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第二章「いろいろな人と会って話せば若返ります」

本表紙 瀬戸内寂聴・瀬尾まなほ
96歳になったいまも執筆活動を続けている寂聴さん。その元気の秘訣は、旺盛な食欲や好奇心、そしてユニークなストレス解消法にあるようです。

〆笑って生きたい

 元気の秘訣その1、「毎日お肉をちょっとずつ食べる」
まなほ 先生、覚えていますか? この本のテーマの1つが健康に長生きする秘訣なんですよ。
寂聴 よく聞かれるけど、私に健康の秘訣なんてないのにね(笑)。食べて寝て、食べて寝てを繰り返するだけ(笑)。
まなほ そう、食べて寝て、食っちゃ寝。その姿を見て私が詠んだ俳句が、《疑わず、何でも食べる 老婆かな》
 本当に先生は、何でも食べますよね。
寂聴 あはは、俳句なのに季語がないじゃない。
まなほ 先生の食欲は一年中衰えないから、季語は必要ないんです。
 何でも食べるとはいっても、先生が毎日お肉をいただくというのは、いまや伝説化していますから、どこのテレビ局も先生がお肉を食べているシーンを撮影したがりますからね。先生と私がすき焼きやステーキを食べている場面を撮影しました。
 そして、すき焼きのときは必ず先生に𠮟られるんです。
 「もっとお肉を出しなさい、ケチ!」って(笑)。
寂聴 お肉を毎日食べると頭がよくなります。原稿もよく書けると、小説家の里見弴(さとみとん)先生(*、83年、94歳没)に教えていただいたのを、出家してからずっと守っているのよ。
まなほ はい。いつもそう伺っていますけど、毎日すき焼きというわけにもいきませんから、たとえば薄切り肉2枚ぐらいを焼いたり、50グラムくらいの小さなステーキを焼いたり、豚の生姜焼きにしたりと、毎日お肉料理を食べて頂けるようにしています。
 テレビで見るとすごい量を食べているように思われますが、そんなことはなく、毎日少しずつです。
寂聴 努力してくれているのね。このごろ、あなたのすき焼き上手よ。
まなほ そんなことおっしゃるなんて珍しいですね! 大抵は「辛い!」とか「甘すぎる」とか言われるのに。
寂聴 まなほはタイ料理のグリーカレートとかカオマンガイとか、若者フードが好きなのね。私、そんなアヤしいものを食べたことがないでしょう(笑)。でも、あなたに言わせると「私が来てから寂庵の食卓が革命的に変わった」って。
まなほ 先生はいつも「青春は恋と革命だ!」と仰っているんじゃないですか。
 若者フードを食べる事は「舌の革命」なんですよ。ね、先生(笑)。
寂聴 あら、気が利いたことを(笑)。
まなほ 舌で若い人の生活を知って、先生はますます若返っていくように見えるんです。これまで先生の朝食は基本的に和食でした。ごはんに味噌汁、納豆、卵焼き、のりなど少しずつズラーッと並んで、まるで老舗旅館の朝ご飯みたいでしたよね。
寂聴 昔ながらの朝食は体にいいからね。何十年も続いていた寂庵の伝統的な朝ご飯を、あなたが壊したのよ。
まなほ 壊したんじゃない! 革命です(笑)。「グランマーブル」(*京都発祥のデニッシュパン専門店)のデニッシュパンを出してみたら、先生、「おいしい!」って、頬張っていたんじゃないですか。
寂聴 でもあなたが焼いたトーストをひっくり返してみると裏側がかならず焦げている、トースターに入れすぎて(笑)。でも、まなほはそれしか作れないから仕方ないね。簡単なものが得意なのよ。
まなほ カオマンガイは結構手がかかるんですよ。外で食べておいしいと思ったのでネットでレシピを調べて、先生の為に作ったのに・・・・。
寂聴 私においしいものを食べさせようというんでなくてね、まなほが私で試してみるんでしょう?(笑) 私がおいしいと言ったら、自分が食べる。私は試食係なのかしらね。
まなほ そんな、人聞きの悪いこと言わないでください(笑)。 私は自分が食べておいしいと思ったものは、やっぱり先生に食べてもらいたいんです。世の中には先生の知らない食べ物がいっぱいあるわけじゃないですか。それが先生にとっておいしいかおいしくないかわからないけれども、こんなものがあるんだというのを、ちょっと挑戦してみてほしいなと思って。
 でも先生に言われて料理学校にちゃんと通っていますから、天ぷらを揚げたこともありますし、ビーフカレーやチキン南蛮も作ったことがありますよ。
寂聴 ふーん、そうだっけ。

「料理がまずい時には黙っている」

まなほ えつ、先生覚えてないんですか? チキン南蛮は鶏肉を揚げて、そこにタルタルソースをかけた宮崎県発祥の料理です。甘酢のタレに漬けるんです。
 結構バリエーションは考えていて、小麦粉から炒って、一味工夫したカレーを作ったこともありますよね。
寂聴 私に食べさせてあげたいと思っているのがわかるからね、あなたが作ったものは、もう、何が出ても全部食べますよ。そして、おいしいなと思ったら、「おいしいかった」って言いますよ。
まなほ 五回に一回くらいしか言ってくれないじゃないですか。
寂聴 毎回おいしくはならないからね(笑)。
 苦心しているのがわかるから「まずい」と言わないでしょう。黙っているだけじゃない。
まなほ 黙っている時はおいしくないかわからないけれども?
寂聴 うん、ダメ(笑) でも、まずいとは言わないようにしているのね。
まなほ いや、陰で言っていますよね? 「昨日のまなほが作ったごはん、まずかった」とか(笑)。
 先生は、味が薄いものじゃなくてキムチ鍋とか、濃い味付けのものがお好きでしょう。私は先生の健康を考えて薄味にしているのに、「味が薄い、下手ね」って𠮟られる。
寂聴 あはは、まなほはとは”エビ紛争”もやっているわね。まなほはエビが好きだから、エビ料理が出たらまなほは回してあげるでしょう。
まなほ 最近はめったにくれませんよ。
 この前も天丼を食べたときに、2匹エビがあったので、「先生、1匹ください」って言ったんですけど、先生はまず1匹を先にご自分で食べたんですよ。それで私が「1匹残っているのをください」って言っても、イカしかくれなくて‥‥。
 本当は先生もエビが好きだったんですね。
寂聴 エビは好きよ。嫌いなんて言ったことないじゃない。
まなほ でも「好き」って聞いたことありませんでした。
寂聴 あれはね、まなほが「好き、好き」ってすごく言うから、たいていあなたにあげていたの。
まなほ もしそうだとすると、やっぱり先生、私に優しいのかなあ。
寂聴 そうよ。天丼とかは作るのが面倒くさいときがあるじゃないですか。
 私から「出前を取ろう」と言うと、あなたたち、大喜びするわね。お台所から解放されるものだから、みんなパッと笑顔になる(笑)。

「私の食事は朝と晩、2回です」

寂聴 そういえば、今日の朝ご飯は誰が作ったの?
まなほ 今日の担当は私でした。先生、今日のメニューは覚えていますか?
 先生のお好きなキャラメル味の厚切りデニッシュのトースト、ヨーグルトのハチミツがけ。昨日の残りのスッポンスープに卵を落としたスープ。そして野菜ジュースとコーヒー。フルーツはみかんとマンゴーでした。
寂聴 まあ、よく覚えているわねえ(笑)。そんなに食べきれないですよ。いつも。
まなほ 先生は朝ご飯に関しては「何品目で」とか、あまり細かいご注文はないですよね。ですから余計に一生懸命献立を考えて作っているんですよ。
 だけど今日は全部召し上がったのでうれしかったんです。先生は、いつも何か自分がすごく小食みたいに話しますけれど(笑)。
寂聴 たまには全部食べることもありますよ。
まなほ そうですね、お魚を丸ごと残したり、そのときの気分で食欲もコロコロ変わるんですね。
寂聴 あははは。私は気分屋だから。私の食事は1日2回。10時ごろ食べる朝ご飯の次はもう晩ご飯なの。これが中国流よ。結婚してすぐ北京に行ったから‥‥。
まなほ いいえ。先生、おやつもいっぱい食べていますよ!
寂聴 あなたはいつでもお菓子を食べていて、それこそお菓子をご飯代わりにしているけど、私はそれほどじゃない。
まなほ いえいえ、寂庵には大きくて頭がツルツルのネズミがいるんです(笑)。昨日は、先生の夕食のデザートとしてサクランボを出したんですけど、なぜか今朝、冷蔵庫を開けたら、残りのサクランボが全部なくなっていました。
 どこ行っちゃったんだろうなと思っていたら、お掃除に入った先生のお部屋に大量の種が落ちていて‥‥。
寂聴 新しい小説の構想をねったり、大切な考え事をしていてね、知らないうちに食べたのかな(チョロッと舌を出す)
まなほ でも机の下に『女性自身』と『週刊文春』が落ちていました。ただ週刊誌を読みながら食べていただけなんじゃないかと想像します(笑)。

「おいしい料理が出て来ると、これが”最後の晩餐”だと思う」
まなほ 寂庵に来てから先生に教えていただいたお料理の中で、私がいちばんビックリしたのは何だと思います?
寂聴 すき焼きでしょう。
まなほ すき焼きには、先生独特の”締め”にも感動しましたけど、何と言っても「酔っ払い鍋」です。しゃぶしゃぶ鍋の中に先生が日本酒を惜しげもなくドボドボ入れるものですから驚きました。
寂聴 あれ、おいしいでしょう。
 お鍋に日本酒を満たして、薄切りの豚肉をしゃぶしゃぶして食べる。水は一滴も入れずに日本酒だけ。安いお酒でもいいんですよ。
まなほ ハマグリとかも入れて、ポン酢とゴマダレでいただくとすごく美味しい。
 寒い時は体が温まりますね。
 あと、先生が作って下さる、すき焼きの最後の締めのおじやも感動ものです。私の実家ではすき焼きの最後の締はしたことなかったんです。だいたい、すき焼きを全部食べることが出来なかったので、翌日に牛丼風にして食べていたんですけど、私はここに来て初めて、締めのおじやを、先生に作っていただいて食べたんです。
 ほとんど汁だけ残ったものに、ごはんと、とき卵を入れるのだけど、汁とご飯のバランスが難しくて、いつも先生にお願いしていますよね。
寂聴 私は東京女子大学を出てすぐに結婚して、戦前の中国の北京で主婦していましたから、料理はうまいのよ。中国の本格的な麵が打てるし、ギョーザも皮から作れるの。
 昔の編集者たちは、私が作った料理を食べているから知っているけど、まなほは食べたことがないから、私のこと「料理は何も作れない」と、思っているのでしょう。
まなほ 知りませんでした。でも麵を打つと腰が痛くなりますから、美味しいお料理はもう私たちに任せておいてください。
寂聴 美味しいものは滅多に出てこないけどね。たまに美味しいのが出て来ると「ああ、これが最後の晩餐だ」と思う(笑)。
まなほ でも、本当にそうなるかもしれませんし、お医者様からの「あれ食べたらダメ、これ食べたらダメ」という指示を守るばかりでなく、もうこのお年になったんですから、好きものを食べて呑んだりしていただきたいな、と思っています。
寂聴 優しいこと!(笑)。

元気の秘訣その2「いつも”新しいこと”に挑戦する

まなほ 先生も私も食べることが好きですから、どうしても食べ物の話で盛り上がってしまいますね。
 健康の秘訣に話を戻しますけど、私は先生の好奇心旺盛なところも、若々しさと関係があるように思います。テレビ番組の撮影のときに、スタッフさんがハンドスピナー(*回すことでストレスも解消できるというアメリカ生まれの玩具)を持って来て下さったこともありました。
 先生は最初、興味なさそうでしたのに、そのうちハマってきて、ずっと回している姿が番組で流れましたよね。
寂聴 ハンドスピナーは、もうやってないの。
まなほ いまハマっているのはインスタグラムですよね。今日も写真を投稿しましたけど、「今日は何人が見てくれた? 今日は何人?」って聞いてくるし、「この写真は載せる?」「これも載せない?」とか、私に提案してくるなんて、先生にはかなり御熱心に思えます。
寂聴 せっかく始めたのだし、どのくらいの人が見てくれているのか、やっぱり人数は気になりますよ。
まなほ 写真や動画を投稿するたびにフォロワー数が増えたり、反響が目に見えるのが面白いんでしょう。反響があるのか分からないという状況が一番嫌いなんですよね。
寂聴 そうなの、今は一日10万人くらいが見てくだっているの?
まなほ はい。梅沢富美男さんのテレビ番組『梅沢富美男のズバッと聞きます!』(フジテレビ系)に出た時に、先生のインスタを紹介して頂いたでしょう。それで1日に5千人も6千人も、
急にフォロワーが増えましたね。
 その後、梅沢さんと俳句の話題になって、先生の初めての句集『ひとり』も紹介してくれたじゃないですか。そうしたらそうしたらアマゾン通販の書籍部門ランキングで、一位になったりしたんですよ。
寂聴 テレビの影響力はすごいね、売れないから出版社には頼めないと思って最初は自費出版にしたのに、それが何度も増刷になっている。
まなほ 梅沢さんも俳句に、本当に上手ですものね。
寂聴 そうなの。あの番組は梅沢さんと俳句の話が出来たから、余計に楽しかった。
 梅沢さんの奥様は、アロママッサージをする人なんですけど、きれいで賢い方です。番組放映のあとで、寂庵の法話を聞きに来てくださっていました。
まなほ インスタグラムで先生の本の宣伝も出来ますし、何かメッセージを皆さんに伝えたいときにも便利ですよね。
寂聴 若い人たちが何人くらい見てくれているかがわかる。それが、とてもいいね。もういまの若い人はね、新聞を読まない。週刊誌だって、ほとんど読まない。ですから、多くの人に伝えたいと思ったらテレビのほうが早い。
まなほ テレビよりも、さらにネットのニュースとかインスタグラムのほうが、情報を早く伝えることができます。
寂聴 今後もますますそうなっていくのでしようね。小さなスマホでも見えるから、インスタグラムは続けていきたいね。
まなほ はい、やります! でもインスタグラムにハマったとたんにハンドスピナーへの興味は、スーッと消えましたね(笑)。
寂聴 何か手のひらでグルグル回っているだけだから、ハンドスピナーはもう飽きた。私は飽きっぽいのよ。
まなほ 流行りものには目がないけど飽きっぽいですよね(笑)。いろいろなことに興味を持って、若い人の間で流行っていることはガンガン挑戦したいっていう先生、私は好きです。
寂聴 あははは。新しくて面白いものを持って来てくれたら、私は何でも嬉しがるから、それでみんなも「また何か探して持って行ってやろうかかな」と思うのよ。
まなほ そうですね、テレビの取材でも、担当の方が最新の流行り物を持ってきて、「先生、これやってみませんか」と言うと、先生はすぐ飛びつくんですよ。
寂聴 私は大体乗せられやすいのよ(笑)。私の機嫌をとって、面白い番組を作ろうという仕事熱心な人たちなのね。
まなほ そういうプラス思考、先生っぽいです!

元気の秘訣その3「いろいろな人と会って、おしゃべりする」

まなほ 先生の長編小説『いのち』(講談社)が12万部も売れて、先生ご自身がびっくりしていましたね。
寂聴 もう、何が売れるかわからないね。純文学作品ですから出版社もあれほど売れるとは予想もしていなかったみたいで。
まなほ 河野多恵子さん(*、15年没)と大庭みな子さん(*、07年没)との交流がテーマでしたが、私はお2人のことを何も知らなかったのですけど、すごく面白かったんです。
 でも、先生自身は『いのち』に対しての評価がけっして高くはないので、私は戸惑いを感じていました。
 河野さんと大庭さんから、小説に出て来るような言葉を引き出したのは、先生だからできたと思うんです。きっとほかの方ではお2人とも、そんなに面白い反応をしなかったんじゃないかと‥‥。
 要するに、先生のキャラクターが皆さんの本音を引き出したわけで、お2人のことを全く知らない私でも楽しむことができました。
寂聴 河野さんなんか、何十年にもなるお付き合いでしたからね。
まなほ 河野さんは谷崎潤一郎に傾倒していて、SMなどを題材にした作品も多い方だったんですね。私生活のほうはどうだったんですか?
寂聴 河野さんは恋人の男性に頼まれて、相手を手でぶったり、縄で縛ったりしていらしいの。縄でぶつときも、ただの縄ではなくて洗濯ばさみがついたものを使うから、よけいに痛いのよ。
まなほ 痛そう!
寂聴 もし相手がそれで大ケガをして裁判沙汰になったときは、「相手の男性、つまり多恵子さんの恋人からの要望でそういう行為に及んだ」ということを、私に裁判所に来て証明してほしい、と本気で頼んできたのよ。
まなほ よく、そこまで…‥。
寂聴 私は河野さんの話をいつも真剣に聞いてかたから(笑)。
まなほ 河野さんや大庭さんももちろんですけど、いろいろひとに会って、相手の人の言うことを真剣に聞いて、お話しする。それも先生の元気の源の1つですよね。部屋に籠っているんじゃなくて、出かけて行ってたくさんの方と会って喋るという‥‥。
寂聴 生きるという事は、いろんな人に出会うことなのよ。人に会えばお喋りするでしょう?
まなほ はい、私たちが持って生まれてきたコミニケション本能ですね。
寂聴 そうそう。双子でそろって100歳を超えた成田きんさんと蟹江ぎんさんのことを覚えている? お2人のお子さんたちが週刊誌にコメントしていましたけど、きんさんぎんさんの長寿の秘密は、喋ることだったそうよ。人間は喋ろうとすると、頭脳が活発に働くでしょう。
まなほ 確かにそうかもしれないですね。
寂聴 それから口も動くでしょう。ですから、いろいろな人と会って喋ることが、いちばんの元気の源なのよ。
まなほ 先生だって、法話の会の日にいくら疲れになっていても、周囲に「今日は30分ぐらいで切り上げてください」って引き留められても、1時間半くらいは、ずっと喋り続けますもんね。
寂聴 そう、喋り続ける(笑)。おとなしく黙っている人って、陰気な人も多いでしょう?
まなほ 人に会うと言っても、おとなしい人に会うよりは、活発な人と会って、いっぱい喋った方がいいのですね。
寂聴 極端に言えば、喋る相手は誰でもいいのよ。他人の亭主だっていい(笑)。相手が話を聞いてくれなくてもいいのよ。それでも、喋って、喋って、喋りまくる!
まなほ 相手が聞いていまいが、とにかく喋る図々しさが大事だということですね(爆笑)。
寂聴 ははは。喋るとストレスも発散するから健康になる。逆に無口な人は病気になる。
まなほ そういえば、私たち2人もずっと喋っていますからね。新幹線で東京に行くときでも、どちらかが寝るとやっと静かになる。
寂聴 私は耳が遠いから、だんだんと声が大きくなって、もう新幹線の中でも大きな声になるの。
 あなたにも「もうちょっと小さい声で話なさい」と言っても、あなたは「どうしてですか?」って聞き返すだけで‥‥。
まなほ だって、何を言っても先生は「うん・うん」って言っているから、本当に話が聞こえているのか、分からないこともあるんですよ。
寂聴 ははは。そうやって2人で大きな声で喋るんだから、話は乗客みんなに聞こえるのよ。
まなほ 先生、今度から手話でお喋りしましょう。2人で手話を習いましょうよ。
 何か変な悪口とか言っていて、それを《瀬戸内寂聴さんと秘書が○○さんの悪口を言っていました》みたいなことをツイッターに書かれていたら困ります。
寂聴 そうよ。褒めるのはいいけど、大体が悪口だから(笑)。
まなほ 盛り上がるのは、悪口!
寂聴 盛り上がって、ますます大声になる。
まなほ ですから、やっぱり手話ですよ、先生!
寂聴 それにしても、まなほは早口で大声でよく喋るのね。ペラペラ、ペラペラ、テレビに出だして、さらによく喋るようになった。
まなほ もしかして、お喋りなところだけ、先生に似て来ちゃったのかしら(笑)。

元気の秘密その4「人の幸せのために尽くす」

まなほ 人の幸せのめに尽くすことが、尽くした人の活力になる、生き甲斐になると、先生はいつもお話になっていますけど、それって仏教の「忘己利他(もうこりた)」のことですね。
寂聴 そう、自分のことはおいておき、人の幸せのために尽くすということはね。天台宗の開祖・最澄(さいちょう)さんのお言葉で、それが天台宗の根本の教えなの。人間って自分のことだけしか考えないものでしょう。でも、自分さえよければいいという生き方は、やっぱり間違っているのよ。
まなほ 私もそうですけど、人間って給料をいっぱい貰いたいとか、いい服を着て、美味しいものを食べて、健康で、幸せにいたいって願うものじゃないですか。その自分の欲求を脇に置いてといて、人の幸せのために尽くすというのは、なかなかできないと思うんです。
寂聴 そのとおりよ。私たち凡人、つまりおバカさんにはなかなかできません。だからこそ最澄(さいちょう)さんは「心がけなさい」と教えていらっしゃるのです。ですから、毎日じゃなくてたまにでもいいから、自分のできる範囲で人のために尽くす。それでいいのです。
まなほ よかった。それなら私でもできるかも(笑)。
 でも私から見ると先生はいつも、その「忘己利他(もうこりた)」を実践していると思います。寂庵での法話の会についても、もう96歳なのだから無理せずにお寺の門を閉めて、ご自分のペースで小説だけ書けばいいって言ってくださる方も大勢いますよね。
 先生が「そうだよね」って言っていながらも、なお続けている理由というのは、やっぱり人の為、生きている内には僧侶としての義務を果たさなければいけない、という気持ちもあるのだろうと思っています。
 皆さんの前で法話をしたり、質疑応答で皆さんのお悩みを聞くのは体力も要るじゃないですか。それでも辞めないというところに、「必要としてくれている人の為に尽くしたい」という強い気持ちを感じています。
 岩手県の天台寺(*現在は名誉住職を務めている)へも、体力的にはもう絶対に無理なのに、先生は「待っている人がいるから行ってあげなきゃね」っておっしゃっています。
 96歳の高齢なので、無理しないでほしいのですが・・・・。
寂聴 でもね、自分のためだけ生きるのはつまらない。人の為に尽くすことが、結局は生きる励みになったり、活力になったりするのです。

元気の秘訣その5「健康で長生きのためには、毎日笑う!」

寂聴 健康法と呼ばれるものはいろいろありますが、私が法話で皆さんに勧めているのは、笑うこと、それがいちばん簡単で効果があると思っています。笑う、そして、喋る! それにつきます。
まなほ そして、食べる、寝る(笑)。
寂聴 うん、食べる、さらに飲む! といきたいけど、お酒を飲めない、下戸(げこ)の人もいますからね。それにお酒は、飲み過ぎて体を悪くするじゃないの。
まなほ お酒はほどほどですね。
寂聴 でも、なかなか程よくできない(笑)。最後はもうぐっすり眠ること、笑って、喋って、食べて、ぐっすり眠る。そうしたら、だいたい健康に生きる事ができますよ。
まなほ でもね、人に会うときは法衣(ほうえ)を着ているから、いくら太っても意外にわからないの。法衣は便利なのよ。
 まなほは寂庵に来た時から、何か私を笑わしてやろうとあれこれ考えて、一生懸命努力していたわね。
まなほ 努力というほど意識はしていませんけど、こうしたら笑ってくださるのかなっていうポイントが、一緒にいるとわかってくるじゃないですか。
 でも最近は、別に何も面白いことをしなくても、先生は私の顔を見ただけで笑いだしちゃうんですよね。顔を見たら笑うって、とっても失礼なことだと思うんですけど(笑)。
寂聴 「ああ、何かやろうとしているな」「面白いことを仕掛けて来るな」というのが気配でわかるから、いつも油断できない。笑わせようとしているかどうかわからないけど、顔を寄せてきて威嚇するんじゃないの。
まなほ 威嚇なんてしていません(笑)。でも、まあ1時間はなしていると、ほとんど何か笑ってくださるし、何で笑っているかって聞かれても、先生、答えられないですよね。
 最初はそうじゃなかったですけど、最近はもうパブロフの犬みたいに、条件反射的には笑っているから。
寂聴 私がリハビリしているときでも邪魔しにくるじゃない。
まなほ 最近は笑わされないように、リハビリのときは、ずっと目をつぶっています。
 私が側にいない時はテレビの『怪傑えみちゃんねる』(関西テレビ)を見て、よく笑っています、やっぱり上沼恵美子さんのおしゃべりが面白いと。
寂聴 そうそう、あの人、頭がいいからね。
まなほ 『えみちゃんねる』以外だと、ときどきサスペンスドラマ見ていますよね。
寂聴 ああ、昼間に再放送しているものとか。字幕放送にしておけば、わざわざ補聴器を付けなくとも、内容が分かるし。
まなほ 大相撲も好きですよね。始まる時間になると、「あっ、いまから相撲、相撲」とか、おっしゃって。
寂聴 大相撲といえば、何だか2人でずっと笑っていたこともあった。
まなほ あははは、「マサヨ読み間違え事件」です。正代(*しょうだい=本名・正代直也)のことを、先生が”マサヨ”って呼んでいて。
 かなり前に起きた事なのに、今でもこうやって「マサヨ」っていっただけで2人で笑ってしまいます。きっと、ほかの人たちから見たら何で笑っているのかまったくわからないですね。
寂聴 あなたは最近は変な踊りをよくするようになった。あれってストリートダンスとか、ヒップホップダンスとかなの?
まなほ うーん、オリジナルな創作ダンス。そのときの気分で、即興です。
寂聴 とても面白いから話題になる。インスタグラムに動画をあげましょう。
まなほ やだ! やだ! やだ! 人には見せられない!
寂聴 私なら平気なの? まなほが人前じゃできないなんて、珍しいわね。
まなほ そう、私は先生が笑って元気になってくれればいいんです! 
寂聴 本当に私たち、よく笑うわね。笑うツボも小学生みたいで。
まなほ 小学生が、ずっと「うんち、うんち、うんち」とか言って笑っているみたいな感じですよね。
 先生、若返りすぎて、小学生に戻ってしまったんですか?(笑)
寂聴 ふふふ。つまり私たち2人とも、小学生レベルってことね(爆笑)。

元気の秘訣その6「朝風呂で五体を目覚めさせる」

まなほ 先生は、朝のお風呂も長年の日課にされていますね。
寂聴 ぬるめのお湯に10分くらい首までつかっていると、頭の隅に残っていた嫌なとか、仕事の疲れとかが、すっと溶け出していくの。心も体も癒されます。
 一時ね、作家の間で、お風呂に日本酒を入れるのが流行ったの、一升瓶全部いれると健康にもお肌にもいいと言うので、私もやっていました。いま思うと、そんなに効果はなかったように思うけど。
まなほ もったいない! でも、いまは「酔っ払い鍋」で日本酒をたくさん使っていますね(笑)。先生のお風呂に入れるのは日本酒じゃなくて、ずっと柚子(ゆず)にしましょう。先生は端午の節句の菖蒲湯や、冬至のゆず湯の習慣も大切にされてますけど、特に柚子湯はお好きですよね。
寂聴 確かに柚子湯は大好き! 柚子を半分に切ったものをお湯に入れています。一年中、柚子湯に入ってもいいくらいです。
まなほ 私、一年中、柚子が手に入るように全国を探します。
寂聴 あら、優しいのね。
まなほ そういえば先生。星野立子賞を受賞した先生の初めての句集『ひとり』にも、柚子湯を詠んだ作品がいくつも載っていました。もう全部覚えてしまいましたが、私が好きなのを順番に並べると…‥、

 老いし身に 白くほのかに 柚子湯かな
 柚子湯して 逝きたるひとの みなやさし
 生ぜしも 死するひとり 柚子湯かな

寂聴 もういい、もういい(爆笑)。
まなほ お誕生日にはたくさんバラのお花をいただくので、その後、優雅なバラ風呂に入ることもあります。
寂聴 私には戸籍上の誕生日(五月十五日)と得度記念日(十一月十四日)と、年に2回誕生日があるでしょう。ですから年に2回お祝いの花が集まるので、その度にバラ風呂をする。とってもいい匂いでしょう。まるで極楽浄土よ。
まなほ でも句集にはバラ風呂は、一句も出来ませんね。
寂聴 真っ赤なバラのお風呂に96歳の老婆がポッコリ浮かんでいるところなんか、想像されたくないのよ(爆笑)。
まなほ 今年のお誕生日も、たくさんお花が届きましたね。
寂聴 もう最後かもしれないから、まなほたちがお祝いを受け取る所を見てみようと思って、勝手口に近い食堂にいたんですよ。そうしたらね、誕生日とその前後の3日間で、お祝いのお花とお菓子が朝からどんどんどんどん届いて、150個まで数えたんだけど、疲れて途中で寝てしまった(笑)。
まなほ 一個一個、ハンコを押さなければいけませんし、荷物を受け取るだけでも大変でした。
 先生は座って「ああ、大変だね」とか言って、見学しているだけでしたよ。5月15日は葵祭の日だから、先生が「お祝いを受け取るくらい私がやるから、葵祭を観ておいで」なんて優しい言葉を言ってくださったのに。
 私が「先生に何ができるんですか?」と聞いたら、「ハンコぐらい押すよ」って。それなのにいざとなったら座って見ているだけ。「先生もちょっと手伝ってください」とお願いしたのに、聞こえないふりしていましたよね(笑)。
寂聴 (聞こえないふりして)お風呂の話に戻りましょうか(笑)。
 昔は一仕事終えた夜更けにひとり、ゆっくりお風呂につかっていると一日の疲れが全部取れて、ぐっすり眠れたものだけど、いまは朝風呂派に転向したのね。
 でも私は朝酒はしない。せっかく朝風呂で爽やかな気分になったところで、すこし小説を書きたいの。
まなほ 書斎で机に向かうときは、ブラックコーヒーと決まっていますものね。

元気の秘訣その7「ストレスはその日のうちに発散」

寂聴 やっぱり健康のためにはストレスは溜め込まない方がいいわね。できれば、その日のうちに解消した方がいい。私のストレス解消法は、言いたいことを我慢しないこと。お酒を飲みながら、知人の悪口を言いまくる! 
まなほ そして、私の悪口も言う(笑)。
寂聴 モノにも当たる。腹が立ったら枕を投げる。「まなほめ!」って言いながら。
 もっと腹が立ったら辞書を投げる。広辞苑が一番丈夫だからね、いくら投げても壊れない。
まなほ あんな重いものまで? でも私は投げる現場を見たことがないのですが、最近はしていないって事でしょうか。
寂聴 あなたの前でしないだけです。
まなほ 書斎や寝室で「まなほめ~」って?
寂聴 「まなほめっ、バカヤロー!」って。
まなほ 先生、怖いですよ(笑)。
寂聴 でも目の前ではやらないの(笑)。
まなほ そもそも先生はストレスがあるのですか?
寂聴 あんまり感じないほうね。
まなほ ああ、でも入院中は、けっこう大変だったのではないですか?
寂聴 入院中は何も面白いことがないものね。幸い個室でしたので、長電話ばかりしていました。
まなほ 入院中はちょっと鬱っぽくなったから、退院したら句集『ひとり』を自分のお金で出版しようと、気持ちを明るく切り替えたんですね。
寂聴 誰でも入院したら気持ちは沈みます。
 ですからそういうときは、とにかく楽しいことや、自分の好きなことを思い出すことね。
まなほ 「退院したらあれをしよう、これをしよう」とか考えるだけでも、楽しくなるものでしょうか?
寂聴 そうそう、「元気になって退院したら、あいつを殴ってやろう」とか、「あいつとごはんを食べて、お酒を飲もう」とかでもいい。
まなほ 私のストレス発散法は、テキーラを飲みながらお菓子を作ることです。
 酔っぱらいながら大量のお菓子を作って、それをスマホで写真を撮れば、何だか気持ちもスッキリします。
 出来たお菓子は自分ではあまり食べないで、人にあげるんです。ちょっと酔っ払って、いい気持ちでお菓子を作っているうちに、自分の中で何かストレスが発散できるんです。
寂聴 そんなストレス解消のために作ったお菓子でも、たとえおいしくなくても、ほめなきゃいけないのね(笑)。
まなほ そうですよ。ふつうは何かもらったら褒めなきゃいけないんですよ。
 それなのに先生は、私が作ったとわかった瞬間に、もう好き放題言うんじゃないですか。
 ですから最近は「私が作りました」とは言わないで、「これ、お店で買ってきたものです」と言って渡すこともあります。すると先生が「品がいいね。味がいいね。形がきれいね」と褒めてくれますから。
寂聴 何度も騙された。
まなほ 私が作ったと言ったら、それだけで何か悪口を言いたくなるんですから…‥。でも、すでにお菓子作りは味覚の発達した先生を騙せるほどハイレベルってことですよね!? 私の作ったお菓子を、「お店の」って言っただけで、本当に「おいしい」って食べてくれる。
寂聴 テレビ番組ではテキーラを何杯も呑んでいたわね(笑)。寂庵に来たころはそんなにお酒は飲まなかったような気がするけど。
まなほ お酒を飲むことは先生から教えられたんですよ。洋間の奥にあるホームパーティーの「パープル」。あそこでウイスキーの銘柄から手ほどきを受けました。「ホワイトホース」は「白馬」とか、覚え方も教えて頂きました。
寂聴 いろいろ一緒に飲んだ。いまじゃまなほは、ビール、ワイン、シャンパンと何でもことね(笑)。
 テキーラをあおりながらお菓子を作って、いつごろから始めたの?
まなほ 25歳ぐらいからで、そのときからお菓子を作りにもハマったんです。なぜテキーラを飲むかというと、一気にテンションが上がるからですね。
 ちょびちょび飲んでテンションを上げていくのではなくて、もうバッと上がって、バッといい気持ちになりたいからテキーラをストレートで飲むんです。普段はウイスキーとかをソーダ割りか水割りにして飲んでいますし、そのほうが体にはいいみたいですけれど、でも先生はテキーラは飲みませんね。
寂聴 きつくて嫌なの。
まなほ 一緒に飲もうって誘惑したこともありましたけれど乗ってきませんでしたね(笑)。でも先生バッとテンションが上がってプッと事切れたら、それがいちばんいい死に方かもしれませんよ。なーんて(笑)。

「袈裟姿で目立つから買い物に行けなくて・・・・」

寂聴 あははは。それにしても、まなほにテキーラを一気飲みしたくなるような大変な悩み事があるの?
まなほ それは私だってありますよ。仕事のこととか、自分のこととかいろいろ悩みが重なって、何かモヤモヤすることもあります。
 自分が仕事をうまくできなかったりとか、先生やいろいろな人にわかっててほしいことがあっても、何か分かってもらえなかったりとか。
寂聴 期待に胸膨らませて行ったお見合いの、相手の男が気に入らなかったり‥‥。
まなほ そんなんじゃありません! 最近では寂庵を留守にすることが多くなっているじゃないですか。それに私の取材に来てくれたメディアの人たちに私以外のスタッフがお茶を出したりするじゃないですか。
 そのことを先生は、「まなほの取材なのにほかのスタッフがお茶を出すのは‥‥」とか「まなほはいつも寂庵にいないから」とかおっしゃるでしょう。
 それは先生と私とほかのスタッフの双方に気を使って、わざとそういう言い方をしてくだるだろうなぁ、とはわかっているんです。
 でも本を出したことによって、ほかの人に迷惑をかけたりすると、自分が嫌いになることがあります。そう言う感情は、自分ではどうしようも出来なくて、ストレスが積もっていくのです。
寂聴 だからテキーラなのね。その点。私のストレス解消法はいろいろある。広辞苑を投げる、人の悪口を言う‥‥。
まなほ そして私を足で蹴る、けなす、からかう!
寂聴 あははは。それもあるけど、嫌な気分を明るく変えるためには、買い物をするのもいいわね。今は私はなかなか行けないの。お店に車椅子で行ったら目立つでしょう。それに私は袈裟姿ですし、どうしてもみんなが気づいてしまう。これが、ちょっと不便ね。
まなほ でも、私はそれほど気にしなくてもいいと思いますよ。河原町の京都タカシマヤとかに、ときどき先生のお洋服や鞄など買い物について行きますよね。帽子を被ってマスクして車椅子に乗っていますけど、意外にほかのお客さんたちは気づいていませんよ。きっと皆さんの目線より低いところにいるので、あまり分からないんですよ。
 タカシマヤで2人で買い物をして、トンカツを食べて帰ってくるというのも、私たちの秘密の楽しみですよね(笑)。
寂聴 タカシマヤのトンカツが、おいしいのよ!
まなほ その楽しみも1年に1回か2回って感じですけどね。
 なかなか外出はできませんけれど、先生は通信販売もお好きですよね。いつも通販カタログを見ていて、何でこんなものを、と私が思うような物を注文してしまう。この前はオレンジ色のブラウスを買ったのに、ちょっと色がイメージしていたものと違ったんですか? 届いたらすぐに私にくれましたよね。
寂聴 そうそう。新聞広告を見て買ったんだけど、チラシの色と実物の色が違っていたの。あんまり派手だったからあなたにあげた。
まなほ 先生が買うものは服が多いですよね。あと、靴下ですか。’17年の心臓と足のカテーテル手術以来、足がむくむようになったから、むくみがなくなるようなものを選んでますね。
寂聴 それより、巻くだけでお腹かが凹むベルトは注文してくれたの?
まなほ 先生がメモをしてくれたものでしたっけ? 「お腹かが凹むベルトが売ってるんだけど!」と、喜んでいて、申込先電話番号を書いた紙を頂きましたが・・・・・。でも、あのベルトはどうでしょうか? 私はあれを巻くよりは、食べる量とか、お酒を飲む量とかを減らしたほうがいいと思いますよ。
寂聴 いくら私が欲しがっても、まなほは絶対に買ってくれないんだもの。ほかのスタッフならちゃんと買ってくれているのに。
まなほ だから先生は、このごろは私に黙っていて、ほかの人にそっと頼んでますよね。私、荷物が届いても何が入っているのかわからないことがあります。
寂聴 まぁ、裏ワザってことかしら。
まなほ そこまでして欲しいのですか?(笑)。

「服を買ってくれると言っていたのに・・・・」

寂聴 まなほに服を買ってあげたこともあるわね。そういえば帝国ホテル東京のショッピングモールにあるブティックで、いろいろ試着させたことがあった。
まなほ その挙句に「まなほは、どれも似合わない」と、先生がおっしゃって、何も買わないでホテルの部屋に帰りました(爆笑)。
寂聴 あははは。ですから、さすがにもう二度とそのお店に行けないと思ったら、そのお店が潰れてしまって・・・・・。
まなほ 次の機会には買っていただこうと思っていたのに!
寂聴 もちろん似合っていたら買ってあげようと思ったんだけど、全然似合わないじゃない。
まなほ 店員さんは「とってもいい」って言ってくれていました。あまりにも値段が高かったから、ケチったんじゃないですか?(笑)。
似合っているって言われた服は50万円だったんですよね。先生は「50万もするような服には見えない。それだったら現金であげるわ」って。でも結局、現金でも頂けませんでした(笑)。
寂聴 あははは。
まなほ 「こんなもの50万もするように見えない」って、店員さんの目の前で大きな声でおっしゃったんですよ! 「先生、声が大きすぎます」って言ったのに。
 もしかしたら、先生の大声がほかのお客さんたちにも聞こえて、それで潰れちゃったんじゃないですか。
寂聴 次から次へと試着した挙句に何にも買わなかったから、店の前を通るの決まりが悪いなあと思いながらふっと見たら、なんと潰れていたの。
まなほ 瀬戸内先生が来店して、あれだけ試着させていれば、一着ぐらいは買ってくださるだろと、店員さんも思っていたと思いますよ。
寂聴 あのショッピングモールにあるものは、お金持ちのマダムが買うようなものが中心で、まなほに会うような洋服はないの。でも今度、東京に行ったら、どこかほかの場所へ探しに行きましょうね。
まなほ 今度って先生、具体的にはいつのことですか?
寂聴 あははは。でもね、まなほやみんなのお陰で、毎日、面白く暮らしていますよ。

 つづく いまでもエッセイの連載も
 持っている瀬尾さん。
 “書くこと”の楽しさ、大変さについて
 大先輩である寂聴さんに尋ねます――。
第三章 「難しい言葉を使わないのは頭がいい証拠です」