自分を解放したい、男性に欲望を抱いたらその気持ちに忠実に行動してみたい、と感じている女性は多い。ところが多くの女性は行動できない。

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第14章 解放

本表紙 亀山早苗著

心を解き放つとき
セックス観を見直すきっかけ

 自分を解放したい、男性に欲望を抱いたらその気持ちに忠実に行動してみたい、と感じている女性は多い。ところが多くの女性は行動できない。行動できないことに忸怩(じくじ)たるものを抱えている女性も多いようだが、ある意味ではできないのが当然だと思う。

 ある意味というのは、現実的に考えれば、女性が自分の欲求を満たすために、男性をナンパするような文化はまだ育っていないといことだ。万が一、誰かと知り合って欲望の炎を感じ取ったとしても、その男性がまともな人がどうかは、そう簡単には分からない。

 ふたりきりの空間にいってみたら、急に態度が変わるかもしれない。ひょっとしたら女を殴らないと興奮しない、というような、とんでもない性癖を持っているかもしれない。そう考えると二の足を踏むのはごく当たり前だろう。

 だが、自分の欲望を感じていながら行動をしないだけなのか。欲望自体を否定するような価値観を抱いているのか、そこには自身を見極める必要がありそうだ。なぜなら、偏狭な価値観に縛られているのは、とてもつまらないことだから。

 ある女性にこんな話を聞いた。彼女は浜本千鶴さん(三十五歳)といい、外資系の会社で有能な秘書として働いている。彼女は、一年ほど前、信頼していた女友だちに裏切られたのだと言う。その女友だちが不倫をしてしまったからだ。

「彼女は大学時代からの友だちなんですが、今では恋愛するなら相手は独身だよね、とお互いにいつも言っていたんです。私、やはり不倫と言うのは間違いだと思う。

どうしても世間で認知されているのか、認知までいかなくても、人が寛容に見ているか不思議で仕方ないんです。それなのに彼女、転職したとたん上司との不倫に走って」

 それまでの彼女とは変わってしまった、と千鶴さんは嘆く。女性のたしなみとして、セックスの話を口にすることはまずなかった女友だちが、千鶴さんに向かって、

「彼とのセックスは本当にいいの、私、初めてイクっていうのがどういうのか分かったわ」
 なでて言うようになったのだと言う。
「信じられませんでした。不倫の恋愛をしているというだけで、私は彼女を見る目が変わってしまったのに、あんなにぬけぬけとセックスの話までして。だから私、それ以来、彼女と付き合っていないんです」

 なぜ不倫がいけないのか。そう問うと、彼女は大きな目を見開いて逆に問い返してきた。「なぜいいんですか」と。

 私は決していいと思っているわけではない。人を好きになる気持ちに、他人から善悪の判断をつけることがおかしい、と感じているだけだ。だが最後まで、千鶴さんに私の気持ちは分かってもらえなかった。

独身同士の恋愛、夫婦だけのセックスは正しくて、どちらかが既婚であったならそれはどんなに惚れ合っていても「汚らわしい関係」だと断罪する。そういう価値観こそが問題ではないのだろうか。

失恋が人生を変えた

 自分自身が、すでにもっている価値観から、どう解き放たれるか。特に、セックスにおいては、幼い頃から培われた価値観を崩してみたら、急に気持ちが楽になるということがあるのではないだろうか。

 ある「事件」がきっかけで、自分の価値観がまるっきり変わった、という女性がいる。阿部伶香さん(三十六歳)が、その人。ショートヘアが、生き生きとした表情を、より際だたせている。こんなに明るい女性なのに、三年前は人生のどん底だったという。

 婚約していた恋人に突然振られたが三年前。彼に、新しく好きな人ができてしまったのだ。
「ショックでした。私は彼に、『その人のどこがいいの?』と尋ねたんです。彼は何も言わなかったけど、私、しつこく聞き続けました。そうしたら、ようやく、思い口を開いていったんです。

『彼女といると気が楽なんだ。セックスも楽しいんだ』って。私とのセックスは、楽しくなかったということでしょう? 私は女として、魅力がないんだってすごく落ち込みました」

 伶香さんは、セックスでわれを失うことがなかった。セックスの最中でも、いつもどこか冷静で、

「男はどうしてこんなことが楽しいのかしら。どうして私は、こんなに足を開いた、みつともない格好をしているのかしら」
 と感じながら、天井を見ていたという。

 確かにセックスのとき、自分の姿を客観的に想像して、「みっともない格好」に幻滅を感じる女性は多い。相手とのセックスに興奮したり歓びを感じたりする以前に、心が冷えたままというのが、セックスに没頭できない女性たちの悩みだ。

「もちろん、好きな人と抱き合うのは嫌いじゃないし、気持ちが悪いわけじゃなかったんですよ。だけど、なんだか心のどこかに罪悪感があるというのか、酔えなかったんですね、セックス自体に」

 彼にふられて、生きる指針を失った。結婚して、「いい妻、いい母」になるはずだったのに、その人生の予定を覆されてしまったのだ。落ち込む伶香さんに、小学校からの親友が、ぽつりと言った。

「あんた、いつから良妻賢母が夢になったの? 昔は、いつも、バリバリ働くのが夢だって言っていたのに」

 その言葉で、伶香さんは我に返った。学生時代からつきあっていた彼とは、就職を機に。なんとなく疎遠になっていった。その後、付き合い始めたのが、その婚約者。三年ほどつきあったころで、伶香さんは「私たち、この先どうなるの?」と彼に尋ねた。それに呼応して、彼が結婚の話をした。

 自然の流れだと伶香さんは思っていたが、よく考えてみれば、伶香さん自身、彼を本気で好きだったのか、そろそろ「結婚という着地点」落ち着くのがベストだと感じたのか、自分でも、わからなくなっていた。いずれにしても、彼とは、「大恋愛」とはいえない。

「最後に会ったとき、彼が言ったんです。『何度も裸で抱き合った関係なのに、僕は最後まで、きみという人間が、ほとんど分からなかった』って。そのときは、分かろうとしなかった彼が悪いんだ、と思っていたんですが、後からよく考えてみると、私は、彼に、やはり心は開いていなかったんだと思う。心を開かない相手とセックスしても、楽しいはずはありませんよね」

今、伶香さんは、晴れやかな笑顔でそう話す。ということは、今は幸せな状況にいるということだろう。彼女は、どうやって失恋のショックや自信喪失と、闘ってきたのだろうか。

「失恋して、親友に弱点を指摘されて、すっかり自分のことが嫌いになってしまったんです。半年くらい落ち込んでいましたけど、自分で、何とか立ち直るしかない。それで今までしたことないようなことをしてみよう、と思い立って、外国にひとり旅してみたんです」

 セックスに対して、相手に対して心を開けないのはなぜなのか。ひょっとしたらそれは、自分自身にオープンになれない、自分の人生を楽しんでいないことにつながるのではないだろうか。

新しい恋に飛び込んで

 思い切って二週間の休暇を取り、ロンドンへ行った。ウェストンエンドで大好きなミュージカルを見まくり、街を闊歩した。そして、ロンドンについて五日目、とあるカジュアルレストランで、現地に住んでいる一歳年上のイギリス人男性と知りあう。

「隣同士のテーブルで、お互いひとりで食事をしていたんです。目が合うと、彼はにこと笑った。でも、外国では。目があって微笑むのは当たり前のことだから、私も微笑み返しただけで、あとは。ガイドブックに目を落としていたんです。

そしたら、『どこからきたの?』って話しかけられて。最初は当たり障りないこといっていたんですが、彼は、『きみに興味がある。もっと話してよ』ストレートに言ってくれた。彼の目がとてもすんでいて。

直感で、この人は信用できると思ってしまったんですね。それで、実は失恋して、今までしたことのないことをしているんだ、と話しました。彼はじっと聞いてくれて。

その日は、それから飲みに行って、さらに話をしました。初対面、しかも異文化の人だという感覚はあまりないくらい楽しかった」

 彼は会った日から、自分のアパートに彼女を誘った。だが、彼女は、「その気になれない」ときっぱり断っている。失恋してから、彼女はおそらく「自分に正直になりたい」と思い続けたのだろう。だからひとり旅に飛び出した。

ひとり旅することで、自分の人生を選択しているという実感を少しは得ることができるようになったのかもしれない。そしてセックスに関しても「まだその気になれない」と正直な気持ちを相手に伝えることができたのだ。

 それでも、ふたりは三日間、連続で会った。

「彼と出会って四日目が土曜日だったんですが、ふたりでプランをとっているときに、急に、『私、この人のことがとても好きだ』という気持ちが、自分の中から、わきおこってきたんです。

それで、『あなたのアパートに行きたい』と、自分から言いました。昼間から、セックスするなんて初めての経験でした。『私は自分の体にも、自分のセックスにも自信がない』って彼に言ったんです。そういうことって、英語だと、なぜか素直に言えてしまう。

彼は、『大丈夫。僕はきみのことがとても好きだから』って言ったんですよ。『私もあなたのことがとても好き』と、心から言えました。彼は時間をかけて、ゆっくり私の体をほぐしてくれました。そのとき、私は心も同時に、とろけていくような気がしたんです。

彼のリードに身を任せていると、いつしか自分からも、自然とキスを求めたり、彼の肌を唇で愛撫したりしていたら、不思議ですよね、

以前は、『何を、どの程度、したらいいんだろう』と考え込んでしまって。結局、何もできなかったり、あるいは彼に言われて、初めてあわてて愛撫したり、と言うことの繰り返していたのに」

イギリス人の彼とのセックスは、とてもよかったとう。彼のペニスが入ってきたとき、伶香さんは、それまで感じたことのない感覚を味わった。自分が相手を「好きだ」と思い、「したい」と感じた。

相手も同じように思っている。そんなときにするセックスはおそらく極上だ。自ら求めるものが手に入ったとき、人は大きな達成感と満足感を得るはずだから。

「ひとつになっている、という感じ。それがすごくうれしかった。『ずっと入れてて』と叫んだそうです。私。自分でほとんど覚えていないんです。ただただ、気持ちがよかった。彼は最初から、きちんとコンドームを着けてくれていたし、『僕は病気の検査もしている。何も心配しないで』と言ってくれた」

 そんな安心感も、快感に拍車をかけたに違いない。不安や心配があると、特に女性は心身を相手に委ねることができないものだから。

お互い心を開いて

 彼とは、それから毎晩、一緒にいた。彼女はさらに詳しく、自分の経歴や婚約者に振られたこと、今までセックスをいいと思ったことは一度もなかったことを、問わず語りに話した。彼も自分の育った環境や、それまでの女性経験などはなしてくれた。

お互い心を開き、セックスについても話し合った。心を開ける相手に巡り会うのは難しいことだが、伶香さん自身がオープンになっていたから、彼との関係もうまくいったのではないだろうか。

 だが、時間は残酷だ。伶香さんが、日本に帰るときがやってくる。

「私、本当に彼と出会えてよかったと思ったから、この先、もしつきあえなくても、それはそれで納得しよう、と決めていたんです。少なくとも、私は変われた。彼に心を開くことで、肉体的な快楽も得られた。

人に心を開くことの心地よさを知ることができた。もうそれだけでいい、と。帰る前の晩、彼は『距離は遠いけど、僕はきみとこれきりになりたくない』と言ってくれました。それを聞いて私、なんだか泣けてきて。考えたら、私が男の人とつきあって、あれほど感情が揺れたことはなかった。

彼と一緒だと、泣いたり笑ったり、すごく自然に感情が溢れて出てくるんです。その時点では、もちろんお互いを知るには時間が足りなかったけど、私も彼と離れたくないと思いました」

 日本に帰ってから、メールのやり取りが始まった。今も、彼とのつき合いは続いている。お互い努力して、三、四ヶ月に一度は、少なくとも一週間は一緒に居られるように、スケージュールを調整する。会うと、お互いを貧るようにセックスしてしまうのだと、伶香さんは笑う。

「体を重ねることで、お互いの調子がわかるんです。変な言い方だけど。でもね、彼とのセックスがよければよいほど、ひとりになると寂しいんですよ、体も心も。私。以前はマスターベーションなんてしたこともなかったのに、するようになって。

だから、彼と一緒のときに行ったの。『ひとりでいると寂しいから、自分でしてしまう』って。彼はすごくうれしそうに笑って、『ちゃんと僕のことを思い出してよ』って。彼に勧められたこともあって、バイブレーターも買いました。バイブを使いながら、彼とのセックスを逐一、思い出すんです。そうすると、すごく感じてしまって」

 伶香さんは、目を潤ませてそう話す。まるで、彼とのセックスを思い出しているかのようだ。そういときの女性の顔は、無条件で美しい。

 伶香さんは、自分でも驚くほど変わったという。セックスについての考え方がオープンになった。自分に対しても、正直につきあっていくために、お互いに、考えていることは、きちんと話し合うべきだと思うようになった。

「実は私、半年前ほど前に、日本で別の男性と寝たことがあるんですよ。やはり彼に会えないから、なんだかセックスしたくてたまらなくなってしまった。したいときにしたわけだから、肉体的には、すごく感じました。

だけど精神的には、彼のときほど、満足感は得られなかった。そういう経験をしてみて初めて、セックスって、するのは簡単だし、条件反射のような物理的な快感は得られるけど、それだけじゃ、やっぱり完全には満足できないんだなって感じました。

それなら、あえて危険を冒すより、マスターベーションでいいじゃないかとって思えたんです」

 彼のことが好きだから、会えないときはじっと我慢する選択肢もある。だが、彼女はあえて、他の男性としてみた。それによって、体が求めているものと心が求めているものは必ずしも一致しない、と自ら実感することができたのだろう。

 伶香さんは、半年後には、ロンドンに移住するつもりでいる。仕事を見つけ、彼とのパートナシップを、より緊密にしていくつもりだ。結婚という形をとるかどうかは、彼と話し合って決めていくつもりだと言う。

「今の私は、自分の快感がどのくらい深まるのか、すごく楽しみなんです。セックスの悦びを知らないときより、今の方がずっと幸せ」

セックスは自分のペースで

 私も、伶香さんのその意見には賛成だ。あの悦楽を知らないよりは、知っていた方が人生き、数倍楽しいと思う。ただ、セックスが同も好きになれない人もいるだろうし、もともとセックスに対するエネルギーが低い人もいるだろう。そういう人は、もちろん無理する必要はないし、知らないからといって、女性として劣るわけでもない。

 つまり、嗜好品や娯楽に近いものなのだろうと思う。お酒の好きな人は、「お酒が飲めないなんて人生半分、損している」と下戸を評するし、のめり込む趣味を持っている人は、「こんな楽しいことを知らないなんて」と、もったいないと思うだろう。

体質的にお酒を飲めない人間にとっては、損しているなんて、という感覚はない。趣味より仕事の方が充実感を得られるから、趣味はいらないという人もいるだろう。セックスの悦楽もそれと似たようなもの。

興味がある人は極めればいいだけのことで、好きでもないのに無理してするようなものでもない。

 女性誌などが、「セックスするときれいになる」とか「セックスに奔放なほうが、いい女である」というようなメッセージを送るから、女性たちは、ついあせる。

 その結果、長い間、セックスをする機会がなかった女性は、どうしても焦燥感に苛まれる。あるいは、次から次へと男を替えて、それでもなお楽しむことも、快楽を得ることもできずにいる女性も少なくない。

 かといって、私は、「心から好きな人しか、セックスをしてはいけない」とも思っていない。はずみや勢いから、つい、してしまうこともあるだろう。精神的には信頼できないのに、なぜか、肉体的な相性がひどくいい、という相手も確かに存在する。セックスさえよければ、相手の全てがよく見えるというわけでもない。

 かつては、「女はセックスで感じさえすれば、男の言いなりになる」と思われていたが、それは、男たちが作り出した希望的神話だろう。

今の女性たちは、セックスだけに引きずられて関係は断てない、などと言うことはあまり多くないはずだ。一時期、そういうことがあったとしても、その関係が早晩、終わりを迎えるということも、知っているに違いない。

自分を「解放」する歓び

 個人的には、自分の性欲を見つめ、性欲欲求を満たすことに、躊躇を覚える必要はないと思っている。何度も言うが、そこにはいろいろなリスクがあるから、それは自己責任と覚悟を決めたうえでのことではあるが。

「セックスしてみなければ、相手のことを好きになれるかどうかはわからない」
 と公言している女性に会った。三原美世子さん(三十七歳)がその人。美世子さんは二十代で離婚歴があり、それ以来、独身だ。父親が経営していた不動産関係の仕事を引き継き、今は女性社長になっている。

「会社といっても。個人商店みたいなものですから、この不況で自転車操業なんですよ」
 と彼女は快活に笑う。目尻に刻まれ始めたシワが、彼女の堀の深い顔に、穏やかさを与えている。

 美世子さんは、二十九歳で離婚したあと、二年ほど同世代の独身男性とつきあっていた。彼女自身は、まだ結婚に踏み切れなかったが、彼は結婚を急いだ。そこから亀裂が入り、彼とは破局。

「次に付き合った人が、五歳年上の既婚男性だったんです。この人が、まれにみるスケベ」
 きれいな歯をみせて、美世子さんはアハハハと笑う。

「私は若い頃から茶道をやっているので、ときどき着物を着るんです。つきあいだして間もないある日、彼が着物を着て来いと言うから、忙しいのに着て行ったんですよ。

すると彼、一緒に行った小料理屋のカウンターで、身八つ口(着物の袖下、わきの部分)から手を入れてくる、裾をはだけて手を入れてくる。私は、平然とした顔をしているのが大変でした。店を出てから、彼はビルとビルの間の狭い道で、いわゆる『孔雀』をさせたんです」

 孔雀というのは、着物を脱がせず、裾をたくし上げて、後ろからセックスをすること。

「外でするのも初めてだし、ましてやあんな格好で‥‥。エッチな人だなと思いましたが、嫌じゃなかったんですよね。私、もともとは奥手で、二十四歳で結婚するまで、男性と関係を持ったこともなかったんですから」

 彼はそのあとも、彼女とのセックスに、いろいろ新しいものやスタイルをもちこんだ。バイブレーターを使ったのも初めてだし、目隠しをしたセックスの快感も彼に教えられた。

セクシーな男性との一夜の関係

「セックスって不思議なもので、しなきゃしないですむのに、そうやって開発されてしまうと、どんどんしたくなるんですよね。私も快感が高まるにつれて、もっとしたい、と思うようになっていきました。

だけど彼は仕事が忙しいし、家庭もある。会えるのはせいぜい月に二回くらい。私、物足りなくなってきちゃって‥‥。最初は彼に買ってもらったバイブを使ってマスターベーションをしていたんです。でもいつも悶々としていて、彼に『もっと会いたい、どうして会えないの』と文句ばかり言っていました。

あるとき、仕事関係で知り合った人と、ホテルに行ってしまった。この人がまたセックスの相性がけっこうよくて。ただ、私は本命の彼と別れる気はまったくないから、それ以来、たまに『いいな、セクシーだな』と思う人に出会うと、自分から粉をかけるようになっちゃったんです」

 ただし、物騒な現代、危険なことも多々あるので、相手はなるべく身元の分かっている人を選ぶ。行きつけのバーで知り合った人なら、そのバーのマスターに相手のことをさりげなく聞いてみることもある。道端で声をかけてくる男性と、そのままホテルの密室へ行くようなことはしない。

「多いのは、仕事関係の会合で知り合う人かな。何度かデートして、なんて面倒なことはしません。その日にセックス。だって、私は、『デートしたい』わけじゃないんです。『セックスしたい』ですから。自分から誘うときもありますよね。

 露骨には言わないけど、そのへんの阿吽の呼吸で、相手も分かっていることが多いですね。その後も何度か会うことはあるけど、せいぜい二、三ヶ月の関係ですね。

恋人に悪いとは思わない。恋人は恋人、セックスする人はまったく別もの、と考えています。私が不満を言わなくなったので、恋人との関係もうまくいっていますよ。

でも今になると、恋人との関係が不安定だから、他の人とセックスしてしまうわけではなく、セックスしたいからしてるんだ、と割り切っている気持ちの方が強いですね。

セックス依存症なのかな、と思ったことがあります。でも、たとえば仕事が忙しくなると、全然しなくなる時期があるし、必ずしも依存症ではないみたい。ただのセックス好きなんでしょうね。

こんなことは誰にも言えないけど。ただ、道徳観に縛られていた二十代、私はなんだか精神的につらかったんですよ。生きていく自体が、つらかった。でもね、今は生きていくこともまんざら悪くないと思っている」

 最後は声を潜めてそう言うと、美世子さんは微笑した。
 そう言う関係を持つことで、美世子さん自身の気持ちが楽になり、生きていくことが楽しくなったなら、だれが彼女を責められるのだろう。

 自分を解放する、ということは、たくさんセックスすることではない。セックスにおける自分の中の「窮屈な縛り」を解くことだ。その結果、ひとりの人と心身ともに愛しあえることもあるだろうし、相手はひとりでなくても自分自身が精神的に楽になり、セックスを真正面から取り組めるようになることである。

どの道に落ち着くかは、人によって異なるだろう。大事なのは、いろいろ偏見をなくして、セックスを楽しめるようになること。それによって人生を楽しめるようになることだという気がしてならない。

づつく 第15 テクニシャンな女になりたいなら