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第四章 妻の恋を知ったとき

本表紙 亀山早苗著

結婚前の恋に、妻が再度走って

 妻に恋愛された夫たちは、いったい、どういう心理になるのだろうか。嫉妬、自分のプライドが傷つけられたという思い、裏切られたショックなど、女性たちが夫の浮気で感じる思いと、どんな違いがあるのだろうか。夫たちの行動に出るのだろうか。

 金子孝則さん(四十四歳)は、一年ほど前、十二年連れ添った妻と離婚した。当時、十歳と七歳の娘ふたりは、妻が養育している。だが、本当は金子さん自身が引き取りたいという思いがあった。

「元の妻には男が居るんです。僕はそれを聞かされても、いつかは戻ってきてくれるはずだと信じようとしていた。でも、彼女は、とうとう離婚を切り出してきた。何も知らない娘たちは、『お母さんと一緒にいる』という。それなら仕方がない、と僕がひとりで家を出ました」

 金子さんは冷静にそう話した。身長百八十センチ、渋めのスーツをきちんと着こなした男性だ。ときどき、眉間に深いしわがよるのは、つらい経験のせいだろうか。

 知り合ったとき、金子さんは三十歳、妻となった女性も同い年で、職場も同じだった。当時、彼女は他の会社に勤める。七歳年上の家庭のある男性と恋をしていて、その相談に乗ったのがきっかけとなった。

「僕は別れろ別れろと彼女に言いました。彼女は苦しみながらも、『彼とは別れられない』と言っていたんです。そういう彼女をいつの間にか好きになってしまった。だから、『そんな家庭持ちと別れて、オレと家庭を作ろう』と口説いたんです。彼女は最初、本気にしていなかった。だけどあるとき、『本当に私と結婚してくれるの?』とつぶやいたんです。「あの男とは別れるんだろうな」と念を押しました。彼女、僕がプロポーズしていることを彼に話したそうです。そうしたら、『結婚すればいいよ』と言われたとか。それで彼の本心を見た、気持ちが冷めた、と言っていました」

 三十一歳で結婚、二女に恵まれたが、金子さんが妻の様子がおかしい、と思ったのは、五年ほど前からのことだ。

「彼女は出産で一時、退職したんですが、下の子が生まれてから、子どもたちを保育園に預けて、また働くようになりました。ふたりで協力して、家事も育児もやってきたと僕は思っています。だけど五年ほど前から、彼女は保育園のお迎えを、自分の母親に頼むようになっていた。

『仕事が忙しくて』というのが言い訳だったんですが、ときどき、ぼうっとしていることが増えた。僕は体調が悪いんじゃないかとおもって、医者に診てもらえと言っていたんですが、後から思えば、ちょうどそのころ、前の家庭持ちと男と関係が復活していたようです」

 金子さんは、非常に家庭に協力的だった。家庭も子育ても、夫婦で力を合わせてやっていきたいと思っていたから。妻に対しても、なにくれなく心を砕いていた。

「従来の夫婦関係に、なんとなく反発があったんですよね。家庭の基本は親子でなく、夫婦でありたい。いつまでたっても、お互いを尊重とあって、いい男女関係でいたいと思っていた。だから僕は、いつも妻をわかりたいと思っていたし、両方の親に協力してもらって、ふたりだけの時間もとろうと心がけていた。それなのに、妻に裏切られたんです」

 ある日、妻が返ってこなかった。彼は何度も妻の携帯電話に連絡をしたが、電源は切られたまま。翌日、子どもたちを保育園に預け、出社してから携帯に電話すると、妻が出た。

「とにかく無事でほっとした、と言ったら、急に彼女が泣き出したんです。だけどその日は、僕も大事な会議を控えていたから、とにかく帰ったら話そう、と言いました」

 仕事を終えて飛んで帰ると、妻はまだぼうっとしていて、食事の支度もしていない。子どもたちに食事をさせ、寝かしつけて、彼は妻に「どうしたんだ。何があったんだ」とやんわりと尋ねた。だが、妻は泣くばかり。しばらくたって、ようやく、自分の恋愛を白状した。話し始めると止まらなくなったようで、いかに自分が彼を愛しているかを喋り続けた。

「彼とは結婚してからも、何度か会う機会があって、実は関係も続いていようなんです。ただ、上の子の妊娠がわかってからは、ずっと途切れていた、と。下の子が生まれてしばらく経ってから、また働きたいと思ったとき、彼を頼ったようです。彼のつてで働くようになって、関係が復活してしまった、と。結局、彼女はずっと彼のことが忘れられなかったということですよね」

 それを聞かされた金子さんは、どういう気持ちだったのか。

「裏切られた、という怒りはありましたが、それよりむしろ虚しかった。僕がしてきたことは何だったんだ、と。僕は本気で彼女を愛しました。娘たちも可愛くてたまらなかったし、家庭では本当に大事だった。妻のこともずっと女として愛していた。

僕を激して、言ったんです。『オレのどこが不満だったんだ』と。そうしたら彼女は、『あなたの愛情は私には重すぎた』と。そのときは、夫婦の間で重すぎる愛情なんかあるか、とどなったんですが、それは彼女が僕をそれほど愛していなかったという意味なんでしょうね」

 金子さんは、それでも家庭を維持しようと頑張った。妻の帰宅が遅く、きっと彼と会っているに違いないとわかっても、何も言わずに妻を迎えた。

 本当のことは知りたくない、知ってしまったら、自分が何をするか分からない恐怖感もあっただろう。妻を追い詰めてはいけないという理性もはたらいてはずだ。

 金子さんは、相手の男性が家庭を捨てる気がない限り妻が目覚めて帰ってくると信じていたのだ。

 離婚を言い出されて

 だがついに、彼女は、もはや金子さんと一緒にはいられないと訴えたのだという。
 というのは、彼女は彼の子どもを妊娠してしまったから。彼女はひとりで育てていく決心をしたのだった。

「さすがに他の男の子を、僕の子だと偽ることはできなかったんでしょう。僕もそこまで言われたら、もう引き留める気力もありませんでした。僕が最後に言ったのは、ただひとつ。『子どもたちに軽蔑されるような母親にはなるな』ということでした」

 ところが離婚後、心労がたたったのか、彼女は流産してしまう。それでも、彼との関係はいまだに続いているらしい。

 金子さんは月に二度は娘たちに会いにいく。唯一の救いは、娘たちが父親を慕っていることだ。慰謝料も生活費も出していないが、娘たちの養育費として月々五万円は、きちんと元妻に渡している。それとは別に、娘たちのために月々、貯金もしているという。娘たちが大学に入るころ。本人に渡そうと考えている。

「元妻もようやく落ち着いてきて、今では友だちのような関係にもどりました。だけど僕は、彼女が、やはり結婚直後も彼と別れていなかったという事実に打ちのめされていて、まだそのショックから立ち直れてところがあります。彼と別れられないのなら、なぜ僕と結婚したのか。事実だけからみれば、僕が彼女にいいように利用されただけ。僕が真剣に彼女に傾けた愛情はなんだったのか、と」

 離婚直後は眠れない日々が続いた。どこに怒りと絶望をぶつけたらいいのかわからず、苦しんで苦しんで、酒におぼれた時期もある。飲み過ぎたあげく、居酒屋やバーのドアを蹴破ったり、テーブルを壊したりしたこともあった。

「自分で自分をコントロールできなくて、深酒してはあちこち器物損壊をやらかしていました。何度か警察にも突き出されたんです。そんなことをしているうちに、『これじゃいけない』と思うようになりました。恋愛沙汰ではなくても、自分がこのままだったら、『娘たちに軽蔑されるような父親』になってしまう。どういう結果になったにせよ。彼女を妻に選んで愛したのは、僕自身ですから」

 そういう気持ちにさせてくれたのは、ときどきかかってくる娘たちからの電話だった。さらに、金子さんは何とか立ち直ろうと、信頼できる上司に、自分の状況を話した。上司は仕事に没頭した方がいいとアドバイスしてくれ、重要な仕事を任せてくれた。その期待に応えるため、金子さんも仕事に没頭しようと努力した。そして、少しずつではあるが、苦しみは癒えていった。

「結婚ってなんでしょう。妻は、僕に対してずっと罪悪感があった、と言っていたけど、僕は最初から何も知らずに、本気で妻を愛して、家庭を愛して。バカみたいですよね」

 冷静に話しているかと思えば、突然吐き捨てるような語気が強くなる。いくらか落ち着いたとはいえ、金子さんはまだまだショックから抜け切れていないのがよくわかる。

 だが翻って、妻の気持ちを考える、それもわからなくはない。やはり、その家庭のある男性を、本気で愛しているのだろう。彼の愛情を断ち切る思いで、金子さんと結婚した。夫はいい人だ。自分を女として大事にしてくれる、子どもが生まれ、不倫の彼への気持ちも徐々に冷めて来た。ところが、子どもの手が少し離れると、やはり思い出すのは本当に好きな彼のこと。仕事を探す口実で連絡をとってみると、彼はまったく変わっていない、会えばまた縒りが戻るかもしれない。わかっていながら会ってしまう。そして案の定‥‥。妻も苦しかっただろう。

 思わず夫に白状してしまったとき、本当はもっと怒ってほしかったのではないか。力ずくでも、引き戻してほしかったのではないだろうか。それで最終的に、夫より彼を選んだかもしれないが。

 大事にしてくれる夫より、ままならない関係を選んだのは、やはり「好きだから」という言葉でしか説明できないのかもしれない。妻を擁護するきはないけれど、どんなに夫に大事にされても、彼女は不倫の彼に対する気持ちが抑えられなかったに違いない。

 理性だけで生きていけたら、どんなに楽だろう、と思うことがある。そうすれば、正しいほう、自分にメリットがあるほうを冷静に判断していくことができる。それなのに、人間は、自分を大事にしてくれる人より、自分が傷つく可能性の高い相手に心奪われることがあるから、始末が悪い。

この場合だって、どう考えても、金子さんと一緒にいるほうが、妻は幸せなはずだ。客観的に見てもそうであっても、彼女自身は、家庭のある男性を忘れられない。そこには彼女と彼しか分からない、何か強い絆があるのかもしれない。あるいは、夫として父親として
完璧な、あるいは完璧であろうとする金子さんに対して、妻は息苦しさを感じてしまったという可能性もある。

 男女のつながりというのは、本当にはたからは分からない。夫でさえ、妻とその彼との関係は、どうにも判断がつかないことなのだろうから。

 妻の恋に直面して

「私、今、恋しているの」
 ある日、妻に突然、そう言われたら、夫たちはどんな反応を返すのだろう。
 まるでドラマか小説のような話だが、山口章さん(四十八歳)は、実際、つい半年ほど前のある日突然、四歳年下の妻にそう言われた。
 山口さんがその言葉を聞いてすぐに言ったのは、
「悪い冗談はよしてくれよ」
 というひとこと。
「これ以上、黙っていられなかった」
 と呟いた。
 当時、結婚して十四年、ふたりの間に子どもはいない。望んでいたし、妻は一時期、不妊治療にも通っていた。だが、治療による心身の負担を見かねて、山口さんが治療を辞めるようにことを提案した。

「妻は働きながら治療をしていたんですが、不妊治療って時間もお金もいる。なんだか子どもをもうけるためだけに、人生すべてを費やしているみたいで、生活が楽しくなくなっちゃったんですよね。僕らはそれぞれ自分の好きな仕事をしている。だから、ふたりだけの生活を楽しんでもいいじゃないか、と彼女に言いました」

 妻も疲弊していたから、それに同意。ふたりはペットを飼えるマンションに引っ越し、犬二匹とともに、「子どものいないことを前提とした」新しい暮らしを始めた。それが妻の四十歳のときのこと。

 その二年半後の妻の恋愛宣言。山口さんは呆然とするしかなかった。妻はその宣言をしたあとも、何事もなかったように暮らしている。週末は以前と同様、山口さんを誘ってテニスをするし、映画を観にいったりもする。夜は自分からセックスを迫ってくる。

「恋してるの、と言っていた言葉が、日常から浮いてとまって‥‥。つまりあの宣言が、どういう意味合いから言ったことなのか、僕には全く分からなかったんです。一ヶ月ほど経ってから、『まだ恋してるの?』と聞いてみました。彼女は素直に頷くんです。『僕にどうしてほしいわけ?』と尋ねると、『知ってほしかっただけ、自分だけ秘密にしておくと辛いから』と言う。勝手な話でしよう? なんだか腹が立ってきて、『自分が辛くなれば、オレが傷ついてもいいわけか』と言ってしまいました。すると、妻はみるみる涙をいっぱいためて、『私だって苦しいのよ』って」

 それ以上、聞いた方がいいのか聞かない方がいいのか、山口さんは悩んだ。聞きたいけど聞きたくない。そんな矛盾した気持ちだったという。

「相手は誰なのか、どこでどのくらい会っているのか、相手はどうしたいのか、僕のことをどう思っているのか。聞き始めたら、おそらく止まらない。それがわかっているから、僕は聞かなかった。彼女の涙を見て、『これは本気なんだな』と確信しました」

 十四年の結婚生活の間に、山口さん自身、他の女性と関係がなかったわけではない。だが、それはほんの短い関係だったり、一夜だけの勢いだったり、というもの。結婚生活に荒波を立てるような関係は持ったことがない。

 女性の中にも、男性との関係を「遊び」と割り切って、あっさり一夜限りの関係を結ぶ人もいる。「愛人は顔よ」と言い切って、いい男とセックスするだけの関係を次々、あるいは同時に結んでいる人もいないわけではない。だが、それはやはり少数派だ。

「好きにならないと関係をもてない」
 というのが、ごく一般的。自分の心が相手の気持ちに反応して、好きになって、逡巡したあげくに関係を持ったからには、なるべく長くその関係を続けたいと願っている。たとえ結果的に、その関係が短期間で終わるとしても、女性は「遊びではなく、本気の恋愛だった」と自分に言えるような関係であることを望むのだ。

 宙ぶらりんの状態が苦しい

 山口さんの妻も、まさに「恋愛」にはまってしまったらしい。彼女から少しずつ聞き出したところでは、相手はどうやら妻と同じ会社の同僚か先輩か上司。つまり、毎日顔を合わせる関係だ。夫に白状してしまったときは、恋愛が始まったばかりで、妻はその罪悪感と不安感に耐えられなくなって、口走ってしまったようだ。だか、それ以上はいまだに聞き出せないままだ。

「ときどき、帰りが遅くなることはありますが、それは前からだから、この日は男と会ったと特定することはできないんです。でもときどき、『怪しいな』と思うことはあります。妙に物思いに沈んでいたり、心ここにあらずという感じだったりすることがあるから、僕だってどうしたらいいか分からないから、辛いですよ。そういう状態に耐えられなくなって、三ヶ月前ほどたったころ、『オレと別れたいのなら、言ってくれた方がいい』と妻に話したことがあります。そうしたら、『私はあなたが大好きなの。別れたくない』って。『じゃあ、その男とどうにかしろよ』と思わず言ったら、また言葉なく泣くだけなんですよね」

 あれから半年、妻の恋は今見続いているようだ。山口さんも、その件で妻をつつくのはやめた。

「その話を持ち出さなければ、妻とはごく普通に日常生活を送っていけるということが分かったから。ただ、知ってしまったからには、僕の中にも割り切れないものがあります。今のところは、僕は誰にも出会っていないけれど、今の状態で僕自身が気になる女性に出会ったら、あっさり妻に別れを言い出すかもしれませんよね。心の中に、シミのように妻への不信感が出てきてしまった。

どうしてあんなことを言ってしまったんだ。知らなければ知らないですんだのに、という気持ちでいっぱいなんです。結婚していても、心他に動くことはあるでしょう。だけど、それを相手に言わないのはルールじゃないですか、結婚生活を続けていく気があるのなら」

 妻には、夫なら許してくれるという甘えがあったのだろうか。あるいは、夫に自分の辛さを共感してほしかったのだろうか。山口さんも妻の真意を計りかねているが、それでもやはり「ルール違反」だと言い切る。

「どんなにつらくても、自分で解決すべきだと思う。それができないなら、恋愛なんかしないほうがいい。恋愛して本気になったときは、おそらく人生の分岐点に立っているということですよね、ぎりぎりのところで自分の覚悟が決まらない限り、安易に恋しているなんて言うべきじゃないと思います」

 山口さん、話しているうちに激してきて、だんだん口調が強くなっていく。妻との関係の中では、山口さん自ら、冷たくもできないし、つらく当たれない。彼は離婚の意志がないからかだ。

 一方的に妻に「恋してる」と言われて、そのままなんら決断を下さない妻、山口さんは、自分を宙に浮いた存在のように感じているという。

「僕と別れたくない、でも恋は続けている。いったい何を考えているのか、と思うけど、別れようと強くも言えない。僕自身も弱いんでしょうけど、離婚を考えるほど妻のことが憎いわけでもない。人間って、宙ぶらりんの状態に弱いですよね。僕たちの関係はどうなるのか、ときどき考え込んじゃうんですが」

 それでも様子を見るしかない、と山口さんは言う。いつか妻が彼と別れて戻ってきたら、そのまま受けとめることができるのだろうか。

「わかりません。もしかしたら、妻が完全に戻ってきたときに、どうしても受け入れられない、別れようと言い出すかもしれない。今はどこか、見えない相手の男と張り合っているような気持ちがあるのかなあ」

 山口さんはぽつりとそう漏らした。妻を挟んで向こう側にいる男への対抗心が、夫にはあるのだろうか。

 独身男性から見た、人妻の魅力

 かつて、人妻と何度か恋愛をしたという男性に出会った。高橋淳さん(四十歳)は、二十代、三十代のころにはそれぞれ、結婚している女性と恋に落ちた。特に三十代に入ってから出会った。四歳年上の女性とは、五年間、関係が続いた。

「相手には子どももいました。僕自身が若かったらつらかったかもしれないけど、三十を超えていましたし、結婚したと思ったわけでなかったから、長く続いてしまったんでしょうね。だからといって遊びではなかった。でも奪い取って結婚しようとも思わなかった。相手の置かれた状況ごと、受けとめていたということです」

 しかし、最初は彼女にもかなり深い罪悪感があったようで、『私だって悩んでいるのよ』と言われたこともある。それでも高橋さんは彼女と別れる気はなかった。

「結婚している女性は、やっぱり男をホットさせるところがありますね。長年、男と暮らしているせいか、男を和ませるのが上手いとうか。彼女と付き合っているとき、きっとオレが屁をしようがどうしようが、彼女は気にもしないだろうなあと思ったことがあります」

 彼女は、最初のうち、セックスは好きじゃないと話していた。
「確かに、子どもがいるのに、セックスに関して慣れていない感じがしました。ダンナがすぐ終わっちゃっうと言っていた。自分でこういう言い方をするのも変だけど、彼女の言葉を借りれば、『あなたとして初めてイクというのが、どういうことか分かった』と。これは男として嬉しいですよ。ダナンに勝った、してやったり、という気持ちになりましたね。ただ、彼女が、『セックスにはまるのが怖い、私は淫乱じゃない』といつも言っていたのが記憶に残っています」

 その後、彼女は高橋さんの子を妊娠、流産したという。それがきっかけで、結局、ふたりは自然と離れていくことになった。

「実は僕、今も独身なんです。もともと結婚の願望が少ないのは確かなんですが、人妻と付き合って、ますます結婚したくなくなったという面はありますね。案外、結婚している女性は、簡単に恋に落ちます。それを考えると、結婚するのが怖いですよ」

 高橋さんは、冗談とも本気ともつかない様子で、そう話した。

 人妻が、男性から見て比較的、簡単に恋に落ちると話すのは、彼だけではない。知人の加藤勇一郎さん(三十九歳)も同意見。彼は二十代のころ、子ども向けの教材を売るアルバイトで、マンションや団地をよく回っていた。

「あまり大きな声じゃ言えないけど、ときどききれいな奥さんがいたりすると、ついくどいていたなあ。子どもさえその場にいなければ、案外簡単に口説けた。もちろん、『ここじゃ嫌』という女性もいた。後日、別の場所でデートしたこともある。僕はあわよくば、という気分だったけど、相手の女性のほうは完璧に『その気』だった。人妻ってすごいなあと思ったことがあるんだ」

 もちろんみんながみんな、というわけではないだろう。だが、若かった加藤さんは、一見、幸せそうに見える既婚女性が、実はとても深い寂しさを抱えているのだということに、少なからずショックを受けたという。

「昼間、僕とセックスしちゃってるわけでしょう。『今晩、ダンナともするの?』と聞いたことがあるんです。そうしたら、『するわけないでしょう、めったに夫とはしないわよ』って多くの人が言っていた。そんなことはないだろう、と当時は思っていたけど、自分が結婚して子どもが生まれてみると、確かにそうしょっちゅうセックスなんてしないよなって思うようになった」

 加藤さんはそう言って笑った。あのころ、既婚女性とかなり関係を持ったから、自分の妻のこともあまり信用していないらしい。

「うちの妻に限って、ってみんな思うんですよね。だけどこればかりはわからない。たとえ専業主婦だって、男と知り合う機会は数多くあるわけでだし。うちの妻は働いていますから、外で何があるか分からない。僕は、『うちのに限って大丈夫』とは思っていません。

女の人って、『男は愛がなくてセックスする』って男を責めるけど、僕からみれば、女性だって同じだと思うなあ。口説かれて、それが好みのタイプだったら、とりあえずエッチしちゃうことはあるでしょう。男はそれを『遊び』とか『浮気』と呼んで、女は『恋愛』と呼びたがる。それだけの違いだと思うんだけどね」

 男から見ると、どうやらそう見えるらしい・女性の話を数多く聞いてきた私からすると、そのあたりは男女差に加えて、かなり個人差もあると思う。

 何をもってして、恋愛と判断するか。女性がいくら多数の男性と関係を持っても、自ら「いろいろな男性と遊んできた」とは言えない。やはり「たくさん恋をしてきた」と言うだろうし、実際の認識としても『恋愛』なのだと思う。

 女性の気持ちは確かに恋愛に偏りやすい。お互い好感を抱いて深い関係になった後、女性は男性より、より深く恋愛感情を抱くようになるものだ。

 だが、その関係が続いていったときにはどうなるのだろう。
 長く続いた関係を愛おしむ、大事に感じるのは、ひょっとしたら男性のほうかもしれない。どうも男は『歴史』に弱いような気がしてならない。自分たちが築いた『歴史』を。より重く受け止めるのは男性ではないだろうか。

 女性たちが、相手との関係そのものの中で『恋愛』を実感するのに対して、男性は時間や環境など客観的なものから『恋愛』を感じがちなのかもしれない。そういった男女差に、さらに個人差が加わるから、男女間には、誤解や齟齬がなくならないのだろう。

 男は女の浮気に気づいている

 もうひとつ、男ならではの意見というのを、ある男性から聞くことができた。
「男は、自分の妻や彼女が他の男性と関係したら、絶対に気づくはず」
 と彼、田中愼司さん(四十五歳)は言うのだ。あまりに自信を持っていうので、こちらが面食らうほどだった。

「実は僕自身が、五年ほど前まで、家庭を持っていながら外で恋愛していたんです。彼女は一回り近く年下の独身だった。かなり入れ込んでしまって、週に二、三回は彼女の部屋に寄ってから帰るような生活をしていた時期があります。当然、妻とはご無沙汰しちゃいますよね。だけど疑われたらまずいから、月に二回くらいは妻ともするわけです。あるとは、僕が風邪をひいたりして、二ヶ月ほど妻としない時期があった。

 久々にしたら、かなり入れにくく‥‥。なんとなく、妻のアソコが固くなっていたんですよね。その後、なぜか妻がセックスを拒絶するようになってしまった。こっちから迫っても、『体調が悪い』って。それならそれで、とこちらも迫らなくなったんですね。ところが、彼女との関係もいろいろあって、最終的に別れてしまった。それで再び妻に迫ったんです。最初は嫌がっていた妻も、仕方なさそうに受け入れてくれた。ところが、半年ぶりだったのに、妻のあそこが固くなかったんですよ。あれ、と思いました。ひょっとしたら男がいるのかな、と感じたんです」

 妻が夫のセックスを拒絶するのは、他に男ができたから、という可能性は確かにある。男性と違って、女性はセックスする相手が他にできてしまうと、あれこれ理由をつけて夫との関係を回避したがる傾向があるからだ。

 しかし、二ヶ月ぶりで固かった妻の膣が、半年ぶりなのに妙に柔らかく夫を受け入れた。これは「ひょっとして」と疑うのも無理はない。

 田中さんの勘は当たっていたようだ。その後、妻はあきらめたように夫の誘いを受け入れるようになったが、感じ方が明らかに依然と違っていたのだという。

「妻はもともと淡白なタイプだったんです。だけど、他の男に開発されたんでしょうか、妙に感じやすくなっているし、感じたときの反応も前とは違う。本人は抑えているつもりなんでしょうけど、体は正直ですからね」

 それでも田中さんは、追及しなかった。本当のことを知るのが怖かったからだろうか。
「それもありますね。女性って開き直る所があるから、追及したら妻がすべて認めて『いいわよ、別れても』と言うんじゃないかと怖かった。男って追及されても、のらりくらりかわしたり、『オレが信用できないのか』という逆ギレのしかたをすると思うんですよ。

でも女性は開き直ってしまいそうな気がして。それともうひとつは、知っているのに知らないふりをしている自分に、妙な優越感を覚えるというところもありますね。これは強がりじゃないんですよ。男のナルシズムと関係するのかもしれないですね」

 それにしても意外な話をぞくぞくと聞かされる。私は、男は女性の浮気には気づかないものだと思っていた。だが、男の心理は屈折しているところがあるから、ひとりやふたりの意見では納得できない。私は、他の男性たちにも、「もし妻や恋人が浮気したら気づくか。気づくとしたらどんなところからわかるのか。そうしてそれについて追求するか」と尋ねまくった。おそらく二十人には聞いてみたいと思う。

 その結果、九割の男性が『浮気はわかる』と答えたことに驚かされた。しかも、女性が男性の浮気に気づくように、態度が変わったとか「なんだか様子が変」というような漠然としたものからではなく、明らかにみな「セックスの場で分かる」と言い切ったのだ。そして、それを女性に言って反応を見たり、浮気しただろうと追求したりする男性が、ほとんどいないことも判明した。

「セックスの場面って、無防備だし、理性が飛んでしまうところがあるでしょう? だから、他の男の好みのことを急に僕にして見たり、感じたときの表現が前とどこか違う、ということがあるんですよね。セックスの場面では、無意識のうちに本音が出てしまう気がします」(三十四歳)

「遠距離恋愛をしていたとき、あるときから彼女のキスの仕方が変わったから、他の男と付き合っているなとわかったこともある。僕自身は、ずっと一緒にいながら浮気されてたら分からないかもしれないけど、あのときは遠距離恋愛で、三ヶ月に一回くらいしか会えなかったから、変化がよく分かったんですよね」(三十二歳)

「家庭があるんですが、十年近く、外で付き合っていた女性がいます。一時期、彼女は他の男性と付き合っていたと思う。僕は離婚する気はないと言っていたから、彼女に他の男ができても、束縛する権利はないわけですよ。でもあの頃は明らかに、彼女のセックスの反応が変でしたね。僕とするよりもっと感じる相手だったのかもしれません。

それまでセックスでなんの要求もしなかった彼女が、『こうしてくれたら、もっと感じる』なんて言い出して。ちょっと探ったこともありますよ、どうしてそういう言い出したのか。でも彼女は、『あなたがいから、寂しくてついひとりでしていたら、すごく感じる場所をみつけてしまった』と言っていました。その言い分、僕は信じていないけど」(五十歳)

 急に、あるいは徐々にセックスの場面での反応が変わる、あるいはセックスへの取り組み方が変わる。そこから、男は女の浮気を見抜く。だが、見抜いても、追及はしない。やはり、女性に開き直られるのが怖い、というのは男性たちの共通の思いのようだ。

「知っているの知らないふりして優越感って、分かるような気がする。だけど、本当は知っているんだぞと言うことを、ほんのちょっと見せたりして。男は結局、小心者なんでしょうね。女性の裏切りを認めたくない。真実を知ったら自分の感情がどう揺れるかわからない、それを見たくないということがあるんだと思います」
 と、四十代の男性は話してくれた。

 たとえば妻が浮気したとわかったとき、男たちは、女性が夫に浮気されたときと同様、プライドを踏みにじられたような気分になる。女性の場合は、「私というものがありながら」という怒りがわく。ところが、男性の場合は、「オレが男としてダメなんだ」と落ち込む方向にいく。同じようにプライドを傷つけられても、その心の動きが違うのだ。男の方が小心者、と男性自らが言うのは当たっているのだろう。

 小心者だからこそ、その気持ちを表現するときは、妙に居丈高になってたり暴力的になったりするのだろう。素直に心情を言葉にする術を知らないのかもしれない。素直に気持ちを吐露したら、「負け」だと思う可能性もある。

 なぜか、男性は、妻が他の男と関係を持ったことが分かった時点で、「その男に負けた」と思うようだ。

 一方で、夫のある女性とつきあった男性は、「夫に勝った」と感じる。競争社会でしか生きていけないように慣らされてしまった男の性(さが)なのだろうか。

 いずれにせよ、男たちは知っている。妻が他の男性と関係を持っていることを。
 これは今回、新たに分かったことであり、私自身、驚かされた事実でもあった。彼らのうちの一人は言った。

「男は女性の浮気を分かっている。でも、これだけは女には知らせたくないから、男はこの事実を公表しないんじゃないかな」

 うちの夫は私に女として興味をもっていない、だから外で恋愛が夫には知られていない、と思っていたら、それは妻の大いなる誤算かもしれない。

つづく 第五章 不倫の恋の決末
 「今」は「未来」に続くか