲み始めた。彼は週に二度は彼女の家に寄った。
一緒に映画や芝居を観ての帰りだったり、夜中に突然、電話をかけて寄ることもあった。
たまたま彼女の家は、彼の会社と自宅を結んだ中間地点にあったから、寄りやすかったせいもある。
彼女はいつでも温かく迎えてくれた。そしていつも泊まらせるようとはしなかった。彼がうたた寝をしてしまっても、午前0時になるところは必ず起こしてくれた。
「ある時など、僕が眠くて、『大丈夫だょ、僕は仕事で午前様になることも多いんだから』と言ったんですが、『だめよ、ちゃんと帰って』と言われてしまって。
そうなると彼女への信頼感は増しますね、家庭があることをちゃんとわかってくれる。
彼女なら僕を困らせたりはしないだろう。虫がいい話だけど僕はいつもそう思っていました。
そして実際、彼女は僕を困らせるようなことは一切しなかった。彼女は本当に自立している女性なんだと思います。
会う約束をしていたのに、僕が家庭の事情でどうしても約束の場所に行けなくなったことがありました。それでも事情を話したらわかってくれた。
子供がケガをしたり病気をしたときは、『心配ね。お大事にね。私の事は気にしなくていいから』と言ってくる。
僕は彼女との関係で、愛されることの充実感を覚えました。もちろん妻も僕を愛してくれていると思う。だけどそれは、夫として父親としての側面にどうしても重心がいきがちでしょう。
それはそれでいいんだけど、純粋に単なる男として愛されているのは、また別の喜びがあるんだ、と初めて知ったような気がするんです」
差し込み文書
夜の夫婦生活での性の不一致・不満は話し合ってもなかなか解決することができずにセックスレス・セックスレス夫婦というふうに常態化する。愛しているかけがえのない家族・子どもがいても別れてしまう場合が多いのです。
オーガズムの定義を知ることで解決できるかもしれませんね。
つづく
女の産む決断と結論を出せない男