うさぎ◆男の人の肉体に対する生理的な嫌悪感が、いまだに拭えなくて。満員電車で知らない男の人にべったりくっつくんだったら、周りが女性ばっかりの方がいいじゃないですか。
あんな❤私は満員電車は気にならないな。臭いとかがあったらイヤだけど。私は、距離があるのに近寄ってこられるのがダメなんです。
うさぎ◆疑心暗鬼になってしまうというか、とにかく触らないでくれっていうのがあって。痴漢されて、何がイヤって、生理的な嫌悪感以上に、屈辱感なんですよ。見ず知らずの男にそんなことをされた、という。女の人だったら、そこまで屈辱感って感じらないかもしれない。やられてみないと分からないけど。
あんな❤痴漢にあったり性的な虐待をうけると、トラウマになるでしょ。私もなったほうなんだけど、子供の頃、痴漢されるためにわざわざ表に出ていたりする人とかいるんですよ。わざわざミニスカートを穿いて、痴漢のおじさんを待っている子とか、電車で痴漢に会うと、その人の手を引っ張ってホテルにいっちゃうとか、当たり前にいるんです。そういう人にとってはトラウマにならないんです。女として認められて嬉しい、っていう感覚なんです。そういう人たちはいっぱいいるんです。
うさぎ◆かなりの数、いるんですか?
あんな❤うん。まあまあいます。そんなに多くはないけど、思った以上に多いです。
うさぎ◆いま、心の底から驚いていますよ。
あんな❤実際に自分はされるとイヤだけど、妄想ネタとしては私もありますよ。その妄想も、自分が出て来るんじゃなくて、誰か女の子が痴漢されてて感じちゃって、できやしないけどチンチンに突っ込まれたりしちゃって、電車が揺れるたびに動くみたいな妄想で、「おおっ」って感じ。
私は本物の痴漢の人たちと、ビデオの仕事で会ったことがあるんですよ。まあ、犯罪者なんですけどね。痴漢軍団を自分のところに抱えている監督がいて、そこにうちの女の子を入れ込まないといけなかったんですね。心配だったから見に行ったら、刃(やいば)はこっちに来るんですよ。
AVに出て脱げるような女の子に、彼らは興味がないんですよ。脱がないほうに興味があるわけ。その子のビデオなのに、私がバンバン映っちゃって。その次にも、「脱がなくていいから出てください」っていわれたんですが、まんまんとはめられたんですよ。その作品のつくりが風吹あんな主演みたいになっているんですよ。これでギャラ十万円じゃ安いだろ、って言って怒りましたよ。
そしてね、痴漢たちが言う論理を聞いてると、胸クソ悪いんですよ。社会でストレスを溜めているから、そのストレスをぶつけているんだ、ってことなんです。だから、そういう社会構造を認知しなければいけないって、自分を棚に上げて言うんです。それはね、痴漢をしている人が痴漢している人の生態を観察して言うならわかるけど、やっているおまえらが言うな、って言うんですよ。
うさぎ◆ほんとですね!
あんな♠しかも、痴漢されたほうのことなんて、ぜんぜん考えてないわけでしょ。あいつらの論理なんて、その程度。社会に抑圧された精神が、他に向かう人もいるだろうが、自分をたちはそこに出る、って言うわけ。やっている本人が言う台詞じゃないって。
うさぎ◆反省の色なんてないのか。
あんな♠ないないない。監督は擁護して撮っているみたいだけど、そういうバカがいるってことを世の中に出してお金にしているだけだという構造に気づかないといけない。ほんとあいつらは、服を着ている者を触ってくるから。裸のおねえちゃんには興味ないから。しかも、おかしいのは、セックスできないんですよ。
うさぎ◆そうなんですか。
あんな♠「この子でセックスしていいですよ」って言っても、できないの。勃たないから。監督が、その子に服を着せてつり革を持つように立たせたら。ビンビンなの。しかも、なかに覗き屋がいて、そいつは横から覗きながらビンビンなの。
うさぎ◆その状態からパンツを脱がせたら、挿入はできるんですか?
あんな♠素股のなんとかってヤツがいて、そいつは実際に痴漢やっている時に素股で出しちゃうんだって。でも中に出さないの。しかも、そいつが私の胸をさわりやがったので、頭に来て、そいつをひっくり返してチンコを出したら、小さいの。たぶんコンプレックスがあるんだろうな。と思って。
――たしかに巨根の痴漢って、あんまりいなさそうですね(笑)。
あんな♠あの小ささでは、後ろからは入らない。それに、立ってては無理。だいたい、痴漢に長身の人はいないんですよ。女の尻には手は届かないです。
うさぎ◆私はOL時代にすごく混んだ電車で通勤してたんですが、毎回同じ人に痴漢されたんですよ。「いつかは言ってやる」と思っていたんだけど、なかなか言えなくて。ある時、本当に怒ってしまって、電車の中で「やめてください、いつもいつもて」って怒鳴ったんですが、怒鳴った自分が恥ずかしいという気持ちになって、みんなが見るじゃない? そんなのがあって、でもその人は相変わらず見かけて、怒鳴っても触って来るんです。
ある日、私は具合が悪くて会社を遅刻したんです。いつもの電車より三十分くらい遅れたんですが、改札口に行こうとしたら、その男が改札口の横に立ってて、通る女の子をずっと目で追ってるのを発見したんですよ。いつも偶然同じ電車の中で会うのかと思ってたけど、改札で張ってて意図的に私と同じ電車に乗っていたんだと、そのとき初めて気づいたんです。
あんな♠毎回同じ人が痴漢するということは、そういうことですよ。意図的に決まってる。
うさぎ◆そうなんですか。で、すごく気持ちが悪かったんですよ。何がしたいのかと思って。
あんな♠好みだったんですよ。見た目もそうだし、もしかしたら恋愛をしていたのかもしれない。
うさぎ◆ええーっ―
あんな♠いやいや、向こうが一方的に。ストーカーって、相手が「やめてください」と怒ったのすら、「今まで恥ずかしくて口をきいてくれなかったけど。やっと喋ってくれたね」になっちゃうでしょ。歪んだ愛の形ですよね。だから、やられたら、真っ先に怒鳴らないと。
私も子供の頃、身内に性的虐待をされてきて。子供だから怖くて言えなかったのもあるし、言ってしまったら家庭が壊れるというのもあって、ずっと我慢して黙ってたんですよ。何年も蓄積して、最後は挿入までされちゃったんですよ。そこで、我慢してた自分がバカだったと思って、そこから気が強くなったんです。そういうことがあったら、すぐにノーと言える私になろう、と思って。いつ起きるかわからないから。昨日までは触られるだけで終わっていたけど、翌日は刺されているということもあるんですよ。だから、一回目ですぐに対処。電車で痴漢にあったこともありますが、その場で対処しました。
うさぎ◆ビックリしちゃうというのもあるけど、相手が開き直ったら怖いというのもあって。
あんな♠居直るも何も、電車で周りに人がいるし、相手は逃げていくだけですよ。
うさぎ◆怒鳴られている女の人を見たことがあって。「ふざけるな!ブス! 自意識過剰なんだよ」と。私は絶対にその男が痴漢したと思うんだけど、他の人の中には、混んでいるからたまたま手が触れてしまっただけなのにギャーギャー言いやがって、って思う人もいるのかな。
あんな♠でも、男の人は満員電車に乗った時に、痴漢と間違えられないように、なるべく手を引っ込めてるんですよ。だから、触ったのは痴漢なんですよ。たいていの男は痴漢と間違えられないようにしていますもん。あるいは、最初から怒鳴られないなら、「すいませんが、もう少し離れてもらえませんか」って言うとか。
私は高校の時、周りに誰もいないのに寄って来た痴漢がいましたよ。隣も全部空いているのに、私の前に立つんですよ。作業員風のオヤジで、私は眠ってたんですが、膝に膝が当たるですよ。それがどんどん膝を割って入って来るんです。確実だと思って、怒ってガバッと立ち上がったら、その人は私より背が低かったんですよ。バーッと走って逃げましたよ。
うさぎ◆私は露出狂に見込まれることが多くて(笑)。いちばん惨めだったのは、ある日、電車で座席に座っていたら、向かいの人がソワソワしているんですよ。私を見ては目を反らしたりするので、自分がヘンなところがあるかと思ったりしたんですが、視線に耐えられなくて下を向いたんですよ。
そしたら、右のほうで何か動いているですよ。隣の人がしごいているんですよ、私の顔を見ながら、ビックリして視線を上げたら、その人と目が合っちゃって。向かいの人がソワソワしてた理由が、やっとわかって。私は三駅くらい、ずっと気づかなかったですよ。
あんな♠周りの人も言ってくれ、ってんだよね。
うさぎ◆なんか言いづらかったんでしょうね。で、その隣の人は、顔つきなんて、気の良さそうなオヤジなんです。
あんな♠でも、その人は、周りで見ている人も対象で、みんなが気づいていることを楽しんでますよ。
うさぎ◆そうなの、やっと気づいてくれたんだねっていう笑顔すら浮かべてて。私もすべてが納得できて、その時は不快感というよりも、私がヘンでジロジロ見られていたわけじゃなくて良かった、くらいで。「気が付かなくてすまん、じゃあ失礼しまーす」って感じで、別の車両に移りましたよ。あれが、今までの痴漢体験でいちばんお笑いな、不快感のないものでしたね。
あんな♠私は電車の痴漢にはそんなにあっていないんですけど、中学か高校の時に、電車に座ってて、私はすごく目が悪いんですが、コンタクトも何もしてなくて。そしたら、目の前の黒いものがあって、男の人の手がそこで動いてるんですよ。目が悪いものだから、よく見えなくて、ずーっと目を近づけて見てしまったんですよ。やっとわかったら、男はニヤっと笑って降りたんですけど。あのとき、自分の行動にショックでしたね。立って逃げるとか、やめてくださいと怒るとか、そっちだろうに、覗き込んで見たっていうのはなんだよ、と思って。
――風吹さんはバイセクシュアルで、SMではMですよね。
うさぎ◆えっ、そうなんですか?
あんな♠Sっぽく見えると言われるんですが、レズビアンでも、男役になっているだけでSではないんですよ。プレイだったら、私はMじゃないとダメなんです。
うさぎ◆SMの時は、相手は男でも女でもいいんですか?
あんな♠その人をご主人様か女王様と認められれば、そうじゃないと怖いし、痛い思いをするので、情がないと無理ですから。よくマゾと奴隷を一緒にする人がいますが、ぜんぜん別なんですよ。
うさぎ◆えっ、どう違うんですか?
あんな♠マゾというのは、SMのMのプレイを好んでやって、誰にされても喜べる人。奴隷というのは、専属なんです。一国の主に対しての奴隷なので、飼われているから、あちこち行かないんです。ただ貸し借りっていうのは、よくあるので、自分の御主人様なり女王様なりが命令したら、行くんですよ。
うさぎ◆その命令は、どんなイヤでも服従しないといけないんですか?
あんな♠「しないといけない」ではなくて、「したい気持ちでいっぱい」なんです。
うさぎ◆そうなんだ。で、風吹さんは奴隷なんですね。奴隷の気持ちっていうのも、よくわからないんですが、好きなんですか?
あんな♠好き、惚れているとか愛とかでも置き換えられますが、それを通り越しているところもあって。「この人だったら殺されてもかまわない」くらいの気持ちで、「でも、この人にはそれだけの技量があるから殺す手前で止めてくれるだろう」という安心感もあるんです。プレイが甘いと、奴隷はつまらないからってよそへ行ってしまうんですよ。失神するくらいで死ぬ手前でやめられるくらいの技量を持っていないとダメで、そういう部分で納得できて、最後に「いい子いい子」をされると嬉しい、という人じゃないと。
うさぎ◆やはり終わった後は、「よく頑張ったね」というのがあるんですね?
あんな♠すごく大事です。それがないと、奴隷はついて行かないです。叩かれることもご褒美だけど、苦しいことが終わった後に、ひと言でもいいし、頭を撫でて貰うのでもいいし、なかにはセックスという人もいるかもしれないけど、何かご褒美がないと。
うさぎ◆セックスには結びつかない場合も多いんですか?
あんな♠本当にSMをやってる人は、セックスは別です。男女の組み合わせで、ご主人様とメス奴隷の場合はセックスは介在します。それは、男側から拷問のひとつになるから。でも、女王様とオス奴隷の場合は、絶対にセックスはないです。そこにセックスがあると、主従関係が成り立たないから。人間として扱ってないので、セックスはないんです。男の場合は、女を犯すという形で成り立つわけです。
うさぎ◆女王様がペニスバンドでM男のアナルを犯すというのはアリなんですね?
あんな♠あります。でも、自分の中に挿入させるというのはないです。
うさぎ◆やはり主従関係が壊れちゃうんですか?
あんな♠本物の奴隷だったら、まず望まないでしょう。自分の女王様が自分に挿入されて喘ぐ姿なんて、見たくもないから。「美にかしずく」ってあるでしょ。そういうものが、特に女王様の場合は大事なんですよ。「この方のおみ足に踏まれたい。他の女ではダメ」っていうのがあるんです。だから、セックスする女王様はダメなんです。フェラチオもだめ。自分に奉仕する女王様はみたくないんです。
うさぎ◆なるほど。面白いな。
あんな♠私の場合は、御主人様がいるんですが、私が一方的に奉仕するのはいいんですが、御主人様から奉仕されたら幻滅しちゃう。
うさぎ◆どんなことをするんですか?
あんな♠気に入らないと鞭で打たれることもブン殴られることもありますね、それで御主人様は勃起するんですよ。人に貸すほうの話でいくと、飲みに行って、御主人様はママさんの知り合いで、そのママさんは有名な女王様で。呑み屋は普通の飲み屋なんですよ。そこで裸にさせられて、他のお客さんもいるんだけど、裸になって、その女王様の聖水を飲まされたり、他のお客さんのところに四つ這いで行って挨拶をさせられたり。
うさぎ◆そのご挨拶に来た風吹さんを見て、誰かが手を出したりしてきませんか?
あんな♠いや、手は出してこないです。御主人様がいるし、ママさんも相手もいるし。で、皆さんのネクタイを借りて手足を縛られたり。それを返しに行くのも、犬なので手ではなくて口でくわえて返しに行ったり。知らない人の前でそんなことをさせられて、辛いんですよ。でも、御主人様が喜ぶなら、って。
うさぎ◆気持ちいいんですか?
あんな♠脳内麻痺がドバーッと出てて、全部終わった時に真っ白になって立てなかったんですよ。それは快感というものではなくて。もう頭がグラグラしてワケわからなくなって、「よくやった」と言われた時の安堵感がバーッと出る時の感じ、それで涙がゴーッと出る感じがね。つくづく「この人が喜んでくれることが、こんなに嬉しいんだ」と思うんですよ。
うさぎ◆洗脳ですね。軽く自我を崩壊させておいて。
あんな♠うん。その繰り返しです。プレイとして過激なことは山のようにさせられますが、そばにいる価値があるからいるのだってことは、わからせるようにしてくれるんですよ。顔がパンパンに腫れたこともありましたが、私がどれだけ受け入れられるか、という事だったんです。そんな顔になったら、日常の対人関係で困るでしょ。それでも受け入られる。私が求めているのを相手もわかっている。辛いんだけどお互いがOKを出しているんです。イヤになったらいつでも去れ、絶対に追わない、というスタンスです。
うさぎ◆試されているような感じとしては、私は前の夫に似ている感じがする。
あんな♠そうですか? Sをやる人って、愛していると言われても鵜呑みにできない人たちが多いんです。これでもかこれでもかで痛めつけて、それでもついてくる人に愛情を感じる、慎重派が多くて、Mの人は、叩かれてもいいから構ってほしいという、ちょっと卑屈なところが。無視されるより叩かれたほうがいい、という。
うさぎ◆なるほどね。無視されるよりは叩かれても構ってほしいという女の人が、けっこうホストクラブの客に多いみたいなんですよ。
あんな♠叩かれてもいいから?
うさぎ◆殴り営業っていうのがあるんですよ。私は絶対させませんが、ある種の客に対しては、ホストが殴るんですよ。金を払って男に殴られるなんて、私は怒ってしまうけど、その人たちは愛を感じてしまうんですよ。
あんな♠男もそれを計算しているんですよね。私には愚弟がいるんですが、それとつきあう女が全員そのタイプ。弟は殴るんだけど、それについて行くんですよ。愛があるって勘違いしちゃうの。
うさぎ◆勘違いしちゃうんですよね。私は前の夫との関係で、それが愛じゃないと気づいたので、いまはそんなことはないですが。今の私の「私はダメだ」感覚は、そのころに植えこまれたものであることが大きいんですよ。
小学校くらいからコンプレックスはあるんだけど、それでも自分は大丈夫だというところもあったんですよ。でも、前の夫に、自分で長所だと思っている所を一つずつ潰されていったんです。イケてると思っていたところを全部否定されまして。彼はその何にもなくなった地面に神殿建てるような男なんですよ。おれが教えてやる、みたいな。
あんな♠そのタイプの人、いますね。
うさぎ◆私はそれを愛だと思っていた時期があって。
あんな♠単にコントロールしたかっただけでしょ。
うさぎ◆そうそう、今はわかるんです。洗脳って、そうでしょ。ある時、相手から許される瞬間があるんですよ。ことごとく潰しておいて、「でも、おまえは大事だよ」みたいな。
あんな♠それが大事なんですよ、きっと。いじめっ子って、スケープゴートが一人いないと、精神が保たれないんですよね。その状態だったと思うんですよ。
うさぎ◆一対一のね。
あんな♠そう。私はそういうタイプの人に当たったことはないんですが、ただ、最初に結婚した相手を含めて、私のルックスが好きで付き合ってくれた人っていなくて、
ルックスは好みじゃないんだけど内面が好きだとかセックス好きだとかで、そんな人ばかりつきあっていたんです。で、ルックスに関しては無視されてきたので、二十代の初めまで、髪型を変えてもダンナが褒めてくれない、自分の嫁さんには温かい家庭を作ってくれればいいという人だったので、女として自信がなくなっていきますよね。
見た目についても「つきあった女の中で一番ひどい」って十代の頃につきあった男に言われたりしていたので、男性に対して慎重になってしまうのかなと思って。
うさぎ◆私は、セックスが好きだと言われたことも、内面が好きと言われたこともないし。ルックスが好きだと言われても、自分では欠点だと思っていることを好きと言われることもあるじゃないですか。
あんな♠では、女の子たちが自分の長所だと思って磨いているところ、短所だと思って削っているところが、世の中や好きな人から見ると逆だったりするんですよ。だから、普通に生活する分には、自分の価値観で生きていつてもいいんだけど、AV女優など人に見せる職業の人たちは、その子の価値観を一回壊さないとダメなんですよ。
うさぎ◆へええーっ。
あんな♠最初から否定するんです。だって、AV女優として売れたいために来るんだったら、自分でいいと思っているところはダメだし、気にしないとこを磨かないとダメだ、って一から教えるんです。普通の生活では自分は可愛くて綺麗だと思っている子は多いですけど、こっちの業界に来たら並以下ですから、
「ビデオに出て一回に貰えるお金は五万ですから」って言うと、本人は自我が壊れます。AV界に来ることって、けっこう怖いことで、すごく綺麗な子はいいけど、フツーに綺麗な子で私生活でもとはやされて調子に乗ってAV業界に来ると、自分に価値がないことに気づくんですよ。
うさぎ◆すごい世界!
あんな♠すっごく大変ですよ。綺麗で可愛くてスタイルがいいことは基準ですから、それ以下になることを補おうとするから、欠点ばかり言われるんですよ。「この子、脚が短いから、長く撮るにはどうする?」とか目の前で言われたり。「顔型が左右違うから、こう撮ろう」「胸が垂れ気味だから、腕で持ち上げるか」とか、当たり前に言われるから。
うさぎ◆自分では胸が垂れてるなんて思っていなかったのに。
あんな♠そう、大きいと思っていたが、垂れていると言われたりするわけ。
うさぎ◆どうなんだろう、一度そんなふうにもまれたほうがいいのかな。
あんな♠根底から覆されますよ。それは夫婦関係とか個人的な関係では必要ないけど、他人様の前に出すものには必要なので、AV界に来て頭がおかしくなる子は山のようにいるんですよ。単体で売れてる子でも、他に比較対照される生活が続くから、売れなくなったらどうなってどうなるのかもあるし、ちょっとでもデリカシーを持っている子は悩むんですよ。そうすると、ブランド買いに走る、次にホストにはまり、悪い薬物。
うさぎ◆あっそー。薬物にはいってないぞ、私(笑)。しかし、私のはまってきた道は、かなりAV女優寄りだな。それは、前の夫に人格崩壊させられたせいもあるのか。
あんな♠それもあるし、だから初めに言った、業界に処女が来るのと理由が類似していると言ったのは、そういうことです。
うさぎ◆AVマインドなのか。
あんな♠マインドというより、そういう人が急増しているということです。
うさぎ◆風吹さんがAV業界に入ったきっかけは何だったんですか?
あんな♠スカウトされたんですが、OKしたのは家庭の事情で。うちは母子家庭で、十二歳と十三歳離れた妹たちがいて、私にも息子がいて、家を建ててローンができたばかりの時に、母親が倒れて仕事ができなくなってしまって、突然すべての面倒を見ることになったんですよ。
当時はホステスをやっていたんですが、ホステスって衣裳とか何かとお金がかかるし、休んだり倒れたりしたらアウトだから、どうしようかと本気で悩んでたんです。そういう状況になって三日後に、偶然スカウトされたんですよ。
誰かの愛人になるという話もあったんですが、私は愛人に向かないですね。金を貰っておいて威張るから、それに、お金を貰うと相手に独占欲が出ることが分かっていたので、そういう関係は避けてたんですよ。風俗も、私には不特定多数の相手は無理だなっているところに、AVの話が来たんです。プロの男優に相手してもらう上に、お金が貰えて、体ひとつで済む。だから飛び込んだのです。
うさぎ◆入ってみて、この業界はご自分に合っていると思いました?
あんな♠合っている。いやすい。それまでは、いる世界すべてに違和感を感じていたんですよ。学生、主婦、OL、水商売。自分の性に関する感覚を誰にも言えなかったんです。ほんのかけらを言っただけでも、みんなが引くので・「変わっている」「ヘンだ」と言われ続けていて。「変わってる」のをネタにしてホステスをやったりもしたんですが、AV界では誰も不思議がらない。
奇人変人の集まりですから。それでも、単体女優(AVの主役級の女優)やってた頃は、「面接で性癖を言うな」と言われてました。それでSMのAVに行ったら、受け入れてもらえたんです。SMの世界でも変わり者に入れられましたが。
うさぎ◆なんでてすか?
あんな♠けっこうハードなことがOKだったので。そういう人があまりいないので。
うさぎ◆それほどハードなMはいなかったんだ。
あんな♠私としては自然なことだったんですが、変わり者の部類に入れられてて。それじゃ、OLやったり普通の結婚して合う訳がないや、ってやっと思ったんですよ。それまで自分はフツーの人だと思っていたから。
うさぎ◆なんでそういうふうに思ったんですか?
あんな♠いや、ほんとうに思ったんですよ。ダンナと離婚したのも、性欲のバランスが悪くて、性の不一致で離婚したんですが、仲人に「こんな甲斐性がない人と一生添い遂げる自信がありません!」って泣きながら怒ったんですよ。それ、自分の性欲が基準だったんです。
うさぎ◆ワハハハ、そりゃ無理だ。三日やらないと吹き出物が出るほうが変わってるんですよね。そうは思わなかったんですか?
あんな♠当時はわからなかったです。その時は、吹き出物が出る理由がわかってなくて。’男女が一緒に住んでいたら毎日やるのが当たり前だと思っていたんです。それで、「私に飽きたのね」「私がブスだからなのか」ってノイローゼになってしまって。ダンナはいい人で、「そういうわけじゃない」って懸命に言ってくれてた。
しかも私は妊娠してて、「お腹がこんなになったからなの」ってワーワー言ってたんですが、相手は私の性欲が怖いだけだったんですよね。で、私は自分を基準にして、相手が淡白すぎるという言い方までしてしまったんです。いま考えたら、ごめんなさいという感じです。
後から、いろんな男性と付き合って、あれ?ヘンなのは私なのかと思い至り。自分に子宮が二個あることも、離婚してから気づいたんです。
うさぎ◆だって妊娠してた時に気づかなかったんですか?
あんな♠それが問題なんですよ。左側の子宮で妊娠したんですが、「私には穴が二個あるみたいなんですが」って医者に言ったら、「そんなもの、ないない」って言われて、ないのかと思っていて。帝王切開で産んだので、しばらく子どもは出来たらいけないということで、子宮に避妊リングを入れたんですよ。それは右側の子宮に入ったんです。でもリングが入っているもんだと思って、私はナマでセックスしてたんですね。そしたら妊娠して、おかしいなと思いながら病院に行ったら、「妊娠しています。しかも子宮が二個ありますよ」と言われて。
うさぎ◆そこで初めてわかったんですね。
あんな♠しかも、「片方にはリングが入っていますが、もう片方には入っていません」とも言われて。だから子宮が二個あると言ったじゃんって前の医者に訴えを起こして、賠償金を貰いました。
うさぎ◆その医者はどうして気づかなかったんですか?
あんな♠信じなかったんですよ。
うさぎ◆あり得ないと思ってた?
あんな♠その医者はね。もうおじいちゃんだったし。あり得ないわけではなくて、双頚重複子宮という学術名もあるんですが、すごく珍しくて、しかも二個とも機能してて穴も二個あるというのは、何百万人とか何千二万人に一人という割合なので。それで、膣も子宮も二個あることがわかって、驚くというよりは、自分の性欲の濃さはこれが原因か、と納得して。
うさぎ◆関係あるのかなぁ。
あんな♠自分はスッと受け入れちゃった。それで、別れたダンナさんに本当に申し訳ないと思って、あんなひどいことを言ったけど、すべて私が悪かった、と思って。
うさぎ◆卵巣は四つあるんですか?
あんな♠卵巣は一つずつしかついていないので、排卵が隔月で、妊娠しづらいだろうとは言われてます。でも、ずっとそれまでナマで中だししていたことに、ゾッとして。それでビクッとする怖さを覚えてから、妊娠するビクッがないセックスじゃないとダメになったんですよ。
うさぎ◆普通は逆じゃないですか? 恐怖になるでしょ。
あんな♠その時は、その男性の子どもは不可抗力的にできてしまったので、どちらも悪くない状態だったので、堕ろすことになったんです。今度は産める状態でその人の子どもなら欲しいと思えるような人と、ゾクッとするような興奮が欲しいから、それだけで気合が入っている男でないとやらない、というようになってしまったんですよ。
しかも、何人も付き合っているから、全員が全員、誰の子が生まれても楽しく育てようという性格じゃないとダメで、そういう性格の人を探すものだから、ほんとうにピンポイントを突くような話なんです。
うさぎ◆そうかぁ。私は面食いなんですが、その好みがピンポイントらしいですよ。
あんな♠容姿の好みが狭い上に、その人と会話して良くないとダメ? それではセックスは難しいですよ。無理。
うさぎ◆たまたまタイプの人とセックスしても、向こうがあまりセックスが得意ではなかったりとか。寂しい思いをしまして。
あんな♠得意じゃない?
うさぎ◆好きじゃないというか、抵抗があるというか。
あんな♠それはセックス以前ですよね。そうなると、容姿をとるか、セックスを取るか、ですねえ。でも、容姿って大事ですよね。だって、それを見ていて幸せってことだから。
うさぎ◆そうそうそう。この絵が飾ってあったら幸せ、っていうのと同じですよね。
あんな♠そう。どんなに心が良くてセックスが合う人でも、見た目でハマらなかったら無理ですよ。
――風吹さんはいろいろなお仕事をされてきて、AV監督がいちばん向いていると仰いますが、監督が向いていて喜びだというのは、どういうところですか?
あんな♠私は昔、漫画家になりたくて、アシスタントをやってもいたりしてたんですが、家の事情もあって先送りになってしまって。それが作家になりたかったんですよ。だからAV監督になりたかったわけではないんですが。ある意味それに類似しているところがあるのと、自分の性癖などを考えると、フツーの世界にいるよりAV界にいるほうが受け入れてもらえる。
そしてAV女優だとあまり自由なことはできないけど、監督になってしまえば何をやっても許してもらえるという利点がある。何やっても他人がおかしいと思わない。OLがおなじようなことをやっていたら非難されますが、AV監督が街頭ナンパしてても誰も文句言わないですよ。あと、常にセックスのことは考えられる。
毎日プライベートでセックスしてオナニーもしてるけど、さらに仕事もすべてセックスで、私にとってバランスがとれているんです。だから、この仕事を辞めてしまったら、私はバランスが保てない。常にセックスのことを考えて、文章にしたり映像にしたり、とにかく性のことに係わっていることは楽。だから長く続いているんだと思うんです。
――物作りが好きな面とセックスが好きな面が、AV監督というところでうまくいっているんですね。
あんな♠そうです。あと、人間観察がとても好き。いろんな人や奇人・変人をいっぱい見るのがすきなんです。私自身が「変わっている」という烙印を一度押されてから、「ヘンな人はもっとこんなにいるじゃない」という安心感があるんです。
うさぎ◆ビデオを作る時に、どんな人に見て欲しいというのはありますか?
あんな♠万人に見て欲しいですね。ただ、やはり男性向けというか、ビデオショップに並ぶのは男性が見るから、男性ユーザーをいちばん意識していますが、誰でもいいから見て欲しいです。
――かなり実験作ですよね。先ほども、AV女性監督が少ないからだという話がありましたが、それ以外に、あえてこういうものを作ろうという意識はあるんですか?
あんな♠ありますね。本当は、監督に性別は関係ないんですよ。男だったら男の気持ちが分かるというなら、男はみんな巨匠になってしまうでしょ。そうじゃないということは、性別は関係ないんですよ。でも、男が男のおかずを作る世界だから、女が提供しているということにすごく違和感があるんです。
女がいる事自体、おかしいんです。そこを認識して女ならではのものを作るということより、バイセクシュアルだし、レズビアンの視点でレズビアンを撮るということは男にはあり得ないから、そういうのを武器にしたり。普通の男女のからみなんて、撮るのがうまい人はいっぱいいるから、他の人のできないことをやるしかない。普通のものも撮るんですが、意識的にやるのはSMとレズ。他の人のできないことですね。
うさぎ◆SMとレズか。
あんな♠SMは、生き死に関係していますから、現場でケカ゜がないように、知識がないとできないですから。その人を見極めるのも現場でやらないといけないから、失神する寸前で止めないといけなくて、それも監督の仕事なんですよ。
うさぎ◆そうなんですか。
あんな♠吊るしてると、どんどん呼吸困難になるじゃないですか。手前で止めてしまうと絵として面白くないし、かといって、そこで失神したり死んだりしたりすると困るし、やってる側は監督の指示がないと止められないし、的確な判断ができるかは監督にかかっているんです。
うさぎ◆他の監督で、ケガをしたりすることって、あるんですか?
あんな♠Mの人って頑張りすぎてしまうので、途中で陶酔して気持ちよくなって分からなくなっちゃうんですよ。私も大腿部の感覚がなくなったことがありましたし、神経が潰れるというのはしょっちゅう。脱臼、骨折もありますし、過呼吸くらいは軽いもので、ひどいと肺を潰してしまったり。あとはボテッと落としちゃってケガをしたり。
うさぎ◆大腿部の感覚がなくなるっていうのは?
あんな♠縛ってたからですね。縛って吊るされて体重をかけられますから。痛いんですが、途中から脳内麻薬が出て痛みがわからなくなってしまうんですよ。本人は「大丈夫」って言っているのを、どこまで大丈夫なのかということを、周りが見極めないといけないんです。
うさぎ◆なるほど。痛いのはダメだなぁ私。プチ整形で顔に注射打たれる時も「あと何回ですか?」って言っていましたよ。
あんな♠そうそう、それを聞きたかったんですよー。ボツリヌス菌って、股にいる菌なんですけど。
うさぎ◆えっ、股にいるんですか?
あんな♠そう、股にいないと他の病気にかかっちゃうんですよ。他の菌をやっつけてくれるらしい強い菌なんです。股にいる分にはOKだけど、それを顔に打ったと読んだから、ビックリして。
うさぎ◆つまりは顔の筋肉が動かなくなるんです。神経毒みたいなもので。筋肉が動かなくなるから、シワが出来なくなると。
あんな♠それって、百カ所くらい打つんです。
うさぎ◆そう、ちょこちょこ刺していくんです。最初に顔のここに打つとここがどうなる、って絵を描いて、一時間くらいテープで麻酔して。ボツリヌス菌とヒアルロン酸を入れると、顔がみるみるキュッとなっていくんですよ。それを、手鏡で見ながら注射されるんです。
あんな♠そういう努力って、必要ですよね。女はそれをなくしたら終わりでしょう。
うさぎ◆そうなんだ~。
あんな♠たとえば待ち合わせに間に合わないからって、ボロボロのスッピンで行くよりは、五分、十分遅れてもビシッとしていく女のほうが、女として正しいと思うんですよ。
うさぎ◆ははーん。しかし、私は遅刻が嫌いでねぇ。
あんな♠でも、ちゃんとしてから遅刻しないんでしょ?
うさぎ◆ちゃんとしていない時もあります(笑)。
あんな♠でも、デートの時はちゃんとしてるでしょ。うさぎさんと正反対だなと思ったのは、私は時間にルーズなんですよ。待ち合わせに間に合うためには、駐車場に車を入れる時間を考えて、もう少し早く出ればいいのに、それができない自分がいるんですよ。でも、お金にはうるさくて、前借をしたことは一度もないんですよ。
うさぎ◆家、きれいですか?
あんな♠きれいです。すごくピッチリ掃除するというわけではないですが、年に一度の大掃除が嫌いなので、それをしないで済むように毎日掃除をしているんです。
うさぎ◆私は年に一度の大掃除もしなければ毎日の掃除もしなくて、荒れ放題なんです。よくドラマなんかである、食い残しがあったりして臭そうな独身男性の部屋、あるでしょ。あれを見て「どこが汚いの?」というくらい、うちは汚いんですよ。
あんな♠私はお金は、借りられなくて。借りると返さないといけないというプレッシャーが、もうダメなんです。
うさぎ◆私はどうも働いて返せばいい、と思っている部分があるんですよ。
あんな♠私はそこが弱ちっくて。夏休みの宿題もダメだったんですよ。あると遊べないので、最初の一週間で済ませてしまうんです。
うさぎ◆うちの母親と一緒だ。でも、私は反対。とにかく、やらない。絵日記もつけない。「明日から学校だよ」という日に、「ひぇーっ」ってなってるタイプ。
あんな♠忘れられないんですよ。忘れて遊んだりできないの。お金も、借りたら返さなければいけないとプレッシャーがあるんです。
うさぎ◆私も忘れているわけではないんですよ、毎日毎日思っているんです。イヤなことをどうしても先送りしたいんです。
あんな♠イヤなことを先にやって、後は何も考えずに遊ぶ。あと、お金をどうしても借りないといけない場合があったら、私は「くれ」って言うんです。
うさぎ◆へえー。
あんな♠「貸そうか?」って言われると、「プレッシャーになるからください」って言うの。
――うさぎさんは、そう言ういわれのないことが大嫌いなんですよ。へんな仁義があって。
あんな♠そこが、私はホステス根性があるんですけど、「私といることで夢を貰っているだろう」って思うんです。そのかわり、お金を貰う人とはセックスしないんです。セックスしちゃうと違う関係が生まれてややこしくなっちゃうから。
うさぎ◆くれる人がいるんですね?
あんな♠はい。それは、「貸そうか?」と言われて、「貸されるとプレッシャーになるのでください」ってお願いしたら、「あげる」って。
うさぎ◆くれる人がいるのがいいよね。
あんな♠ある時、五百万円をくれた人がいたんですが、肉体関係を求められそうな感じがあったので、その金は一年間で返しました。
――はぐらかしてお金を貰うということはしない、ってことですね。
あんな♠それはないです。十万円でも五十万円でも、私といることの価値として出してくれるなら貰うということです。外でホステスをやっているような感じかな。他に付き合ってくれる人がいるとか状況をすべて話して「それでもいいですか?」って、それで納得の上で出してくれるなら貰うだけです。
自分から言いだしたりしないし。だから、借金はできないけど、人からもぎ取ることはあります。どっちがいいとも言えないけど。
うさぎ◆言えないですね。
あんな♠相手にとってはホストやホステスと飲むことに払うお金と同じですよ。騙しているわけでもないですし。