「それって拷問よ」
こう言われて、なんとも後味の悪い思いをし、以後、胸の中で長く尾をひくことになった。
六年ほど前のこと(1992年)そのころわが家は順風満帆、フェミニズムへの抵抗感は薄れていました。不思議なもので毎日フェミニズム漬けだと、それなりに馴染んでしまうのか、彼女に対していちいち目くじらを立てることもなく、穏やかな日々が続いていたのです。
たぶん根負け、「そんなに思っているなら仕方がないか」と、反発するよりむしろ協調的でした。
そう言う思いが功を奏した、かなりステキな? (オシャレなスポットを見つけては二人で飲み歩くという、恋人みたいな)関係に。
フェミニズムと仲良しになれたことにわれながら満足のいく日々でした。が、まさかその私に「拷問・・・・」というような言葉を投げかけてくるとは、またしてもフェミニストに傷ついてしまったのです。男とフェミニズムはどこまでいったも水と油、男のセックスは女にとってはそれほどまでに苦痛なのか‥‥。
あれは、真夜中。下半身がいきり立って眠りづらかった。
いつもはマスターベーションですっきりし、安眠に入るのだが、この夜はそんな気になれず、「たまには相手してもらわないと」と、日頃、セックスに対してかなり譲歩しているという思いが頭をもたげた。
そう思ったらマスターベーションしている自分が惨めでもある。私は俄然、彼女の部屋に向かった‥‥。
♂ 何しているの?
電気がこうこうとついている。
♀ どうしたの?
♂ うん、ねれなくて。
♀ そう。
そう答えたまま、また本に目を通し始めた。のぞき込むと、何やら奇妙な言葉が並んでいる。
〈なに? 性の政治学? 性に政治学があるんか‥‥・ハッ、それやったら俺やんか、詳しいで俺は。セックスやったら任さんかいな、だてにマスターベーションしてないで。政治も詳しいし〉
♂ 面白そうな本、読んでるなあ。
さりげなくフトンに入ろうとした。ヘタに近寄れば、また、「セックスしないよ」という言葉を聞くことになる。
ソレは優しさであるが、テコでも応じないというニュアンスを含んでいて、こちらの心を見透かされていたようである。できたら聞きたくはない。以前、何度それで撃チンされたことか。セックスしたいときはそれなりの雰囲気が大切だと身に染みている。私は邪魔しないよう、慎み深く、欲望を押し殺した。
♀ 入るの?
♂ うん、ここのほうが居心地がいい。イヤなら向うへいくけど。
♀ べつにイヤなことないよ、どうぞ。
〈よし、着地成功、さてどうするか〉
♂ 難しそうなタイトル。
♀ うん、でも面白いよ。
♂ へえー、そうか。まあ。性のことは興味あるわなあ、だれでも。
♀ ??
♂ 気にせんでええよ、そのまま読んでくれたら。オレ、適当にしてるから。
〈そんなん、性の事やったら実地がいちばん。理屈なんかいらん、理屈で感じるもんちゃう〉
腰に回した手をスッと撫でようとした。
♀ 何しているの― 読まれへんでしょ、そんなことしたら。
♂ ああ、そうかそうか、わるいわるい、ちゃんと読んでて。
♀ 変なことしたらあかんよ。
♂ せへんせへん。
〈せやせや、腰はダメやった。俺、焦っている〉
見れば、何事もなかったように再び静かに本を読んでいる。今日は案外できるかも。
今度はこの方から首筋に顔を擦りつけた。
♀ もう― 何してるの―
キリッとした顔で起き上がるユキ。
♀ そこはイヤやって、前から言うてるでしょ―
♂ ゴメン。
♀ もうそんなことするんだったら向うへ行って―
〈なんやいったい、ひとがせっかく感じるように思ってがんばるのに〉
♂ そんなにこそばい?
♀ どうしてそんなイヤなことをするのよ。
♂ イヤなことって言うけど、性感帯やで。感じられるようになったら得やんか。
♀ 勝手に思わんといてくれる。そんなの人によってまちまちよ、だいいち今はそんな気分じゃないの。
〈
参ったなア・・‥。この女いっつもそうや。俺がしたいの、いやというほど知っているくせに。よく知らん顔してられるなあ。それはないんちゃう。あ〜あ、?でもいいから、「わたしセックス大好き、あなたと毎日したい」なんて言ってほしいなあ〉
彼女はセックスする気がない、直感でわかる。しかしそんなこと、初めからわかってること。が、こんなときでも私を受け入れてくれたこと、過去いくらでもあった。
〈愛があるなら俺を突き放さないで、この頃いい関係やし〉
私は再び抱きついた。そして唇を重ねようと実力行使。
と、そのとき、ユキの唇が動いた。
♀ 何しに来たの? わたしセックスする気ないよ。
〈かぁ―― ええ加減にせえ―〉
またもやカウンターパンチ、こうなれば言うしかない。
♂ なんでや、オレはしたいんや。
♀ わかるけど、そんな気分にはなれない。
〈そんな気分て、ほんならいつ、したあなるっちゅうんよ。「一年間なかってもいいの」って言うてるやないかいつも。こちの身にもなってみい、あんたのしていることメッチャ酷やで〉
♂ オレかて生きているんやで。抱きつきたいし、セックスかっていっぱいしたいわ――
♀ ‥・‥。
またか、という冷たい目をするユキ。
これまでどれほど揉めたことか、数え切れない、セックスではいつも食い違う。今またそれの繰り返しになりつっある。そんなことはもうたくさん。
〈俺にはセックスは必要なんや、いい関係を築こうとしているやないか、そのくらい何で理解でけへのや。ちょっと辛抱してくれたらいいだけちゃうんか〉
♂ オレたちこの頃いい関係になっているやん、だからこそセックスしたくなるんよ。好きでなかったらこんなにしたいなんて思わんし。そらユキはしたないやから困らん、せやけどオレはメチャメチャしたいんや。どっちが辛?
♀ ‥・‥。
♂ 腹、減っている者と減ってない者、どっちが辛? 簡単なことや、こんな状態やったら、いつも我慢しているのはオレ、そのときユキは涼しい顔なんや。
〈そうや、なんで俺だけ我慢せなあかんのや、そんなにおかしい、フェミニズムちゅうのはあくまでも平等やないか〉
♀ そうかなあ、そうは思わない。
♂ オレはこれは平等ちゃうと思う。
♀‥・‥。
♂ なんとか言ってえや。
〈ほらみろ、言えんやろう。少しは相手のこと考えるのも必要なんや。あんたに欠けているのは自分がよかったらそれで済まそうとしていることや。俺はちゃう。お互いの事を大切にするってポリシーをもっている。それがフェミニズムちゅうもんちゃうんか〉
自分の鋭さに酔いしれた。と、そのとき、
♀ したくないときに入れられるって、どういうことかわかる?
♂ ???・・・・・・・・・
一瞬、何を言っているのかわからなかった。そういうことは考えたことがない。ハッ、としてユキを見た。穏やかな顔がそこにあった。自信に溢れていて、なぜか眩しかった。
〈理論では負けていない、せやのになんなんや、この余裕は〉
♂ そら‥‥・イヤやわ、無理にされたらたまらん。だからお願いしているんや。
♀ 体の中をこねくり回されるのよ、したくないのに、それって拷問よ、心も擦り減っていくわ。
〈
拷問!? この俺とすることが! ちょっと待て、言っていいことと悪いことがあるんや世の中は。だいたい俺は選ばれた男やで、あんたに〉
頭にきた。しかし出てきた感情は以前とはちがっていた。
〈ケンカはもうたくさん、それにユキにも言う権利がある。そうや、聞くのも大切〉
不思議と爽やかな気持ちになった。
〈まあ他人やったらいざ知らず、亭主の俺にそんなこと思うはずなんかあるわけない〉
♂ 亭主のオレでもか。
♀ 同じこと、なんにもわからないよ。
♂ えつ―
ガマン―
〈よう言うわ、こっちゃがな、拷問受けているの。好きでマスターベーションしてる思ってるのか、アホか、虚しい思いでしてるんじゃ。だいいちなあ、だんだんエスカレートしていくんじゃ、興奮するネタがいるんじゃいネタが、それがないと一人ででけへん〉
♂ きついこと言うな・・‥、まあそら、そっちがそう思うのなら仕方がないけど…‥。
じゃあどうすればいいんよ、いやや思われてまでしたあないしな。
♀ 困ったね。
♂ ‥‥・‥
〈まるで人ごとや、いっつもそうや、男の性がわからんのや。そんなもんじゃないんや、男になってみいちゅうんや〉
これまでいくら男の性について説明しても、ムダに帰した記憶がよみがえった。
しばらく沈黙が続いた。
ここ数年、こういう状況のとき、決まってセックスには持ち込めなかった。
〈まずいなあ、このままやったらでけへん。何のために来たんや〉
♂ わかった、そんなにセックスしたないんやったらしゃあない。その代わり手でして、手やったらええやろ。
♀ …‥。
♂ 頼むわ、お願いします。
黙ったまま、返事がない。私は焦った、こういう冷めたような状況なのに私のジュニアはなぜか脈打っている。私の頭のなかに、愛し合っている姿が次々に浮かんでくる、もうすぐ始まる愛の行為に。素早くブリーフを脱いた。
♀ …‥。
しかし、待てど暮らせど、彼女の手は本を持ったまま、微動ともしない。
♂ イヤなんか。
♀ ・・‥。
♂ そんなに本が読みたいんか。それやったら読んでて、その代わりペッティングさして、それやったら拷問ではないやろ。
おもむろにユキの口が開いた、ゆっくりと、そして不思議なことだが、私の心を解きほぐしてくれるような感じだった。
♀ わたし、いま、何の本を読んでいると思う?
♂ 性の本やろ。
♀ いま、あなたのしていること、そういうことを書いてあるの。
♀ 性って個人のものと思っているでしょう。
♂ ええ? どういうこと?
♀ 自分の性を支配しているのは自分だって。あなたの性欲はあなたの本能であって、誰からも支配されていなと。
♂ ああ、当然や。オレの性はオレ自身のものや。誰にも支配されていない、オレが支配なんかされるはずがないやろ。
♀ そうね、あなたはソウよねえ。ソウ思って生きてきたのだから、当然よねえ。ただ、見方を変えたらぜんぜん違ったことが見えるってことなの。
〈??? そんな本やったんか、紛らわしいタイトルつけるなっちゅうの。まいったなあ〉
♂ 見方を変える。
♀ そう。
♂ どんな見方なん?
♀ 見方というか、捉え方なの。女性学でジェンダーということが発見され、性も社会で創られていくものだということがわかってきたの。
♂ ああ、ジェンダーな。なんかわかったようでわからないような言葉や、生まれてから後の性の事やろ?
♀ 人は生まれながらにして、あなたの感じるような性欲を持っていないってこと。それは既に実証もされているのよ。
♂ ‥‥・そんなん、オレ、どうでもいいんやけど。とにかくオレ、困ってるんよ、たとえその、ジェンダーっていうんか、それがそうであっても現実のオレが変わるわけでもないし。ただ適当にセックスの面倒をみてほしいだけやけど。
♀ それは自分で処理するもんじゃない?
〈それがもう限界にきているって言っているんや、解らん女め〉
♂ まいったなあ、そんなにスルのいやなん?
♀ そうじゃないよ、したいて思うことはあるよ。ちゃんと性欲はあるし。
♂ あるの―
♀ もちろんよ。
♂ じゃあ、しょう―
♀ わたしはお互いがいい関係、自分の性欲を満たすためじゃなく、人格を認め合ったときに好きだったらセックスしたくなるの。
♂ じゃあ今のオレたちはビッタリやんか、いい関係やでこの頃。
♀ 確かにね‥‥、でも今の私の状況が見えている?
♂ 見えている。
♀ そう、じゃあ私、したいっていう感じがする?
♂ しない。
差し込み文書=
『夫婦間での些細な棘となるような男の性の欲望を一夫一妻法制の元では妻が男の性の欲望を満たすとなればそれは多分難しいことです。何故かというと大多数の男性がオーガズムの定義に示されているようなパートナーを淫蕩させ大満足させるほどの大オーガズムを女体に与えられる男性器の持ち主は然程いないということから、
子どもが生まれた。或いは、倦怠期を迎えたなどいう場合、タンポン似程度の男性器ではセックスは面倒だから
嫌という妻が多い。そのように心から思っているから、性の不一致、セックスレス、セックスレス夫婦となって性拒否というものが起こる理由ではと思っております。
その大オーガズム得られ悦びをふたりで感じ合えられたときに夫婦は一体なれた思いになり、強く夫婦の絆は結ばれる。その心地よいセックスを疑似的にも得られる『ソフトノーブル』を用いることで、今までなかった大オーガズム得られ悦びをふたりで感じ合っときにセックスレス夫婦撲滅につながると思います』ソフトノーブル通販
つづく
7「こんなセックスあったんや!」