1980年4月11日、雇用平等委員会はセクシャル・ハラスメントに関するガイドラインの草案を発表するとともに、一般からの意見を求めた。これに対して162通のコメントがEEOCに寄せられ、これらを検討したうえでEEOCは、同年11月10日に最終的なガイドランを発表した。その全文を邦訳を掲載する。
(a) 性に基づく嫌がらせは、(1964年公民憲法)タイトル・セブン七〇三条に違反する。歓迎されざる性的な言い寄り、性的な要求、その他性的な内容の口頭または肉体的な行為は、以下の場合、セクハラとみなされる。
(1) 以上の行為への服従が明確なものしろ含蓄なものにしろ個人への雇用条件を伴って行われる場合。
(2) 以上の行為への服従または拒絶が被害を受けた個人の雇用条件を決定するための材料に用いられる場合。
(3) 以上の行為が個人の職務遂行に不当な干渉となったり、脅迫的、敵対的、または不快な労働環境をつくることを目的としたり、そうした影響を及ぼす場合。
(b) 問題となった行為がセクハラに該当するかどうかを決定するにあたり、当委員会は、記録を包括的に検討するとともに、性的な言い寄りの性格、問題が起こった状況などもそのケースを全体的に考察する。個々のケースの合法性についての判断は、事実に基づきケース・バイ・ケースで行われる。
(c) タイトル・セブンの一般原則が適応されることより、雇用者、職業斡旋所、共同徒弟共同委員会、または労働団体(以後、集合的に「雇用者」とする)はセクハラに関してみずからの行為、または代理人や管理職員の行為に責任を負わなければならない。これは、苦情を受けた特定の行為を雇用者が認めていたか否か、あるいは禁止していたかどうかに拘わらず責任を負わなければならない。
また、そうした行為が起こったことを雇用者が知っていたかどうか、あるいは知っているべきであったにかかわらず責任を負わなければならない。
当委員会は、その個人が管理職あるいは代理人としての権限の範囲内で行動したかどうかを判断するために、個々の雇用関係の状況やその個人を遂行する職務機能を検討する。
(d) 雇用者またはその代理人、あるいは管理職員がその行為を知っている、あるいは知っているべきと見なれる職場におけるセクハラの行為については、同僚間の行為に関しても、雇用者は、責任を負わなければならない。
ただし、雇用者がただちに適切な是正措置をとったことが証明される場合はこの限りでない。
(e) 雇用者はまた、職場における従業員へのセクハラに関して、従業員以外の人々の行為にも責任を負わなければならないことがある。これは、こうした行為が行われていることを知っているか、あるいは知っているべきであったにもかかわらず、職場で雇用者、まちはその代理人、管理職員が、ただちに適切な是正措置をとることを怠った場合に適用されるものである。
こうしたケースを検討するにあたり委員会は、雇用者が管理できる範囲や前記の非従業員の行為に関して雇用者が負うその他の法的責任を考慮することになる。
(f) セクハラをなくするための最も良い手段は、予防措置である。雇用者は、セクハラが起きるのを防止するために必要なあらゆる措置を取るべきである。
これらの措置としては、積極的にこの問題を取り上げること、セクハラを認めない姿勢を強く打ち出すこと、適切な処分を決めること、従業員にタイトル・セブンの下で保障されている権利を伝えるとともに、セクハラの問題をどのように提起したらよいかを考えること、すべての関係者にこの問題をセンシティブになるような方法を開発することなどがある。
(g) 他の関連事項
雇用者の性的な言い寄り屋要求に服従した結果、雇用上の機会や特典が与えられた場合には、雇用者は資格を持ちながら、雇用上の機会や特典を否定される人々に対して不法な性差別を行ったものとして責任を負うことになる。
雇用平等委員会(EEOC)のガイダンス
(A) 性的な行為を歓迎しないかどうかの認定。
(中略)
性的な行為かどうかについて、矛盾した証拠が見られる場合、EEOCは、「証拠全体を一体のものとして、また状況を全体的な見地から」把握するとともに、それぞれの状況をケース・バイ・ケースで捉えていく。
原告が相手の行為を受け入れていたのではないかと見なされる。あるいは原告の信憑性に疑問がみられても、相手の行為と同時に苦情を申し立てたり、抗議をしていた場合は、訴えにより根拠があるとみなされることになる。
とりわけ、加害者とされる人がみずからその行為を受け入れられたと信じるに足りる理由(たとえば、以前に合意に基づく関係を持っていたことなど)がある場合は、被害者は、その行為を歓迎しないものであると相手に伝えておくことが重要である。
一般的に、被害者は、職場においてセクハラを受けない権利があることを主張できるように十分指導を受けている。これによ。セクハラは、深刻なものになる以前に、解決されるであろう。
相手の行為と同時に苦情や講義をおなっていることは、セクハラが申し立ての通り起こったかどうか検討するうえで、説得力をもった証拠とみなされよう。(中略)
苦情や抗議を行っていることが原告側の立場を有利にするといえ、これらを行っていないからと言って訴えることができないわけではない。
実際。EEOCは、加害者から報復を受けていることが被害者が懸念するかもしれないと認識している。
このため、加害者の行為に対する抗議が遅れたのかを明らかにしなければならない。(中略)
加害者とされた人の行為が歓迎されないものであったかどうかが争点の場合、調査にあたるものは、被害者の行為が一貫しているのか、一貫性を欠いているのか、被害者の主張をもとに検討しなければならない。(中略)
性的な行為に当初は進んでかかわったものの、後に関係を断ったにもかかわらず、性的な行為を引き続き受け、敵対的な環境におかれているという主張は、より判断が困難である。
この場合、被害を受けたとする人は、一定の時期以降の性的な行為を歓迎しないものに変わり、かつ職場におけるセクハラであることを立証することが求められる。
被害者は、加害者に対して、もはや性的な行為を歓迎しないことを明確に伝える必要がある。
歓迎しない行為が続いていたにもかかわらず、被害者が上司やEEOCに問題を訴えない場合は、継続した行為を歓迎しており、職務に無関係である証拠とみなされてしまう。
ただし、性的行為に応じなかったことを理由に雇用上のベネフィットや機会を奪われるようなことがあれば、「クイド・プロ・クオ」型のハラスメントとみなされる。
(B) セクハラ(ハラスメント)の証拠の認定について
EEOCは、性的な行為がプライベートなもので、第三者に知られてもおらず、証人がいないこともあることを認識している。
職場で公に行われた性的な行為も、合意の上のものであるとみなされる場合もあるだろう。したがって、セクハラの訴えは、しばしば双方の当事者が行う主張の信憑性に依存することになる。
調査員は、原告と加害者とされる人からくわしく事情を聴衆しなければならない。
EEOCの調査はまた、いかなる性格のものであれ。確証のある証拠は精細に検討する必要がある。
上司や経営者、同僚などに対しても、問題とされたセクハラについて知っていることを聴収すべきだ。(中略)
確証のある証拠を入手するために可能な限りの手段を用いたものの、なんらの成果も得られなかった場合、EEOCは、被害者の調書のみに基づき判断を行うこともある。
「クイド・プロ・クオ」型の訴えの場合、被害者が不利益をもたらした理由が経営者の口実にすぎないとみなされれば、通常は、違法行為があったと認定される。
この場合、経営者が被害者を解雇したことに対する理由の合理性について確認することが調査によって必要になる。経営者の主張が口実にすぎず、ハラスメントが起きたと認定されれば、被害者の主張のように、被害者は加害者の性的な要求を拒否したために解雇されたと、推量される。また、被害者が苦情を申し立てたために解雇されたのであれば、公民憲法第七〇四条(a)項に違反するとみなされる。
(C) 職場環境が「絶対的」であるかどうかの認定について
連邦高裁は、ビンソン裁判において、セクハラが公民憲法第七編に違反することを認定した。ここで、最高裁は、セクハラが「きわめて深刻あるは蔓延しており、(被害者の)雇用状態を変えたり、絶対的な環境をつくる」場合でなければならないとした。
「絶対的環境」型のセクハラは、さまざまな形態をとる。このため、最高裁の判決に一致するかどうかは、次のような要素を検討する必要がでてくる。
(1) セクハラが口頭によるものか、物理的なものか、または両方なのか。
(2) どの程度の頻度で起きているのか。
(3) セクハラが絶対的で攻撃的なのか。
(4) 加害者は同僚なのか上司なのか。
(5) 他の人々ともセクハラに加わっていたのか。
(6) セクハラが一人以上によって指揮されたのか。
歓迎しない性的行為がどの程度まで達したき「絶対的環境」となり、公民憲法第七編に違反するのかを決定するにあたり、中心となるのは、この行為が「不合理なまでに人々の職務遂行能力に悪影響を与える」、または「脅迫的、敵対的、攻撃的な職場環境」をつくるかどうかという点である。(中略)
(1) セクハラの評価の基準は
セクハラがきわめて深刻または蔓延し、敵対的な環境が作られていたかどうか判断するにあたり、加害者の行為は「分別のある人」という客観的な基準から判断されなければならない。
公民憲法第七編を、「神経過敏な人が些細なことで苦しむことを正当化する手段」として用いることはできない。
従って、問題になった行為が分別のある人にとっても職場環境に重大な影響を与えたのでなければ、違法行為とはいえない。
(中略)
「分別のある人」の基準は、被害者の見地に立った判断をしなければならず、当たり前の行為だというようなステレオタイプな見方をしてはならない。
例えば、性的な差別語、「若い女性のヌード写真」、その他の不快な行為は、多くの人々が無害で取るに足らないことを考えているとしても、EEOCは、絶対的環境を構成しているとみしている。
(2) 個別分散型的に生じたセクハラ
問題がきわめて深刻でない限り、単一のできごと、または個別分散型な行為は、性的な内容が含まれていても、敵対的な環境を形成したとはいえない。(中略)
「敵対的環境」は通常、攻撃多岐な行為が繰り返して行われていたことが立証されなければならない。
これはとは逆に「クイド・プロ・クオ」型の場合は、一回の性的要求であっても、雇用上のベネフィットの許可、不許可と関連していれば、セクハラとして認定されうる。
(中略)
EEOCは、嫌がる相手に、意図的に体の性的な部分に触れることが、被害者の労働環境を変えるのに十分であり、公民憲法第七編に違反すると判断している。(中略)
被害者の体の性的部分に上司が触れた場合、EEOCは通常、違法行為があったと認定する。
このような場合に、経営者が反論するには、上司の行為が深刻とはいえず、敵対的な環境を形成していないとことを立証しなければならない。
(3) 非肉体的なセクハラ
問題なったセクハラが言葉によるものである場合、その性格、頻度、向けられた相手などを検討することになる。具体的には、次のようなことを尋ねる。
加害者といわれた人は、原告を選び出してセクハラを加えたのか?
問題の行為に原告も加わっていたのか?
原告と加害者の関係はどのようなものなのか?
問題の言葉は、敵対的で他人を傷つけるようなものか?
(4) 性に基づくセクハラ
このガイドラインは、とくに性的な性格をもつ行為に対して述べている。しかし、EEOCは、性に基づくセクハラについても対応している。
すなわち、性的な行為や言葉が介在しないセクハラも公民憲法第七編に違反するこういとして扱われることもある。これは、人種や出身地、宗教に基づくセクハラと同じことだ。
このように扱われるのは、問題の行為が「たびたび繰り返されたり蔓延している」場合で、被害者の性を理由に起こされた行為である場合である。
(中略)
(5) 準解雇
「敵対的環境」型のセクハラの問題は、しばしば準解雇の訴えを伴う。敵対的環境ゆえに準解雇が行われたと立証された場合、この問題は、「クイド・プロ・クオ」の一種とも認められる。
EEOCと大多数の裁判所の立場は、公民憲法第七編に違反する耐えがたい労働条件が課された結果、分別をもつ従業員が退職せざるをえなくなった場合。経営者が退職を強要する意図があったかどうかにかかわりなく、経営者はこれに責任を負わなければならないというものである。
(中略)
(D) 上司のセクハラに対する経営者の責任
ビンソン裁判で、連邦高裁は、EEOCの立場に同意した。(中略)「雇用者の責任に対して明確な定義」は行わない一方、最高裁は、上司の行為に対して、経営者が「自動的に責任を負う」と言う考えを退けた。この考えに立ち、最高裁はまた、「経営者に通知を行なわなかったからといって。経営者の責任が問われないとは限らない」とした。
(中略)
ビンソン裁判において、最高裁は、EEOCの原則を適用することを認めたように見受けられる。
(1) 「クイド・プロ・クオ」のケースにおけるEEOCの原則の適用
「クイド・プロ・クオ」のケースに対して、経営者は、常に責任を負う。上司が被害者の雇用上の立場に影響を与えた、または与えると脅迫したことにより、この上司は、経営者から移譲された権限を行使したことになる。ビンソン裁判においては、「クイド・プロ・クオ」型のセクハラが争点になったわけではないが、最高裁は、判決の中で、EEOCの立場を明らかに承認したことを示している。
(中略)
(2) 「敵対的環境」のケースにおけるEEOCの原則の適用
(a)ビンソンのケース
(中略)
ビンソン裁判の判決の中で、連邦高裁は、EEOCの主張を大幅に引用している。この主張を支持または拒否すると明示していないものの、「苦情処理制度や差別を禁止する措置があり、(被害者が)この措置を利用していなかったということ」は、「明らかに問題があるが」、「必ずしも却下されるとはいえない」と指摘。最高裁はさらに、被害者が苦情を申し立てなかったゆえに経営者の責任に免除されるべきだという経営者の主張は、「被害者に苦情処理制度を用いるように促すなどの措置を取っていれば、より説得力をもったであろう」と述べている。
したがって、EEOCは、「敵対的環境」のケースにおいて、ビンソン裁判がセクハラを行った上司の「代理人としての能力」を厳密に検討するように求めた、と解釈した。
経営者の苦情処理制度が適切かつ効果的であったか、被害者がこれを利用したかどうかは、重要な点であり、以下にくわしく検討していく。
(b) 直接の責任
最初に問われるべきことは、セクハラが起きることを経営者が知っていた、または知っているべきと状態にあったかどうか、という点である。
実際に知っていた、または知っていられる状態にあったにもかからず、速やかな是正措置を取らなかった場合、経営者は、直接的な責任を負う。
もっとも一般的な形でいえば、経営者は、被害者の上司や管理職への苦情や差別の訴えを通じて、セクハラが起きたことを知ることができる。
(中略)
(c) 転嫁された責任
調査を通じて、セクハラを行ったとする上司が「代理人の能力」に基づいて行動したかどうかを判断しなければならない。このことは、上司が雇用関係の枠組みにおいて行動したのか、または「雇用の範囲」規則の例外としてこの行為を雇用者に転嫁することができるかどうか、ということである。
「敵対的環境」型のセクハラにおいては、以下の原則を考慮し、適応すべきだ。
(1) 雇用の範囲
管理職の行為は、その人に与えられた権限を行使するという形をとるため、一般的に雇用の範囲のものとみなされている。経営者が管理職にセクハラを行う権限を認めるということは、例外的であろう。しかし、仕事に関連して性的な不正行為が行われたことを経営者が知っているにもかかわらず、これを中止させる措置を取らなかったならば、黙認したことで、この管理職の行為を雇用の範囲とみなしたことになる。
(2) 明白な権限
管理職の行為が経営者に代わって行ったものだと第三者がみなしても無理からぬような権限の行使である場合には、経営者は責任を負う。
これは、明白な権限と呼ばれるものである。セクハラを禁止する政策が強力かつ広範囲、そして一貫して実施され、苦情処理制度が効果的になっていなければ、セクハラを行った管理職の行為は経営陣によって無視されるか。甘受させられるか、容認されると従業員がみなすであろう、EEOCは考えている。(中略)
(3) その他の理論
(中略)
(E) 予防ならびに救済措置
(1) 予防措置
EEOCのガイドラインは、経営者に次のような措置を取ることを促している。
「セクハラが起きるのを防止するために必要なあらゆる措置を取るべきである。
これらの措置としては、積極的にこの問題を取り上げること、セクハラを認めない姿勢を強く打ち出すこと、適切な処分を決めること、従業員にタイトル・セブンの下で保障されている権利を伝えるとともに、セクハラの問題をどのように提起したらよいか教えること、すべての関係者にセンシティブになるような方法を開発することなどがある」
(中略)
(2) 救済措置
公民憲法第七編は、「従業員に差別や脅迫、嘲笑、侮辱などのない労働環境を受ける権利を保障」している。従って、敵対的、攻撃的な環境と知りながら放置していた場合、経営者は、責任を負わなければならない。(中略)
経営者は、苦情を受けたり、職場でセクハラがあったことを知ったならば、速やかに、徹底的な調査を行うべきである。
経営者は、セクハラを中止させるために、被害者が失った雇用上のベネフィットや機会を完全に回復させるため、違法行為を再発させないため、迅速かつ適切な是正措置をとらなければならない。
違法行為を行った管理職や従業員には、訓告から解雇までの処分を行う必要がある。一般的に、これらの措置は、行為の深刻さを反映していなければならない。
(中略)
救済措置をとったと経営者が主張した場合、EEOCは、その措置が適切であったか、またはさらに重要な点として、それが効果的であったかどうか、調査を行う。
EEOCの調査官は、セクハラの訴えに第三者として調査にあたり、EEOCは、違法行為があったかどうか認定する。経営舎の迅速な措置により、セクハラが除去されたと判断した場合、(中略)EEOCは通常、事務作業を終了する。
1990年3月19日 連邦雇用平等委員会議長 R・ゴール・シルバーマン
続く
セクハラ禁止の社内規則の例文
夜の夫婦生活での性の不一致・不満は話し合ってもなかなか解決することができずにセックスレス・セックスレス夫婦というふうに常態化する。愛しているかけがえのない家族・子どもがいても別れてしまう場合が多い。