「こんなセックスあったんや―」
深いため息がでた。なんの刺激もない、なのに心地よさで溢れていた。
とても優しく見えるユキの顔、スローモーションみたいに時が流れた。
五年ほど前のこと(1993年)、その日はいつもと様子が違った。とても奇妙な言葉が彼女の口からさりげなく飛び出した。
夜だった、午前〇時を少し回っていただろうか、私は自分の部屋で考え事をしていた・・・・・・。
男の性ってものすごく微妙なものやのになあ。目で見て感じるもの、いまさら変えられん。興奮するように出来上がったものしゃないのに‥‥ジェンダーの影響受けているのは男だけじゃない女もそうや、だからそれはそれでかみ合ってたと思うがなあ。
はじめには俺たちのセックスかみ合ってた、少なくともそうやったはずや、せやけどそうじゃなかった‥‥・そんな悲しいことあるかよ。せっかく努力してフェミニズムと仲良しになってこれたのに。
デートしてすごく楽しかったからできるんだなと思ったら『エーッ、セックスするの?』って。そんなんばっかりや。挙句の果て『拷問よ』て言うか、それはないで…・そこまで苦しいことなんかなあ。
言うことはわかるけど下半身が納得せんやないか…・みてみい、こんなに怒っとるやないかジュニアが、かわいそうやなジュニア・・‥。
と、そのとき、トントン、ふすまのノックの音。
〈来たー できる―〉
とっさにわかった。今日はなんとなく体に触れてもセクハラっていわれなかった。
♂ ハイ、なに?
♀ 入ってもいい?
♂ ああ、もちろんいいよ、どうぞどうぞ。
♂ 考え事していたの?
♂ ああ、ちょっと
♀ じゃまだったら向うに行くけど。
〈じゃまなはずはないよ、待っているんよ毎晩〉
♂ ううん、そんなことない。考えてたフェミニズムのこと。
♀ ほんとお、いいことやんか。
♂ それがあんまりそうでもない。
♀ ネエ、今日わたしセックスしたい、そっちはどうですか。
〈うぬ、したい―〉
♂ オレはいつもしたい。
♀ だったらしょう。
〈するのはいいけど、どっちみち俺の見たい格好してくれへんかなあ、ただセックスだけなんてつまらん・・‥。自分がしたいときは拷問と違うんか、なんや調子ええなあ…・ハッ。まてよ、ひょっとしてチャンスかもー もったいぶったらもしかして…・〉
♂ そうやなあ、お互い楽しまんとなあ平等に。
♀ そうね、もちろんよねえ。
〈平等にやで、俺も楽しむんや昔みたいに〉
♂ いろんなユキみたいなあ。
♀ ええ―、いいけどどういうこと?
♂ うん、ときどき言っているやろ、ユキのファッションショーがええねん。
キョトンとした顔をするユキ。
♀ 今から? そんなんしてたらセックスできないよ。
♂ いや、そんなたいそうなもんちゃうで、もっと簡単なことやつ、オレが持っている、ほら。
〈わからんかなあ、俺が持っているやつや。ユキ着てほしい思って買ったセクシーな服やんか〉
ユキ見た。ピーンときたらしい、
♀ また言ってているの?わたしはそういうの好きじゃない。
♂ そらそうやろけど、オレはそういうユキ想像しているんよいつも。だからちょっとぐらいはいいやん。それもダメか。
♀ いいよ、想像してくれたら、いくらでも。
〈アホか、想像するんやったら実際に見な無理やろが〉
♂ もう忘れてしもたわ、想像でけんへん。
♀ そう、かわいそうやねえ。
〈かわいそう‥‥・か、まあそういうことや。あんたに強要しているのは俺や、ユキはイヤならせんしな、けど見たいなあ〉
♂ そんなにイヤか、ちょっと身に着けるだけでも。
♀ イヤなことないよ。
♂ えっ― イヤやなかったん?
〈まてまて、だから着てくれるなんて思ったらまたスカくらわせられる。そんなちゃうんやこの女は、イヤや言うたらテコでも動かん。せやけど今日はしたいって向うから言ってきたんや、ひょっとして〉
♀ 着たいと思ったら着るし、着たくなかったら着ない。ただわたしはそういうの着ても興奮しないの。
♂ オレ、するよ。
〈ええねんええねん、あんたは興奮せんでも、俺がするから〉
♀ …‥。
♂ じゃあボクのために着てくれる?
♀ そういう気持ちになったらね。
♂ いま、なられへん?
♀ なっていると思う?
♂ …‥。
〈思へんわ― クソッ いつもなっていないじゃないか。それやったらいつなるっちゅうんや、いつー〉
♂ なんかオレばっかりガマンせなあかんねんな。
♀ そう?
♂ そら、他のことやったら別にそう思わんけど、セックスはメチャクチャガマンさせられているで。
♀ …‥。
♂ 見たいものは見たい、オレはユキのストリップ見たい。しゃないやろうそうなんやから。男は見て感じることも大切やねんから。
♀ いつも裸でウロウロしているやんわたし、それ見ていたらいいやん。
〈あほっ、そんなんとちゃうんや、エロチックなんも見たいんじゃ〉
♂ それはそうやけど、あんな格好見たいなあって思うんよ。
〈わかっている、モノ扱いしてるって言いたいやろ・ちょっと甘えているだけやんか。惚れている女がそういう格好してくれるってメチャ興奮するんや俺は。そうなっているもんじゃない‥‥。こうなったら言うしかない〉
♂ そら着たくないならしゃない、でもオレの気持ちどうしたらいいんよ。
♀ さあ、それはわたしのことじやないから。
〈またか、そんなこと言われんでも分かっとるちゅうねん。あんなたのセックスはどういうのか知らんが、それやったらあんただけよくて俺は味気ない。二人のものとちゃうんかセックスは〉
♂ 自分だけ感じたにいいの?
♀ …‥。
♂ そらユキは刺激的なことなくても感じるかもしれん。けどオレはちがうんや、興奮するようなこと言って欲しいし、してほしいんや。
♀ ちがうのね、わたしたち。合わないのね‥‥。
♂ …‥。
♀ …‥。
〈あかん、やっぱりダメや、ムダだった。はいはいどうぞお好きなように‥‥。しゃないセックスするか。‥‥ハッ、俺なんか「したい」って言っても、いっつも断られている…・カアッ―〉
来てくれたのは嬉しかった。いつもはつい笑顔になる。が、この日は「言えばデキル」
という不公平さに腹が立った。
♂ したいと言えばすぐにできるんやなユキは、ええようなあ、そんなん。
♀ ‥‥。
♂ オレなんか「したい」って言っても、さしてもらわれへんのよいつも。
〈ハッー しまった。俺は何を言っているんや。ちゃうユキ、そんなことちゃうねん、したいんや、したい、今すぐ抱きしめたい〉
しかし、言った手前、おいそれとは変えられない。私には意地がある。こちらばかりガマンするのは悔しい、同じような目にあわねばその辛さはわかるものではない。私は毅然としてユキに立ち向かった。
♂ せっかく言ってくれて嬉しいけど、今はそういう気分じゃないから。
♀ …‥。
♂ したいと思っている時にそういってくれたらすごく幸せやけど。
一度言ってみたかった。どれほど気分がいいだろう。とも思っていた。案の定、よかった、これほどとは思わなかった。ちらっとユキの顔を見た。困った顔ではないか。
〈どうや、困るやろ。いつもいつもこっちの気持ち無視するからや。セックスっちゅうのは自分の都合だけでするせんへんなんていうもんちゃうんやぞ。断られる身にもなってみろ〉
こういう自分を感じるのは久しぶりだった。明らかに余裕がでている。
♂ まあ、オレは断ることはせんけどな、相手の事を考えるの大切やから。
♀ ああそう、ごめん、したくなかったのね今日は。そっか、じゃ、バイバイ。
♂ ???・・・・。
〈そんなあ…‥。〉
さっさと出て行こうとするユキ。
♂ 待って・・‥話し合いだったらいいよ。今アタマ冴えているから。
♀ うん、でも邪魔したらわるいから。
♂ でも眠れるの?
♀ どうして?
♂ したいんやろ? それやったらお手伝いぐらいはするよ。
♀ ううん、いい。別にしてほしくないから、どうぞ自分の好きなようにしてて。
〈してほしくない― したいんや俺は、あんたを燃えさしてやりたいんや〉
♂ でも、あれちゃうの?
♀ あれって?
♂ 困れへんのかってこと。身体が要求してのやろ。
♀ それはそうかも・・‥。
♂ だったら遠慮いらんで、オレはユキが喜んでくれたらそんでいいねん。がんばって感じるようにさせていただきます。
♀ でもわたしはそういうの、あまり好きじゃないから。
♂ ・・‥。
〈どうするっちゅうんじゃ、したかったんちゃうんか、わからん女やなあ〉
♂ じゃあ眠れるん?
♀ うん。
♂ オレはムリやわ、マスターベーションせんと眠れんよ。そんなとき。やっぱり違うんやなあ男と女は。
♀ さあどうかなあ、わからない。
♂ わからんって、答えているやんか、ユキは眠れるって言ったやんか今。
♀ うん、でも自分でしてから眠るよ今日は。
♂ えっ!?
一瞬耳を疑った。
〈自分でする!? どういうことや、女がそんなことするんか。俺の女房がマスターベーション!?そんなもったいない…・、俺がいるやないか〉
ユキはと見ると、もうそこには姿がなかった。
〈あかん、行ってもた…・。せやけどなんや今の? ユキはしたがっているんやで、俺がちょっとしたないといって言ったぐらいでスッと出て行くのか。そらないで、俺の気持ちはどうなるんよどう、こんなにいきり立っているやないかジュニアが〉
どもにもこうにも今起こったことが理解できない。『そんなこと言わずにしようよ』
ってフトンに入って触ってくれたらすぐにセックスできるものを。そう思ったとき、ふとあの記憶が蘇った。
『基本的に自分を満たすものじゃない。性欲だけならマスターベーションすればいいのよ』――
〈あれは俺にいったんじゃなかったんか、自分でもそうするってことやったんか‥‥。ハッそれやったら今までもマスターベーションしてたってことか― うそやろ? こんなにしたい俺がいるのに!?〉
頭がパニクった。ヒトコト言えばできるのに、事もあろうに自分でするとは。あまりにも私を無視した行動ではないか。
私の気持ちが収まろうはずもなく、気がつけば彼女の部屋の襖をあけていた。
♂ ちょっと気になっていることがあるんだけど‥‥。自分でするってどういうこと?
♀ そういうことよ。
♂ そんなもったないことせんでいいやんか、オレを利用してくれたらいいんよ。何でもするよ、ユキがしてほしいことなんでも。
♀ ううん、別になにもしてくれなくていいの、だいいちわたし、そんな気分じゃなくなったの。
♂ えつ!?
見れば、手にマンガの本をもっているではないか、それも子どもに貸してもらっている本である。
♂ 変やなあ? したかったんちゃうの?
♀ そうよ、さっきはしたかったから行ったの。
♂ じゃあ何でそんなマンガ見ているの? 身体が要求しているのちゃうの?
♀ それもあるけど、わたしはあなたに惹かれたからセックスしたくなったの。
♂ うぬ―
ゴクリ、思わず飲み込んだ息。
〈俺に惹かれた? この俺にか…・、ハッ、 ということは最近の俺は…・、そうイウ、セックスの要求はしてなかったよな、ユキがイヤヤやと思うことはしないようにと、常に意識にあったよな、それがかー〉
♂ オレのことが楽やったんか、最近。
♀ あなたのこと考えずに自分のことずっとできていたのよ、それって私にとってすごくうれしいことなの。
♂ ああ、そういうこと前から聞いていた。じゃあそういう風になってたってことなんか、オレ全然わからんかったけど。
♀ そうよ、だから甘えられたの。
♂ ええっ― 甘える?
〈甘えてたん? それって、俺が一番望んでいたことやないか、どうしたら甘えてくれるんか、そればっかり考えていたんや、ユキが甘えられるような男になりたかったんよ俺は〉
ユキの部屋に来たときは、いきり立つジュニアを何とかしてもらいたくて来た。なのに今は静かに収まってしまった。いやそれどころか思わぬ言葉に感動すら湧き上がり、気がつけばその場にへたり込んでいた。しばらく何も言えず呆然となっていた。そしてこれまでのユキのことが走馬灯のように頭の中をぐるぐる駆け巡った。
♀ どうしたの? そんなところで座ってたらしんどいでしよ、こっちにきて横にならない?
♂ いいの? イヤなことはない?
♀ さっきは「またか」って思ったけど、今は別にそんなことはないよ。
思わず笑顔がでてきた。私を受け入れてくれている、それも今さっきまでイヤなことを強要している私をである。
下半身が収まれば不思議なぐらい状況がよく見えだすのも皮肉なことだ(通常はマスターベーションした後そういう状況になるのだが。というのも私は射精する前と後では精神状態がまるで変わり、興奮状態のときの自分を哀しく思うのが常であった。
それは性的興奮を求めるあまり、あまりにも刺激的なことを考えてしまうことが関係している)。
彼女の言葉が、私の心を性的なものから解き放した瞬間だった。
満たされた気持ちで彼女のそばに近づき、幸せいっぱいの笑顔を向けた。
♂ そうか、オレが一番欲しかったもの、この手に掴んでたのか‥‥・
♀ 甘えてたよ、この頃わたし甘えてるなあって思っていたもの。でも、甘えられるほうは辛いよね。だからもうやめようと思ったわ。
♂ ううん、そんなことは無いと思うよ。フェミニズムはどうか知らんけど、甘えられる相手には甘えてもいいんじゃないかな。
♀ そうね。お互いが自立してたらね、
♂ そうやった、ごめん、オレ、自立してなかったね。確かに‥‥。
このあとしばらく私が彼女に何をしていたのか話し合っていた。そしてセックスを強要することはもうやめようと心から思った…・。
♂ 人を尊重するって、本当にむつかしいなあ。下半身が騒ぐからってそれで一方的に自分の気持ちを押し付ける、それってやっぱりおかしいわ。これからしっかり自分の性を見ようと思った。
♀ 無理しなくてもいいんよ、ありのままで。
♂ いいや、むりやない。無理かもしれんけど、そういう風にしたいんや、ジェンダーとの戦いや。どうなるかわからん、でもそれで本望。
そう言って立ち上がろうとした、とそのとき私の口がふさがった。目の前にユキの顔があった、やさしく澄んだ目をしていた。
ごくごくノーマルなセックスだった。なのにしびれるような到達感。それまでのような征服感ではなく、共に生きている歓びを分かち合っているようだった。
差し込み文書=
性生活において75%の女性は長さも太さも重要であると考えており、サイズが小さいかっこいい男よりも、サイズが大きいけど平均的見た目の男の方が好ましいと81%が回答しています。
女性の性感帯は陰核、陰唇、膣口、乳首、尿道口、Gスポット、耳、首からなる約8部位からなるとWikipediaでは記している。が、それら8部位は前戯としての性感帯であって、小オーガズムとして得られる。男性との性交では、膣内は中オーガズムとして得られる。
そしてセックスの中心といわれる子宮頚部(噴門)が大オーガズムとして得られる。と言われております。性感帯8部位と膣、子宮噴門が高度な心地良さを感じて最高潮となり大脳皮質においてドーパミン系機構からドーパミンが大量に躰全体に放射されることで子宮が3-15回ほどの筋収縮が起こる、これが究極のオーガズムと呼ばれるものであると「Wikipedia」提供文献からから推測される。ソフトノーブル通販
オーガズムの定義から引用
つづく
8 天国から地獄、そして天国へ