二番目の男がインポで、回復はしたものの、「私のセックスは一体?」という思いが出てきたんですよ。
 しかも、その次の男が短小・早漏で、挿入する前に射精していて逆ギレする男でさ、呪われてるんじゃないかと思いましたよ。どうもセックスは上手く行かないなぁ、と思って。

短小。早漏男の場合は、彼がそのことにコンプレックスを持っているわけだから、性の話題がタブーなんですよ。何年にも渡って、まともなセックスができないのに、その話題に触れられないわけ。その話になると逆ギレするしね。一回逆切れされたから、もうイヤで、地雷っぽい扱いで。
本表紙中村うさぎ著

ソリスト、オナニスト中村うさぎ




中村うさぎ中村うさぎ
まずは、自分の性的ファンタジーをとことん探す
ソリスト、オナニスト、テロリスト
一九五八年生まれ。作家。コピーライターを経て作家デビュー。
 ブランド浪費や税金滞納を告白する「ショッピングの女王」の連載で、世間を震撼させる。その後、ホスト、整形などにはまっている。次に何にハマるのかは本人にも分らない。
 主な著書に『愛と資本主義』『犬女』『さびしいまる、くるしいまる』など。

●頭の蓋を開けたい
――さて、今回は性的に不自由でコンプレックスの多いうさぎさんが、皆さんにお話を聞いて、自分の性について考えるという企画だったんですが、うさぎさんのお話を改めてお聞きします。
初体験の頃は性的なコンプレックスはなかったんですか?
うさぎ◆あんまりわかってなかったなぁ。早くもなければ遅くもなくて。早い子は高校の時から体験してたけど、私がいたのはハデなグループだった割には、性的に進んでいたというわけでもなくて。「高校時代に済ませたい」と思っていたんだけど、どういうふうに持っていけばいいのかわかってなかったから。やっぱり恐怖感はあったんじゃないかな。初体験は大学一年なんだけど、今までの人生で一番ブサイクと付き合っていたよ・・・・。
――武田鉄矢似のね(笑)。いつからつきあっていたんですか?
うさぎ◆自動車部というクラブに入ったのが夏明けだから、それ以降だと思う。
――知り合ってすぐにつきあったんですか?
うさぎ◆どうだったんだろう。よく覚えていないなぁ。
――そうなんですか?
うさぎ◆えっ、そうなの? 忘れたくて仕方ないんだね。あの人を好きだった自分を消したイくらいなので(笑)。
 大学に入った最初はサークルに入っていなかったおかげで、夏休みが退屈だったんですよ。関西の大学に行ってたけど、中学高校は横浜だったから、心のしっぽが横浜に残ってて、夏休みだと横浜に帰ってしまうんですよ。横浜では楽しく過ごしているのに、大阪に戻るとすることはないしクラブでも入らないと青春が謳歌できないよと思って、免許が欲しかったから自動車部に入ったんですよ。
――彼は先輩だったんですか?
うさぎ◆彼は二年生だったけど、クラブに入った時期が同じだと同期扱いなんですよ。
――いつHしたかも覚えていないですか?
うさぎ◆えっ・・・・・えーっ?
――夏か冬かくらいはわかるでしょ。前後の文脈があるし、着ていた物はと覚えていない?
うさぎ◆ないなぁ。
――旅行に行ったんですか?
うさぎ◆ううん、ラブホテル。二人ともだったので、互いの家という事はあり得なくて。街道沿いのモーテルで。
――うさぎさんのような人が街道沿いのモーテルでしたのは、意外ですね。
うさぎ◆ラブホテルというところに入って見たかったんですよ。まあ、今にして思えば、もっといろんなラブホテルがあったはずなのに、なんであんなショボいところに入ったんだか、っていう気はしますね。向こうもあまり知らなかったんじゃないかな。
――相手は童貞だった?
うさぎ◆知らない。
――(笑)そういうの、聞かないですか?
うさぎ◆えっ、「童貞ですか?」って聞くの? というか、聞いたら悪いと思って。童貞だと思われたくないっていうメンツがあるかもしれないし。
――うさぎさんは自分が初めてだと言ったんですか?
うさぎ◆うん、「初めてなので、やり方がわからない」って言ったんですよ。向こうは「あー、だいじょうぶだいじょうぶ」って感じだったので、だいじょうぶなのか、そうか、と思って。普通にちゃんとできたと思いますよ。
 その男とは大学を卒業してからも含めて何年か付き合ったわけですよ。私はその人には性的なコンプレックスは持たなかったんだ。初めてなんだから自分がヘタで当然っていう思いがあったし、いろいろ知ってなきゃとか上手にならなきゃとは思わなかった。ところが、その次に付き合った男がインポだったんですよ。しかもインポだと気づくのに時間がかかって。
――どういう意味か、よくわからないんですけど(笑)。
うさぎ◆付き合ってほしいと言われてデートしたわけですが、キス止まりなんですよ。そこから先に進まないの。「奥ゆかしい人だなぁ」と思ってて。様子を見てたんですけど、いつまで経っても発展しなくてね。ある時、なにかのきっかけで急に「ホテルに行こう」と言うので、行ったら、なんか様子がヘンなの。なかなか挿入まで至らなくて、さすがに私も「この男はヘンだぞ」と思ったわけですよ。

そのうちにトイレに行ったりして。しごきに行ったんだと思うんだけど。で、結局できなくて、「ごめんね。できない」と言われたので、その時に私は心の底から「私が悪いのかな」と思ったんですよ。「昔からできないんだ」などと言われていれば。それほどショックでもなかったんだろうけど、そこはわからないから、考え込んだりして。

しばらくして、旅行に行った時に、向こうが朝勃ちを利用したので、うまくいったんですよ。ただ、朝はね、私が低血圧なのでかんべんしてほしかったよね。一回できたら、向こうも心の何かが取れたみたいで、その後は大丈夫だった。
――勃たなかったことについて、語りあったりしなかったんですか?
うさぎ◆それもよく覚えてないんだけど。「ある時から調子悪くなった」というようなことは言っていたけど、何がきっかけだったかということは話していないですね。
 二番目の男がインポで、回復はしたものの、「私のセックスは一体?」という思いが出てきたんですよ。
 しかも、その次の男が短小・早漏で、挿入する前に射精していて逆ギレする男でさ、呪われてるんじゃないかと思いましたよ。どうもセックスは上手く行かないなぁ、と思って。

 短小。早漏男の場合は、彼がそのことにコンプレックスを持っているわけだから、性の話題がタブーなんですよ。何年にも渡って、まともなセックスができないのに、その話題に触れられないわけ。その話になると逆ギレするしね。一回逆切れされたから、もうイヤで、地雷っぽい扱いで。
――女友だちとセックスのことを話す環境もなかったんですか?
うさぎ◆話しましたよ。でも、当時の私の友達は私より奥手だったから。「付き合ったらすぐセックスくらいするでしょ」っていう私みたいなタイプは珍しかった。大学の頃も、友達はすごく奥手で、私の周りはお嬢さんが多くて、「そんなもんアカン」って言うの。「昨日はホテルに行ったんだ」なんて言おうものなら、ビミョーな雰囲気になっちゃって。

「恥ずかしいわぁ」って言われるもんだから、大っぴらに語る相手に恵まれなかったね。みんながイヤな顔をしても、私は積極的に話したけど。だからみんなには、「他の子には言えないけどノリコだったら聞いてくれそうだ」と思われてたみたい。でも、トラブルや悩みでもないと、そういう話はもってこないから。だから、女友達とも、つきあっている男とも、性の話はあまりできない状況ではなかったんですね。

短小・早漏男と続いている時に、私は浮気をしたんですよ。その人とのセックスは、今考えてみれば普通だった。でも後で彼は鬱病になったけど(笑)。

 そしてその次の男が、性的にすごく開放的で、「やろうぜぃ」「今日はよかったよ」みたいなヤツで。私にとっては、長年の鬱屈を解放できた感じですごくよかったんだけど、しばらくつきあううちに、今度は回数の多さがイヤになっちゃって。そのことしか考えないのか、ってくらいで。しかも酔っ払いで、路上で胸を触ってきたりされると、私は「失礼だ!」と思っちゃうんだよね。

イチャイチャするというのを超えていたから、人が見ているところで私を性的おもちゃのように扱うな!って思っちゃって。酔っ払いだから、イヤだと言っても辞めないし。それでセックスをするのがイヤになっちゃって。考えてみると、相手がみんな過剰なんだよねぇ。
――うさぎさんにとって顔もセックスも問題なかった人って、いましたか?

うさぎ◆鬱病の人くらいか。でも、鬱病だし(笑)。いや、私と付き合っている時はまだ鬱病ではなかったんだけど、エキセントリックではあったんだよ。
 それで私は、前の彼と別れて、こないだまで七、八年、セックスしてなかったわけですね。
――その間は、どういう気持ちだったんですか? このままセックスしないで終わっていくんだ、って感じですか?
うさぎ◆うん。必要ないと思ってた。
――欲望もなく?
うさぎ◆純粋に「やりたーい」っていう気持ちは、オナニーでなんとかなるでしょ。
――人肌の温もりが欲しいということは?
うさぎ◆裸で抱き合うようなスキンシップがなくても、仲のいいゲイの友達と遊んでたから、寂しくはなかった。”この世でたった一人、私だけを愛してくれる人”はいないけど、そんなものは別にいいやと思ってた。
――ゲイと遊ぶようになったのは、前の彼とうまくいかなくなった頃からですか?
うさぎ◆そうだね。
――どうしてゲイというところにいったんですかね?
うさぎ◆それはもう、絶対に彼らとの間に恋愛とセックスが介在しないという安心感でしょ。いくらも遊べるから。そうじゃない男友達って、いくら仲がよくて話があっても、朝まで遊んだりすることが二回、三回も続くと、下心っぽいものを出してくるから、こっちも「なんだよ、そういうつもりかよ」って思ってしまうでしょ。裏切られた感じがする。二度と会いたくなくなるし。だから、女友達みたいに屈託なく遊べる男友達が欲しかったのに、なかなかできなかったんだけど、そういう意味ではゲイは、初めから心配なくていいし。あと、男的な論理を押しつけてこないから、すごく楽しかった。で、そのままババアになってもいいやと思ったんだよね。なのに、あなた(深澤)と作家の岩井志麻子さんがスイッチを押したんだよ。
――うさぎさんはよくそうおっしゃいますが(笑)、七、八年もセックスをしていない人を目の前にすると、救助犬のような気持ちになって、頼まれもしないのに助けなくちゃっと思って(笑)。
うさぎ◆ 本人は「もう雪山に埋もれて凍死したい」と思っていたのに(笑)。悪気があったとは思いませんし、むしろ「なんとかしなくちゃいけない」と思ってくれてんでしょうけどね。私にとっては、「セックスは気持ちいいけど楽しくない」というのがあって、気持ちいいというのは単なる物理的な快楽の問題としてわかるんです。だけど、楽しいっていうのは、セックスには屈託があると楽しくないんだよね。

ジェットコースターに乗っている時みたいに、何もかも忘れて頭が真っ白になるような楽しさでしょ。私は買い物の時もジェットコースターに乗っているみたいなんだから、頭真っ白なんですよ。それを楽しいと認識してる。

 楽しいにもいろいろあると思うんだのよね。作家の横森里香さんに「楽しさっていうのは、頭の蓋が開いてシュポーシュポーッと煙が出るような楽しさでなく、体の内側からジンワリとしみ通ってくるような楽しさもあるじゃない?」って言われてたんだけど、私は蒸気が出ないと楽しくないわけ。でも、屈託があるから蒸気が出ないんだよね。それは相手の屈託でもあり、私の屈託でもあって。屈託のある相手と何年もセックスするしかないかで悩んだりすると、頭の蓋も開かないっての。その代わりに、買い物とか他のことでシュッポシュッポしてたんだよね。

セックスって、私にとっては、気持ちいいけどそんなに楽しいものではなく、後で人間関係が面倒くさくなったり気を遣ったりするから、「そんなものはもういいや」と思ったのに、セックスが頭の蓋を開く人たちが「セックスはいいよぉ」って言うもんだからさ。このままセックスしないで終わっていくのはもったいないんじゃないという気がして来ちゃって。一回くらいセックスで頭の蓋が開くような思いをして見たい、と思っちゃったんだよね。

だからといって積極的に彼氏を探すわけでもなくて、機会があればと思ってたら、機会が降ってきたんだよね。なのに「私が悪いの? 誰が悪いの?」っていう状況なんだよなぁ。
――呪われていると思いますよ(笑)。
うさぎ◆そうなんだ、やっぱり。なんでだろう?
――男を見る目がないとは思わないですが、友達段階の時に互いの性的スタンスを確認するようなことしないでしょ? それが大きいようなきがしますよ。
うさぎ◆だって、男の人って、そんなこと正直に言わないじゃない。
――気なしは持って行きようですよ。お酒を飲んでいる時に、昔の彼女の話から、弾みで性的な話も出てくるとか。そうやって間合いを縮めていくわけです、世間の人々は。探りを入れ合って、この人と性的な関係が成立するかな? と判断するんです。

うさぎ◆下ネタはぜんぜんOKなんだけど、個人的な体験に基づくセックスの話を、私は男の人とはしないんだよ。この女はやらせてくれるのかって勘違いされたら迷惑だから。
――いや、それは誰とでもそういう話をするのではなくて、性的関係や恋愛関係に行くのか行かない時に、ですよ。
うさぎ◆だって、恋愛関係にいくなんて、私はたいてい思ってないもん。
――その直前くらいはあるでしょ、維新前夜みたいな。
うさぎ◆維新前夜には、向こうが「付き合ってください」って言うもんだもの。「付き合ってください」って言われて、「あなたは今までどのようなセックスを?」って言うの?
――いやいや、そんな露骨な事じゃなくて(笑)。横に並んで座るような、バーカウンターかなんかで、顔も見ない状況で、探りを入れるんですよ。
うさぎ◆なんでかなぁ。私はあまりそういう事にはあまり‥‥。
――ええ。だから、そういうことがないというのが原因の一つではないか、ということですよ。いわゆる「駆け引き」というものですが。
うさぎ◆駆け引き? あー、私は恋愛で駆け引きをしたことがないな。そうだねぇ。相手の内側を探ろうとしたことがないかもしれない。恋愛観・結婚観についても聞いたことないし。私のおつきあいって、はじめから友達で、一緒に遊んでいるうちに、デートしようと言われたら「私に興味があるんだな」と思って、嫌いじゃなかったら断らないから、デートに応じたということは「俺のこと嫌いじゃないんだな」と向こうも思う、それくらいの探り合いで。あとは、いかに楽しく過ごすかに心を砕いて、何度目かのデートで告白されて付き合ってやがてセックスに至ると。
――付き合う前にセックスはしないですよね?
うさぎ◆うん、なんか手続きを踏むんだよね、私は。だから事前情報みたいなものがなくて、やってみると、いろんな問題を抱えていたりして。七年ぶりにセックスするようになってみて、この相手がまたキング・オブ・屈託みたいな人だったし。
――やっぱり私が悪いのかな」と思うんですか?
うさぎ◆思いますね。今までの人とは違って。はじめから私にコンプレックスがあるわけだから。
――今後、新しく性的な関係を誰かと持ちたいですか?
うさぎ◆また屈託があるとイヤだしな。屈託のない人って、いないの?
――いますよ。いくらでもいます(笑)。
うさぎ◆そうなんだ・・・・。屈託がなければないで、開放的な人だったりして、人間として扱われてない感じがしてイヤなんだよね。さっき言った前の彼氏から人間的に否定されたという感覚も、トラウマになってる。
――屈託のある人をわざわざ選んでいますよね。そういう心の向きの人が好きなんでしょかね?
うさぎ◆そうなのかな。欠損感のある人が好きだと言うのはあるけど、性的なものかどうかは別で。
――でも、欠損感のある人は、その性格と性的なものは繋がってるんでしょうね。十全な人が性的にだけ欠損しているとか、欠損感のあるハンサムな人が性的には十全であるという事はないと思うし。
うさぎ◆そうなんだよね。辿ってみると、鬱屈の多い人か、なさ過ぎる人かで、普通の人がいないんだよね。これでは頭の蓋も開かないよ。
●ソリスト・オナニスト・テロリスト
 
――うさぎさんが、いちばんイヤなのは、「買い物に走ったのは性的欲求不満が原因」という言われ方をすることですよね? 違いますものね。
うさぎ◆うん、イヤだね。男の人はそれを言いたがる。すぐにそういうふうに結びつけようとするんだよ。
 以前「ウォンテッド」という番組に、買い物依存症の典型として出たわけですよ――返す返すも出なければよかったんだが――パネラーがタルカナル・タカの妻と、山田まりや、京唄子、男は丹波哲郎と、後は忘れたけど。丹波哲郎は賢明にも途中から「この人は誰にも迷惑をかけていないから、俺は批判しない。口にチャック」って言って、ほんとうにそれっきりコメントしなくなったんだよ。

だけど、他の誰かが、「あなたは結婚してるんですか?」「結婚してどれくらい?」って言って、私が「一年くらい」と答えたら、「まだ新婚じゃない、じゃあねぇ」って言ってさ。性的欲求不満とか夫とラブラブ感がなくなった不満から買い物をしてるという方向に持って行こうとしたんだよね。人間の固定観念ってすごいよね。結婚して一年だったらラブラブだって、誰が決めたんだよ。結婚一ヶ月で冷えるところだってあるにさ。
――わかりやすい文脈でしか物事が捉えられない人はいますね。でも、自分自身がそういう分かりやすい文脈で生きているかというと、決してそうでもなかったりするのに。人はそれぞれ誰にも言えない悩みを抱えていたりするのに、他人のことだけは書き割りみたいに考えるんですよね。不思議。

うさぎ◆そうだよねぇ。そういう人が私の性的問題を聞いてくれたところで、何が何だか分からないと思うよ。
――ホストクラブもそうですよね。うさぎさんは、ホストクラブが好きなわけではなく、むしろ男が苦手だったりするけれど、「熟女の色狂い」くらいに捉えられているんですよね。
うさぎ◆そう、絶対にそう受けとめられてる。ぜんぜん違うんだけど。男って何んだろうということを知りたかったのかもしれない。ホストクラブで男が分かるわけでもないけど、いろいろ通って見ると、私は男の人と屈託なく話せないだってことは、よくわかったんだ。けっきょくゲイとしか仲良くなれない。
――うさぎさんは、男の人が女として認めてくれるサービスすべてが嫌いですよね。容姿や着ているものを褒められたり、触られたりするのがイヤでしょ。
うさぎ◆「無礼者!」だよね。触るのをサービスだと思っているのが、わからない。しかも、太腿とか触ってくるなんて。「女として見ていただかなくてけっこうです!」っての。作家の松本侑子さんは私のことを「男根恐怖だ」と言ったんですけど、たしかに嫌悪感というか恐怖感みたいなものがあって。

男的な存在に対する私の鬱屈はあって、それを確認したのがホストクラブ通いにはあったと思う。
ひとつひとつ消去法で「やっぱりこれはダメだ」っていう確認をしていったんだよね、男のどういうところがダメなのかって。
――うさぎさんは、ミニスカートを穿いていても、男性に対して露出しているわけではなくて、あくまでもモードとしてのミニスカートなんですよね。男の人に対するサービスではない。
うさぎ◆サービスとは思っていないねぇ。一切ない。あんまり男の人にモテないと、それはそれでひがむんだけど。何を以てモテるというのか分からないけど、言われても迷惑なだけの男に鼻の穴を膨らまされても、嬉しくも何ともないよ。
――それを嬉しいと思う女の人もいるわけですよ、むしろ多いですよ。うさぎさんは、どうモテたいんですか?
うさぎ◆自分が好きだと思う人に好きだと思ってほしい、くらいの。
――それは「モテる」じゃないですよね、相思相愛ですね。
うさぎ◆そうそう。それでいいの。
〜〜〜(ライター色川)「それでいいの」って、奇跡に近いと思いますが?
うさぎ◆ええっ、そうなのー?
〜〜〜だって、好きな人から好かれることって、奇跡でしょう?
うさぎ◆そうなの? だってカップルってみんな相思相愛なんじゃないの? ベストパートナーを見つけて、何年かしか続かないかもしれないけど、ベストパートナーと付き合っているのかと思ったよ。
――違うと思いますよ。本人の物語はそうだと思い込んでいるけど、ある種の妥協感とか幻想がありますからね。たとえばサークルで、一番にモテる男と女がいて、その人同士がつきあうわけですよ。そうすると、他のみんなもその人達を好きだったんだけど、手を打つ感じで、二番手同士、三番手同士がつきあっていくんですよ。本人たちは「これは愛よ」って言うけれど、本当は一番手が好きだったくせに、っていうのがあるわけですよ。
うさぎ◆ああ、そういうのはありそうだね。
 私は、相手の子を私が好きと思わないとダメだし、相手に好きになってもらわないとダメだし、そういう理想があるでしょ。私が好きになって、それで好きになってもらうという王道を歩んでいるんですよ。
恋愛モードには滅多にならないので、そのかわりなった時は外さないんですよ。私としては、好きになった人が好きになってくれたらハッピーエンドなんですよ。

でも、恋愛の第二章がそこから続くわけですよね。そうすると、「あれ?」になるんですよ。愛する人に愛されるというラブファンタジーがあって、そのファンタジーは満足されたのに、セックスファンタジーが満足されないという所で引っかかるわけですよ。でもラブファンタジーに重きを置いているので、そこが満足ならいいじゃないかと自分に言い聞かせて、セックスには触れないまま過ごすわけですが、別れた後に残る怒りや憎悪はセックス問題が多いよね。
――次の章ははじめにセックスファンタジー在りき、でやってみたらどうでしょうか?

うさぎ◆うーん、できないんだよねぇ。ゲイの子が、名前も素性も知らないし顔も覚えていないような相手と、ハッテン場で一夜限りのセックスしまくるんでしょ。この話はこの前もしたけどあれが不思議で、ゲイの子に聞いたんですよ。彼氏がいて、上手く言っててラブファンタジーは満たされてるし、セックスも上手くいってるのに、ハッテン場でのセックスが必要だ、って言うんですよね。

どうしてかと訊いたら、「あれはオナニーなんだよ」って言ったわけ。パートナーとのセックスが上手くいっているからってオナニーしなくなるわけではない、オナニーを一人でするのは寂しいから、意気投合できる人としたい、その相手にはむしろ人格は要らない、人間的な属性とか人生の経歴みたいなものはしりたくない、知ってしまったらオナニーではなくなって人間関係になっていく、人間関係が付随するセックスはパートナーとしているから要らない、つまりあれはオナニーなんだ、と。すごく納得しちゃって。

オナニーだったら何でも思い通りにできる、って言うんだよね。パートナーには人格を認めているから、共通のファンタジーを探したりしないといけないけど、ハッテン場はそれが必要ない、と。私は、マスターベーション的なセックスを、よその行きずりの男と性欲だけでできるかと言うと、それだったら家でオナニーしてたほうがいいと思うんだよね。
――そこまでじゃなくてもいいんじゃないかと思うんですよ。私が思うには、テニスくらいの感じでいいんじゃないかと。

うさぎ◆テニス?
――ダブルスを組む相手、とか。もちろん相手の名前は知ってて、ある程度は気が合って、ごはんを一緒に食べてイヤじゃない、そしてテニスのレベルが自分とあまり違わないくらいの人で・・・・。あまり上手くてもあまりヘタでも困りますから。「今日は一人なんですよ」「じゃ、一緒にやりましょうか」くらいのこと。そのくらいの人間関係があっていいと思うんですよ。
うさぎ◆ああ、私はダメなり。セックスをスポーツにたとえることってあるよね。スポーツでのパートナーシップくらいの気持ちで考えて楽しむ、っていう。私はスポーツの楽しみが分からないんですよ。スポーツを楽しいと思ったことが一度もないの。
――まあ私もスポーツの楽しさはわからなんですが(笑)。うさぎさんはけっこうスポーツしてますよね。
うさぎ◆ダイビングやスキーもしましたが、基本的に一人でやろうとすればできるでしょ。テニスだって、したことがありますよ。でも、一人でするスポーツはいいんですが、相手がいないとできないスポーツは嫌いなんです。
――だったら、一緒にジェットコースターに乗る、くらいはどうですか?
うさぎ◆ジェットコースターに乗っている時は、人のことなんて考えてないですよ。
――嫌いな人が隣に座ったらイヤじゃないですか?
うさぎ◆ぜんぜん。五人グループで遊園地に行くと、ジェットコースターで一人あぶれちゃうでしょ。で、知らない人と座ることになるけど、いざ発車してしまえば、ぜんぜん気にならない。とにかく、私は相手のいるスポーツは嫌いなんですよ。・・・・おや、これはセックスと関係あるのね?
――ありますね。

●うさぎ、これからの課題 

――さて、今回は四人の方にあわれたわけですが、まず森さんは何が印象に残っていますか?
うさぎ◆そりゃー猿ですよ! あの人はねえ、ほんとに面白かった。森さんの猿の話には打ちのめされましたよ。
 あと、「セックスの話はしないけどオナニーの話はする、セックスの話は相手があることだけど、オナニーはじぶんのことだから」っていうのは、素晴らしかった。美しいよね。
 とにかく私は下らないことを考えるのが好きなので、さまざまな下らないことを考えてきたけれど、あそこまで下らないことを考えている人がいるとはね(笑)。
――せっかくうさぎさんの素晴らしいオナニーファンタジーを披露したのに、まさか負けるとは思わなかったですよね。
うさぎ◆驚いたね、恐れ入れました。オナニーの教祖として、感銘を受けましたよ。
――そして次が南さんでした。
うさぎ◆南さんは、やっぱり言葉攻めですね。それは、ビデオを拝見したのが大きかったんですが。あと、ソープ嬢の時はイマイチ人気がなくて、職業的なコンプレックスを持ってるとこで、性感マッサージにであって、みるみる頭角を現していった、という話はおもしろかったですね。

性的ファンタジーって、相手と共有できてこそいいセックスができると思うけど、なかなか共有できるものではなくて、自分がどういう性的ファンタジーを抱いているかを突き詰めて明確に持っている人って、少ないんだよね。私は独自のファンタジーを持っているから、セックスでは相手とは共有できないのかなあと思っていたりして、たぶん南さんも自分の性的ファンタジーを初めから明確に持っていたわけでもないだろうけど、自分の性的ファンタジーを活かせる仕事に就いた途端の、あの水を得た魚のような話は、すごく興味深かった。

何かプレゼンテーションできるくらい明確な性的ファンタジーを持っている方が、セックスはうまくいくんだろうね。でも、女の人は性的ファンタジーを明確に持とうとする人は、あまり多くはないんじゃないないかな。漠然としている人が多いので、それがうまくいかないんだろうね。

それは相手のせいでなくて、自分が性的ファンタジーを明確にしないからで。我が身として考えると、私の願望は誰と共有するんだということだね。オナニーファンタジーでさえ、自分は参加していないんだから。しかも、そのオナニーファンタジーで男に顔がないというのが、男をダッチワイフ視してるって感じだもんね。ペニスバンドでもいいんじゃないか、って。
――そもそもペニスバンドがどういうものかは、ご存知だったんですか?

うさぎ◆あることは知っていたけど、構造とかはよく知らなかった。昔「くりいむれもん」っていうロリータアニメがあって、友達がレンタルビデオで借りてきて一緒に見たんだよ。そこにペニスバンが出てくるんだけど、その時は「くりいむれもん」の滑稽さと相まって、ビミョーだなぁと思ったんだよね。でも、そのわりには、強烈にインプットされてたから、興味はあったんだよね。

 風吹さんが「ペニスバンをしてフェラチオさせると気持ちいい」って言った時に、よくわからなかったんですよ。バーチャルな快感が、いまいちピンとこなくて。でもこないだSMバーに行ったんだけど、その時に、Sの女の子がペニバンして、客のMの子にフェラチオさせてたんだよね。そしたら、Sの子が急にこっちを見て、「視覚的にすごく気持ちいいわ」って言ったの。その時に、すごく分かったんだよね。上から見下ろしたらすごく気持ちいいだろうなって、心の底から思ったんですよ。
――なるほど。それで、風吹さんはいかがでしたか?

うさぎ◆いちばん驚いたのは、三日やらないと吹き出物が出るという話でしたね。ぜんぜん関係ない文脈で萌えちゃったのは、拝見したAVで、ブスな女の子が綺麗なニューハーフとする時にイマイチやる気がなかったことを私が怒ってたら、「彼女は女として引いちゃったんだ」って話があったでしょ、あの話にいちばん萌えちゃったんですよ。もっとあの話をしたかったくらい。本題と関係ないから我慢したけど(笑)。

いろんな話をしたけど、とにかく風吹さんのチャレンジ精神はスゴいよねぇ。武者修行みたいだった。私はどうも、武者修行としてセックスは捉えられないみたい。
――そうですね、そこには対極的な感じがしましたね。そして最後に、清水さん。

うさぎ◆清水さんは、何といっても「全身オマンコ」ですよ! もう、かぶりものをしか頭に浮かばなくて。
――あの話は、今でも分からないですか?
うさぎ◆実感としてわからない。身体的にわからないから、頭で分かろうとすると、かぶりものが出て来ちゃう(笑)。セックスも、表現が過激なところにいってしまうと、カリカチュアになっちゃうでしょ。

私は清水さんはオナニストだと思ってたんですよ。それは職業としてなんだけど、やっぱりオナニーショーで名をはせた人だから、オナニストなんだと思い込んでいたんだよね。そしたら「全身オマンコ」だからさ〜、ビックリしましたよ。
――ストリップはいかがでしたか?

うさぎ◆私の関心はただひとつ。マンコですよ。「きれいにしているなぁ」と思ってみていました。そういえば、SMバーに行った時も、素人の子でパイパンの子がいて、やっぱり綺麗にしてるんだなと思ったんだよな。

 そうだー、SMバーに行った時、浣腸ショーもあって、私は子供の頃からお腹が弱いんだけど、それを見ている間にお腹がゴロゴロしちゃって大変だった。今にもウンコが出そうなのにご主人様が「いい」と言うまで我慢しないといけないってうショーを見てたら。もうピーゴロになっちゃって大変だった。
――うさぎさんはウンコをちゃんと出すために家に帰ったんですよね。
うさぎ◆ほんとに。ショーが終わった途端にトイレが混んで。もう落ち着いてできないもんだから、家に帰って心置きなくしようと思ったら、タイミングを外して満足にできなかったんだよ。しかし、パイパンの子は綺麗だな。あんなところに毛が生えていないほうがいいんだよ。
――では、どうぞパイパンにしてください(笑)。さて今後、性的にはどうですか? ソリストとかオナニストとか、身体的な共有を他人と持てないということが判明しましたわけですが。
うさぎ◆はあ〜、絶望的じゃん。
――だったら初志貫徹で、好みのハンサムな男と恋愛を共有して、セックスが当たればラッキーだけど、当たらなかったら元々だと思っていくとか。
うさぎ◆えーっ! じゃあ、私は一生セックスでは頭の蓋が開かないのね。イヤだよ、開けたいんだよ。だからこそ、料理もあれこれ頼んでしまうんですよ。味見をしないと満足できないわけ。他の人はバカバカ蓋が開いているのに、私一人が開いていないと思うと悔しくて仕方ないんだよ。

 今後、私の課題としては、私の性的ファンタジーを、根本的なものを突き詰めていくべきだと思うんですよ。さっきも言ったように、それが明確じゃないと自分が何を求めているのかがわからないから。

 ゲイの子と話していて思うのは、彼らは初めは自分のことをノンケだと思ってるんだよね。AVを見て性的に興奮するんだけど、そのうちに自分が女優に感情移入しているのかを明確にしないといけないと思うんだ。たぶん、女じゃないんだよね。これは最近、だいぶ明確になってきたんだよね。
 かといって、レズビアンでもないんだよね。女の人に恋愛感情を持てないんだもん。
――だから、セックスと恋愛を切り分けるのか、レズビアン感のある男を探すか、女に恋愛感情を持つか。
うさぎ◆三つに一つたせよね。どうしてもセックスと恋愛を切り分けられないなら、二つに一つか。取り敢えず、ペニバンを手に入れるところから始めようかな。

私、Hがヘタなんです!  中村うさぎ
2003年2月20日初版発行 

恋愛サーキュレーション図書室