言うまでもないが、もともと女性は占いやオカルトという非科学的とされる分野が大好きである。女に生まれてこの方、惚れたハレたの恋愛占いに一喜一憂したことのない人はごく少ないだろう。もともと人間は科学や合理性だけでは割り切れない存在だ。源氏物語の昔から、美人で教養もあって思慮深い、誰が見てもイイ女である六条御息所は光源氏に相手にされないわ、どうやら陣内智則にぞっこんなのは藤原紀香の方らしいわと、恋愛は常に不確定要素に満ちているのだ。
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恋愛だけではなく仕事も同じだ。一度会社に入れば、あとは定年まで順調に昇格し定年退職できる、といった人生行路を今はほとんどの人が信じてはいない。つぶれるはずのない証券会社が破綻し、銀行も大変なことになってしまい、昨日のベンチャーヒーローが今は犯罪者というご時世である。
人智の及ばない運やカンの様な、不合理なもので人生が左右されるということをみながら感じているからこそ、占いやオカルトなど、総じて今私たちがスピリチュアルと称しているものがぐいぐい立ち上がってきているのだ。
このモードは、科学万能主義に翳りが見えた20世紀末あたりから、現在に至るまで、女性だけではなく男性にも強く伝播している。言うまでもないがオウム真理教という危険なカルトを生んだ世相だ。しかし、どうも昨今の人心の方は、オウムを批判し敵視したはずなのに、それと同根の”非科学系”にまたもや強く、広範囲にひかれていくというアンビバレントな方向に向かっている。
オウムは絶対に許せないと言いつつ、厄払いには行くし、天中殺だから引っ越しや転職をあきらめる。それはそれ、これはこれ、と使い分けている人がほとんどではないか。
ヨガ、自然食、ヒーリング、断食、気功、セラピー、霊的カウンセリング、神社巡り、などなど、気が付いてみれば”非化学系”は多様多彩に分散し、生活の中に入り込んでいる。そして、オウム以来、オカルト系を自粛していたテレビのタガを外したのは、スピリチュアル、という爽やかなネーミングとともに登場してきた江原啓介である。
オウムによってほとんど放送禁止用語のようになっていた”オカルト”は、装いも新たに”スピリチュアル”として見事に蘇生を果たしたのだ。彼が出演する番組で行われる”リーディング”では、死んだお爺ちゃんがいつでもアナタのことを見守っていますよ、的な、大変に感動的な良い話が多い。
この番組以前から、江原が出る霊能番組はかつてのように、祟りや呪い、というような、おどおどろしいものから、心温まる、お涙必須のものへと変容しており、「その人がラクになったり、良い状態になれるんだったら、スピリチュアルという方法があってもよい」という肯定感が一般に生み出されることになったのだ。
スピリチュアルは女性にとっての生活指針
2000年前後だったと思うが、私の周囲にも今までそんな心配すら示さなかった女性たちが、この分野にどっぷりと足を踏み込み始めたことを思い出す。たとえば、外資系証券会社のバリバリ高給取り営業ウーマンだったS美は、ストレスから身体を壊して休職中に、人から勧められて通った気功ヒーリングですっかり体調が良くなってしまった、その指導者資質を見込まれて修業を重ねた後、自らもヒーラーとなってとうとう都内に自分の店を出すことになった。
Y子は大手銀行勤務だったが、思う所があって会社を辞めて、四国のお遍路を行い、それが成就した後には、こんどは修験道の修業にハマってしまった。その間は派遣などで食いつないでいたが、近年、環境保護のNPOを立ち上げて活発に活動する傍ら、修業は継続中、といった具合。
オカルトや占い好きの女性、と言えば、その昔は現実の社会には溶け込めないちょっと風変わりな性格やネクラで神経質なパーソナリティーやそれっぽい外見(腰まで届くロングヘアに黒装束、もしくは全く気にかけなか)の持ち主と相場が決まっていたが、スピリチュアル時代の当事者たちは、しっかりと現実社会に生きており外見は至って普通なのだ。
ヒーラーのS美は本当のところは、かなり本格的な霊的修業のネットワークに属しているのだが、そういうことは滅多に人には話さない。肉も食べれば飲み会にもいそいそとやってきて、深夜タクシーで帰っていく(まあ、その帰宅後に何らかの”修業”が待っているかも知れないが)。
オウムのように人生をかけての白か黒かの傾倒ではなく、彼女たちにとって、現実社会とスピリチュアルな世界とは「それはそれ、これはこれ」のようにバランスよく棲み分けが出来ているように思える。
そういえば、別のヒーラーの女性から面白いことを聞いた。石を用いたヒーリングを行う彼女の店の顧客はフリーターや学生ではなく圧倒的に企業で働く女性が多い。店のメイン商品は、身に着けたり、部屋に置いたりするとヒーリングや浄化の効果がある石の数々である。当初、売れ筋としてオーナーである彼女の考えたのは、スピリチュアル色を薄めた、ビーズなどを混ぜたアクセサリー感覚のものだった。しかし、現実は大きく違っていたのである。
「ウチの店の客層はOLさんだったりするので、あまり直接的なものよりもビーズとかを入れたアクセサリー感覚のものの方が売れると思ったんですけどねぇ。お客さんがどんどん本格的になっていて、軽めのおしゃれものよりも、効き目重視って感じです。勾玉や五角形のようなかなり呪術色の強いデザインのものも売れていく。逆に薄めたものはウケない」
彼女の店には10万円以上する、いわれのある聖地産の水晶なども置いているが、そういう高価で貴重なものは店頭に並べた直後から売れていくのだという。フライトアテンダントの女性たちは、電磁波抜きのために、トルマリンのネックレスを求めてやってくるというし、母娘という組み合わせも少なくない。男性の客はというと女性の連れとしてやってきて、その後にひとりでリピーターになるのがほとんどだという。
最近目立つのがベンチャーの経営者たちで、10万以上の水晶などは、IT関係や投資関係の若き経営者たちのグループにまとめて売れたこともあるという。彼らにとって、氏神様への奉納よりも、水晶パワーの方が費用対効果が高いと踏んだのかもしれない。
こういった社会傾向を反映していくつか面白い雑誌も出ている。
『TRINITY』はまさにそこに照準を当て成功している季刊紙で、ホームページにあるコンセプトは次の通り。
「精神の強さ・肉体の健康・容姿の美しさには連動性があり、女性の幸せにはそのどれもが欠かせないというのがトリニティの基本理念。今までタブーとされてきた話題にも触れていきながら本当に必要な情報を提供していく、全く新しい”幸せ”を売る雑誌なのです」
おどろおどろしさは全くなく、高級女性誌並みのレイアウトにゴージャスな海外取材、表紙には、奥菜恵や栗山千明、IKKOなどが載り、格闘家の須藤元気の連載対談には、学者の茂木健一郎がゲストに呼ばれ、秋吉久美子や加賀まりこといった面々も誌面を飾るというメジャー志向ぶり。しかし、内容はきちんとスピリチュアル系で、内容はそのままで筆致やレイアウトを変えれば、オカルト雑誌の『ムー』と同様にそちらの世界では本格的なネタが揃っているのだ。それとも。ホリスティック医学やホメオパシーや、エコロジーと三位一体になって、読者の有効な囲い込みをしている。広告主は小規模のスピリチュアルジャンルの会社が並び、確実かつ安定的な商業文化圏をつくっていることは間違いない。
神社は人気タレントのコンサート状態
天下取りたきゃ、九頭龍(くずりゅう)に行かないと!」
九頭龍神社のことを聞いたのは、あるヘアメイクアーティストからだった。芦ノ湖のほとりにあるこの神社は、金運、仕事運に抜群の威力を発揮し、芸能界ではつとに有名なのだという。実際、彼女もこのご利益か、今やマスコミにも多く登場し業界ナンバーワンの出世頭になってしまった。
コチラとしては別に天下をとるつもりもなかったので、この一件は記憶の底に追いやっていたのだが、あるとき知り合いの女性から、温泉リフレッシュをかねて、九頭龍詣でのお誘いがあった。なんでも、毎月決められているお参りの日が休日と重なる、という特別な日らしい。
ネットで検索をかけてみると、なんと一万件以上のヒット。金運、出世運より、若い女性の間では縁結びの神社として有名らしい。そういえば、彼女は34歳独身。彼氏募集祈願と転職の望みをかけて「もう、後がない」と言う立派な負け犬さんである。同行の女性ふたりもほぼ、同じような境遇だ。
さて、当日の朝、芦ノ湖に行ってみて仰天した。早朝だというのにその船着き場は人で埋まっており、船のチケット売り場と奉納受付に列ができている。この湖畔の神社には、船で行くのが常道だが、乗船券売り場といえばまるで武道館コンサート状態で、お弁当屋や屋台まで出ている始末である。
顔ぶれはほとんどが20代から30代の女性で、売り場のオジサンに聞けば、「今日は参詣日が休日と重なったから、こりゃ五往復ぐらいしないといかんのぉー」と繁盛ぶりにニコニコ顔だ。
さて、神社での祈禱は、小さいお社を幾重も人が囲んで大変なことになっている。こんな熱気を体験したのは、近頃では表参道にあるジャニーズ・ショップの休日か、神宮外苑の花火大会か、というぐらい。何でも、女性誌の『CREA』に最強の縁結びの神、と紹介されたことが大混雑の原因のひとつらしい。
このような神社巡りは、数年前から若い女性の間で大ブームになっている。出版されている関連ムックの内容はというと、スピリチュアル時代に寄り添ったカジュアルさが身上。神社をパワースポットとしてとらえ、近場の温泉やグルメとともに紹介するという観光気分に満ちたものが多い。「お水取り」という、年の吉日によい方角に行き、わき水を貰って来るという開運法も、女性誌やこういったムックが取り上げ”水”ブームの流れにも乗ってポピュラー化している。
さて、この九頭龍ツアーの発起人は、小さなプロダクションから、大手外資系化粧品会社に転職した実力ある35歳の女性である。彼女のキーワードは”開運”。メイクやラッキーカラーもばっちり開運方向に照準を合わせていて、特にツメは運が指先から入ってくる、ということで、ネイルサロンできっちり整えている。
もちろん不思議ちゃんの気配は全くなく、数年前に結婚し、負け犬ですらない立派なオトナである。彼女のハマり方は本格的で、休暇には良い方角の神社に通い、夏には滝行にも挑戦するという強者だ。風水にも凝っていて、最近、購入したマンションはリフォームに風水師の意見をばっちり導入したらしい。「住宅メーカ―も、風水コンサルタント付きの建て売り住宅やったり、不動産屋もそういうサービスやれば、絶対に儲かるのに」とは彼女の弁。
お参り後は、彼女の手引きで箱根神社に行って参拝し、神社のわき水を汲んだ。いわゆる”お水取り”であるが、巨大ペットボトルが近くの売店で売られていることからもブームになっていることがわかる。
「お水取りした水で玄関を拭き掃除すると、すごく開運にいいのよ」
後で聞くと、私をはじめとして同行の女性は全員律儀にそれを実行したことが判明。このところ掃除、整理整頓の本がブームになっていることが、不要なものを捨て、清浄に暮らす、というセンスは神道がもっとも強調している感覚でもある。Drコパをはじめとして、ユミリーなどの人気風水師の著作でも、「掃除の効能」は必ず記述されており、掃除ブームはたんにライフスタイル提案や仕事術としてだけでなく、開運というスピリチュアル技法とあいまって存在している。
生活すべてにスピリチュアルの”いいとこ”を取り入れている彼女の消費活動を見るにつけ、またこれほどの実質的ブームならば、不動産だけではなくすべてのモノやコトにそういったアイディアが出てきてもいいかと思うが、メジャー商品ではさすがに正面切っては出てきていない。セブンイレブンがヒットさせた大阪の伝統的な商売繫盛祈願の開運芳香剤、外国のインディーズ化粧品会社が陰陽五行の思想を取り入れたネイルを発売していたぐらいだろうか。
西に黄色、財布はお札を折らない長財布、赤い下着は丹田のチャクラに効くなどの”決まり事”は生活の中の常識となっている。ということはそこに一大マーケットがあることに他ならないのだが、なかなかそうはならない。
テレビが江原を使って、とそのタブーの栓を開けたように、何か突破口はありそう。予想では”水”なんかが来そうだ。先ほどのお水取りではないが、水質うんぬんのその先は、何と言っても土地のパワーだろう。各主要神社、もしくは近くの水源から採取し、聖なる地の息吹を感じてください、などなど、ホームページとの連動で仕掛けができそうではある。
スピリチュアル観光の盛り上がり
グルメはとっくに旅行の目的アイテムになっているが、スピリチュアルもそれに追従する勢いがある。セドナという知る人ぞ知るネイティブ・アメリカンの聖地は、行くと必ず日本人女性が三、四組うろうろしているらしい。かつてはヒッピーやそのスジの人しか行かなかったインドのヨガ・アシュラムも最近のヨガブームからか、普通の女性が訪れるようになっている。
今まで、その道の人しか知り得なかった世界各地の聖地情報は、訪れた人のブログの書き込みがそのまま有効なガイドブックになって、より多くの人を誘い込み、今やツリー形式で広がりオープンなものとなっていることも見逃せない。
先日、長野県にある知り合いの別荘に遊びに行ったときのこと。その帰りに立ち寄った売店で不思議な水を売っていた。「ゼロ磁場の秘水」というラベルが貼られたボトルの横の新聞切り抜きを見ると、どうやらこの近くに地層の関係で磁場がゼロになる特異な場所があり、指折りのパワースポットらしい。たまたま、パソコンを持っていたので早速、検索をかけたら、ありましたよ! たくさんの書き込みが。
グーグルアースを使ってみると、思った通り何もない山の中にそこだけ、写真付きマークの書き込みラッシュになっている。山の急斜面にただ座っているだけでパワーを得られ、病にも効能があるというこの場は、行ってみると超満員。過去にテレビ放映や新聞記事になったとはいえ、この賑わいぶりはまさにネット情報ありきの現象だった。
セドナ、イギリスのストーンヘンジ、バリ島のキンタマーニ山、ハワイのワイピオ渓谷、宮古島‥‥。癒しの旅は、社会生活に疲れた女性の専売特許だが、高級リゾートでの滞在、マッサージ、スパ、タラソテラピーなどはすでに一段落し、最近は圧倒的にパワー&ヒーリング、浄化スポット方面に人気がある。
温泉は地球のエネルギーを最もダイレクトに得られ、心身のデトックスにも最適ということで、スピリチュアル観光の王道だ。スピリチュアル方面に明るい経営者として知られる船井総研の船井幸雄のお墨付きでもあり、波動をうたい気功のプログラムもある「七沢荘」や、温泉の効能が古くから仏教信仰と結びついている「別所温泉」、日本有数のパワースポットの近くにある「天の川温泉」などはネット口コミでも有名だ。
考えてみれば、昔の人々の旅行とは、内外問わず、お伊勢参りにモンサンミッシェル詣でにと、目的はすべて聖地、スピリチュアルスポット巡りだった。「行った先に何かありありがたく、ラッキーな御利益がある」。これは人間にとって大変に”気持ちが良い”動機なのだろう。光を観ると書いて観光。その光は今、スピリチュアルに集結しているのである。
お金払って悩みを「外部化」する
もともと、占いは雑誌という媒体とともに発展しており、今までは、雑誌にフェ―チャーされる記事や広告、もしくは多くは口コミでしか情報収集はできなかった。占ってもらうにしても、新宿の母のように路上の定点営業のような街占いか、占い館のような店に出向くのみ。しかし、ネット上では口コミ、情報収集から、実際に占ってもらうことのすべてが自宅にいなから可能なのである。
インターネット黎明館の占いサイトはお粗末なものだったが、この人気ジャンルは過当競争なだけにすぐさま目ざましい量と質の向上をみせた。「彼にアナタのどういう部分が魅力的に見えるのか?」などと人間心理をうまくついたメニューが並び、ひとつをやると、中毒のようにやり続けてしまうことになりかねない。料金決済もワンクリックで、単価はそう高くないので、気軽にやれてしまうところもミソである。
占いだけではない。今やほとんどのレストランと同様、スピリチュアルに関する店の多くがホームページを持っている。そこでは主宰者個人のブログや利用者の感想などが書いてあって、ユーザーは事前に感触をつかめるようになっている。
20代30代の女性が占い関係にどれだけお金を遣っているか、といえば、月一万円~3万円という数字が多く上がってきた。これを多いと見るか、少ないと見るか? 私には至極妥当な数字と思える。衝動買いでつい毎月一枚は買ってしまう洋服の値段ぐらいと考えると別段不思議な金額ではない。
占いの内容はというと、人生&恋愛相談=悩みの解決、自分探しが王道で、すべてのことを占いに決めてもらう、というような依存性はあまりない。何かと言うか、「一時間か二時間ぐらいの間、とにかく自分のことだけを考えてくれて、話を聞いてもらって、ポジティブなアドバイスをくれる」ことに満足する、というスタイルがほの見えてくる。
これらはかつて、先輩や友達の間で処理していた事柄だったが、昨今の人間関係ではちょっと負担が多く、嫌がられるようなムードがあるのだろう。ムダが嫌いでお得が好きなのが女性だが、「自分の相談ばかりする友人」が時間泥棒扱いされる危険を彼女たちはよく知っている。
また、友人への相談は彼女の性格や状況を知っているだけに、客観的な判断よりも、彼女が満足しそうな答え、もとしくは「無理しなくてイイよ」の波風を立てない無難な回答しか得られないことを体験的に知っているのだといっていい。
アメリカの人は精神分析医に、日本人は占い師に悩みを相談するという。ビジネスの社会では、お金を払って適切なアドバイスを受けるコンサルタントがしっかりと根付いているが、このところ、個人でもスキルアップや仕事のアドバイスにコーチングという方法でプロを雇うという流れも見えてきている。
そういった「悩みの外部化」が占いに走る大きな動機のひとつだ。占い好きの女性の話を聞いていると、「何でも占いに頼ってしまう危険かつ安易な思考放棄」という狂信的な側面はあまり見られない。彼女たちは10代のころから雑誌などで占いに親しみ、街頭の占いの占い師に相対しているので、自分なりに”利用の仕方”がわかっているのだ。
企業顧問しか基本的にやらない、という知る人ぞ知る有名な占い師に見てもらうって五年になるというJ子は、占い師との付き合いをこう語ってくれた。
「困ったときの駆け込み寺なんですけど、トラブルはすべて”自分が成長するための乗り越えるべき試練”ということを繰り返しいわれているだけのような気がする。占い師さんが私の性格をバッチリ把握しているので、そういったことが抜群に上手いんです。くじけそうになった心を前向きな状態に戻してくれる」
他人に自分を語られることの快感
アパレル会社のPRとして働く30歳の女性は、自他共に認める占い好きだが、最近のヒットは前世占いだという。占い師がその人の前世の物語を幼少期から順に話してくれるというもので、そこには別段、悩みの解決などの実効性はありそうにもないが、いろいろと自分に思い当たる”気づき”があるのだという。
本当に占い師が前世を見ているのかどうかはわからない。しかし、見ず知らずの人が目の前の自分の印象から、ひとつの物語を語ってくれるという体験は、大変に興味深いものに違いない。自己啓発セミナーの勧誘に「見ず知らずの参加者同士が向き合って相手の印象を語る」というケームがあって、それをやられると、語られる方は語る方にぐっと親近感を感じるのだというが、それと似たような話だ。
その前世占い師は二時間ほどかけ、まるで映画のナレーションのようにディテールや登場人物が豊かな一大人生絵巻を語るのだそう。その「オリジナル性」については、毎回創作する方が大変だから占いはホンモノではないか、と彼女は言う。彼女の口コミでやはり何人かの友人が占ってもらったらしいが、どの前世物語も共通なヤマやオチはなく、彼女の能力を信じるに至っているのだというのだ。また、この語られた前世をネタに友達同士が飲み会をすることもあって、これは新手のエンターテインメントのような気もしてくる。
買い物症候群の女たちがいる。たんにモノが欲しいという段階ではなく、その買い物の時間だけ、見ず知らずの店員にかしずかれる消費の女王になれるから、という一種の快楽中毒者だ。占いに嵌る女性もそれと似ているところがある。「自分のことだけが100パーセント話題になり、他人が自分のことだけを考えてくれる占い時間」というものは、考えてみれば贅沢で甘い蜜の味でもある。
そういえば、これとよく似たシステムにホストクラブがある。ある人の全能力を自分のために使わせる快感の対価としてはあの金額も法外ではないかもしれない。恋愛のラブラブ状態とは、他人がこういうことを無償でやってくれる快感にはほかならない。現在のような恋愛困難時代に占いがその代替として重宝されるのは、だから、当たり前なのだと言える。
つづく
3章和服の女