はげまし方のスタイルが、すれ違いを生む
「はげまし方」「なぐさめ方」におけるこうした男女のスタイルの違いにより、異性に相談する/異性から相談される際、双方に誤解や不満が生じてしまう。そうしたケースをいくつかまとめてみよう。
● 男性から相談を受けた女性にありがちな落とし穴
@ 共感し過ぎる
♂ いやぁ、仕事が今大変なんだよ
♀ そっかぁ、営業の仕事って大変だもんね。わかるわ
♂ (おまえに営業の大変さなんてわかるものか!)
悩みに共感されていることにより、「わかるもんか!」と反発してしまった。男性は自分のプライドを守るため、親しい関係にある友人や恋人などには自分のツラサ、悩みを隠しておきたいと思うものだ(第3章「強がる男」参照)。だから、(彼にしてみれば)安易に「わかるよ」などと共感のセリフを口にされると、自分の弱点・欠点を認めたことになってしまい、「わかるもんか!」という拒否反応が表れてしまう。男性は親しい相手に甘える自分を許したくない、ということもできるだろう。悩みを持った相手には、“共感”で接する女性には、特に注意してもらいたいポイントだ。
A 問題を大げさに捉え過ぎる
♂ 参っちゃったよ。この前、彼女とすごいケンカしちゃってさ・・・
♀(深刻そうに)ええっ! そうなの? 大丈夫なの?
♂(相手の深刻な雰囲気に、逆に驚いて)え―? い、いや、そんなに大したことじゃないんだょ。ほんと、別に大したことじゃないからさあ・・・・
自分から相談したくせに、「いや、そんなことはないよ」と男性が反論してしまったり、悩みの告白を中断してしまうパターンだ。これも女性には理解しづらい反応だろう。「どうして話してくれないのかしら?」(せっかく悩みを聞いてあげているのになんなのよ?)と、相手の男性をいぶかしく思うこともあるはずだ。
男性はなぜ問題を持ちだしたり、悩みを打ち明けることを避けるのだろうか? それは自分の感情に向き合わなかったり、感情を表面に上がらせるのを避けるためだ。第6章「引きこもる男」でも詳しく述べたとおり、男性には“悩みを他人ましてや女には見せないのが男らしさであり、男の優しさだ”というステレオタイプ的な美学がある。さらに「悩む=ダメな人間」という社会通念が作り出した公式に縛られているから、相談相手が自分が思っていた以上に悩みを深刻に扱ったりすると、“お前はダメなヤツだ”というメッセージを相手から受け取ってしまうことになるのだ。また、問題をさらに複雑にされてしまったような気がして、不快になったりもしてしまう。
B 自分の話をしてしまう
♂ この前の検診でさ、rGTPの数値が上がっちゃって。医者に言われちゃったよ、肝臓がけつこうヤバイらしいんだ
♀ そうなの? じつは私もなのよ。最近、歯が痛くてたまらないの。それでね・・・・
♂ (歯痛どころの問題じゃないっつ―の!)
女性の場合は「私はあなたのツライ気持ちがわかるの」ということを示すために、自分の経験を引き出してくることが多い。それが女性にとっての親密さの証しであり、愛情表現だからである。
女性は自分の健康上の問題である“歯痛”の話題を出すことによって、相手への“共感”を示そうとしている。
しかし、女性が自分の経験を語り出すと、男性は「話を持って行かれた」ような気持ちになってしまう。自分の悩み事とは直接的に関係がなく、論理的整合性のない経験談をペラペラ語っり出す女性には、男性は非常に反発するものだ。「今はオレの話をしているんだろう!」という怒りさえもわいてくる。
自分の経験を話すとはいっても、男性が話し相手なら「オレなんかもっと大変な目にあったぜ」「おまえよりもオレのほうがもっと大変だ」と、相手の悩みの“小ささ”を強調するために経験談を出してくる。そうすることによって、悩みの重さを軽減するためだ。
● 女性から相談を受けた男性にありがちな落とし穴
一方、男性側には次のような落とし穴が待ち構えている。
@ 否定してしまう
♀ 聞いてくれる? ウチの部署、女子社員からリストラするらしいの。私、もしかしたら・・・・
♂ ウソだろう!? そんなことあるわけないじゃん
♀ (ウソつくぐらいなら、わざわざはなさないわよ!)
相談相手に対して、まず悩んでいる事実を受け入れるのではなく、頭ごなしに否定してしまう。これは男性ならついついやってしまいがちな“口ぐせ”といってもいいだろう。男性同士ならば、何の気にもならない、
(そんな事実はありえない否定するように)「ウソだろう」「本当かよ」(おちょくるように)「またまたぁ〜」「冗談だろ」
といったセリフは、悩んでいる女性の反感を買うキーワードとなるので注意が必要だ。
A 過小評価してしまう
♀ あ―あ、こんなところにシミができちゃった・・・・
♂ なんだよ、そのぐらい。別にシミができたからって死ぬわけじゃあるまいし
♀ (シミなんかで悩むのは、バカだって言いたいわけ!?)
先に述べたように、男性は、“問題を問題として認めない”(そんなことは大したことない、悩むほどのことはない)ことによって相手をはげまそうとする。これはいわば、「もっと悲惨で深刻な問題が他にはたくさんある。それに比べれば、君の問題は小さなものだ」と相手の悩みを“相対評価“である。誰が何を言おうと、ほかの誰がもっと苦しい思いをしていようと、それと自分の悩みとは天秤に掛けられない。感情的になればなるほど、その傾向は強くなるだろう。悩んでいる自分を見て欲しい、認めて欲しいという願望が女性の場合は強いのだ。
シミなどみなかったことにする、それぐらいたいした問題じゃないんだ、と言ってやるのが男の優しさの示し方だ。しかし、現にそのことで悩んでいる女性は全く納得できない。客観的にシミが目立つかどうか問題以上に女性が求めているのは「悩んでいる私を認めて欲しい」「悩んでいる私の気持ちを否定しないで受け入れて欲しい」という気持ちなのである。相対評価で「大したことない」などと言われると、自分の悩みを過小評価されたような、さらにそんなことで悩んでいる自分を否定されたような、バカにされたような気になってしまうのだ。
B からかってしまう
♀ 私、ちょっと太っちゃったかなぁ?
♂ おまえ、もともと“ぽっちゃり”タイプなんだから気にするなって。アハハハ
♀ ヒッド〜イ!
♂ 冗談だって、なんでそんなに怒るんだよ。怒ると余計にブタみたいだぞ。ハハハ
これで女性はカンカンだ。悩んでいる女性を傷つけるようなジョークを男は平気で言ってしまう。そして「ただの冗談じゃないか、そんなに怒るなよ」というセリフでかわそうとするが、時すでに遅しである。
しかし、同じようなからかいで対応したとしても、男性同士ならどうであろうか。
「オレ最近この辺がデブッてきたんじゃないかなぁ。ヤバイかなぁ?」
「アハハハ。かなりヤバイよね。霜降り牛って感じじゃん? 」
「そ―だな。ハハハ。じゃあ焼肉でも食いに行くか」
「おう! “共食い”って感じでいいじゃん!」
「よし、行こう行こう!」
女性がこのような男性同士の会話を聞いていると、
「どうしてこんなひどいことを言えるのかしら」
「どうしてわざわざ傷つけるようなことを言うのかしら」
「もっとちゃんと話を聞いてあげればいいのに」
「ケンカしているのかしら、仲が悪いのかしら」
などと受け取りがちだ。しかし、他者をからかうこと、相手の悩みや問題を笑い飛ばすことは、男にとって立派な親密さの証になる。親しい相手だからこそ、こういうスタイルで会話したり、悩みを持つ相手に対処することができる。よって、初対面の相手や打ち解けあった関係にない人には、このようなスタイルを用いないのは言うまでもない。
男性は、相手の女性と親しくなればなるほど、心を許せば許すほど、女性からしてみれば「よくそんなひどいことを言えるわね!」と思ってしまうようなセリフを言いがちだ。あなたにとっては“愛情表現”であっても“向こうは攻撃表現”としか受け取れないことも多いので、注意しておこう。
扶桑社=伊藤 明= 完