年上の男性の優しさを感じましたね。 おそらく青天の霹靂だったのだろう。部下からいきなり寝ようと言われるなんて。もしそれが会社に知られたらどうなるか、部下が家族にばらしたらどうなるのか。松村さんだってそのくらいは考えたに違いない。 トップ画像煌きを失った夫婦はセックスレスになる人が非常に多い、新鮮な刺激・心地よさを与える特許取得ソフトノーブルは避妊法としても優れ。タブー視されがちな性生活、性の不一致を改善しセックスレスになるのを防いでくれます。

第五 四章 女たちから見た「最後の恋」と「婚外恋愛」

本表紙 亀山早苗著

★アラフィフ男性と恋をする女性たち

 半世紀を生きてきた男性と恋に落ちた女性は、彼らをどう見ているのだろう。

 まずは、四年ほどつきあって一年前に別れた藤本知寿子さん(三十五歳)が話してくれた。
 知寿子さんが会社の上司である松村亮さん(五十三歳)と知り合ったのは六年前。松村さんが彼女の部署の課長として異動してきたのだ。

「私は仕事を覚えて、イケイケのときでした。うちはメーカーで、私は宣伝担当。どうやって売るか、いろいろ企画を出すのですが、あの頃はいくらでもアイデアが浮かんできた。怖いもの知らずで何でもできる年齢だったんですね」

 上司である松村さんとも、平気でやり合った。自分が正しいと思っていたそうだ。
「課長は営業から来たから、純粋に宣伝するものとして戦略があざとい、なんてたてついたりした。でも、そんな私を課長はおもしろがってくれた。どんどんアイデアを出し、どんどん論破され、潰されました。だけど、面白ければ採用もしてくれる。私は彼に鍛えられたんだなあと思います」

ちなみに現在、知寿子さんは宣伝部の課長である。年齢的には最年少、女性で初めての宣伝課長だという。

「一年くらいたってようやくお互いの気心が知られてきた。課長も悪い人じゃないなと思うようになって。あちらもそう感じたんでしょう、メシでも食おうかと誘われました」

 その席で、知寿子さんは、松村さんに頭を下げられた。いつも一生懸命がんばってくれてありがとう、と。

「きみのがんばりは、課内の空気をいつも引き締めてくれる。目立つ分、僕もつい反論することが多いけど、それは課内の他のみんなにいっていることもある。そのあたりをわかってほしい、と。つまり怒られ役になれって言うことですかと尋ねたら笑っていました。チームで仕事をする場合、確かに怒られやすい人がいたほうがよかったりしますよね。私も学生時代、チアリーディングをやっていたのでわかるんです」

 知寿子さんは叱られ役を買って出た。その日、お互いの心の内を知る会話ができたという。翌日から、彼女はますます仕事に没頭していった。

「その後、とあるプロジェクトが始まった。私もチームに入れてもらいました。詳しくは言えないんだけど、かなりの大プロジェクトです。他の仕事もしながら、一年がかりで準備を進めていく、その初期段階で、私と、もうひとり二年先輩の男性社員と衝突しまして。仕事の進め方が原因でした」

 どちらのやり方も間違ってはいない。ただ、その部分は合理的に進めた方がいいと主張する知寿子さんと、時間をかけたい先輩との間で、激しい議論となった。松村さんが間に入り、両方のいいところを採った案を提示した。ふたりとも表面上は納得したが、知寿子さんにはしこりが残った。

「課長を誘って飲みに行って、直談判しましたよ。あの人は鈍感すぎるとか、丁寧なのと遅いのとは違うとか、さんざんひどいことを言ったと思う。そうしたら課長が、『人間も仕事も生き方も、合理的だけがいいことじゃないぞ。無駄が何かを生むこともある』って。その言葉だけは覚えていますね、今でも。自分でも理屈と能率だけで突っ走っているところがあるのを認識していたので、『わかりました。ここはちょっとのんびりいってみましょう』と素直に言えたんです」

 知寿子さんは松村さんを、さらに理解した。同時に、この自分とは違うタイプの人間である上司をもっと知りたいと思った。

「もっと知りたい、は恋の始まりなんでしょうね。私は当時、恋人がいたし、自分があんなオジサンと恋に落ちるなんて思ってもいなかったけど」

 いや、内心、自分の気持ちに気づいていたのかもしれないと彼女は小さな声で付け加えた。

★自分から誘い

 だからまた彼女は松村さんを呼び出した。
「なんだなんだ、酒ならつきあうぞ」
 そう言って居酒屋にやってきた彼に、彼女は突然に言ったのだ。
「私と寝てくれませんか」
 と。

 すごい飛躍、と私は思わず呟いてしまった。知寿子さんもくすくす笑っている。
「どうしてそんなことを言ったのか、わからないんです。彼に対して挑戦状のようなものを突きっけたかったのかもしれない。断られたとしても、上司と部下としてはうまくやっていける確信もあったし」

 恋愛感情から始まったわけでないのだ。
「いや、ただそのときは、課長が『オレとしては、いいよとは言えないなあ』と。試されているようで、この話に乗ったらきみに負けたことになりそうだって。私の意図を見抜かれていたみたい。まあ、たいした意図があったわけじゃないけど」

 彼女は、それもそうですよねと答え、ふたりでしみじみお酒を飲んだ。店を出ると、松村さんがふと言った。
「さっきの話は生きているか?」

 もちろん生きていると彼女は答え、ふたりはそのままホテルへ行った。

「課長は私に恥をかかせまいとしただけだと思います、あの時点では。年上の男性の優しさを感じましたね」

 おそらく青天の霹靂だったのだろう。部下からいきなり寝ようと言われるなんて。もしそれが会社に知られたらどうなるか、部下が家族にばらしたらどうなるのか。松村さんだってそのくらいは考えたに違いない。

「恋愛感情はともかく、お互いの信頼関係はできたと思うんです。私はその上ら、肉体関係を重ねたら、どうなるのかに興味があって。好意と恋心と愛情は全部違うのかもしれないけど、彼との関係が信頼だけでは物足りなくなったような気がします」

 複雑な言い方だが、言葉にするとそうなるのだろう。

 知寿子さんがセックスをそれほど重視していなかったのかも、いきなり誘えた要因ではないだろうか。愛が熟したときでなければできないと考えていたら、そんな無謀な申し出はしなかっただろうから。

「私、彼としてみて初めて、セックスっていいものなんだと知りました。三十歳にして体の奥から快感がわき起こってきた。恋人とのセックスなんて、子どもの遊びみたいものだと思った」

 濃厚な時間だった。彼女は全身を指と唇と舌で愛撫され、何度も体が震えた。ずっとじらされ続け、彼が入ってきたときはそれまで経験したことのない快感に襲われた。

大人の男のテクニックってこういうものなんだと驚きましたね。彼、酒の席でも下ネタなんか言わないけど、いったいどこで学んだんでしょうね。聞きましたけど、笑ってばかりで答えてくれなかった」

 私の周囲の女友だちによれば、セックスのテクニックは、年齢とは関係ないという。若くしても手練れた人はいるし、経験が多くても「下手くそな男」はいる、と。もともとのセンスと、セックスが好きかどうか、想像力を駆使できるか、女性というものをどうとらえているか。そのあたりが鍵となりそうだ。もちろん、サイズや好みの雰囲気などの相性もある。

 たとえばホテルの部屋で夜景なんぞを眺めながら、歯の浮くようなキザなセリフを男が吐いたとき、「ロマンチックだわ」とすんなり酔える女性もいるだろうし、「つまないことを言っていないで、さっさと押し倒してよ」と内心感じている女性もいるはず。女性側もまた年齢とは関係なく、タイプによる。

 知寿子さんと松村さんは、いろいろな意味で相性がよかったのだろう。
「終わった後で、彼が『こういうことになると思ったんだ、だからきみとはしたくなかった』とにっこりしながら言うんです。彼も今まで感じたことないくらいよかった、と。『離れられなくなる』と彼が呟きました。そのとき初めて。私、家庭のある人とこういうことになってしまったんだなと実感した。茨の道に足を踏み入れたと思ったけど、もう引き返せないのもわかったんです」

 彼女は恋人と別れ、ますます仕事に精を出した。仕事に支障をきたしたら、ふたりとも終わりだとわかっていたからこそ、必死で仕事をした。そして裏で、秘密の関係を続けていた。

「いかに職場では上司と部下の関係を保てるか。気を抜いたら、誰かに見抜かれる。だからとにかく切り替えが大事だと思っていました。会社に一歩入ったら。恋愛感情は一切捨てる。ふたりきりのときは思いっ切り甘えたし、彼も私に『オレが安らげるのはきみのところだけだ』って言っていた」

★関係が変わるとき

  ただ、三年ほどたつうちに、ふたりの関係が徐々に変わってきたのだという。

「彼の愚痴が増えて‥‥。私に愚痴をもらすのは信用して甘えているんだとわかるけど、それがいつもとなると、いいかげんにしてよという気持ちになってくる。私はいつも前を向いて歩きたいのに、彼は後ろばかり振り返る。そういう年齢なのかもしれない。ただ、そこに至って初めて、『この人の未来はない』と思ったんです。同時に、私たちのいく末には希望がないとも感じた。それは彼が家庭を持っているからではなく、冷たい言い方だけど、やはり年齢差なのかもしれません」

 それはおそらく、彼女が彼を越えた瞬間なのかもしれない。年齢差のあるつき合いは、ある日突然、自分の体の中から「終わりだよ」という声が聞こえてくることがあるのだ。もう彼からは卒業しなさい、そうしないとずっと足踏みをしているしかなくなるよ、と。自分が新たな関係を欲している証拠でもある。

「私が嫌いだったのは、彼が私の行動を束縛するようになったこと。前は私が一人でどこへ行こうが、友だちと映画に行こうが何も言わなかったのに、私が自由に行動するのを嫌がるようになって。だからといって、一緒に行けるわけでもないんですよ。彼は基本的に土日は家にいる人だから。ただ、子どもたちが大きくなって家に居る時間が少なくなり、奥さんもパートに出て楽しく過ごしているみたいなんです。それで孤独感が増して、私を束縛したがるんじゃないか、と」

 それは大いにあると思う。彼の妻は、彼と同世代らしい。その年齢の女性たちは、更年期も何のそのという人が多いから、ともすると夫を置き去りになってしまう。ただでさえ、アラフィフ男性の疲弊度は高い。縋るのは恋人だけになりがちだ。

「一年近くかけて、徐々に距離をとりました。私、彼とつきあうようになってひとり暮らしを始めたんだけど、彼が来たがると『今日は実家に帰るから』『今日は妹が来るから』といろいろと理由をつけて三回に二回は断るようになった。そのうち、彼もわかったみたいです。私が離れようとしているのを。そうこうしているうち、彼が異動になったんです。栄転ですよ。入れ替わりに私が宣伝課長になった」

 今振り返ると、恋も仕事も怒涛のような四年間だったと彼女は言う。
「苦しい時もありました。連絡したいけど連絡できない。会いたいときに側にいてくれない。彼が好きだったから全部乗り越えられた。仕事をする人間としても、女としても彼には感謝しています」

 ただ、と彼女は口をつぐんだ。思いはほかにもあるらしい。しばらくたって、これは彼のせいではないけれどと前置きをした。

「ある意味では婚期を逃したかもしれないと、最近思ったんですよね。もちろん、彼と付き合っていなくても結婚しなかったかもしれないけど」

 いつか結婚できなくても、同居するとか近所にお互い単身で住むとか、そんなことができたらいいねと語り合ったこともある。オレ一生、きみとつきあっていきたいと彼に宣言され、うれしくて涙を流したこともある。だが、すべては思い出、そしていつかその思い出も薄れていく。

 いや、それは違うと思う。彼にしてみれば、危険な目に遭わないまま恋は終わったのはよかったかもしれない。だが、彼女を失った傷は案外深いはずだ。彼女が最後のよりどころだったのだから。

 彼女の人生はまだまだ長い。会社員としても先は明るい。彼女は、「わかりませんよ、どうなるか」と言った。どうなるのがわからないのは、希望と未来があるということだ。五十代の男の先は、ほぼ見えている。見えているなりに希望があるが、見えない希望のほうが期待値が高いのではないか。

 三十代の女性に、五十代の男の心理は理解できないだろう。
「彼の部署が変わって違うフロアになったので、めったに顔を合わせなくなりました。でもつい先日、廊下でばったり会って。短期間で老けたなあと思ってしまった。女って、というか私って情けがないですね。自分でも驚くほど、気持ちがぶれなかった」

 それが一般的にいって、女のいいところでもある。常に前しか見ていない。別れた男に心揺らぐことはない。関係のなくなった男を、急に客観的に見ることができるのは、女ならではだ。男はもう少し心優しいので(優柔不断とも言うが)、それほど別れた女に辛辣にはなれない。

 若い女性は、ある程度経験を経た男をステップボードにしがちなのかもしれない。それは目的でなく、結果論として。男には、そういうこともあるという覚悟が必要なのではないだろうか。

同世代妻の心理

 かつて「不倫」というば、既婚男性と独身女性の組み合わせが圧倒的だった。だが、今は既婚者同士が、おそらく数の上では逆転しているのではないだろうか。

 これには男女どちらも意識の変化があったと思う。女性は結婚して家庭生活を営んでいくうちに、「恋愛と結婚は別だった」と気づく。以前だったら、結婚は恋愛と決別することだったのが、今は、「別物」だから、結婚していながら恋愛をすることに、昔ほど抵抗はない。倫理観が変わったのだ。

 かつて、男たちは「仕事とセックスは家に持ち込まない」と言っていた。今は女性たちが、それを声高に言うようになった。家庭だけがよりどころだった女性の人生が、より外に向かって開かれた結果だろう。フルタイムにしろパートにしろ、外で働くのが当たり前になっているのだから。専業主婦だって家に閉じこもっているわけではない。趣味や子供の関係、PTA、ボランティアなど、外に出る機会はいくらでもある。

 そもそも、アラフィフ女性は、バブルも知っているし、自分も社会で働いた経験のある人がほとんど。その前の世代のように、一度働いたことがないままに見合い結婚した人は少ないし、団塊世代ほど挫折感を味わってもいない。恋愛に対しても、だいぶオープンになった時代に思春期を過ごしている。

 一方、男性は、「若い独身女性とつきあうより、きちんと話ができる同世代のほうがいい」と思うようになった。もとよりバブル時代のように、金で若い女性の歓心を買うことはもうできない。しかも、若い女性は「不倫なんて自分が損するだけ。そんな恋はしたくない」と考えている。

 男女どちらも変化したせいで、既婚者同士の組み合わせが増えたのだろう。と同時に、「不倫」と「婚外恋愛」へと呼び名を変えつつある。

 ともに既婚だとさまざまなメリットがある。

「お互いに家庭を大事にという共通認識があるから、無理をせずに付き合える」(四十五歳)
「結婚を目的としていないから、純粋に恋愛を楽しめる」(四十八歳)
「ふたりでいるときがすべて。その時間のために、つらかったり面倒だったりする日常生活もがんばれる」(五十歳)

 そして、あくまでも結果論ではあるが、「恋愛することによって心身ともに満たされ、配偶者に対していらいらしなくなった」との声も多い。

 独身時代の恋人とつきあって三年になる高橋歩美さん(四十九歳)は、「もちろんいいことをしているとは思わないけど」と前置きしながら話してくれた。

「元カレと夫は同い年なんです。私より三歳年上の五十二歳。夫は最近『疲れた疲れた』と愚痴ばかり。それを彼に言ったら、『男だって五十歳を超えると、それまでと疲労感が違ってくるんだ』って。そんなものかあと思いながら、夫を緩く見守ることができるようになった。夫に感じる疑問を彼に尋ねることができるのはありがたいなと思います。彼も奥さんに対する苛立ちを私に。どう思うって聞いてくることもあるので、私は奥さんの味方をしています」

 セックスを含めた恋愛の形を取りながら、お互いの配偶者や家族の相談までできる。こんなに居心地のいい関係を、そう簡単に手放す気にはなれないだろう。

★恋愛相手には「女」を全開

「ただ、夫にも恋人にも思うことだけど、男って弱いわよね」
 そう言うのは、長年の友人である武田真智子さん(五十三歳)だ。彼女は、仕事で知り合った一つ年下の男性と、この二年ほど関係を持っている。

「彼、仕事でもいい立場にいる人なんだけど、裏では愚痴が多い。家庭のこともよく言ってるわよ。奥さんは口うるさいとか。元気で働けるだけありがたいじゃないのって私はいつも言っているんだけど。『きみはいつも元気でいいよね』って恨みがましく言われた。彼だって外では、いつも元気でパワフルな部長だと思われているのにね。そう見せているだけなのよね。男って、ずっと見栄張って生きなくちゃいけないだと分かったわ」

 男は見栄を張ることで、なんとか「男」を保っていられるかもしれない。その「見栄」まで含めて愛せるかどうかが、こういう恋が続くかどうかの分かれ目なのだろう。年齢が近い女性の方が、男を受け入れてくれるには違いない。

 そういえば、同世代の男友だちが、
「男にとって、魅力的な女性とは包容力があるかどうか。最終的にはこれがすべてだと思う」
 そう言っていたことがある。ある意味では、男の都合のいい言い方なのだが、女性にしてみると、夫に対してそこまで包容力を持てないが、恋人に対しては発揮できるのかもしれない。恋愛という魔法にかかっているし、生活を共にしていない分、負担が小さいからだ。

 女友だちの真智子さんにその話をすると、「わかるわあ」と笑った。
「彼のわがままを聞いてあげたくなっちゃうのよ。でも夫にだと『ぐだぐだ細かいことを言ってるんじゃないわよ』と思う。私なんて、夫には『ちゃんとお風呂掃除しておいてよね』って上から目線なのに、彼には『私のために無理して時間を作らなくてもいいから。待っているから』なんて乙女なことを言っちゃうの。恋って特別なものなのよね。やっぱり」

 恋愛相手には女を全開する、と真智子さん。夫は「家族」だから、女全開というわけにはいかないそうだ。

「典型的だなあと思ったのは、昔、うちの夫が転職して起業すると言ったとき、私、全力で止めたの、子どもが小さかったし、私もフルタイムで働き続けられるかどうか自信がなかったから。だけど、恋人が『定年を早めて起業しようかと思う』と最近、言い始めたのよ。『がんばって、あなたならできる。私も協力するから』って言っちゃった。生活の基盤が一緒でないし、彼個人のことだけ考えればいいからそういう発言になるのよね。でもやっぱり奥さんには反対されているみたい」

 立場が違うのだ。妻は同じ船に乗った同志。夫がこけたら自分もこける可能性がある。だから無謀な申し出を認めるわけにはいかない。だが恋人は別の船に乗っている。応援しやすいのだ。いざとなればこちらの船から救助することはできるかもしれない。

「無責任といえば無責任かもしれない。でも恋ってそういうものじゃないかしら。大人同士だもの。だからお互いの配偶者に迷惑かけたら終わりと決めていますよ、私たちは」

 彼が携帯電話を見られて疑われたことはあった。真智子さんは、そんなときでも動じなかった。

「私と続けたいんだったら、細心の注意を払ってね」
 ひと言だけぴしりと言ったそうだ。現代の婚外恋愛は、女性主導になっている。

夫婦は家族、恋愛は外で

 前述の真智子さんもいっているが、アラフィフ女性たちの間では、急速に「恋愛と結婚は別」と言う考え方が広まっている。だからといって、開き直っているわけではない。人に知られたらいけない、いいことをしているわけではない、いつか天罰が下る。みんな心の隅にそんなふうに思っている。葛藤もある。それでも、恋心を止めることはできないのだ。

「恋はいいこと」「ときめきは大事」と信じ込んで、若い頃から生きてきた世代だ。男たちが「恋したい」と言うようになったのも、同じ流れではないかと思う。

「私は不倫なんて絶対にするまいと思っていました。自分にそんなチャンスがあるなんて信じられなかったし。ただ、夫との関係がどんどん友だちみたいになっていって、今さらセックスなんてできないと思うようになった。それでも、人肌恋しいときはあるんですよね」

 神妙な顔でそう言うのは、田所紀子さん(五十五歳)だ。一年前、かつて会社でお世話になった先輩の訃報が届いた。

「短大を卒業した会社で、一番かわいがってくれたのがその先輩でした。私は二つ年下の人と、三十歳のときに社内結婚しました。だから彼は、夫の先輩にあたる人です。還暦直前だったのに」

 夫は会社から、紀子さんは家から通夜に駆けつけた。当時の同期や仲間たちとも会い、みんなで精進落としに行くことになった。夫は会社に戻らなくてはならないと去って行った。

「久しぶりに会った仲間たちと話をしているうち、当時からよく話をしていた同期のよっちゃん、佳宏という名前だからよっちゃんなんですが、彼が隣に座り込んで。『紀子さん、いい女になったなあ。だんなさんがいいんだろうなあ』と。『何言ってんのよ。うちなんかもう、ただの同居人よ』なんてお決まりの会話があった。でもよっちゃん、しつこいんですよ。きれいだ素敵だを連発。お世辞でもうれしかったけど」

 五歳年下のよっちゃんも、今では立派な部長になっていた。だが、紀子さんからみれば、やっぱり「やんちゃな後輩」でしかない。

 帰り道が同じだったため、よっちゃんは、紀子さんを送っていくと言ってきかなかった。
「みんなでぞろぞろ駅まで行く間に、よっちゃんは私の腕をとって別の道へ。『ちょっと、何するのよ』と言っていると、ビルの陰で、いきなりキスをしてきた。何が起こったか分かりませんでした。突き飛ばそうとしたんだけど、ぎゅっと抱きしめられて。それがなんかとても心地よくて」

 実は紀子さんは、その二か月前に父親を亡くしたばかりだった。気落ちした母を慰めたり、遺品の整理をしたりと忙しくしていたため、自分の悲しみを棚に上げしていた。それがよっちゃんに抱きしめられたとたん、気持ちが解放されたのだろう、いきなり泣き出してしまったのだという」

「『ごめん』と、よっちゃんはあわてて離れました。でも、違うのと説明して。そうしたらもう一度、しっかり抱きしめてくれた。正直言って、あのとき本当に心が救われたような気がしたんです」

 そのまま彼に抱かれるようにして歩き、駅の反対側のラブホテルへ。
「軽率な行動だったと思います。だけど、あのときの私の心理状態は、たぶん普通じゃなかった。涙が止まらないんですよ。たぶん、ずっと泣きたかったのね。でも、夫は私が泣ける場所ではなかった。知らず知らずのうちに、自分の感情を押し殺していたから、あんなに泣けてしまったんだと思う。そのまま電車に乗れる状態ではなかったし、お店に入っても不審がられるでしょう。だからホテルに行ったのは、ある意味では助かったんです」

 部屋に入っても、よっちゃんは、彼女をただじっと抱きしめるだけだった。ようやく泣き止んだ紀子さんは、心が少しだけ軽くなっていることに気づいた。

 それからふたりはぽつりぽつりお互いの今までを話した。その日は、本当になにもしないままホテルを出たのだという。

「私たちの年齢になると、男性も性的欲望だけで女性を見るわけじゃないんだとわかりました。昔を知る仲間であるだけに、もっと人間的な愛情が行き交うものなんですよね。ホテルに連れ込んだよっちゃんを、最初は何この人と思ったんだけど」

 そこで終わっておけばよかったかもしれないと、紀子さんは小さな声で言った。そう、一週間後、彼女はよっちゃんと関係を持ったのだ。

「彼とだったら関係を持つことで、もっと心が安まるんじゃないかと思ったんです。でも考えたら、夫の知り合いでもあるわけで」

 ベッドの上で、よっちゃんは何度も「うれしい」と言ったそうだ。
「昔から私のことを好きだったなんて、調子のいいことを言っていました。あのとき、彼は先のことなど何も考えていなかったんだと思います」

 翌日もその翌日も、彼からは連絡がなかった。私たちの年代では、最初のセックスをしたときは、まず男から連絡するものだという不文律がある。逆に言えば、男から連絡がなかった場合、その関係が続くかどうか、限りなく暗雲がたちこめるということだ。

「若い頃はそうだったけど、もう大人ですから、私から連絡しましたよ。それでもよっちゃんは何も言ってこない」

 三日後、やっとメールが来た。「よく考えたら、この関係はまずいのではないか」という内容だった。

「ふざけた話ですよね。そんなの分かり切っているじゃない。なのに一歩足を踏み出したわけです。共犯で。一度きりで逃げるのかとメールで返してやりました。なんだか悔しくて」

 だか、よっちゃんからは「ごめん」という返信が来ただけ。

 こういう男のふがいなさは、女の神経を逆なでする。
「どうして謝るの、私と関係を持ったことは間違いだったと思っているの? と、しつこくメールをしてしまいました。恋愛だと思っていたのに、私の気持ちを弄ばれた気がして耐えられなかった。彼としては、夫のことを知っているわけだし、逃げたい一心だったんでしょうけど」

★逃げに走る男が女の心を逆なでする

 はたと現実に返ったら、よっちゃんは自分のしてしまったことの重さを実感したのだろう。
 撤退するなら早い方がいい。その気持ちはよくわかる。だが、連絡を取らない、逃げの一手に走るのは、女性を深く傷つけ、下手をすると追い詰めるだけだ。行き場を失った女性は暴走するしかなくなる。

「どうしてそういう態度をとるのか、とにかく腹が立ってどうしようもない。ひと言、『会って話そう』と言ってくれればすむのに」

 ただ、男性に言わせれば、会って大泣きされたらどうしよう、わめかれたらどうしようと思うと、逃げるしかなくなるみたいだ。いざとなったら、保身に走るしかないのが、若くない男のありようなのだろう。

「年賀状を探し出して、彼の家に手紙を出しました。奥さん宛てにね。『おたくのだんなさん、浮気をしていますよ』って。彼、相当、とっちめられたのでしょうね。連絡してきました。『思い出を汚いものに変えないでくれ』とメールでね。この文面にも頭にきた。許せなかった。私がどんな思いでいるかなんて、まったく考えていなんだから」

 同性として気持ちはわかるが、私は内心、やりすぎだなと思っていた。恋の責任は五分五分である。彼がいくら卑怯で腹が立っても、彼の奥さんまで巻き込むのは違う。引くに引けなくなって、どこまで突っ走っていく感覚はわかるが、歯止めをかけるのは自分自身しかない。

 一方で、やはり彼の優柔不断さにも感心しない。出てきてひたすらに謝ってしまえばいいものを、そうしないから彼女をどんどん追い詰め、凶暴にさせてしまうのだ。

 このあたりは男女の永遠のテーマなのかもしれない。
 彼女は再度、奥さんに手紙を書くという。

「彼が彼女にきちんと会って謝らないと、社内での地位も危ないかもしれませんよ」
 と。善意の第三者を装った脅迫でもある。だが、紀子さんは、彼は警察など行かないと知っていた。

 数日後、ついに彼からは紀子さんに電話がかかってきた。
「本当に申し訳なかった。だから『一度したら怖くなったの?』と訊いてみました。そうしたら『そう。自分勝手だし情けないし、本当にあなたには申し訳ないと思っている』と。『わかったか。あんたには浮気なんかできない。二度とするんじゃないわよ』と言って切りました。力が抜けました。私、恋が始まったってひとりで浮かれていたんですよ、たぶん。自分のみっともなさにも気づいた」

 その日、帰って来た夫を見たら、なぜか急に懐かしいような気持ちになったのだそうだ。
「夫に言ったんです。『私がお父さんを亡くしたとき、あなたは慰めてくれなかったわね』って。そうしたら、『おまえが必死に踏ん張っているのがわかったから、ここで慰めたら返っていけないんじゃないかと思っていた』と。

その後は徐々に立ち直っているように見えたそうです。ああ、夫は夫で、そんなふうに見ていたのかと。本当は泣きたかった、思いっ切り、そう言ったら『泣かせてやれなくてごめん』って。そのとき、ふと思ったんです。夫は私とよっちゃんのこと、もしかしたら気づいているのかもしれないと。なんの根拠もないけど、ひょっとしたら‥‥」

 もしそうだとしたら、紀子さんの夫は、かなり器の大きな男ではないか。実は身近なところに、いちばんいい男が存在している可能性はあったのだ。

 紀子さんは今、夫婦関係をもう一度、見つめ直そうとしているのだそうだ。
「夫も男、彼も男。私にとってあの恋は何だったのか、恋と言っていいのか。そして夫は私にとってどういう存在なのか。今ここで、きちんと考えないと、老後、もっと大変なことになるような気がして」

 彼も、もしかしたら自分自身について、深く考えていないかもしれない。「あの関係」を、どのように評価し、どう自分の中で整理していくか。それによって、恋がいいものにも悪いものにもなるのではないだろうか。

夫の恋愛がわかったとき

 アラフィフ男性たちの妻は、夫が外で恋愛しているのがわかったとき、いったいどういう気持ちになり、どんな対処をするのだろう。

 結婚年数や普段の関係などによって、思うところが変わってくるはずだ。
 結婚二十五年、五年前に夫の浮気がわかった細野優子さん(五十歳)は、当時を思い返すと、いまだに悔しさが蘇るという。

「五歳年上の夫が五十歳のときです。簡単にわかりましたよ、急に外泊したから。今まで酔っていても無断で外泊なんかしたことのない堅物。家でも様子がおかしかった。夫が恋愛しているなんて信じられなかったけど、相手の女性とのベッドでの写真が携帯電話に入ってた。ええ、見ました、夫の携帯を。そのまま突きつけてやりました」

 すると夫は、いきなり土下座して泣き出した。いきり立っていた優子さんの気持ちを考えた。
「夫は頑固だけど頼りがいのある人。私はそこが好きだったのに、床に頭をこすりつけて、ぼろぼろ泣いて。罪悪感から泣いているのかと思ったら、『彼女のことが本気で好きなんだ』って。相手を知って絶望的な気分になりました。夫より八歳も年上だったんです、もうじき還暦じゃないですか。失礼だけど、『どうしてそんな年寄りと』と言ってしまった。いえ、ふだんだったらそんなことは言いませんよ。私だってあっという間に還暦になるんだから。でも、そのときは頭に血が昇ってて」

 その彼女は、五十八歳とはいえ、社交ダンスの名手で、自分の夫が経営する会社の役員。スポーツジムで知り合ったのだそうだ。

「彼女は体を鍛えているせいか、セックスが合うんだって夫が言ったんです。年上の女性とのセックスに溺れているとわかったら、私、いきなり吐いてしまった。夫とはもう十五年くらいセックスレスでしたからね。私としないでどうして還暦の女とするのよ、と殴りかかったような気がすます」

 それにしても、この年代の男性もまた、自分の恋愛を隠し切れず、土下座してしまうのか。
「たとえ女の上に乗っているのを見られても、セックスしているとは認めるな」という男の世界の不文律はどこへ行ってしまったのだろう。

「苦しかったと言っていましたね、秘密をもって生活していることが。『じゃあ、これからどうするのよ』と言ったら、『わからない』と。わからないことは、続けるってことですよ。それ以来、夫はなぜか急に日々、妙に上機嫌。私にばれてほっとしたのと、今後は隠さなくともよくなったと思っていたんじゃないでしょうか。私としては、様子を見るしかないと思っていました。じたばたしてもしかたがないもの。少しだけ時間が経つと、急に冷静になりました」

 妻の気持ちを全く考えない言動だが、優子さんも離婚まで視野に入れていなかった。

「その代わり、年とって介護が必要になったら、絶対に復讐してやると誓いましたね」

 だが、夫は、半年もしないうちに、以前と同じように生活するようになった。遅くなることもなければ、もちろん外泊もしない。かといって不機嫌になるわけでもなかった。

「まあ、その関係は終わったんでしょうね。むしろ、夫は終わらせたかったのかもしれません。だから私が気付くとほっとしたのかな。男としてはどうなんだろうと思いますが」

 一時でも他の女性に気も体も許したことを、妻としてはどう考えているだろう。
「そりゃあ不愉快でしたよ。今でも不愉快」
 優子さんは顔をしかめる。

「正直言うと、女として嫉妬したかと言われると疑問ですね。むしろ、ああ、私は夫を男として見ていないんだなと再確認したような気分。うちは仲が悪いわけではないけど、夫から見ると私が長女で、娘ふたりが次女と三女みたいなものだから。甘えてはいるけど、女として夫に甘えていたわけじゃないんだとはっきりわかりました」

 だが、夫はその「長女」対しては土下座までしてしまったのだ。関係が変わることはないだろうか。

「変わったと思います。逆転して、私が母、夫は息子みたいになった。夫としたらそれが楽になったのかもしれませんね。最近、何となくそんな気がしています」

 家庭内はごく平穏。あの一件があったからといって、冷戦状態になっているわけでもない。
「よく夫が浮気すると、そのころ夫が身に着けていた下着を全部捨てる女性がいるらしいですよ。でも私は、そういう気にはなれなかった。年上の女性を好きになったのはショックだったけど、相手に個人的な恨みは抱きませんでした。やっぱり私が夫を、どこか突き放して見ているんでしょうね。本当に男として好きだったら、絶望的な気になるんじゃないかしら」

 優子さんのさっぱりした性格も大いに起因していると思うが、こういう女性もいるのだ。誰もかれも夫の浮気に激怒して嫉妬するわけでもない。

★ 疑惑があっても放っておく

「いや。むしろ夫の浮気はつつかず放っておくんじゃないでしょうか。この年齢だったら。私もそうです」

 浅田美幸さん(五十六歳)は、ここ二年ほど、夫の行動に不信感を抱いている。結婚して二十年、夫は十歳年下だという。五十六歳には見えないほど若い美幸さんが、不断の努力があってこそのようだ。

「年上だから、ずっときれいでいなくちゃとがんばってきたんです。結婚したときから、『絶対浮気されるよ』とみんなに言われてきた。でも、彼が私以外の女に心を移すなんて考えられなかった。心から愛あっていると信じていたら」

 だが、五年ほど前から美幸さんは、ひどい更年期症状に見舞われた。頭痛や吐き気などの身体症状のほか、精神的にも落ち込みが激しく、日常生活に支障をきたすほど。長いこと働いていたパートの仕事も辞めざるを得なかった。

「そのころから夫の様子が少しおかしくなったんです。私に対して腫れものでも触るかのような感じ。具合が悪いから、そんな態度をとるしかないんだろうなと思っていたけど、あれは浮気の始まりだったんだと思う」

 サラリーマンの夫の生活が、急変したわけでもない。ただ、それまでは美幸さんに任せていたスーツやネクタイの購入やコーディネイトを自分でするようになった。見たことのないネクタイや下着が増えていく。家ではテーブルの上に放っておいた携帯も、おそらく肌身離さず持っていのだろう。見かけなくなった。

「これで夫が冷たくなったりかえってこなくなったりするならともかく、今のところあまり変わっていませんから、なんとなく泳がせています。ただ、私の妹が都内の繁華街で、若かい女と歩いている夫と偶然、ばったり会ったんですって。わざと『お義兄さん!』と声を掛けたら、最初は気づかないふりをしていた。だけどもう一度声を掛けたら、『あ、おう、久しぶり』と言って『悪い、仕事で急いでいるから』と逃げるように去って行ったそうです。夜九時に女と一緒にいて仕事でもないでしょう。妹から電話があったので、その日は寝ないで待ってました。終電で帰って来たけど、なんだか落ち着かない様子でしたね」

 それで美幸さんは、あえて夫に尋ねたりはしない。結婚生活を壊したくないのと、真実を知りたくないのと、両方の思いもあるからだ。

「年齢を考えると、今さら離婚はしたくない。大学生の息子に心配させたくないしね。私自身も、ただでさえ心身がきついのに、これ以上、今は傷つきたくないんです」

 とはいえ、人間は不安定な状態を長い間、続けていけるのだろうか。白黒はっきりつかない中で暮らしていくのは、相当、強靭な精神力が必要だと思う。

「今の私は白黒はっきりさせるほうが辛いんです。最近、夫はときどきぼんやりしていることがある。彼女とうまくいっていないのかなと思ったり、そんなの私が心配することじゃないのに。ただ、夫の心が揺れ動いているのは妻も知っています。何も言わないからばれていないと思ったら大間違い」

 最後だけ、美幸さんは語気を強めた。怒り不安をため込んでいるのだろう。夫に向かって吐き出すことができない分、表情が苦しそうだ。他の女性と関係を持っていると濃厚な疑いがある夫と一緒に暮らしている気持ちはどんなものだろう。残酷な質問だと思いながら、美幸さんに訊いてみた。

「うーん」
 彼女は唸ったまま口を閉ざす。ぽたり、と目から雫が垂れた。しまったと思ったが後の祭りだ。彼女は落ち着いてバッグからハンカチを取り出すと、そっと目を拭った。私はこういう場合、見て見ぬふりを決め込む。

 取材中、こうした場面はよくある。私は極力、目を逸らす。その後、「ごめんなさい」と言う人と、あたかも涙などこぼさなかったように話し続ける人がいる。後者は、一見、気が強そうで実は脆いタイプなのではないかと推察している。美幸さんは後者だった。

「辛くないと言えば嘘になるけど。正直な気持ちとしては、身も心も戻ってきてもらいたい。でもここで騒いで悪い方向へ行くくらいなら、今は我慢のしどころかなと思うんです」

 恋は落ちてしまうものだから、善悪を考えて踏みとどまることができるとは限らない。まして多くのアラフィフ男たちは「遊び」ではなく、本気になりがち。そこで妻の気持ちを考えろと言うのは難しいのかもしれないが、恋をするなら、やはり確信犯であってほしい。疑われるような言動はしてはならない。もちろん、みんな疑われるとは思っていないし、隠し通せると信じているから、よけい始末に負えないのだが。

「長い人生だから、夫だってこいのひとつやふたつはするはずかもしれないと悟りきった気持ちになるときと、このまま夫が去って行くのではないかという不安。その間で、私は足下がぐらつきながら耐えている。そんな感じですね」

 人の心は縛れない。だからこそ、この状態の配偶者はつらい。

★夫婦とは……

 婚外恋愛の取材を続けてきていつも思うのは、いったい結婚や夫婦とは何だろうということだ。

 特にかなり多くの既婚女性たちが、「恋愛と結婚は別」と声高らから言うようになっている今、結婚に意味があるのかと思ってしまう。

 もちろん、彼女たちだってもともと浮気しようと思って結婚したわけではない。一生、この人と仲良くして添い遂げてようと誓ったはずだ。だが、時間というのは残酷なもので、あの日の誓いも恋愛感情も。結婚生活の中では見失っていく。逆に言えば、それが自然なことでもあるのだろう。いつまでも恋愛感情でいっぱいの結婚生活は、落ち着かないような気がする。

 恋愛感情とは、浮ついたもの、熱病みたいなもの。結婚生活を送る上での精神状態とは対局にある。だから両方を手にした男女は、ある意味ではバランスがとれているのかもしれない。
「結婚しているから恋愛ができる」

 そう言った男性がいて、なるほどと感じたことがある。もし自分が五十歳未婚だったら、恋愛に腰が引けてしまう、と。確かに、世間の見る目も違うだろう。
「再婚したとたん、モテるようになった」

 別のアラフィフ男性も、実感を込めてそう言った。
「独身のときモテればよりどりみどりだったのに、世の中そう甘くないんだよね。一度失敗しているから、今度はうまくいきそうな人と気楽に暮らしていきたいと思って再婚した。そうしたら、若くてきれいな女性とデートできちゃったりする。独身のときは、まったくそういう女性が近寄ってこなかったのに。まあ、若くてきれいな女性と結婚したいとは思わないけど」

 結婚しているからこそ、「若くてきれいな」女性が近づいてくる。誰かに愛されて結婚した人なら、ただの独身より安心できるということなのかもしれない。

 結婚と恋愛は本来、ひとりの人とできることではないだろう。結婚相手と深く静かに愛を育んでいくのがいちばん幸せなのだとは思う。だが、人は安定していると、一方で不安定要素を求めることもある。それがいろいろな意味で、刺激になるからだ。刺激は人に向上心を植えつけたり、やる気にさせる。人間は、どこまでも貪欲で、ないものねだりをするものらしい。
 
 つづく 第六 五章「最後の恋」のゆくえと決断