瀬戸内寂聴・瀬尾まなほ
〆強い心で生きたい
「おデコを噛んで死にたい」って何ですか?
瀬戸内寂聴(以下、寂聴)エッセイの『おちゃめに100歳! 寂聴さん』(、17年光文社刊)が売れるようになってから、まなほはテレビ番組だけでなく、一人でトークイベントに出たりして、とても忙しくなったわね。
瀬尾まなほ(以下、まなほ)横浜ベイホテル東急でも、トークショーをやらせていただいたのです。
寂聴 そうだったわね。チケットはいくらだったけ?
まなほ 一万三千円でした。
寂聴 えっ! 一万三千円!? そんなに払ってあなたを見に来たの?
まなほ ランチもついていましたからね。私が選んだスイーツをコース仕立てにしたんですが、お客さんたちも喜んでくれていました。元TBSアナウンサーの安東弘樹さんの進行のおかげですごく楽しかったです。
寂聴 売れっ子なのはいいことですけれど、秘書なのに寂聴にはほとんどない、でも、そう言うとあなたは怒るでしょ(笑)。
まなほ (スケジュール帳を開いて)見てください! 《出勤、出勤、休み、出勤、出勤、休み・・・・》、週に二日だけですよ、お休みは。でも先生にいくらそう言っても、そのときだけ急に、何かあっちの方を向いているのですよ。
「先生、ちゃんと聞いて!」と言っても、何かその時だけ、急に耳が聞こえなくなっちゃって・・・・(笑)。
寂聴 ほかのスタッフが休んでも、別にそんなに感じないのに、まなほがいないと、本当にいないっていう感じがするんですよ。
まなほ 先生は私がいないと寂しいのかな。だったらうれしいのですけど。
寂聴 そんなんじゃなくて、それだけあなたがやっぱり私の役に立っているんでしょうね。
まなほ 本当は、うるさい私がいないから寂聴が静かなので、そんなふうに感じるのではないですか?
寂聴 いや、そんな感じでもないの。あなたが寂庵にいるからって別に特別なことをしてもらっていないのよ、ふつうのことをしているだけ、まなほが近くいると、どこか安心できるのね。
まなほ 何十年も寂庵に来ているベテランの記者の人から「瀬尾さんが寂庵にいないと先生のご機嫌が悪くなるので困るんですよ。瀬戸内先生との関係は、なんだか恋人のような、そんなアヤしい関係なんですか?」と言われて驚きました。
寂聴 あはは。その人、見る目がないわね。そんな関係とはちょっと違う。私にはレズビアンのお友だちもいますけど、私にはその気はないのよ。
まなほ 先生が私に意地悪を言うと私が本気になって怒るから、先生はそれが面白くて、ストレス発散にもなっているんですよ。
もし、ほかのスタッフに同じことをいったら、本当に泣いちゃいそうじゃないですか。ですから私に言いたいことを言って、私が「なにくそ!」ってやり返して、それでケンカになる。
昨日も私と「たくさん休んでいる」「いいえ休んでいません」って本気でケンカになって・・・・。最後には、先生をこうやって抱き上げて。覚えている? 先生、私が先生のウエストを持って、ギュッとやったのを。
寂聴 そうそう。
まなほ そしてそのまま持ち上げてたんですけど、その重いこと! 先生、体重何キロあるんですか?
寂聴 内緒! (笑)私、だんだん小さくなって、いまは身長145センチしかないのになぜか体重は増えている。
まなほ 何キロか私、知っていますよ。
寂聴 イーッ!(笑) 私は1日2食しか食べていないのに、どうしてかしらねえ。お菓子だってそんなに・・・・。
まなほ 食べているでしょう! 私たちのお菓子、たくさんあったのに、随分早くなくなっちゃったなといつも思っていたんです。そうしたら、先生の部屋のゴミ箱にお菓子の袋がいっぱい入っていて。
寂聴 (チョロッと舌を出して)バレてたのね(笑)。
まなほ 思えば先生と私、仲直りはしないんですよね、いつもケンカしているんですけど、いつの間にか、いまみたいにふつうに話しているから、仲直りのために「ごめんなさい、ごめんなさい」とかいうことがないんですよね。
寂聴 そういえば、あなたに謝られたこと一度もない。
まなほ ありますよ!? 何度も。でも私がハグしたり、さわったりするのは、嫌じゃないでしょう?
寂聴 いや、もう子猫か子犬がじゃれついてくるみたいで、そのうち噛まれるんじゃないかと(笑)。
まなほ (笑いながら)噛みつかない。噛みつかない! そういえば先生はよく「おデコ噛んで死にたい」って言うじゃないですか。でも自分で自分のおデコは噛めません。だから私が「じゃあ、先生のおデコを噛んであげる」と言うと、「痛いいから嫌だ」って言いますよね(笑)。
寂聴 うん。誰かから気いような気がするんだけど、どうせ死ねないけれど死にたいって言いたいとき、「おデコ噛んで死にたい!」っていうふうに使うの。
「都合の悪いことは聞こえない、覚えない」
まなほ ところで先生、今日はお耳の調子はいかがですか?
寂聴 いまは補聴器をしているから、あなたの声もよく聞こえます。
まなほ さっきのゴミ箱の話で思い出したのですが、この前、先生がないないって言っていた補聴器が、なぜかゴミ箱に入っていたことがありましたよね。
紙くずとかに混ざって、キラッと光るものが見えたので、覗いてみたら小指の爪の先ぐらいの大きさの補聴器が捨てられていて…‥。すごく高いんですよ! 先生の補聴器。
寂聴 ゴミ箱に入れた覚えがないよ。
まなほ 先生に限らず、人って無意識に何かをどこに入れたりするじゃないですか。でも先生がなくしたものを捜すのは、いつも私の役目なんですよね。先生は毎回、「絶対そんなところに入れるわけはない!」って言うけれど、もう毎度のことですから、先生より私のほうがわかっているんです。私が「ここかな?」と思ったところにちゃんと入っているんです。
寂聴 あははは。
まなほ 先生は時々変なところに入れるんですよ。補聴器もゴミ箱に捨てられていたから本当に驚きました。気がついて本当によかったですよ。
寂聴 たまたま、そこに飛び込んだとか。
まなほ たまたま入ったりしませんよ(笑)。
寂聴 ・・・・・・。
まなほ 都合の悪いことは聞こえなくなっちゃう。
寂聴 そうなの、都合の悪いことは聞こえない、覚えない(笑)。
サイン会へ下着を持ってきた男性も
寂聴 あなたにはいつも笑わされっぱなしだけど、いきなり驚かされることも多いわね。
私が寝ているベットの横にある鏡に向かって一生懸命にスクワットをやるのだもの。お尻をこうして後ろに突き出して、こんなかっこうするんですよ。びっくりするでしょう? 私の目の前でよ。それで、「ああ、やはりこのコは変わっているな」と、思ったわね。
だって、そんなかっこうするんですよ。はふつう人のいないところでするでしょう。
まなほ 先生の部屋にはちょうどいい大きさの鏡があったもので。あと・・・・、寂庵は広いですけれど、あえて先生の目の前で運動することにしているのです。
寂聴 何で?
まなほ それは先生が私のお尻をたたいたりして、面白がるからです。あのころの私は、ベテランのスタッフの間で何をしたらいいのか迷っていたし、先生が笑ってくれるなら何でもする気持ちでいましたから。
寂聴 ほかにも朝やって来て、バーッとスカートを上げて、「これ、かわいいでしょう? ほら!」って、パンツを見せたこともびっくりたわね。
まなほ ですから、それは昔の話です!
寂聴 それで「今度、先生にもかわいいのを買ってあげますね」って(笑)。
まなほ 先生が法話の会や講演でしょっちゅうその話をするおかげで、私、知らない人に「パンツ見せろ」とか言われたりするんですよ!
京都の大垣書店でのサイン会では、実際にパンツをいただいたんですよ、50代後半くらいの男の人から。帰って箱を開けたらびっくりした!
寂聴 そういえば法話にも若い人が来るようになったね。まなほ効果かしら。
まなほ 寂庵に来ている記者の方も、最近は法話にも写経にもけっこう若い人が増えているって言っていましたよ。
寂聴 それで写経のときなんか、若い男性が「瀬尾さんに会えると思ってきたのに、東京へ行っていて残念です」なんて、言うのね。
まなほ 先生にこれ以上、パンツの話をされると、何だか私がそんな趣味の持ち主みたいな変なイメージになっちゃいます。
寂聴 じゃあ、これからはその話NGにしましよう。
まなほ はい、パンツの話はNGで(笑)。
寂聴 お菓子やお手紙とかもいただきました。女性からがほとんどです。
そごう横浜店で展示会「瀬戸内寂聴〜言葉をたどる95年〜」が開催されたときに、私もトークショーをやらせていただいたんです。会場に入った時は、年配の女性がほとんどかなと感じたんですけど、落ち着いてみたら、真ん中に若い女のコたちもいてくれて嬉しかったですね。
10代がいるかと思えば、「私も同じ30歳なんです」っておっしゃって下さる方もいたり、あと「娘がまなほさんと同い年なんですよね」というお母さん世代もいたりと、本当にさまざまな年代の方たちが来てくださいました。
寂聴 よかったねえ。でもなかなか名前を覚えてもらえないのは、「まなほ」って名前が変だから?
まなほ 変じゃない!(笑)。
寂聴 だってちゃんと「まなほ」と言ってくれているんじゃないの、みんな。
まなほ 最近はいろいろな依頼をいただくのですけど、依頼文の頭に「まほみ様」とか(笑)。
寂聴 あははは。全然違うじゃない。
まなほ 「まなみ様」もありますね。瀬戸内寂聴の秘書だからか、瀬尾が「瀬戸」になったりとか。で、「瀬尾まほみ様」。
「悪口を言われない人はかわいそうです」
寂聴 名前がせけんに知られるのは大事なことですけど、有名になることによって、嫌なことだって必ずあるのよ。特にテレビに出始めてからはいろいろな誹謗(ひぼう)中傷も受けるようになったでしょう。たとえば・・・「コバンザメ」とか?
まなほ そうそう。「瀬戸内寂聴のコバンザメ」(笑)。
寂聴 インターネットでは「瀬戸内寂聴の遺産を狙っている」とか、書かれていたみたいよ。
まなほ 「遺産目当て」って・・・・。本当にそのつもりだったら先生にもっと優しくしますよ。もっとご機嫌とったりして(笑)。
最初は「ネットにまなほのことが書かれてるよ」って友達に教えられて見たんです。もちろんうれしいこともたくさん書いてあったんですけども「あの顔、嫌い」から始まって、いろいろな誹謗中傷もあって怖いし、見るたびに落ち込むようになったんです。
寂聴 私も悪口はいっぱい書かれていますよ。それがいくら事実無根でも、読むと腹が立つ。ですから、読まないのがいちばんいい。
まなほ はい。どんなに嫌なことを書かれても、見なけりゃいいんですから、いまはまったくエゴサーチ(*自分の名前をネットで検索して、評判や評価を調べること)をしていません。
寂聴 面と向かって言われたりしたことはないの?
まなほ 1回ありましたね。寂庵に、公衆電話から法話の会の問い合わせがあったのですけど、途中で「あなた、テレビに出ていた秘書?」と、聞かれて。「あなたね、もういい加減にしなよ。秘書は黒子に徹しなきゃいけないんだから。わかってんの! 」って。それで、やっと自分が悪口を言われていることに気づいたんです。
寂聴 あはは。まなほらしいねえ。相手は女だった? 男だった?
まなほ おじさんでした。話をずっと聞いているうちに腹が立って来て、電話を切ったんですよ。すぐまたかかってくるのかなと怖かったですけど、その後はかかってきませんでした。ですけど、初めて直接生の声で言われましたから、結構ショックだったんです。
寂聴 おじさんって、割とそういうことを言いたがるの。『寂庵だより』への投稿でも、おじさんのほうが過激に書いてくる。
《天下の寂聴さんに対して、秘書が無礼だ!》
《スタッフはもっと寂聴さんを大切にしなさい》
とかね。
まなほ 先生のお知り合いの中にも、私のことを面白く思っていらっしゃらない方がいると思います。じかにそういう意味のことを言われたこともありました。
寂聴 私とまなほが対等というか、友達のように仲良く話しているからね、それが羨ましくのかも知れませんね。
若いあなたにちょっと嫉妬心を抱いただけだから、さらっと聞き流して、いつもの笑顔でいなさい。
まなほ 先生がいつもそういうふうに慰めてくれているので、気持ちが落ち着きます。
以前は、「バッシングされたら嫌だな。どうしよう、どうしよう」とか、「こうやって名前が知れ渡るの、怖いな」とか、そういうことを言ってすごくウジウジしていましたよね。
そうしたら先生が、「そんなことをいちいち気にしなくていいし、悪口をいう人があなたの給料払って生活を見てくれる訳じゃない。そんなこと言わせておけばいいだから」と、何度も言ってくださって、確かにそうだと思いました。
そして、「私のことを傷つけられるのは、私が好きな人だけなんだ。そうじゃない人たちの言うことに私が傷つく必要はないし、そんな無駄なことはない」と、気が付いたんです。
私のことをよく知らないで勝手なことを言う人の言葉にはいちいち傷つくなんて、自分こそアホみたいだなと思えたんですね。
寂聴 ふふふ。ずいぶん成長したのね。
まなほ そうやってちゃかすのも、先生の悪い癖です(笑)。
あと、「悪口も言われない人はかわいそう。才能があるから悪口を言われるんですよ」と、言って下さったおかげで、私の気持ちもずいぶん救われました。
寂聴 寂庵に来て8年にして、やっとまなほも悪口を言われたり、嫉妬されたりするような人間になったということね。めでたし、めでたし(爆笑)。
でも、寂庵にやってくる女性たちの間でも、あなたの贔屓(ひいき)は増えているのよ。
東京のトークショーへも応援に駆けつけて、後で私に「まなほさん、もう、とても上手にやりました。お客さんもたくさん来ていました」とか報告してくれるの。あなたのことを自分の娘か孫みたいに思っている人もいるのよ。
まなほ そうなんですか! 悪口を気にしないだけではなく、そういった方たちへの感謝も忘れないようにします。
寂聴 まなほの人柄のおかげかしら? 不思議ねぇ。
まなほ ふふふ。
「まなほは、ずうずうしいから、明石家さんまさんの相手でも平気」
寂聴 寂庵には作家の林真理子さんとか、俳優の渡辺謙さんとかも訪ねてきてくださるから、まなほは有名人慣れしているのかしら。
テレビ番組に出演するときも、いつもの通りのまなほで、とっても自然体なのには感心します。
まなほ うーん、何かさっぱりそのときになると、ちょっとこうスイッチが入るんでしょうか。皆さん、落ち着いていると言ってくださるのですが、実はああ見えて、毎回すごく緊張して汗をかいたりしているんです。
本番前はトイレに何回も行きたくなるし、収録後は「はぁ〜、やっと終わった」と、安心します。
寂聴 明石家さんまの番組に、私の代わりに出てもらった時も、あの饒舌なさんまさんと、ちゃんとアドリブで掛け合っていたんじゃない。
さんま 最近では(瀬戸内先生から)どんなことを学んだの?
まなほ お酒の味とか。
さんま ・・・・そんなんじゃなくて、胸に響いたこととか。
まなほ ああ、胃に響いたではなく?
さんま そんなネタいりません!
まなほ あのときだって不安だったんですよ。でも先生がさんまさんへ《お互いいまより老けないように》と書いた色紙を送ってくれましたし、ビデオメッセージで《さんまさんも若いカワイイ女のコと結婚したら》とアドバイスしたりして、スタジオもすごく和んでいたので助かりました。
寂聴 ふふふ・・・・。『ゴロウ・デラックス』(TBS系)のときだって、イケメンの稲垣吾郎さんがタジタジでしたよ。まなほはだいたいがずうずうしいから、さんまさんのような有名人が相手でも平気なのね(笑)。
まなほ もう〜、言わせておきます!
先生のことですから、あとで優しくフォローしてくれますよね(笑)。
寂聴 あなたも、もう十五本以上テレビを見る立場だったのが、いまは出演したり取材される立場になって「考えていたのと違うなあ」と思ったりしたことはあるでしょう?
まなほ 私がすごく実感したのは、偉い方ほど偉ぶったりせず、優しく気さくだという事です。
寂聴にいらした渡辺謙さんか、『徹子の部屋』(テレビ朝日系)の収録でお会いした黒柳徹子さんもそうですけど、すごい方ほど優しい。先生との対談現場で初めてお目にかかった女優の吉永小百合さんも本当にそうなんですよね。
寂聴 黒柳さんは、本当に優しかったね。
まなほ はい。私なんかこんなに優しくされていいのかなあ、と思いました。
寂聴 その「私なんか」もうやめなさいね。デビュー作がベストセラーになって、いまはもう”瀬尾まなほ”として世間に認知されているのですから。
そういえば、まなほが秘書になって1年くらいの時、帝国ホテルに泊まっている私の携帯に共産党の不破哲三さん(日本共産党議長)が電話をかけてきて、「お会いしたい、ちょっと本部に来てほしい」って、車で迎えに来てくれたのを覚えているでしょう?
まなほ はい。よく覚えています。
寂聴 それはまなほと一緒に本部にいったら、よくテレビでお見かけする共産党の偉い人たちが広い部屋にズラーッと居並んでいて、さすがのまなほも相当緊張していたわね。
まなほ 緊張したというか、行った瞬間からすごくたくさん撮影されたので、私が「私たち写真をこんなに撮影して、何に使うのでしょうか?」って囁いたんですよね。
寂聴 あははは。まなほも、いまよりずっと可愛らしかったから、カメラマンも撮りがいがあったんじゃない(笑)。
それまで不破さんご夫婦とはそんなに親しくなかったんだけど、あれ以来とても親しくなりました。
本当にいいご夫婦で、昨日もお二人から来たお手紙に、《まなほさん、お元気そうでとてもよかったです》と、書いてありました。ちゃんとあなたの出ている番組を見てくださったり、あなたの本も読んでくださっているみたいよ。
まなほ そうだったんですか。うれしい!
寂聴 あのころのまなほは、特別かわいかったものね。
まなほ さっきから何で過去形なんですか(笑)。
もうこの8年間は夢のようで、先生と一緒にいると政治家の方に限らず、作家、芸術家、俳優さんとかいろんな世界の思わぬ方々にお会いできました。芸術家だったらグラフィックデサイナーの横尾新也さんとか・・・・・。
寂聴 藤原さんはいつもインドカレーのおいしいものを持ってきてくれる。それで寂庵のみんなと一緒に食べるのがお好きらしいのね。
まなほ 長野に藤原さんのお気に入りのカレー屋さんがそこにあって、そこから宅配便で届けてくださるんです。
寂庵 レトルトですけれど藤原さん、「あれを用意して、これを用意して!」と、細かく言うの。彼なりのこだわりがあるのね。
「以前より、ゆっくり話すようになりました」
まなほ あと、自分自身のことを言いますと、テレビに出演させていただいたことで、思っていた以上に自分が早口というのがわかりました。
私の出ていた番組を見てくれた友達や家族に「どう思う?」と訊かれたら。「もっとゆっくり喋ったほうがいい」とか「もうちょっと笑顔のほうがいいよ」とか、いろいろアドバイスしてくれたんです。
私はすごく早口なので、どうしてもバババーッと喋っちゃう。だからせわしない人にみえてしまう。それで意識して話し方をかえるようにしましたから、以前より今の方が、ゆっくり話すようになっています。
寂聴 まなほはとっても順応性が高いから、もうテレビ慣れしているわよ。
私もこれまでたくさんテレビに出させていただきましたけれども、最初のころはカメラの方を向を見たらいいのか、話している相手を見たらいいのか、どちらを向けばいいのかもわからなかった。でも、まなほはにはそんな様子は全然ない。
まなほ まるで私が、無神経みたいじゃないですか(笑)。
たしかにテレビ局のスタッフの雰囲気とかは少し慣れましたけど、「寂聴さんの秘書に24時間密着」みたいなものは、何度やっても苦手ですね。
寂庵にテレビクルーが来ての撮影となると、先生やほかのスタッフのみんなも巻き込むので、すごく迷惑をかけてしまうのです。
みんな嫌がらないでとても協力してくれて、それで番組が出来るのですけど、結構迷惑をかけているなあ、と思います。むしろプライベートを撮っていただくほうが、私的には気が楽です。
寂聴 7Lldkもある寂庵を、毎朝まなほが1人で掃除しているみたいな映像になるわよね。片手に携帯電話を持って仕事の打ち合わせしながら、片手で掃除機をブンブンかけて(爆笑)
まなほ 私の仕事ぶりを、視聴者の方に伝えるための映像ですから、演出上は仕方ないというのも理解できるんです。
でも先生の食事を用意したり、寂庵の掃除をしたりするのも全部私1人でやっているように見えるので、「本当はみんなで分担してやっているのになぁ」と、思ったりもします。
スタッフみんなが頑張り合って寂庵が成り立っているのに、そのことが伝わっていないというか‥‥。
寂聴 ふふふ。だから、ほかのスタッフたちが怒っている(笑)。
まなほ 先生も密着番組が2本くらい放映されたころから、「本当は寂庵のお掃除はほかの人ばかりがやっていて、まなほは何もしていないのよ」とか、おっしゃるようになって。
「何もしていないのよ」は、あんまりじゃないですか! 結構傷ついています。
寂聴 そうね、「何もしない」は冗談のつもりなんだけど(笑)。
それにしても。ほかのスタッフたちから妬まれてもおかしくないのにね。
まなほの人柄かしら? つくづく不思議ねぇ。
まなほ 思う事はいろいろあると思いますが、応援してもらって感謝しています。
96歳になったいまも執筆活動を続けている寂聴さん。その元気の秘訣は、旺盛な食欲や好奇心、そしてユニークなストレス解消法にあるようです。
つづく
第二章「いろいろな人と会って話せば若返ります」
〆笑って生きたい