思春期になると脳(視床下部)の性中枢が、ある朝突然目覚めて、脳下垂体刺激ホルモンを分泌させ、その刺激で脳下垂体が性腺刺激ホルモンを分泌する。このホルモンが睾丸(卵巣)に働いて、男性ホルモンが分泌され、精子も形成される。かたや睾丸から分泌された男性ホルモンは、脳の性中枢を刺激し、性欲を目覚めさせる。

本表紙 大工原 秀子著
セックスレス夫婦だって不倫や浮気は楽しいものだしロマンスがある。浮気性の妻や夫をどうあやせばいいのか、恋人の浮気疑惑が浮上したときはどうしたらいいか、恐るべき夫の言い訳の”ただのお友だち”をどう撃退するか?

X 老人の性生理

 T 男性の性生理

 調査会場や全国からお年寄りのさまざまな相談が手紙や電話などで寄せられる中で、生理や性機能・性心理の仕組みが理解されないまま、お年寄りの性が抑圧・抑制、暴走し、さまざまな性問題に発展している。夫婦でいがみ合い、暴力・殺人・ノイローゼなど、せっかく入手した長寿も、”めでたい”などと素直に享受できない。お一人お一人に解答も時間の制約があるので、本(「人間の性反応・マスターズ報告」池田書店刊を主に、『治療』一九八〇年、VOLUME62 南山堂)や文献や講演会などから要約したので、性に対する枠組を広げて、両性が正しい対応を試みて、長寿の喜びに浸ってほしいと願う筆者の返事にさせて頂く。
 思春期になると脳(視床下部)の性中枢が、ある朝突然目覚めて、脳下垂体刺激ホルモンを分泌させ、その刺激で脳下垂体が性腺刺激ホルモンを分泌する。このホルモンが睾丸(卵巣)に働いて、男性ホルモンが分泌され、精子も形成される。かたや睾丸から分泌された男性ホルモンは、脳の性中枢を刺激し、性欲を目覚めさせる。

 性中枢は、「知・意」のセンターである大脳皮質と「情」のセンターである大脳辺縁系に包まれている。これらと視床下部の性中枢とは密接に連絡されて、常にコントロールされるように仕組まれている。

 男性の性機能は、○1生殖機能と ○2性機能にわけられる。○1は造精機能とホルモン分泌機能、
○2は性欲、勃起、膣挿入、射精という一連の性行動からなる。

 性欲は生命の存続の目的のために、種族保存のために、生殖機能と性交機能が結びついてきた。性は脳で目覚め脳で成熟し脳で完成する。性は全人間的な問題として捉える。
(長田尚夫『男の科学』ごま書房)

(1) 勃起

ペニスの中には三本の海綿体が並んでいる。真ん中は尿道を包んでいる尿道海綿体。尿道海綿体の左右に陰茎海綿体が並ぶ。陰茎海綿体の真ん中には太い陰茎深動脈が入っている。
 勃起とは、陰茎海綿体内への急激な大量の血液流入によりおこる。すると、内圧が急上昇し、陰茎が腫大し、固くなる現象をいう。勃起をコントロールするセンサーは二つある。

一つは脊髄の仙骨(脊髄勃起中枢)にあり、もう一つは大脳にあり、大脳皮質・辺縁系・視床下部の性中枢と複雑に調節し合っている

●陰茎血管系
特殊な構造で調節されている。陰茎海綿体に入る輸入動脈と、陰茎海綿体から出ていく輸出静脈との間に、バイパスという抜け道がある。
勃起しない時には、動脈から海綿体に入らず、バイパスを通って静脈へ血液が流れる。勃起時には、バイパスが閉じて、動脈から血液が海綿体に流入して、陰茎が腫大する。
 写真入れる

(2)性的興奮のメカニズム

 中枢性の性的興奮(エロチック勃起)
 中枢性に性的興奮が始まる場合、視覚。聴覚、嗅覚など感覚や、イメージ、空想といった精神活動が大脳皮質に性的刺激として捉えられ、異性に対する性的感情を湧かせて発現する。これが大脳辺縁系に存在している性欲中枢を興奮させる。さらに間脳視床下部にある間脳性勃起中枢に興奮させる。

 この刺激が下行性に脊髄性勃起中枢に伝わり興奮させ、さらに末梢神経に伝えられて性器に反応を起こさせる。
 性的興奮をともなう精神的勃起は、大脳皮質に性的刺激が加わり、例えば、ポルノグラフィティをみたり、異性にふれたり、よい臭いを嗅いだり想像したりした時、下行性に勃起中枢を興奮させて起こる。人間だけが持つ高次元の仕組み。他の動物、サルさんやブタさんにはない。
 
●末梢性性的興奮(反射性勃起)
 性器や性感帯に与えられた局期的感覚的刺激が、末梢神経を経て、脊髄性勃起中枢を興奮させる。これが下行性に反射路を経て性器に反応を起こさせると同時に、脊髄を上行性に刺激が伝えられて、間脳性勃起中枢を興奮させる。
 例えば膀胱に尿が充満したとき、朝立ちや衣服で擦れると、乗り物の振動で、マスターベーションなど、愛憎に全く関係なく、脊髄性勃起中枢を介して、反射的に勃起させるもの。

 中枢性性的興奮とは相互に関連しあって性反応を強化させる。
 局所から伝わった性的刺激は、脊髄性勃起中枢を興奮させるとともに、大脳皮質に性的感情の高まりとして中枢性にも性的興奮をおこさせる。

(3)高年男性の性反応

●興奮期、反応時間
 陰茎の勃起は、性的刺激が与えられはじめて三〜五秒以内に弛緩状態から完全に勃起する。
 五十代から六十代、七十代になるにつれて、二倍〜三倍と、年を取るほどに時間が必要となる。
●高年男性の勃起時間
○1一度勃起すると、射精せずに長い間勃起状態が持続する。若い男性のように刺激を制限したり、特別練習をすることは不必要となる。だから、この現象を利用して老夫婦は老春を大いに楽しめるだろう。

○2六十歳以上の男性の陰茎が、完全に勃起した後に、射精せず、弛緩した場合、再び完全に勃起させるのが非常に困難であるが、五十歳未満の性的能力のある男性には、ほとんど認められない。老化現象であるから、パートナーである妻が悪いと思い込み、浮気したり、プロの女性で試しても、老化現象は改善されない。妻のせいではない。

●平坦期
 六十歳を過ぎた男性では、射精直前まで、陰茎が完全に勃起しないことがよくあ。
若い男性の興奮期の性的緊張に認められる勃起パターンは、六十歳以上の男性では平坦期に、老化過程に固有の特徴がある緩慢な反応に置き換えられる。
 自分の性反応パターンを理解しパートナーもそのパターンを受け止めて夫婦で楽しむ。「固くならないのは嫌」などといって寝室を別にしたりしないで工夫して楽しむこと。

●オーガズム期
 高年男性の陰茎の射出収縮は、若い男性の生理的反応型と平行して、尿道括約筋、球海綿体筋、坐骨海綿体筋も会陰横筋の規則的に反復する収縮によって確立される。
 これらの筋肉の収縮により、尿道海綿体は拡大伸展し、尿道球は拡張し、精液は尿道前立腺部、尿道横隔膜部から、外尿道口を経て押し出される。

●消退期
 消退期における無反応期を通して、高年男性と若い男性には二つの大きな相違がある。
○1男性は六十歳を過ぎると、無反応期が長時間続く。
○2射精直後の陰茎の腫脹消退は速い。
 若い男性に特徴的に認められている腫脹消退の第一段階、第二段階は存在しない。
 高年男性では、陰茎の完全勃起は平坦期に充分発達するまでは得られないが、血管充血反応の末期は早く消失するので、射精後の陰茎の萎縮してゆく段階は判別できない。
 六十歳の男性が射精すると、数秒で陰茎は弛緩状態に戻る。これら反応は老化現象なのだから仕方ない。男性のショックは理解できるが若い頃のようにいかないイラ立ちを配偶者に向けないこと。

(4)射精のメカニズム

 精神的にも、局所的にも性的興奮が高まってくると、脊髄腰随部にある射精中枢が興奮し、ある閾(イキ)値を越えると反射路を介して射精が起こる。

●射精の二段階
 第一段階=射管(精嚢)、前立腺の規則的な収縮によって、精液が後部尿道へ射出され、同時に膀胱と尿道との境に存在している内括約筋が閉鎖して、精液の膀胱内逆流を防ぐ。

 若い男性の射精の自覚的進行は関する表現の第一段階は、「射精の不可避感」と「射精切迫感」を誘発する時期。この状況では、もはや射精過程を意識的に抑圧したり、コントロールすることは不可能。そう感じるが射出まで二〜三秒の感覚がある。
 年を取るにつれて、射精過程全体は、生理学的効率において衰退するとともに、自覚的進行も変わっていく。第一段階は射精不可避感が全く失われるほど短縮されるか、反復すほど長引くことがある。

 高年男性の陰茎が、延長した興奮期や平坦期を通じて、意識的に勃起状態を維持したならば、射精不可避感は急速には起こらない。第一段階の独立した前駆収縮を伴わず、いきなり、第二段階の精液射出となる。一段階の「不可避感」という心理的警告を受けることなしに精液の射出が行われ、射精圧の低下も官能の減退の原因、若者にみられる射精中、前立腺の収縮を示さない。
 六十歳以上の男性が、第一段階の付属器官の収縮性を維持している場合には、射精過程は第一段階の二〜三秒が五秒―六秒に延び、第二段階の陰茎の収縮をみることなく、射精不可避感を抱く。
 射出力の減少や欠如の感じは、六十歳以上の男性の全射精過程にあてはめられる。
 第一段階収縮はなく、精液はあきらかな射出力もなく、尿道から滲み出たり洩れたりして、陰茎の射出収縮による性心理満足もない。射精過程は二つの段階をもつものではなく、全く一段階しかないものとなる。(マスターズ報告)筆者の調査データでみられる老人の性欲の減退、性的満足感の不満足度の増加にもこのメカニズムが関与しているのではないかと考えられる。

●第二段階
 後部尿道に射出された精液が、尿道周囲の筋肉や骨盤底筋群が律動的に収縮して、外尿道口から体外に排泄させる。
 収縮は〇・八秒間隔で二、三回続き、次第にリズムが遅くなって排泄が弱まり、終了する。
 若い男性では、尿道口に障害がなければ、精液を約三〇pから六〇pメートル射出するほどの圧力で、尿道海綿体部全体から射出する。
 五十歳を超えた男性の射出距離は、約一五〜三〇センチメートル。長時間にわたり陰茎の勃起が維持された場合は、実際の射精過程は通常の射精反応ではなくて、外尿道口から精液が滲出する状態となる。最初の二、三回の陰茎の収縮の間隔は、老いても若きも時間的に類似している。男性が年をとればとるほど、射出収縮の回数は少なくなり、精液を射出する力はそれだけ減退する。六十歳を超える男性も〇・八秒の収縮間隔で射精過程が始まる。著しい射出力をつくり出す射精収縮の回数は一度から多くて二度に減少する。
 収縮間隔は第二回目の射出収縮以後急速に遅延する。(マスターズ報告)

(5)男性の性的能力

 一般に、性欲、勃起、挿入、射精、オーガズムと、五つの要素に分析されて、総合的に評価される。これらの活動がスムーズに行われることが、正常な性的能力。
 性機能を支配する神経は三種類あり、おのおのが関連してその機能を発揮する。
 勃起は、主として骨盤神経と呼ばれる副交感神経。
 快感は、陰部神経という感覚神経。
 射精は、下腹部神経という交感神経が主役を務める。

●スタンプ法(勃起能力自己検査法)
 切手を弛緩したペニスの太さに合わせて輪を作り、装着して休む。レム睡眠時に勃起現象が起これば、切手のミシン目が切れる。

(6)男性の性反応・四つの時期

 性的刺激によっておこる性器の反応、四つの時期、
○1興奮期
 性的興奮がおこると、陰茎の海綿体組織に血液が流入して、陰茎が腫大し、硬くなって、勃起する。
○2平坦期
 性的興奮が持続して、陰茎が勃起し続ける時期。
○3オーガズム期
 性的興奮が絶頂に達して、射精がおこり、それにともなう極致性の時期。
○4消退期
 陰茎が萎縮し、その後の性的刺激に反応しえない時期。
 人間の性行動を支配するのは、脳であって、性器ではない。人間の性は、先天的に持って生まれた性と。生後後天的に教育や社会で学んで獲得した性と一緒になって育まれるもの。
 性は脳で目覚め、脳で成熟して、脳で完成する。性は性器という部分現象として捉えるのではなくて、全人間的な問題として捉える。

(7)セックス維持の要素

高齢者が訴える性能力の衰えは、勿論個人差もあり、若い時からの個々人の性的活動方針
が問われ、それに沿った積極的な性的表現の一貫性が問われるが、今からでもおそくない。パートナーである女性のことを理解してもらって、さあダッシュ!
 中高年男性(四一〜六十歳)の反応型と、六十歳を超えた男性の反応型との間に、大きな差異がある。
 六十歳以上の男性は、性的緊張の持続の喪失と、性的表現における反応強度の減退、性交活動が減退するだけでなく、夢精の頻度も減退する。
 高年男性の性的能力や性的行為には、個人差があり、時間によっても異なる。
高年者の性反応に与える最大の影響は、その男性が性的形成期を過ごした性社会的環境に固有する。
高年男性にとって、友好的なセックスを維持する最も重要な要素は、
○1積極的な性的表現を一貫して保持すること、○2性的形成期に、高度な性的排泄をすべく刺激されていた場合、三十〜四十歳の間でも同様な性的活動が維持されていた時には、中年期や退化期にも衰えをみせないセックスを繰り返すことが出来るのが特徴。
 比較的高度の性的表現に興味を持つ男性は、性的形成期においても同程度の性的活動があった。

(8) インポテンス

 狭い意味では、ペニスが十分硬くならないため性活動を行えない状態。広い意味では性生活を行う気持ち(性欲)が起こらないこと。射精できない、オーガズムがないことも含まれる。

(一)心因性インポテンスが主な原因
○1新婚のときの緊張、失敗すると恐れ、性への罪悪感、恥ずかしさ、自信喪失、○2家族との死別などによる悲しみ、○3転勤・退職などによる不安、○4配偶者に対する思いやり、または不信、○5その他の精神的ストレス。

(二)器質的インポテンスが主な原因
○1中枢神経系の異常。脳卒中、脳外傷、脳腫瘍、パーキンソン症候群、脊髄炎、脊髄損傷、椎間板ヘルニア、○2末梢神経系の異常。骨盤膣内・後腹膜膣及び会陰部手術、骨盤外傷、糖尿病、尿道症、神経梅毒その他。○3血管系の異常。大動脈分岐部閉塞、動脈硬化症などによる内陰部動脈またはその枝の閉塞、その他。○4内分泌系の異常。間脳、下垂体、睾丸、甲状腺、副腎の疾患。○5陰茎の器質的異常。尿道下裂。形成性陰茎硬化、その他。

(三)薬物・アルコール
 今使っている薬、タバコ、アルコールの量を医師に話す。
 このように、インポテンスの原因はさまざまである。
 心因性インポテンスは、カウンセラー、精神科の医師に相談すると共に、配偶者の協力が極めて重要。血管系の異常には血管再手術。器質的インポテンスには左右の陰茎海綿体の中にシリコン製円柱(プロステーシス)を挿入する方法がある。二つのタイプがあり、一つはインフレータブル・プロステーシス。陰嚢に納めたポンプによって勃起状態を作る。二つ目、シリコンゴムの中に銀製の撚線が埋没されているセミリッド・プロステーシスがある。「ペニスを固くする方法を教えてください」と多数の方から手紙や電話を頂いて答えに窮する。(田崎寛・丸茂健監修『インポテンス・最近の治療法』)

 これだけの理由と方法があるから、泌尿器科医を受診することをお勧めする所以だ。健康であれば、老化は否めないが、勃起する。自分に合った方法を見つけ出して欲しい。セックスは性器の結合だけではないことを念頭に置きながら治療で治癒するものは治してほしい。

 五十歳過ぎの二次的インポテンスの男性の性的能力が回復できるのと全く同じように、肉体的または社会的理由から、休眠状態にある高年男性の反応能力は、本人に活発な性行動に戻る意欲があり、性行為に興味をもつパートナーがありさえすれば、再び覚醒させることができる。

 七十歳代でも、八十歳代になっても、健康状態にあり、性的関心を再び活発にするような何らかの性的はけ口とか、心理的な理由さえありさえすれば、性行為を充分維持するために必要なものは、他にほとんどない。
 マスターズの調査報告に意を強くして、配偶者が他界したあとは好みの異性を茶飲み友だちの再婚を繰り返し、健康な心を維持することのできる社会の受け皿の整備を急がねばなるまい。

(9) 男性の性的萎縮の要因

○1反復的な性関係の単調さ
 パートナーに対する倦怠感として現れる。
性交興味の喪失は、性関係が義務的、緊張解放の肉体的欲求の二つが共存する段階以上に発達しなかった場合と、夫婦関係の性的要因が成熟しなかったり、生活の他の面での進歩について行けなかった場合。

 家父長制度社会の慣習(男性一人に複数のパートナー)が、男性側に残存する場合、一夫一婦状態で長年パートナーが限定されていると、女性の全てがわかってしまって、刺激的効果を失ってしまう。
 若い女性に興味を向ける場合、その女性が、純肉体見地からは、妻ほど効果的な性相手ではなくとも、その新しい人を「よく知らない」ということだけで、男性の性的欲求にとって、非常に魅力的な「変化がある」という錯覚を招く。性的緊張をつくり出したり、性的能力を刺激するような、性的はけ口に対する欲求が生じているから。浮気に目くじら立てるより、相手の女性を早く知ってもらう努力をした方が賢明。すぐに飽きて妻の元に帰って来る。妻も夫を魅了する力を持ち続けることが必要で、浮気を責める前に、妻が浮気の原因でないかどうか、振り返りも必要だと相談の中で思うことがしきりとある。

 女性が結婚当初に示したように、男性を刺激したり、満足させたりしたような興味をもって、夫婦関係を維持する努力の必要性に目を閉じてしまう事実。倦怠を誘発させる妻は、子どもたちの要求、社会的活動、個人的な職業、結婚生活以外のさまざまな組合せの中に没頭してしまっている。彼女らはもはや、夫たちの性的興味にも、関心を示していなかった。

 男性が明らかに不快と思っているものは、自分は妻としてすべてを是認されているのだ、という女性の態度である。高年男性の自我は、この不快感によって傷つきやすい。相談現場では女性はこのことに気づいていなことの方が多い。

 肉体的外観の点からみると、四十歳女性は男性よりはやく老化している。女性が月経閉止期を強調しすぎたり、それに対する処置が不適切であると、「非女性的」な雰囲気を与えてしまい、男性の性的刺激への精神集中を阻止する。相談の中で男性のこのデリカシーさを妻達は忘れてしまっていることが多いことに気づく。

 女性の月経閉止による基本的な肉体的外観の急激な衰えに加えて、「美しくなろう」とする興味が喪失されると、男性の心の中で、機会あるごとに、オシヤレを強調するのだが、もう年だからと、なかなか聞き入れてもらえず苦慮している。

○2経済的追求への男性の関心
 四十〜六十歳の年齢層の男性の多くは、その職業における競合的地位に近づきつつある。個人、または家族の、もっとも大きな要求とも取り組んでいる。家族に経済的安定を与えるために必要だと思われる特別の利益関係の中で傑出しようと、懸命に努力している。そういう男性が家庭外へ関心をそらせ、全エネルギーを使い果たすような男性の競合の世界に専念するとき、結婚生活に充当させていた時間は減少し、経済的追及に専心している男性は、配偶者に仕事の面での関心を話して聞かせる努力は全くしない。どんな程度でも意志疎通を維持してさえすれば性交渉は自然なできごととしておくことができる。

 男性が仕事上で上手くいかなかったときは、うまく運んだときより、性的活動に対する関心は減退する。「専心没頭すること」が、女性にとっても男性にとっても、セックスに対する大きな障害となる。日本には仕事の話を女、子供にしない、という文化が残っているから、妻は夫から孤立してしまう。いかなる時も専心没頭することから、パートナーのためにもゆとりをもつことが必要となろう。

○3精神的、肉体的疲労
 精神的、肉体的疲労は、ともに性的緊張の低下、退化に影響を与える。
 肉体的疲労よりも、精神的疲労が、男性の性反応により大きな障害となる。身体的疲労は、職業上の疲労よりも、レクリエーションに関連して起こる。

 週末のレクリエーション活動は、毎日の仕事が要求する活動よりも消耗が大きい。五十歳を超えた人々にとっては特にそうである。例えば週末のゴルフなどがいえることを、心にしておくこと。
 肉体のコンディションが不良な高年男性は、過激な肉体活動を行うと、特に不馴れなレクレーションの肉体的努力のあとは、二十四〜四十八時間は性反応の減退、あるいは完全な喪失を示す。男性の精神的疲労に対する過敏性は、若い男性と中高年男性の反応性における最も大きな相違のひとつである。

○4飲食の不摂生
 高年男性の過度な飲食物摂取は、感覚能力や達成能力を低下させるように、性的緊張を抑圧する。過食の結果、官能焦点の強度が減退、麻痺の程度まで減退する。
〈不摂生の症候群〉
 アルコールの影響下にあるとき、多くの男性は、年齢にかかわらず、初めて陰茎勃起を達成、持続することに失敗する。四十歳後半から五十歳初めの男性に起こる二次的インポテンスは、過度の飲酒に直接関連していることのほうが、他のどんな単一な要因より関連頻度が高い。勃起の達成、または維持が不能になっているとき、初めての不能をアルコールの原因に直接結びつけることはめったにしない。酒豪を自慢はインポテンスの要因。インポテンスだから酒豪自慢になるのか、本人はアルコールに酔えても、妻は寡婦を強いられ、淋しさを訴えている。
 たまたま、新しい性的パートナーを求めて、過度のアルコール摂取を控えているなら、多分効果をあげるから、一般的に結婚生活の中に新しい問題が起きる。妻との交渉では不可能でも、他所での性行為には自信を持つ。

○5肉体的、精神的虚弱
 性的能力や性行為を衰退させ、喪失させる肉体的疾患は、六十歳を過ぎてから特に一つの要因となる。急性にしろ慢性にしろ、肉体的障害は男性の性的反応を低下させる。
 六十歳を越えると、妻の肉体的疾患もまた原因となる。妻が肉体的に虚弱である場合、高年の夫は性的機会を制限される。
 高年男性にとって、規則的な性的表現は、性的反応を維持する鍵。性的はけ口の喪失に伴い、多くの高年男性は性的緊張の急激な消失を報告している。
 性的機能の消失は、肉体的に虚弱な夫とともに、年を取った妻がいる場合に比べて、肉体的に虚弱な妻とともに、年を取った夫がいる場合の方が激しくない、ということを力説すべきだ。

 なぜならば、高年男性は高年女性よりも、性のはけ口についてはずっと多くの機会を持っているからである。
 セックスは、性器結合だけで終わらない。病弱者はそれなりの工夫、タッチングで性行為を楽しめる。

○6失敗への不安
「失敗への不安」が、高年男性の性行為回避において果たす役割の重要性については、どんなに強調しても足りぬほどである。
 どんな状況下にせよ、一度でもインポテンスを経験すると、多くの男性は、性的機能不全の度重なる体験という字が粉砕に直面するよりは、自発的にあらゆる性交活動から身を引いてしまう。
 肉体の正常な衰退過程の臨床的事実を自認するよりも、性的減退に対する外因的弁解をするのが普通で、中にはそれを信ずるようにすらなることもある。
 性行為を、おそらく完全に実行し得なくなることに対する逃げ路として、
○1配偶者への怒り、○2反感を示す、○3中高男性が性的刺激を求めて若い女性に向かう無数の例が好例である。
 このことは、○1男性が自分なりの性的能力を再確立することへの潜在意識的試み、○2性的能力を繰り返し証明することによって、自我を支える試み。
 
 このような解決法の誤りが明らかになる時、若いパートナーの女性の、増大する欲求を満たそうとする高年男性の性行為に対する一時的な懸念が、むしろ確固たる生理学上の性的機能不全へと変化していくとき明らかになる。

 妻たちは、高年男性が性行為に対する関心の欠如を示すとき、あるいは、結婚生活と異質の性的刺激を求めるとき、夫の性行為に対する恐れを明察することが出来ず、多くは拒否されたのだと感じ。

 たとえ洞察力があっても、妻たちは、気乗りしない高年の夫を、勃起不能の経験を再び味わせるような可能性へと押しやることを恐れる。
 性行為に対する試みが、その強度と頻度において減退すると、性的沈滞の真の原因が、夫婦生活にとって代わる。
 高年男性が、長期にわたって性的刺激を受けないときは、その性的反応性は一般に失われてしまう。
 規則正しい性的表現は、良好な健康状態と、老化過程に対する精神的調節と相まって、結婚生活に性的刺激のある環境を作り出すことが充分に考えられる。
 結婚生活に、性的刺激のある環境をつくり出せば。順次、性的環境は向上していき、八十歳までも、さらに八十歳を超えてまでも、持続する性行為能力を与えることになる。

つづく U 女性の性生理