女の子も思春期になって恋愛とともに性的な知識がついてきたりすると、女の子同士で話たりしますよね。はじめは自分が少数派だということに気づいていなかったんですが、こういう男の人が好みだとか、こういうことをしてほしいとかいった欲望を友達に話して初めて、自分は人と違うということに気づいたんです

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見出し

南智子南智子
「言葉攻めのカリスマ」である天才セックスワーカー
男性を攻めたい欲望を抱えて生きる
一九六八年生まれ。セックスワーカー、作家。
数々の風俗業を経て、渋谷の性感マッサージで「言葉攻めのカリスマ」として君臨。
数々のAVにも出演し、また漫画原作も多く手掛けている。原作作品に『ボディーシューティング』『ふぅど~る』など。
その他の著書に『Hの革命』『男を抱くということ』など。

●コンプレックスと孤立感

うさぎ◆先日、ご出演されているビデオを見せていただきました。面白かったです。南さんのスタイルは「言葉攻め」と言われているんですよね。
智子♠そうですね。『言葉攻め』というジャンルを作ったわけではないんですけどね。会話や言葉によって興奮を高めるというタイプなんですね、私は。
うさぎ◆いつごろからそういう傾向に?
智子♠生まれつきですね。
うさぎ◆ははぁ。私は性的には積極的になれないんですよ。たぶん自意識過剰何だと思うんですけど。
智子♠私もコンプレックスはずっと持っていましたよ。だいぶ諦めましたが。
うさぎ◆どういうコンプレックスですか?
智子♠私は「抱かれる」という欲望がないんですよ。
うさぎ◆ははぁ。
智子♠相手として受け身のMっぽい人が好きなんです。Mなら誰でもいいわけではもちろんなくて、それは皆さんと同じですけど、女性としては珍しいタイプの性癖のようですね。そのことでずっとコンプレックスを持っていました。
うさぎ◆男性とセックスする時に自分はこういうふうにしたい、と思う訳ですね。
智子♠ええ。女の子も思春期になって恋愛とともに性的な知識がついてきたりすると、女の子同士で話たりしますよね。はじめは自分が少数派だということに気づいていなかったんですが、こういう男の人が好みだとか、こういうことをしてほしいとかいった欲望を友達に話して初めて、自分は人と違うということに気づいたんです。

で、友達から「おかしいんじゃない?」「そんな話、聞いたこともない」「考えたこともないよ、大丈夫?」などと、けっこう言われまして。その時から、少数派なのかなぁ、と気づいたんですね。それ以来、女性として異常者なのだろうかという疑問が出てきたんです。本来は、自分にとってはごく自然なことだったんですけどね。
うさぎ◆実際にセックスをする前から、そういう傾向が自覚的にあったんですね?
智子♠ええ、ありました。
うさぎ◆それは、想像する時に?
智子♠そうです、こんな人が素敵だなとか、こういうふうに初めてのキスを体験したいなといったことを、少女漫画や映画を見て、多くの人が実際の体験の前に、ちょっとずつでも思っていますよね。その時の傾向からして違っていたんです。
うさぎ◆少女漫画だと、だいたい女の子が受け身なんですよね。
智子♠そうですね、当時はまだあまり性的な描写は多くなかったですが、すごく恥じらっている女の子が出てくると、「これで男女が逆だったら素敵なのに」って思ったんですよ。友人たちが「強引な人って素敵だよね」って言っていても、全然ピンとこなくて。私が自分の好みの話をすると、「信じられない!」って言われて、友人はいたけれど、同じ性的願望の人には、ほとんど会ったことがありませんでした。
うさぎ◆実際にセックスするようになって、そういうのを男性に仕掛けるとイヤがられたりとか?
智子♠そうですね、初体験の相手は中年男性で、完全なMまでいかないけど、わりと触らせてくれるひとだったのでよかったんですが、十九、二十歳の同年代の男の子と付き合ってたので、私は焦って、自分の傾向を隠してました。できるだけ普通っぽくしていようと思って、我慢して付き合ったのです。結局、最後には爆発しちゃったんだけど(笑)。「もうイヤだ、ここまで耐えて演じたって、性的には恋愛的にも精神的にも満足度がない」と気づいた時に諦めがついて、自分のままで生きて行くしかないんだ、と思うようになったのです。

うさぎ◆なるほど、それ以来は、付き合う相手に初めから積極的になったんですか?
智子♠自分がある意味では変わった女であることを、先に話すようにして、それで断られたら仕方ないと考えるようになって、二十代になって、SMというか女王様というものがあると知ったので、そういうタイプなのかなと思うようになって、そういう人たちが集まる飲み屋さんに行って見たりして、ちょっとずつ知るようになりました。
 最初にセックスワークをするようになった直接のきっかけは経済的なことだったんですが、仕事に入る時にもいろんな所に行ってみて。自分は本当に変わっているのか、人の性というのは何だろうという疑問があったのが、「南智子」になった根本だと思います。
うさぎ◆ふむ。サディストというのとご自分とは違う?
智子♠定義がね、未だにわからないんですよ。自分にサディストティックな願望がないとは言わないですし、ないと言えば嘘になりますが、職業的に知り合った女王様たちが何人もいますけど、ちょっと違うなという意識はありますね。
うさぎ◆どこが違うんですか?
智子♠女王様たちの中には、M男性のことを心底好きでない人も多いんですよね。私のように、Mの男の人にエロティシズムやセクシーさを感じて、とにかくM男に触れたい、付き合いたいと思って入って来る女王様は、とても少ないんです。女王様に憧れてなることも多いようです。
うさぎ◆ああ! 自分は萌えですか。
智子♠そうですね、「私もああいうふうにやってみたい」っていう形で、もちろん百%とは言い切れないですが、そういう傾向があるらしいですね。だから、女王様同士の闘いは、自分がどれだけすごいかという競い合いになったりするのだそうです。

S性についても、自分がどれだけスゴいことを平気でやれてしまうかとか、どれだけ縄や鞭が上手いかという事になるんです。女王様コンペションというのがあるんですが、そこで競われるのはそういうことですよね。

 私はレズビアンに反発も嫌悪感も全くないんですが、女性の体には欲望がそんなになくて、とにかく受け身の男の人が好きで、そこに興味が向かっているんですよね。だから、その部分ではSの方と興味が違うんです。女王様の中には、Mの男の人を軽蔑している人もいらっしゃるみたいです。

「あんな人達、このあたしが本気で好きなわけじゃない」「Mの男をみて本当に興奮しないわよ、やーね」なんて知人の女王様から言われたりしますよ(笑)。だから、私とはちょっとタイプが違うんだなぁと思います。
うさぎ◆なるほどね。それは違いますね。
智子♠自分がジャンルとしてどういうネーミングになるのか、断定できないんですよ。今は、やおいから発生した言葉として「受け」「攻め」を使って、「攻め女性」「攻め女」と便宣的に言ったりしますが。
うさぎ◆女王様の集まる所に行くと違和を感じているんですね。
智子♠ええ。呆れられることもありますよ(笑)。「あなた、ほんとにMの男が好きで、最高だなんて思っているの? 信じられない」って言われて。ずっと孤立感がありましたね。やおいの人たちは、受け男は好きだけど、男同士でないと絶対にイヤで、女の人が男を攻めているのはイヤだという人が多いし。
うさぎ◆南さんが心を通わせられる相手が、なかなかいないですよね。
智子♠そうですよね、どこに行っても・・・・という感覚は強かったですよ。コンプレックスもあったし。
うさぎ◆そうすると、南さんのような傾向を喜んで受け入れてくれる男の人がいることが、南さんにとっての幸せですか?
智子♠そうですね、私にとってMの男の子は、ある意味、神様のような存在です。
うさぎ◆風吹あんなさんが監督されているビデオ「女塾」では、女性を攻めていますよね。
智子♠あれは風吹さんの世界ですね。実はあの話をいただいた時に、初めは「できない」と何度かお断りしたんですよ。あんなさんは本物のレズビアンというコンセプトでいきたかったみたいで、私にバイセクシュアル性が強いと思っていらっしゃったみたいなんです。

私としては、レズビアンも魅力的な世界だと思うのですが、性的に欲情するのはMっぽい男性に対してなんですよね。だから、お話をいただいた時に、「私は本当は男性の方が性的には好きなので、本物のレズビアンではないんです」とお断りしたんですが、あんなさんが「それでもいいから、ぜひ」と口説いてくださって、それで出たんです。
うさぎ◆では、女の人を攻めている時は、南さんはあまり幸せではないんですね?
智子♠もちろん不快ではないし、素敵だと思いますが、それほど欲情しないです。
うさぎ◆あれを見て、南さんに開発してほしいという女の人がけっこう出て来るんじゃないですか?
智子♠そうですね、レズのタチの役を振られるというのが、仕事的には多いですね。

●SMの中の文系。理系、体育系

うさぎ◆言葉っていうのは、こういう事を言ったら相手も喜ぶし自分も気持ちいいという事で、だんだん自分で掴んでいったんですか?
智子♠そうです。ビデオの場合はプライベートとは違いますが。普段はもっと耳に口をつけ囁いていますが、ビデオではそれだと音声が聞こえないので、もっと声を張って、多少ハデなリアクションにしたりしています。
 セックスワーク業界の仲間内で聞いた話なんですが、SMという大きな括りの中ではだいたい三つのタイプが分かれているんじゃないかという話があって、文系、理系、体育会系と。
うさぎ◆へえーっー!
智子♠それだと私はバリバリの文系なので、言葉とかシチュエーションに欲情するんです。作家の斎藤綾子ちゃんなんかは、言葉は邪魔で、相手の言葉も聞いてもいないし、喋れと言われても困ってしまうというタイプで、そういう人は体育会系。どこをどのように触れればという感覚があるか、といったフィジカルな方向に関心が向いているんですね。

綾子ちゃんはクレバー過ぎるから、すべて手を捨てて無になりたいというところから、ダイビングをしたり、セックスでもそういう境地にいきたいという欲望があるんじゃないかな。で、理系は、たとえばヘビを輪切りにしたらどうなっているんだろうと思ってしまうタイプ。人間は浣腸が何cc入るんだろうと思ってしまうタイプですね。
うさぎ◆実権派か!
智子♠そうですね、どちらかというと医療ブレイにいきがちですね。それは、あくまでも性的な面でのタイプの話ですが。海外とか、最近は日本でもでてきている猟奇殺人犯のサディストって、多くが理系サディストではないかと言われてます。もちろん、このタイプというのはそれぞれ被っているんです。

その被り方も人それぞれですし。私の場合は、かなり度合いで文系なので、言葉を言わせること、自分が言ったことで相手が反応することに興奮が向かうんです。それにシチュエーションや相手の表情、喘ぎ、それら総てが複合して感じるんですよね。
うさぎ◆今の話はわかりやすかったです。たとえば、猟奇殺人犯って、分かるようでいて、どうしても理解できないところについては「魂がない」と思ってしまう部分ってあるじゃないですか。でも魂がないんじゃなくて、魂の種類が違うのかもしれない。
智子♠そうですね。性って、本当に様々な個性があって、私もセックスワークを十年以上やってきて結論なんてわからないんですが、私が唯一体感したと思っているのは、本当にありとあらゆるタイプの人がいるということなんです。もちろん、マジョリティ、マイノリティはあります。言葉の上で「性は多様なものだ」と分かっていても、実際に違う価値観の人と出会うと、理性では差別を嫌っている気持ちがあっても「ゲッ」となってしまう人もいますから。
うさぎ◆そうですね、サディストに多様性があるといっても、ふつうの人が想像する限度としては、サディズムとマゾヒズムがあるというところ止まりで、サディズムの中にどういう種類があるかまでは考えが至らないんですよね。快楽殺人というサディストだろうとは思うけど、サディズムに種類があるとも思わないから、自分の中のサディズムとその連続殺人が結びつかないと、「あの人には心がないから」くらいに思ってしまうんですよね。
智子♠大切なのは、まず男女問わずいろんな人間の中にいろんな欲望があるということを認めて、それをどうコントロールしていったらいいのかということだと思うんです。でも、今の段階では、「人を殺してしまいたいくらいの欲望が『ある』ということを認めてしまったら最後だ」みたいなところがあって。「まさか、ないでしょうね」と言われて、そこで「あるんですが、どうしたらいいんでしょう?」とは言えないないような社会的状況があるとように思います。

ロリータ・コンプレックスなどにしても、目を背けるより、自分でどのようにコントロールするかが重要でしょう。でも、そう言う欲望があると言ってしまったら最後だというところがあって、また、そういう人たちを救済するボランティア団体があること自体を危惧する人たちというのもいるので、よけいに水面下に潜ってしまうんですよね。
うさぎ◆なるほどね。南さんは、そういった性的な多様性が面白い?
智子♠面白いというよりは、多少は癒されたり楽になったり諦めの境地に至ったり、ということはありました。
うさぎ◆今はセックスに対してはどういうスタンスですか?
智子♠一般にセックスという場合は、今の話のように、ありとあらゆるケースがあるので、柔軟な対応が必要かと思います。従来の純愛主義・純粋主義では解決にならない部分があることをちゃんと見て、ちゃんと考えていかなければいけないと思っています。個人的には、まだコンプレックスを引きずっているところはあって、でも、いろんな人がいるんだから仕方がない、と思っていますね。
うさぎ◆そうなんですか、未だにコンプレックスは払拭されないですか。
智子♠何かの拍子にパーッと出てきてしまうことはありますよ。一般女性というか受け身の女性や、需要の多いM女に対して、「こういう人のほうが女性としてマジョリティで、多くの人と共感できて愛されるんだな」って思ってしまったりもするんですよね。これはもう、理屈たではなくて、コンプレックスの残骸だってわかっているんですけど(笑)。
うさぎ◆私は南さんの出ているビデオを見てて羨ましかったんです、自分のやりたいことがはっきりしているという意味で。私も含めて女性は、自分のやりたいことがよく分からないという人は多いと思うんですよ。セックスのことを考えるのが恥ずかしいという事ではなくて。
智子♠そうですね、特に女性に多いみたいですね。
うさぎ◆やっぱりそれは、いろんなことをやってみたことがないというのも一つで、やってみたとしてもピンとこなくて、そこから先には進めない、というのもあると思うんです。あと、私の場合は、心の中に私をツッコむ人がいるんですよ。私自身なんですが(笑)。ツッコミ小人と呼んでるんですが、私のすることにツッコむんです。

セックスというのは、ある種、自分を解放しないといけないのに、たとえばマゾヒスティックな願望があって言葉攻めされて気持ちいいなと思い始めると、ツッコミ小人が「なーんちゃって」みたいなことを言うんですよ。そうすると、たちまち集中できなくなるんです。

智子♠照れ屋さんなんですね。
うさぎ◆なんで照れるのか、よく分からないんですけどね(苦笑)。だから、セックスを楽しみたいと思うんですが、ツッコミ小人がいる限り、私は自由になれないと思うんです。
智子♠私自身のいちばんマイノリティな部分って、攻めの願望があるということ以上に、その性癖の極端さゆえなんだと、最近では気づきました。というのは、たとえば女性の中にはどんなセクシュアリティの人でも、「たまには攻めてみたい」「攻めてもいいよね」という人も増えてきたんですよ。

百%受けという人は少なくて、両方の願望がある男女が一番多いと思う。気持ちよければいろんなことをしてみたい、という人が一番多いように見えるんです。そういう意味で、私はマイノリティなのかもしれませんね、完全に攻めオンリーの性癖なので。

 多くの人は、こういうことをしてみたいけど怖いとか、バカらしい気がする、嫌いなんだけど興奮してしまうといった、相反する複雑な気持ちを持っているように見えるんです。私自身の欲望や感覚とは少し違いますね。そういう意味では、女性の中にバイセクシュアルの人がすごくたくさんいるように思います。

それはたとえば、「AVに出るような女だからだよ」っていうツッコミが入るかもしれませんが、AVに出ている女の子だと「ちょっと女の子とからんでみて」と言われて、「今すぐ帰ります」って言う人は殆どいないんです。でも、AV男優だったら、「ちょっと男の人のを咥えてみて」と言ったら、断る人は多いですよ。それは社会的なインプットなどいろんな理由があると思いますが。

 私にはなかなかアドバイスができないんですが、うさぎさんにはツッコミ小人がいて、どうもセックスにのめり込みにくい、と。だからといって、「もうべつにセックスなんていいじゃん」と言ってしまうのも、なんか不安で、これでいいのかと思ってしまうでしょうね。じゃあ「なーんちゃって」っていうお笑い系のエッチをすればいいんじゃんと言っても、そんなのいや~ん、とかね(笑)。
うさぎ◆ワハハハ。あたりです。
智子♠相反する欲望や願望や気持ちを持って自分で困っている人はたくさんいらっしゃるように見受けられるので、そのこと自体は、べつにおかしなことではないと思うんですよ。
うさぎ◆なんか損した気分になるんですよ。世の中には気持ちよくセックスしている人いるのに、私はツッコミ小人のおかげで、いまいち気持ちよくないというか、気持ちはいいんですが、みんなのほうがもっと気持ちいいんじゃないかと思ったり。

一人ひとりに聞いたら、エクスタシーなんて十人十色だし、そんなにいいセックスばかりしているわけでもないかもしれないけど、みんなは本当に気持ちいいことをしているのに、私はギクシャクしてしまうところがヘタレだ、と思ってしまうんです。何とかできないかと思うんですが。
智子♠今日の新聞に、女性の性を考えるイベントがあったという記事が載ってて、そこにはやはり、「みんながスゴい体験をしているなら自分もしないといけないんじゃないかと言う感覚がすごく強くて、縛られる」という悩みがたくさん寄せられた。とあったんです。

 女性の場合、いい女にならないといけない、こうでなければいけないという理想型を押し付けられますよね。AVでもセックスワークのお店でも、女性って最後の最後までインプットが行き届いてて、こうすれば可愛いとかこうすれば愛されるというものが骨の髄まで染み込んでいるんですよ。

こんなふうにしたら嫌われてしまう、色っぽいエッチな女から外れてしまう、というものが埋め込められているんです。だから女の人って、受け身になった時に、声の出し方から何から、すごく似通った反応をするんです。

 男の人は、受け身になった時には「こうするとカッコいい男」っていう型がないから、素になっちゃうんですよ。ゲイの友人に聞いてもそうだと言っていたんだけど、男の人の場合は、ワケのわからない反応をしたりヘンなことを言いだしたりしちゃうことがあります。女の人は「完璧な反応」というものに縛られてて、たとえば「あんぎゃ~!」って言ったりしたらイイ女から外れてしまうという恐怖感が強い。

セックスして気持ちよければ「あんぎゃ~!」って言ってもいいじゃないかっていう感覚がなくて、セックスすることによって男の人から愛されないといけない、という意識があるんですね。

 私のコンプレックスも、このバリエーションの一つでしょうね。こんな攻めの私は、色っぽい女、イイ女、可愛い女から外れてしまう、というものですから。これは、男の人にとってもジレンマで、「ほんとうの女の姿を見せてほしい、でも『あんぎゃ~!』は不許可」みたいなね(笑)。
だから、男にとって一番の理想は「その女の本当の反応」が自分が好きな反応であることなんですね。

うさぎ◆わかる!
智子♠だけど、これはすごく難しい部分ですね。解決策というか、どうしたらいいかというのは提示できないけど。AV女優の豊丸さんみたいに、過激な反応なんだけどかわいくて色っぽいという方もいるわけだし、今は痴女が人気ジャンルとして成立してるんですが、痴女だけど色っぽくて、そういう女を好きな男の人もいるんだ、ということになっていけば変わってくるかなとは思うんですが。
「これが理想の男と女」というものがあって、そこから外れるともうダメっていうんじゃなくて、今まではダメとされてきたけど「こういうものがすごくいいよ」っていう提示が産業においてあると、人の救いになるのではないかと、体験上思います。
うさぎ◆たしかにセックスにはインプットされている部分は強いと思うんですよ。インプットされているからこそツッコミ入れたくなっちゃうんですよね。ここでこういうふうに反応すると相手も喜んで自分も興奮するのかもしれない方向に行こうとすると、「媚びちゃって~」ってツッコミむの(笑)。
智子♠わかりますよ。男の人でも、「君の瞳に乾杯」って言える人と、「ふだんステテコ穿いてて言えるかよ」っていうツッコミを自分で入れる人と、いると思うんですよ。性格的に違うんだろうと思うけど。

●うさぎ、窃視願望?

うさぎ◆私は男の人に声を出してほしいと思っているんですけど、あまりそういう人はいませんね?
智子♠場所などにもよるんじゃないですか? ふだんはノーマルといわれるようなセックスをしていて、性感マッサージで別の欲望を晴らすという人もたくさんいますし。
うさぎ◆ああ。私はAVをみていてもそうなんですが、男の人が女の人を攻めているのを見ていて、SMというところまでいかないんですが、悶える女の人を見ているのが好きだったんですよ。

それで、自分が女優に感情移入していてMっぽいのかな?と思ったんですけどプライベートでそういったことをされても気持ちよくないんです。ある時から、私はAVの男の方に感情移入しているのかと思いつき、だったらレズなのかなと思って、女の子とエッチしたことがあるんですが、どうもそうではないらしいんですよ。

 最近思ったのは、どうも逆転して、男の人が声を出したりするのをみたいのではないかと思ったのです。自分の少ない経験上、そういうシチュエーショがあまりなくて、そもそもスキルがないんです。
智子♠うーん、でも、スキルの問題じゃないと思うんですよ。
うさぎ◆あっ、違いますか。
智子♠いろんなことが考えられますが、もしかしたら、自分が参加するとダメなタイプである、ということもあり得るかも知れない。
うさぎ◆うーむ! ! !
智子♠断定はできませんよ? いろんなケースが考えられますからね。たとえば、男とで女でもいますけど、窃視願望が強くて、窃視しているほうが興奮するという人はいます。
うさぎ◆それかあ! !
智子♠もちろん、AVだとダメだという人たちもいるんですよ。漫画家の間ではよく話すんですけど、いわゆるオカズとして「何を使っている?」「何が好き?」という話になると、アニメや漫画じゃないとイヤという人もいるし、そういうのは使わなくてフランス書院の官能小説という人もいる。

男性だったら当たり前のように自分で研究していく傾向があるから、自分の性的な傾向に気づいていくんだけど、女性の場合は「どうしてもイヤらしいことばかり考えちゃうだろう」って思って、自分の性なのに向かい合わなかったりするんですね。だから、わからないのは無理もないと思うんです。浮遊している霊のような立場で、やられている人をみている状態が一番いい、という人もいますよ。
うさぎ◆そうなるかもしれないと、いまは言われて思いました。森奈津子さんとの対談でオナニーについて話したんですが、私にはオナニーストーリーがあるんですよ。オリジナルなんですが。

智子♠それは書き出してプリントアウトしてるんですか?
うさぎ◆いえいえ。頭の中に。
智子♠ということは、同じストーリーを繰り返してつかいる?
うさぎ◆そうですそうです。で、そこには自分が出てこないんですよ。自分が出てくると興奮できないんです。
智子♠他人のを覗いている時は、ツッコミ小人は静かにしているんですか?
うさぎ◆他人のを覗いてるというか、主体がなくて、見ているという意識すらないんですよ。
智子♠なるほど、うさぎさんにとっては、それがベストなのかも。
うさぎ◆あらら。そのストーリーでは私はいなくて、二人の姉妹がいるんです。いや、この話をすると長くなるんで(笑)。
智子♠大河ものなんですか?
うさぎ◆かなり(笑)。
智子♠それは、新しいストーリーがだんだん付け加えられて大河ものにったり?
うさぎ◆それがねぇー この話をあんまり人にしたことがなかったので、聞いてくれる人がいると嬉しいな。ひとつのエピソードでしばらくエッチな気分でオナニーできるんですが、そこから話が進まないと飽きてしまうので、またエピソードを追加したんです。そうやって5話くらいまでになって。
智子♠それ、出版なさればいいのに~。
うさぎ◆私の個人的な妄想なので。
智子♠でも、そういうもののほうがパワーがあるんですよ。エロものにはパワーが大事ですから。
うさぎ◆でも、類型的な話なんです。
智子♠彼女たち二人が主人公で、ゲストが出るんですね。
うさぎ◆そうです。そして自分が参加しないです。
智子♠そういう傾向が強くてらっしゃるのかも知れませんね。
うさぎ◆最近になってオナニーの話をするようになったので、それまで気づかなかったんですが、こんなふうに話を作ったり、しかもそこに自分が存在していないというのが少数派であることに、この年になって気づいたんですよ。だってね、エロ漫画やエロ小説を読んで興奮するのは、それが私の話じゃないからなんです。
智子♠でも、そういう方は、たくさんいらっしゃると思いますよ。
うさぎ◆でも、もし覗き見が私の性的興奮をもっとも刺激するのであれば、私は一生、覗き見する立場で、セックスする立場がなくなるとしたら、どうしたら‥‥。
智子♠それは、自分がどう選ぶか、ですよ。
うさぎ◆「選ぶ」?
智子♠どんな嗜好でもそうだと思うんですけど、「妄想として楽しむだけでは社会生活はフツーにする」「そのほうが精神的な健康にいい」という人はそうすればいいし、「私はやおいを描くことだけに一生を捧げる」という人も、私のようにカミングアウトして「たとえうまくいかなくても自分のままで行く」という人もいますよね。ゲイでも、社会生活とは別にこっそり陰でやるか、カミングアウトするか、人それぞれです。人生の選択ですね。性的な事って、人生にすごく大きくかかわってきますから。
うさぎ◆カミングアウトするのは平気なんですけど、覗き見が趣味である以上は、オナニーしかするこがないじゃないですか。
智子♠うん、「私はオナニストです」っていう人もいますしね。
うさぎ◆でも、セックスもしたいんです。
智子♠自分にとって本当の肉体的・精神的快楽を得るのはオナニーで、恋愛だったり自分が大切にされているという違う快感や悦びを得るためにセックスをするんだ、と考える方もいますよ。無理やり一緒にしなくてもいいんですよ。一緒にできる人はいいけど、不可能な人はいますから。
うさぎ◆そうか、そうですよね、もし、覗き見が私の根元的な欲望であれは・・・・私はセックスは恋愛の延長線上にあるほうが幸せだと思っているんですけど。
智子♠幸せと快楽とは別という人もいるかも知れませんよね。
うさぎ◆そうですね。私の快楽は恋愛の延長線上に置きようのないものである、と。
智子♠覗き見というよりも、もっと細かく考えると、窃視願望という以上に「自分が存在しない」ということが大事という場合もあると思います。あるいは「確かになる」
うさぎ◆うーん。
智子♠あとは、よく受ける質問で「ビデオで見たのと同じことを彼氏やダンナにやってみたけどダメだった。どうしたらいいの?」っていうのがあるんですが(笑)、性感の店に来るお客様に伺うと、関係性のある人に対してはやりたくないっていう人もいるんですよ。奥さんとか彼女とかとしてしまったら、後が来気まずいとか、主導権を取られてしまうんじゃないかとか、そういう姿は見せたくないとか。

日常の関係性がないところ、風俗だったら思いきり出したい、という事なんですね。これは、男にも女にも、そういう感覚がある人にはあって、ない人には理解できないかもしれない。

 男の人に多いのは、女になって受け身になりたいという人。男のままでは受け身になれない、だから妄想の中だけ女になって、とか。あとは風俗でレズプレイをしてもらうとか。ほんとにさまざまです。

 女の人の場合は、生き方についても関係性についても「女の性はこういうものである」というインプットが強くされていて、さらに、性的メディアや風俗で「自分の性ってなんだろう」と探究するチャンスが男性より少ないので、自分の欲求に気づかないことが多いだと思います。

うさぎ◆なるほどね。南さんがやったAVを見て、同じ事をやってみたけど、相手が乗ってくれなかったということについては、どう答えているんですか?
智子♠いろいろ考えられると思いますよ。たとえば、最初の導き入れ方がいけなかったかもしれないし。
うさぎ◆スキルですか?
智子♠スキルっていうのかな、雰囲気でも、「お尻やってみたけど、うちのダンナはぜんぜん感じない」っていう人でもね、四つん這いにさせていきなりズブッと指を入れてみたと言うのですが、それですごく感じる人って、男でも女でも少ないと思うんです(笑)。やはり雰囲気や持って行き方が大事ですよね。もちろん、本当に興奮しないという人や興味ない人もいるでしょうし。
うさぎ◆自分がしたいことでも相手が乗ってこなかったら仕方ない、ってことですよね。
智子♠そうですね、興味はあるけど「関係性のある相手とはイヤ」ということで乗ってこない場合もありますし。そこで、その後どうするかは、またいろんな選択になりますね。他の人とするのか、浮気はイヤだからと我慢するのか別れるのか。

●ネーミングの重要性

うさぎ◆私はね、女装した男の人が好きで。ゲイが好きという訳でもないんですが、男の人が余興で女装しているのを見ると萌え萌えしちゃって。
智子♠ああ、女装っ子好きという女性は意外に多いですよね。私は女装系が趣味というわけではないんですけど。
うさぎ◆そうなんですか。男の人とセックスする時に「セーラー服を着てほしい」と頼んだことがあったんですが、断られまして(笑)。それが残念で、残念で。それで、男の人にセーラー服を着せて何がしたいと思う私は、レズなのかと考えるんだけど、答えが見つからないんですよ。
智子♠そうなんですよね。私も、自分を女王様と違うなら何? というと、名前が付けられない。だけど、ある程度ネーミングって大事で、名前を付けると「私も!」っていう人が集まりやすいんですよ。タイトルフィット。フェチの方々にも、そう伺いました。
うさぎ◆パンストやタイッ、ラバーだったり、ピタッと体を覆う衣装へのフェティシズムですね。
智子♠ええ。そういう名前がついてジャンルとして認識されれば「俺はいい年して、どうして特撮の『イーッー』って言う黒い全身タイツの人を見て興奮するんだろう」「そんなことを人に話したら二百%笑われる」って、世界中で自分だけだと思っていたけど、すごく救われたという方々が大勢いらっしゃるみたいです。
――ネットが性的多様性にもたらした価値は大きいですよね。
智子♠そうですね、特にフェティシュなものの細分化が進みますよね。
――どんな小さなジャンルでも必ず同志がいますね。自分は十八歳の男の子なんだけど四十歳で百キロ以上で剛毛の女の人が好き、とか。
智子♠必ず頭はスキンヘッド、これは外せない、とかね。
――そんな嗜好の人は他にはいないだろうと思うと、カナダ人が「ワタシモソウデス」なんて書き込みをしてきたり。
智子♠「世界で自分だけだと思ってました」って七十代の人からメールが来たりね。
うさぎ◆へえー、面白いですね。
智子♠もしエロティックな方面のお仕事をするのがイヤでなかったら、ホームページとかご本人とかご本とかで、自分のこういう部分を出して、同じような事で悩んでいる女性たちを探したら、きっとすごく集まると思いますよ。「女は恋愛で感じるもので、性的なことを考えるなんておかしいとされ続けてきたために悩んできた」ということを打ち明けたら、同じ悩みを持つ女性がたくさん集まるとおもいます。
うさぎ◆私みたいに何をしたいのかわからなくて、いろいろ考えても答えが出ない人がいっぱいいるとわかれば、私が答えを出すことが出来なかったとしても、それはいいですよね。

智子♠ええ、そうすると、だんだん違いがわかっいくんですよ。「私もうさぎさんと同じです」という人が現れたとしても、よく話を聞いてみると、ここはすごく同じだけど、ここは違う、という事もよくあるのですよ。そこから気づいて行くことがあると思いますから、ネーミングをすることとは別に、自分が何なのかということは一生かけて探していくものだと思うので、向かい合っていくことは大切だと思うんです。自分の性なのだから、一生知らないまま死んでいくのも無垢な事かもしれませんけど、自分で挑んでいくのは意味のある事だと思う。
うさぎ◆そうかぁ、見つけたいなあ。
智子♠でも、引っ掛かりを持っているということは、答えはあるということですよ。逆に「私は正常で、悩んでいる人が理解できない」とか「どうしてそんなことに一日中セックスのことばっかり考えているんですか?」って質問する人がいるんですけど(笑)、そういう人は、うさぎさんのように悩んだり獲得したり発信したりということもないと思うんですよ。
うさぎ◆問題意識はあるんですけど、問題の所在がわからないんですよね。でも、先ほど、自分が参加するとダメなのかもと言われたのは、かなりピーンと来ましたよ。
智子♠お役に立てれば(笑)。
うさぎ◆そんな人っているのかなぁ。
智子♠たくさんいますよ。
うさぎ◆じゃ、その人たちは、自分のセックスをでは永遠に快感に到達できないんですね?
智子♠うーん、そうとも言える(笑)。
うさぎ◆ガ――――ン。
智子♠でも、変わっていくこともあるかもしれないし。逆に考えれば、オリジナルストーリーによって、他の人に得られないものを得ているわけですから、得をしているんですよ。
うさぎ◆そうなんですか。そうなのかな。うーん、でも、エピソードがなかなか発展しなくて困っちゃうんですよね。一つのエピソードでけっこう長持ちするので(笑)。
智子♠そういうのも、人によって違うと思うんですよ。だから、同志が集まると面白いと思う。
うさぎ◆相手の指使いとか細部にすごくこだわっちゃって。クライマックスを考えてあえてあって、そこでフィニッシュと用としているのに、細部にこだわっちゃって、そこまで行きつかなかったりするんですよ。
智子♠今まで考えたこと覚えてらっしゃる?
うさぎ◆覚えています。
智子♠じゃあ書けるじゃないですかー。
うさぎ◆書けるんですけど、他の人が読んだらお笑いなんですよ、きつと。
智子♠ポルノっていうのは、そういうものですよ~。
うさぎ◆どうして他の人が読むとお笑いになっちゃうんですかね?
智子♠それについては名言がありまして。「あらゆる性癖は、その性癖がない人から見るとお笑いだ」なんだそうです。他人のを見て笑った経験が誰しもあるはずだし、それについては諦めるしかないですね。
 でも、さっきおっしゃったように、自分の持っている部分について「すごい才能ですよ」とか「特異でいいじゃないですか」と言われても、本人は「はぁ、そうですか」っていうようなものなんじゃないでしようか。
うさぎ◆そうなのか。嬉しいなとは思わないわけですね。
智子♠なかには「人は違ったことが大好き」という方もいらっしゃいますけれどね。
うさぎ◆南さんはあまりご自分を肯定的に受け止めてらっしゃらないんですね。
智子♠苦労もありますからね(笑)。でも、他の性癖になりたいと思ったことは一度もないんですよ。それは受け身の男の人が好きだというところに快楽があるからだと思います。そのことは歓びだからいいんですけど、せめてもう少し同じような人がいてもいいんじゃないかと思ったりはします(笑)。どちらかというと、周りが変わって、もっと情報量が増えてくれるとありがたいんですけど・・・・。
うさぎ◆「おまえらが変われ」って(笑)。
智子♠「俺に合わせろよ」くらいの(笑)。以前、ニューハーフの友人にこのことを言ったら、「んまっ、ワガママ! ! 図々しいわよアンタ」と言われてしまったので、あまり言わないことにしてるんですが(笑)。
うさぎ◆そんなことはないですよ。自分のセックスにおいては自分が王様ですよね。妄想とか。
智子♠妄想はそうですが、実際に人と対する時は、そうはいかないわけですよね。コミュニケーションだったり、いろんなものの交換だったりがあるのは当然だと思う。妄想の世界とまったく同じ快楽がなければおかしいと思う。その考え方自体に無理がありますよね。
うさぎ◆現実のセックスのほうが快楽のテンションが低いのは仕方がない、と。
智子♠人によっては、そういうこともあるでしょう、現実のセックスには、妄想で得る快楽とは違うものがある。コミュニケーションによる満足とか、自分の手ではない他人の手で触られることの快感とか、いろいろあるでしょ。

●「言葉攻めの南」への転機

うさぎ◆南さんは、自分の性癖にピッタリな男性を、どうやって見つけるんですか?
智子♠百%満足がいくということは難しいですが、それはどんな人でも同じなんですよね。一番ポピュラーとされている性癖の人でも、百%満足いく相手を見つけるなんて、なかなかないことでしょ。
ただ、受け身の男性って意外といることがわかったので、それで随分癒されましたよ。
うさぎ◆そこから選んで?
智子♠そうですね、いろんな相性がありますもんね。あとは外見的に、ハンサムとか美形というのではないですが、フェティシュなものがあるので。
うさぎ◆どういう?
智子♠わりと表情フェチなんですよ。男の人がイク時の表情とか。
うさぎ◆それは、普段の状況で見てわかるんですか?
智子♠ええ、あるんですよ、好みが。すごくカッコいい人で、他が理想的でも、この人ではどうしても萌えられないというタイプがあります。
うさぎ◆もともとの造作にフェチがあるんですか。どういう人ですか?
智子♠そうですね・・・・白人男性、好きですね。トム・クルーズ系じゃないんです。ああいう鼻筋が通って鼻が高いのは苦手とか、細かいんです。
うさぎ◆キアヌ・リーヴスは?
智子♠私は苦手なんですけど・・・・お好きですか?
うさぎ◆ええ。
智子♠面食いなんですね。
うさぎ◆でも、一般の人がハンサムだと思っている人を必ずしもハンサムだと思っているわけでもないんです。私がいかに思う範囲はすごく狭くて。
智子♠それはある意味フェチですよ、「カッコいい」というすごく漠然とした大きな括りで語る人もいれば、そうじゃない人もいますよね。日本人の女性は、わりと女性的な男の人を好む傾向が強いようですけれど。
うさぎ◆ワイルドな男性よりも?
智子♠ええ。ジャニーズだったりビジュアル系だったり。さすが歌舞伎の伝統がある国だな。と思うんですよ。
うさぎ◆ああ、そうですね。私もわりとそうだ。南さんは違いますか?
智子♠私は男くさいほうが好き。
うさぎ◆男くさくて受け身の人が好きなんですか?それを探すのは難しい~!
智子♠その落差がね―、いいんですよ~。
うさぎ◆すごく嬉しそう(笑)。
智子♠落差がいいんです。だから、美少年とか、ぜんぜんダメなんですよ。オヤジが好きなんです。差別的な感覚ってすごく難しいと思うんですけど、理性では差別的なものが好きではなくても、恐怖とかエロティシズムとか笑いって、理屈でなく差別が食い込んでしまっているところがあって、理屈では「こういうことに笑うのはよくないでしょ」と分かっていても笑ってしまう、とかね。そういうのって、性的にもすごく大きく影響していると思うんです。だから、「社会的地位が高くて立派な白人男性をこんなふうにしているんだ」というのが、どこかにあるのかもしれないかも。
オヤジ゜についても同じで。
うさぎ◆なるほどね。
――南さんは、かなり早い時期から、そこまで自覚的でしたか?
智子♠ここまでは、だんだんできていたものなのですね。
――それはセックスワーカーを続けてきて、いろんな人に会ったことと関係がありますか?
智子♠ある程度はありますが、それだけではなくて、こんなふうにお話ししたり、妄想を育てる段階で年中いろんなものを見たり。もちろんセックスワーカーである部分もあって、それも影響していますけど、私はあまり経験主義に偏ってもいけないと思っているんです。
うさぎ◆やはり文系だからですかね?
智子♠経験が多過ぎるかもしれません(笑)。やっぱり、いくらやみくもに経験していても、妄想のないところにエロはないような気がするんです。
うさぎ◆たしかに。
智子♠一般的には誰でもセックスワーカーに比べれば経験が少ないわけで、言い出したらキリがないですよね。だから体験に頼るのもどうかな、と思うんですよ。オタクなどのことを「性的体験が少ないからもてないんだ」という人もいますが、私はそういう事はないと思うんです。
――セックスワーカーとしては、最初から攻めのほうをお仕事にされていたんですか?
智子♠いいえ、当時はそんなになかったですから。私はSMクラブに勤めたことがないんですよ。ピンクサロンからソープランド、それから性感マッサージですから。ソープの時は、あまり指名も来なくて人気がなかったですよー(笑)。
うさぎ◆そうなんですか。なんでですか?
智子♠私がもしソープの客だとしても、イヤだけど一生懸命やっている女性よりは、本当に淫乱なほうがセクシーだと思います。
うさぎ◆なるほど、南さん自身が楽しんでいないことが伝わっちゃってたんですね。
智子♠そうなんでしょうね。
うさぎ◆その一生懸命やっていた時を経たことが、南さんは経験として良かったですか?
智子♠そうですね、一生懸命というだけではダメなんだなという事はわかりましたし、こういう人もいるだというのをいろいろと見る経験にもなりましたし。
――ご自分の仕事を攻めにしていくというのは、どうやってシフトしていったんですか?
智子♠ソープランドでは、攻めも全開にできなかったし、自分でもあまり面白くない部分があって。そんな折りに、当時はお客さんにアンケートをしていたんですが、そこに書かれたことで「何でも素直に頑張ってやってくれて、性格的には従順な子だけど、もっとイイ女の子を紹介してよ、ボーイさん」ってあったんですよ。それで、どんなに一生懸命やっても無理なのかなと思ったんです。

その頃に性感マッサージが初めてできて、業界の女の子たちは横繋がりが強いので、そこから情報を得たり、記事を観たりして、これだ! と思ったんです。女社長のお店で、電話を掛けたら「今からでも面接においで!」って言ってくれて、それから「好きな時から出て」って言ってもらって、翌日からお店に出たら、その日についたお客さんから指名がきたんですよ。

で、その時期に、性感マッサージが巷で流行っていることを聞いたAVの代々木忠監督が、「狂言回しみたいな役割として、実際に性感マッサージをやっている人を使いたい」ということで人を集めているという話が店に来て、二、三人の子と一緒に面接に行って、なぜか私に決まったんです。
――性感に転じてすぐ、代々木さんのお仕事があったんですね?
智子♠ええ、一気に。水を得た魚のように(笑)。
うさぎ◆性感マッサージに転向した時点で、言葉を使うのを始めたですか?
智子♠仕事の上では、そうです。
うさぎ◆ソープ時代はやってなかった?
智子♠「引かれる」と思っていました(笑)。
うさぎ◆今にして思えば、やってみればよかったかもしれないですか?
智子♠どうでしょう。日本はジャンルが分かれていて、求められているものが違うのね。日本は世界でも有数の風俗天国で、しかも、日本人のサガなのか各ジャンルが職人化するんですよ。
うさぎ◆なるほど、職人化ねぇ。では、南さんにとっては、性感マッサージが生まれことが一大転機だったんですね。ご自分的にも、
智子♠そうですね、腹をくくったという部分で。そのとき、ビデオに出るというのは、それが一生つきまとうから、カミングアウトする覚悟をしないと、って考えたんですよ。
うさぎ◆南さんはビデオの中では脱がない?
智子♠脱いだことがないです。
うさぎ◆挿入もしないし、徹底して言葉を使う、と。
智子♠そうです。コスチュームに関しては、最初は代々木忠さんが決めたんです。私は何も考えてなかったので。たしかに絵的にも、スッポンポンで攻めてると怖いですから、何か衣装があったほうがHに見えますよね。
うさぎ◆怖いのかなぁ。
智子♠全裸だと「野人」「原人」って感じがしません?(笑)。
うさぎ◆そうなのかなぁ(笑)。
智子♠代々木さんは「裸は見せない方がいい」とのご意見でした。いっさい脱がない、見せない、セックスはしないということで徹底させるべきだ、と思ったみたいです。
うさぎ◆そうでしたか。私は、南さんが脱がない主義なのかと思ったんですよ。
智子♠いえいえ、お店では脱ぐし。
うさぎ◆プライベートでも?
智子♠ええ。どちらかというと、自分のことはどうでもいいという感じです。
うさぎ◆というのは、私がまた、下着を脱がないんですよ(笑)。下着は脱ぎたくないんですよ、基本的に。
智子♠それはそれでエロティックなのでは?
うさぎ◆いや、なんて言うか、下着萌えみたいな(笑)。
智子♠下着を取りたくないという女王様はいますよ。あと、レズビアンのタチの女性で、脱がない人もいますね。そう言う感覚に近いかもしれないし。
うさぎ◆そうなんですよ、レズビアンのタチが脱がないことは知っていたので、私はレズなのかな? って、また悩んだわけですよ。
智子♠私の場合は、受け身の男の人も、全部脱がせてしまうとエロくないので、スーツで下だけ脱がす方がエロい、といったほうだけに頭がいっているんですよ。だから、自分は野人でも、ぜんぜんいいんです(笑)。ただ、ビデオで「自分のことはどうでもいい」っていうところを出してしまうと、あまりに見る人にウケないだろうということで、精一杯気取っていますけど。
うさぎ◆着衣は気取りですか?(笑)。
智子♠そう、気取ってあの程度なんですよ―(笑)。私の関心は男の人。男の人がすべてです。
うさぎ◆拝見したビデオで、素人の男性が五人くらい出てましたね。
智子♠本来は男の人が見るものですから、普通っぽい人のほうがいいんですよ、いきなり普通と違うタイプが出てたら、見ている男の人は引いてしまいますから。でも、ああいうふうに受け身だったりすると、どんな男の人でもやっぱりセクシーでエロチックだと思いますよ。

●受け身の男の魅力は永遠

智子♠時々、取材で「その攻めの言葉はどうやって暗記するんですか?」って言われることがあります。
うさぎ◆暗記!
智子♠暗記するほうが大変ですよね。興奮しだすと自然と喋っちゃうんですよ―。
うさぎ◆好きな言葉ってありますか?
智子♠ありますね。男の人にお願いさせたりするのは、すごく好きです。女言葉になってしまうのは苦手なですね。単に、「お願いです」と言わせるだけでも、けっこうセクシーになりますし。もちろん、言葉がなくて白目をむいて喘いでる表情だけでもいいんですが。
うさぎ◆なるほど。ご自分が使う言葉の方は?
智子♠苦手なのは、スケバン系統の言葉。「おらおら」っていうような。それが好きだという男の人もいるんですけど、私は苦手。あと、ののしるのも苦手です。「このブタ!」とかね。だから、そういう女王様を見ていると、「宇宙の宝であるM男に向かって、この女はっ」って感じで腹が立つタイプです(笑)。
――ビデオを拝見していてスゴいと思ったんですが、絶えず喋り続けて、触り続けていて、相手の方を放っておくということがありませんよね?
智子♠いや~もう、飽きるということがないんですよ。
うさぎ◆好きなんですね。
智子♠永遠ですよ、もう。しかも、三万人いじり倒して、まだ足りないんですから(笑)。
うさぎ◆そうなんだぁー!(笑)。
智子♠私がちょっとヘンだと言われるのは、攻めの願望があるとろより、そういうほうかもしれませんね(笑)。
――ほんとに。三万人で飽きないというのは、攻めとは関係なくすごいと思いますよ。
うさぎ◆南さんてきには極めた感はないんですか?
智子♠えっ、何をですか?
うさぎ◆言葉攻め。完成されたな、っていうような。
智子♠いや~、何も考えてないです。とにかく受け身の男の人に出会いたいだけ。
――自分のことはどうでもいいんですものね。
智子♠だって、受け身の男の人は魅力は永遠でしょ。
うさぎ◆「でしょ」って言われても(笑)。
智子♠どう考えたって、そうです。受けのオヤジほどエロッぽいものは、宇宙にもあの世にもないと思っているので。
うさぎ◆オヤジってところで、もうダメだなぁ。・・・・でも「お願い」されたいなぁ。
――何がですか? 急にどうしました?(笑)。
うさぎ◆男の人に「お願い」されたいですよ、そういう願望はあるんですよ。さっきもスキルは関係ないという話がありましたが、でもやっぱりスキルが伴ってなくてダメなんですよ。

 私は、今まで食い過ぎたと思うと簡単に吐いたりしていたので、過食症までいっていないですが、天罰が下って吐き癖がついてしまいまして。ちょっと口を大きめに開けると、オエッってなっちゃうんですよ。それで、ご飯を食べた後にチンチンを咥えようものなら、もう! ある程度口を開けた時点で、胃が「吐くんですねっ」って要らないサービスをするんですよ(笑)。こないだ、ついに吐いてしまって、相手のモノをドロドロ~って(笑)。胃液みたいなもんだったんですが、相手も萎えるわいってもんので。

智子♠そうなんですか。でも、それならそれで別の楽しみ方を見つけるとか。
うさぎ◆私がヘタクソだと思っているので、どうやったら上手くなれるかなぁと思って。
智子♠上手くなりたいのは、どうして?
うさぎ◆私が何かしてあげたら男の人が喜んで「気持ちいい」って反応してくれるとか、あまりに気持ちよくてもう一度私とやりたくなってしまうとか、数々のご褒美を期待しているのです(笑)。
智子♠上手になろうとすることについては、ツッコミ小人は大丈夫ですか? おとなしい?
うさぎ◆セックスが上手くなろうとしている私には「がんばれよ」って応援してくれるんですが、恥じらってみたりとかはダメです。
智子♠女らしい感じの方に照れがある?
うさぎ◆ありますねえ。あと、エロ漫画的シチュエーションにも照れがあります。「ほんとは気持ちいいだろう」なんて言われると。もうダメ。そういう幻想に私がうまく添えれば気持ちいいセックスができるかもしれないのに、「気持ちいいだろう?」って言われると、「そんなことはありませんっ」になっちゃうんです。どうも、媚びるとか相手に合わせるとか、何かしらの演技みたいなものを感じ取った瞬間にツッコむらしいんですよ。自分がしたいことについては大丈夫なんです。

智子♠ビミョーですねえ。ツッコミ小人を自分でコントロールできないですか?
――ツッコミ小人が中村うさぎを動かしているという話があるくらいなので(笑)。
うさぎ◆そうなのかなあ?(苦笑) うーん。理想としてはセックスの達人になりたいんですよ。
智子♠ははぁ。何のために?
うさぎ◆えっ。さっき言ったみたいに、喜んでもらったり、また私とやりたいと思ってもらったりしたいので。
智子♠でも、それは達人になっても叶わなかったのでは?
うさぎ◆なんですか?
智子♠達人になることと、それは違うことだと思う。達人の定義にもよるので、その話をすると問題が違ってきちゃいますが。たとえば「痩せたら何もかもがうまくいく」と思いがちな女性が多くいますけど。本当にそうでしょうか?
うさぎ◆あっ、「整形したら何もかもうまくいくかも」っていうのもありますね。私のことだよ(笑)。そういうふうに考えがちってことか。
智子♠「達人」という非常に曖昧なものに託してるんですよね。それは「痩せれば」とか「結婚すれば」といったものと同じだと思いますよ。無理してやっても上手にはならないと思います。
うさぎ◆なるほど。じゃ、得意分野を探せばいいのか。
智子♠打ち込んでも苦にならないことをね。
うさぎ◆苦にならないこと・・・・なんだろう。少なくともフェラチオじゃないことは確かだ(笑)。
智子♠うん、苦になることは絶対に出ちゃうから。
うさぎ◆なんだろう・・・・姉妹の話を考えるとか?
智子♠やっぱりそっちのほうに進むのがベストなのかもしれませんよ。
うさぎ◆セックスを捨ててオナニストとして生きるのかぁ。
智子♠セックスの時は、違う何かを重視する。あるいは、小人を抑えることに頑張るとか。
うさぎ◆小人ね・・・・。
智子♠どうすれは小人を抑えられるかに挑んでいくという方向性もありますね。
うさぎ◆小人を黙らせることに集中して、他がお留守になったらどうしょう。
智子♠初めはそういうこともありますよね。だんだん熟達して、小人を黙らせる達人になっていくとか。
うさぎ◆! (爆笑)
智子♠心に小人が住んでいる人は世界じゅうにたくさんいますから、そのなかで「私ほど小人を黙らせられる人はいない」しとなるんですよ。困ってる人たちが相談に来ますね。そんな人生はどうでしよう。
うさぎ◆おおっ。道が見えてきたか?
智子♠多くの人が抱えている苦しみですから、そこにメシアとして光を掲げてあげる。小人の所在や正体がわかっていない人だって、たくさんいるでしょう。
うさぎ◆そうなのか。南さんは、セックスの時に「役を演じる」という意識はありますか?
智子♠ないですね。自分のことは何も考えないです。相手の中に溺れ込んじゃってるので。
うさぎ◆そうなんだぁ、ズブズブって溺れているのか・・・・溺れたーい。
智子♠でも、相手にもよりますよ。そこまで溺れられる相手って、なかなかないです。どんな人でもそうでしょうけど。
うさぎ◆生きている間に、ベストと思える人に一人でも出会いたい。
智子♠それはみんな思っているでしよう。恋愛的にも性愛的にも。みんながみんな見つけられるわけではないですし。
うさぎ◆そうなんですよね、見つけられない人もいるんですよね。見つかっても気づかなかったり、別れてから気づいたり、ということもあるでしょうし。はぁ~。
智子♠どうもうさぎさんの小人は無頼漢な小人ですよね。いっそ、小人がギャフンというくらいのことをしてみる、というのは?
うさぎ◆ああ、そっちのほうがいいみたい。小人を手なずけるよりも。
智子♠「なにをそこまで、うさぎちゃーん」って小人が止めるくらいに無頼なことをしてみるんですよ。
うさぎ◆「私はフェラチオはできませんが、剣は飲めます」とか。サーカス感すら漂ってるよ。誰も喜ばないよ(笑)。
智子♠小人が泣きそうになりますかね、
うさぎ◆「お尻から剣の先が出てらぁ」って。いや、しかし、小人が黙り込むくらいのことをするには、失うものが大きそうだなぁ。
智子♠でも、そうしたらまたきっと、うさぎさんの新たな世界が開けるかも。

つづく 風吹あんな
 一九九八年生まれ。バイセクシャルAV監督。
 OL、主婦、ホステス、写真集、グラビアモデルを経て、一九九四年「宇宙企画」よりデビュー後に、己の性癖を追求し自ら進んで「シネマジック」専属ハードSM女優となり、一九九五年「私にビデオを撮らせてよ!」で監督デビュー