宮沢賢治が自分の地元である東北の農村の現況を批判している。農民の人生には、セックスと労働しかないと。しかも、クオリティの低いセックスだった。乗って3分、あがいて3秒夜這いのセックスのように前戯も後戯もなしっていう。
このような貧相さは「セックスレス(性交拒否)」になる。賢治はそんな状況がイヤだから、違う世界があるんだということを伝えたいと、芸術を投入した。それが彼の啓蒙原型だったというわけですが、予測不可能な遊びを楽しむこともない、社会の仕組みって、実は宮沢賢治の時代に限らず、今もあって、そこに押し詰められている人が多い気がしますね。

W 変わる老人の性意識

本表紙大工原 秀子著

T第二回老人の性意識実態調査から

 昭和四十三年、早稲田「三水会」老人クラブの会長溝端さん(八十歳)との出会いによって、お年寄りの”寂しさ”というものを知った。若い人達は、老年期のお年寄りは病気がちで、老化と死に直面して生きるのが当たり前と考えている。これでは、お年寄りの訴える”寂しさ”はわからない。お年寄りの訴える”寂しさ”は、単に寂しいのではなくて性的な寂しさも含んでいることを、家庭訪問でお年寄りとかかわっていくなかで、やっと理解することができた。ところが役所の上司は”お年寄りは暇だからそんなことを考える。本を読んだり、庭いじりをしたり、散歩すればよい”と「聖老人」ばかりを考え「性老人」を考えようとしない。大学病院の老人専門の教授にも尋ねた、「自分はまだ老人でないからわからない、データもない」と。そこでやむを得ず「老人の性意識実態調査」に踏み切った。

 調査は、昭和四十八年と昭和六十年の二回行った。昭和四十八年の調査結果を昭和五十四年に『老年期の性』(ミネルヴァ書房)にまとめた。その後、五十五年から六十年にかけて再び同じ調査用紙を使って五〇〇人のお年寄りを対象に「老人の性意識調査」を行った。

 その結果を比較してみると、それなりの成果を得ることが出来たのでご報告することにした。
一回目当時、「お前は色気違いではないか」と、老人クラブの会長さんに言われ、大変なショックに陥った。今回は「人間皆色気違いだから人類は?栄してきたのヨ」などサラッと言えるようになったが、まさにお年寄りの性問題の足を引っ張るのはお年寄り自身なのである。

表1 二回の性意識調査の年齢構成
表1
 A 社会背景の変化
 二回目の調査結果は、昭和六十年から三回にわけて日本老年社会科学学会に発表した。
 昭和六十年の老人の性意識実態調査のデータと昭和四十八年のデータを1 男女別、2 五歳刻みの年齢別、3 配偶者の有無別を指表として、全項目ごとにX2検定を行った。前回の調査データと危険率五%で有意差のある項目について今回のデータを概観してみる。
 
二回目の調査対象者数は、前回と同じ規模。調査地域は、前回よりも六ケ所ふやした。
 今回、調査目的だけに出向いた県は島根県と長野県。他の調査会場は、老人学級の受講生や、老人会、講演会、私の職場のお年寄りにも協力していただいた。千葉県と神奈川県の件数が、東京、埼玉、長野県の約三倍となった。

 平均年齢は七十・二歳で、性比は、男性五十七%、女性は四十三%、平均寿命が、前回より男性一・二歳、女性二・三歳、若くなった。
 前回の調査については調査対象者が少ないとか、回答率が低いとか、多少のご意見を頂いたが、答えたくない人や答えない人には聞くわけにもいかず、統計法であまり数をいじらずに素数を大切にした。今回も、また回答率の少ないところもあった。比較してわかったことは、今回低いところは、前回も低い。つまり、答えにくい所と答えたくない質問事項目なのであろう。少ないところは、少ないなりに、集計をし、X2検定を行った。使える数字も出てきたし、お年寄りの性意識の実態もみえて理解を深めることができた。

 前回と今回の調査では、十二年間の開きがあるが、同じ調査用紙を使った。結果としてお年寄りの性的健康度が、全体的に約一割のアップを見る事ができた。それだけ元気印のお年寄りが増えたことになろう。

 有配偶者率は、前回よりも約一割増えているが、子供との同居は前回よりも一割減って、夫婦で暮らす率が増加している。財産からの収入の有無では、男性は十二年前とあまり変化がないが、女性は遺産相続の改正もあってか、財産を持っている人が一割程度も増えている。

 男性では、日銭が入って働いている人に、性能力が高いという結果も出ているが、性意識に大きな差はなかった。

(1) 配偶者の有無
配偶者のいる女性がふえた。高齢期を夫婦で生きられる人の増加は国の統計からもいえる。
医学の発達の恩恵、環境改善、社会保障の充実など、お年寄りを取り巻く条件が整備されてきた。 このような環境の中で、お年寄り個々人が、自己の男・性・女・性を、その人らしく、どのように引き受け、どのように感じ、どのように人々とかかわりあって生きているのか、調査のデータから語ることができる。
 この語りを五つの側面から試みると、どうして老いをトータルに点検する目が必要となる。
1 人間は、人の間で生きる動物、つまり、群れなければ生きることのできない社会的動物。
2 撫でてもらわなければ(スキンシップ)背骨が縮んでしまう”存在”。
3 食物は体の栄養、やさしい言葉とスキンシップは心の栄養。
4 生きていく個々人は独自の生活の規範を持っている。
5 命を尊び、人権を尊重するノウハウを持っている。

そしてさらに、老年期の特徴として考えられることは
1 病気と死に直面しながら生きる。
2 個人、または夫婦の人生目標の未完課題への挑戦。
3 夫婦の葛藤の深遠、○イ夫婦の境界線の危機○ロ親交や勢力関係の逆転、○ハ遺棄される恐怖、○ニ孤独感からくる孤立感、○ホ性的失敗、
4 ねたきり・ぼけ予防とケア・ネットワークの整備、
5 終末ケアの援助と支援対策の整備、
6 希望する住居と死に場所。自分の死の情景の演出と設定。
7 各項目ごとの点検のため毎月二十二日を、夫婦(22ふうふ)の日ときめる。上半期は四月二十二日を(ヨイ夫婦)、下半期、十一月二十二日(イイ夫婦)として群れて生きる最終確認の行事が国家レベルで考えられてもよい、
などという視点から、データをみると、7として老いの点検日が必要。
まず表5から言えることは、配偶者のいる男性が七ポイント、女性で十三ポイント、前回よりよりふえた。
 とはいえ、配偶者が欠損している男性の五人に一人、女性の六割の人は、誰とも群れて、誰に撫でてもらって生きるのだろうか。一人ではないという群れのなかにいる安心と安定感、肌で感じる温もりの快感と安らぎを、急速な人口の高齢化と生病老死のはざまでだれにどう埋めてもらって生きるのだろうか。
 配偶者のいないお年寄りに受け皿のないきびしい生き方を感じ取れはしまいか。
   一部 割愛。
 環境器に障害があれば、血の巡りが悪くなって、体の隅々まで栄養がいきわたりにくい。加えて感覚器系の故障は、脳に外部からの情報を届けにくい。人間は動く物として存在しているから、手足に故障があればその動きが鈍る、動かさず植物化してくれば、筋肉は廃用萎縮、使わない筋肉は縮んで固くなるから痛みも出てこようというもの。

 年を取ると、眼でみて楽しむ(視覚)快感、タッチする肌触り(触覚)のよい快感。耳障りの良い音を聞く(聴覚)快感、よい臭い(臭覚)に、食べ物の歯ざわりや愛咬の快感で、満ち足りた幸福な気持ちに浸れる。脳にはこのような働きがあると言われる。ところがそれを司る器官から老いが始まっている。

 心は、知情意を司る脳で造られるといわれ、脳が心を造るには、体の内部や外部の情報を、感覚受容器官がキャッチしてくれなければはじまらない。ところが、五官を使って楽しむことのできる人間の権利をも、老化現象が奪ってしまう。
 人によると、年を取ったら、よく見えたり、聞こえたりしない方が良いなどと、したり顔でいう人がいるが、本当にそうだろうか。耳ざわり、歯ざわり、目ざわり、肌ざわりの良いものなどの快感を楽しんでいる限り、人間は自分の脳から全身に脳内麻薬を潤沢に分泌して、ストレスを瞬時に解消させるし、脳を活性化しているときく。

 体の栄養は食べ物だが、栄養を運ぶ循環器系の故障は困ってしまう。歯は食べ物を咬んですりつぶしながら、その歯触りを楽しみ、また咬む歯ざわりバリバリ、コリコリを楽しんでいる最中、歯根膜やあごの筋肉が刺激されて血液循環が良くなり、その刺激を伝えられて、脳で自家製の脳内麻薬が渾然と分泌して快感に浸れるといわれる。

 つまり、良好な刺激が与えられると、脳神経から麻薬用物質が渾然と分泌して快感を得ることが出来る。脳には快感を誘うA10神経・快感を感じる脳快感中枢が発見されたという。(大木幸介『脳と快感』実業之日本社)逆に言えば、快感のあるところには、脳内麻薬物質が分泌していて、ストレスがない状態にあるといえよう。また歯は、食べ物の消化吸収を助けるために噛切り、放置すれば歯茎をも痩せて、つまり、義歯を支える土手もなくなり、たとえ、金に糸目を付けず、大金を投じて義歯を作っても、義歯はお口の中で泳いで、せっかくの美男美女の、色気も失せてしまう。

 人生八十年時代をイキイキと生きる工夫をして、感覚器官の老化や故障には、予防、早期治療、質の良い補助具を装着して、快感を得られる状態をつくり出すように心がけたい。
 具体的にいえば、年を取るほど、男女とも肉体的には中性化してくるから、五感の衰えを補うこと。女性はグレードの高い香水、男性はオーデコロンを使い、質の良い眼鏡、派手な衣服、口を大きく開けて、ハキハキと話す習慣をつけて、女・性、男・性を大いに意識すること。そして、孤立化せずに、すすんで他者とのコミュニケーションをはかること。お年寄りのお一人お一人が、五感を入念に手入れして、常にミズミズしい心を造出することが、廃用萎縮による寝たきりやぼけを、自らの手で予防することになるだろう。

 B 性的欲求の変化

(1) 性的欲求の変化――若い頃に比べて
 性別で比較すると、性的欲求が「全くなし」は男性では、四十八年では十一%、六十年で九%と三ポイント減少し、男性の九割強は現役である。女性では、六六%が、四一%に二五%ポイントも減少したが、それでも男性との差は、実に32ポイントもあり、根深い女性の抑圧と抑制がうかがい知れる(表15)131ぺーじ
 表15 性的欲求の変化(若いころに比べて)
表15

 性的な要求は男女差がかなり大きい。また、「全くなし」と答えた人をさらに年齢別で見ると、男性は八十代で半減するのに対し、女性は七十代で早くも半減している。次に配偶者の有無別に女性を見ると、六十年の調査では、雄配偶者の女性の二九%、無配偶者が四九%で、女性の「全くなし」は、配偶者の有無に左右されている。(表16)しかし、図1見る限り、老人は性欲を高齢まで維持している。
図1
 設問の、性的欲求という言葉の概念も、性的発現のメカニズムも、日本国では教育の機会が少なかった。性欲を世界保健機関(WHO)では、性衝動という言葉を用いるようになったが、性衝動は性ホルモンと中枢神経、外的刺激、五感からの刺激、特にパートナーからの刺激の総和によって起こることを定義している。性中枢は大脳の視床下部にあり、性衝動をコントロールしているといわれている。

 性欲の発達の段階を、精神分析学者ジグムンド・フロイトは、1 口唇期性欲 2 肛門期性欲、3 男根期性欲 4 潜伏期、5 性器期性欲と分類した。
 この発達期間をクリアしないで通過障害を残すと、その段階に足踏みする。(固着)。成年後の性生活や愛性欲求の目標や様式に特徴のある対人関係のパターンを示し、困難に出合うと発達遅滞の時代まで退行するといわれる。1 の段階を完全に体験した人は、その快感・乳房を口に含んだ母親に抱かれて心地よく眠った肉体的官能の快感が、大人になってからの性器的・生殖的活動に統合されるエロスの働き(生の本能)となるといわれる。また、口唇期は、母親を通じて基本的信頼感と不信感との比が決まる時期といわれる。(福島章『愛の幻想』中公新書)個個人がその時期をどのように感じ取って生長してきたかにかかわってくる。

 また、人間の個体は受精によって発生する。性の決定は受精の瞬間に遺伝子的性を決定するが、胎生六週くらいまでは、男女の区別がない両能期を生きる。胎内の未分化な二本の性の原基に男性ホルモンが作用して精巣がつくられると男性ホルモンの多いホルモンミックスの男性型のシャワーを胎児の脳にあびれば、その胎児は脳が男に性文化され、体も男性として分
化発達していく。

 逆に男性ホルモンが不在のつまりホルモンミックスが男性型でない場合は、女性の造型となり、男性型のホルモンのない少ない胎児が、すべて女性として分化発達していくといわれる。
生まれてからの男女の性差は、性ホルモンや社会環境などから大きな影響を受けながら、その人らしさ(ジェンダー)を育っていく、ジェンダーは後天的な性として、その家族や国の教育や文化に修飾されて発達する。従って、性欲の変化の設問には生殖のための性欲か、また快楽のための性欲か、異性に向ける関心、または異性間のコミュニケーションまでが含められているのか、回答がむつかしい質問となった。しかし、性パートナー、つまり配偶者のいる、女性の「全くなし」は、配偶者のいない人より二〇ポイントもアップしている。このことは、WHOの性欲の定義を裏打ちしているといえよう。(表16) 132ページ

(2) 勃起・ぬれる

調査用紙の余白に、または電話で、「恥ずかしいのですが勃起しません。どうしたら固くなるでしょうか、方法を教えてください」。
 また、妻たちは、「固くならなければイヤヨ」と、勃起不全でショックを受けている連れ合いをしり目に、その日から寝室を別にする。数年後夫に、ぼけが発現、妻は夫を精神病院に入院させてしまった。

 夫たちは、勃起不全を妻に知られたくない一心から、仕事が忙しいと、妻が待ちくたびれて寝てしまうまで、毎晩、別室で仕事を続ける弁護士▼妻の肩に朝に夕に手をかけ、「ボク達幸せだよね」と、優しく念を押し、リップサービスに徹する夫▼さびしさを訴える四十歳後半の妻▼夫が関わってくれないのは自分に欠陥があるのではないかと婦人科通いに精を出す妻、などなど、大勢の悩みが語られた。

 図2にもあるように、加齢がすすめば、性器も身のうち、老化による勃起不全も増加する。このことは一九八五年の札幌医大の調査報告からも言える。
「四日ぐらいすると精液が溜まってきて、イライラします。出したいのですが、妻が柔らかくてはイヤだと言います。東京の大学病院で診察を受け、勃起補助道具を装着してスキンをかぶせ、そこにリューブゼリーの潤滑剤をぬって、出来ると言われましたが、妻がイヤがり、”ヒヒジジイ”と私を罵倒します。妻にどんなに頼んでもウンと言ってくれません」。

「ペッティングも、立派な性行動ですか、その時のご気分で、奥さんの温もりの中で楽しむ。手もあれば口もあります、それらを使って奥さんにサービスして喜ばせ”妻の喜びを夫の喜びとする”。それから補助道具を使うなどという訳にはいかないものでしょうか?」と筆者。

 人間の性行動は、大脳皮質が大きく関与しているから、他の動物よりははるかに複雑。まず、1 異性に接近する、2 異性に接触する、3 ペッティングする、4 キスする、5 性交する。これらの行動すべてが性行動である。

 求愛行動から性交に至るまでの人間の性行動を、十二段階(『現代性教育研究』第十七号、日本性教育協会)でみると、
1 目から身体、2 目から目、3 声から声、4 手から手、5 腕から肩、6 腕から腰、7 口から口、8 手から頭、9 手から胸、10 口から胸、11 手から性器、12 性器から性器へと進んでいく。
人間の性行動は、大脳皮質の発達過程で異なり、年齢や学習、あるいは文化の程度によっても異なる。その時の気分、場所、その時点での条件により、十二段階のどの段階で満足するのか、性器結合だけがセックスではない。

「勃起する」は前回六七%、今回七八%で一一ポイント増加し、元気印のお年寄りが増えた。「勃起しない」男性は二〇%強。女性では「ぬれる」(粘滑液産出)と答えた女性は前回二一%、今回三〇%、九ポイント増加している表18。

六十年調査の女性の五歳刻み○ア四七%、○イ三六%、○ウ二八%、○エ一二、○オゼロ、七十歳後半になっても二割の女性がぬれている。

  表18性生理機能 勃起する・濡れる
図2 表18

発起不全や、ぬれなければ、人工の潤滑剤を使って滑りやすくすればよいわけで、自分の体に何を使おうと、世間体を気にしたり、また他人が文句をいう筋合ではない。夫婦がお互いに工夫し合って、二人が睦みあえればよい。年齢別にみると、加齢とともに機能の低下は否めないが、男性の場合、八十代でも六割強の人は”元気”である。
 表19 年齢別勃起比較
表19

(3) 挿入・射精


表20
性的機能の衰えを、男性が非常に気にしている。
 挿入・射精については、「双方可能」が、前回は三八%、今回四七%と九ポイントアップ。「双方不可能」が、前回二三%、今回一八%、五ポイントダウン。「双方不可能」は、今回調査で、○ア四%、○イ一二%、○ウ一五%、○エ三四%、○オ四八%と、七十歳後半から増加している。年齢別にみると、やはり加齢と共に低下していくが、八十歳以上でも二割の人が「双方可能」と答えている(図3)。
図3

 七十五歳の男性が「射精はできるけど固くならない」。妻が「固くならないのは嫌」といって拒否する。現在インポテンス治療には保険が使えないが、(2018年現在は保険適用可能)そこを何とか保険を使っていただいて、内容によっては最高でも二十万か三十万円くらいで大学の泌尿器科で治療を受けられる。まず検査を受けること。注射もあれば、簡単な手術があるので、あまり悲観しないで泌尿器科を受診すること。そういう手当てを受けて、そのことを配偶者も本人も受け入れるならば、精神的にもプラスの面が出て来る。

“人生五十年”の価値観で自分の性器を考えては時代遅れ、毎日性的にリハビリステーションを行い、いきいきと心身ともにリフレッシュさせること。男性の勃起現象と女性のぬれる(粘滑液産出)は、神経系の働きが同じ働きだといわれている。

(4) 性的欲求の程度

性的欲求の程度では、男性の四二%が性行為を欲し、四人に一人は精神的交際を望み、異性と戯れたいという男性は二〇%。
 女性の側では、まったく否定している人が、前回も今回も五〇%を超えている(表21性的欲求の程度)

表21
結婚生活で豊かな性の享受がなかったのではないかと推測できるが、女性が長生きするようになった社会で、女性は異性の関心を絶って、誰にどう撫でてもらい、誰と群れて生きるのか、大正時代、男性は退職後一年半くらいで人生を終えていたが、現在は定年後十六年間の長丁場を誰でもが生きる。女性は夫の死後約四年で人生の終焉を迎えていたが、現在では二倍の八年を誰でも生きる。高年女性の自殺が世界でトップクラスの第二位、ということに関係してくるのではないだろうか。

(5)  性行為の有無

図4
 性行為「あり」の男性は、四八年が七七%で、今回は一九ポイント増加。女性は四六%が二倍の四六ポイント増加。
 表22 性行為有無の比較
表22、23
 性行為の有無について『産婦人科の世界』(36巻・秋季増刊)で第一回の調査データを中心に「中高年の性の実態」を分担執筆した。
『人間の性反応』(マスターズ報告、謝国権訳)によれば、『規則正しい性的表現の維持は、良好な健康状態と老化過程に対する、精神的調節と相まって、結婚生活に性的刺激のある環境を作り出し、順次性的緊張を向上させ八十歳以上に能力を与える』とあったので、お年寄りが、どのくらい、良好な健康状態と老化過程に能力を与えているか、「性行為の有無と性行為の相手」についてのデータにX2検定を行い、正しく言えることはないか調べてみた。一%の危険率で関係があった。つまり、九九%は信じられない数字。

1 男性では、配偶者のいない人は、いる人より質問の回答が二分の一と少ない。女性で配偶者のない人の回答は、ある人の実に六倍。また女性では、有配偶者の無回答は男性有配偶者の六倍に及ぶ。つまり回答しにくい質問だったことを立証した。配偶者のいない男性の無回答は、有配偶者に比べて二・五倍と一%の危険率で有意の差があった。
2 前回の男性は配偶者があれば妻と七八%が行い、特定異性とは一一%、不特定異性を五%の男性が持っている。なくても六九%が相手を持っている。特定異性一九%、不特定異性を五〇%、自慰三一%の内訳となる。今回の調査になると配偶者のない男性は自慰が二四ポイント減り、特定異性二十%、不特定異性六〇%で一一ポイント増した。一三%は配偶者扱いの相手がいるが、回答率が少ない。(表14)143ページ
表24 配偶者有無別の性行為の相手
表24

(6) 性行為の相手

 男女別で性行為の相手を比較してみよう。今回は男性の自慰や、他の異性の相手が減って、配偶者が相手が減って、配偶者が相手の男性は八〇%、女性は七四%。前回は、男性で七〇%、女性は五八%で、男性一〇ポイント、女性一六ポイントアップ、仲良し夫婦が増加した。
表26 性行為の相手(男女別)  
表26
 女性も自慰が三二ポイント減ったて夫を相手が一六ポイントも増えたが、女性に特定異性と不特定の異性が増えてきた。女性がいま、性のながい眠りから覚めかかっている。性は夫婦のコミュニケーションである。

(7) 性行為の頻度

 性行為の頻度は、月に一回が平均で、今回の調査では月に二〜三回という元気印の人も増えた(図5)男性・性行為の頻度比較 146ページ
 

 だが、逆に六十歳でゼロの人もいれば、八十六歳で週二回という”大元気”人もいて、年齢で回数を律することはできない。若い頃から淡い方は淡いまま、活発な方はず――っと活発。札幌医大・一九八五年性交頻度の加齢に伴う推移によれば加齢に比例している。
(表27) 性交頻度の加齢に伴う推移 
表27
 性機能も、使わなければ廃用萎縮が起こるのは他の器官や臓器と同じ。不調な人は、泌尿器科医学が目覚ましく進歩しているから、歯科に通うくらいの気持ちで受診し、検査をうけるのがよいだろう。高齢化社会では、泌尿器科や婦人科はお年寄りが上客となって利用する。
図5
 また、高年齢男性が性的刺激を長期間にわたって受けない場合には、性的反応性が失われると言われている。性行為に興味を持つパートナーを見つければ、再び覚醒させることが可能であるといわれる。(マスターズ報告『人間の性反応』池田書店)
図6
 性的表現を常に表出させなければ消失するといわれる。が、時にその性エネルギーは、心の奥に深く溜まってひずんだり、爆発し、さまざまに性問題を引き起こす。性エネルギーを解消する対象を持たないお年寄りの性的欲求の充足の方法が、これからの社会の課題となってくる。

(8)性的欲求の満足度


 不満足の男性が四十八年では七〇%、六〇年が五八%で、今回一二ポイント減。
(表28) 性的欲求の満足度 
表28 表29
六十年の「配偶者有無別」七四%、女性の今回「有配偶者」六七%、「無配偶者」九四%が不満足と答えた(表29)配偶者有無別満足の比較 

「性行為を行う相手」を配偶者と答えているが、満足度をきくと不満足というパーセントが高い。不満足は男五八%、女はかなり高く八一%で男性より女性不満足が二三ポイント高い。満足させていない理由は、男性は ○1 妻が応じてくれない ○2 体がきかない、○3おっくうと四三%が答えたが、女性も四五%となっている。(表30)149ページ
 表30 性的に満足されていない理由 有配偶者
表30

 配偶者がいるのに、四三%の男性は、妻に相手にされていない悲惨な結果だ。
「満足させていない理由」は、六十年「有配偶」相手がいない二一%、応じない一八%、おっくう一五%(表30)。以上のことから性機能の老化の正しい認識、残存機能の保持増進と共に、性意識の変革を図ることが高齢社会の急務であろう。

(9)異性との交際希望

(9)異性との交際希望
「異性交際の希望」については、男性の三〇%、女性は男の二倍六〇%が希望していない。「面倒くさい」という男性が四%、女性では五倍の二〇%。「茶飲み友達」について男は二回とも二〇%、女性は四十八年五%で男性の1/4、六十九年九%で、四ポイント増加して求めている。戯れる相手、性行為の相手、話の分かる異性が欲しいを全部まとめると、男性の六十五%弱は、さまざまな形で異性交際を希望している。が女性ではた全部の回答をまとめても二五%、四人に一人の割合で求めている。(表31) 異性との交際希望 
表31
「異性交際の見通し」をきくと、見つかるだろうと男性は、四人に一人、女性は十人に一人。
「見つからない理由」として、男性の場合、○1年だからあきらめる、○2世間体が悪い、○3体がきかない、の順。

 女性の場合、○1年だからあきらめる、○2家族の無理解、○3体がきかない、の順(表32)異性交際の見通しとだめな理由
表32 異性交際のみとおしとだめな理由
表32
表33
お年寄り自身が年だからあきらめられたら、若者や社会は、どのようにお年寄りのお手伝いをしたら良いのだろう。このように女性は男性に比較して、他者とのコミュニケーションを拒絶して生きている。人間は一人では生きられない社会的動物。皮膚へのトークを失えば心がかれてしまう存在である。せっかく入手した長寿を、健康で豊かに生き抜くために、お年寄り自身で孤立化しない工夫を社会に要求してほしい。
 つづく U 女性はいつまでセックスを求めるか